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野武士

~~数刻前、ギオン公国から2つ目の宿場(しゅくば)~~


 数人の男達が宿場の半個室に陣取り、密談をしていた。

風体(ふうてい)からして、侍…の最下級の足軽と誰でもわかるだろう。


 大戦後、急激なグローバル化が進み言語や貨幣制度も人種も流通交流したため、連邦領土で侍を見かけるのは珍しくもない。

 さしずめ、主を失い傭兵稼ぎでもしている連中なのだろう。


 傭兵の仕事がないときは、街道や町で追い()ぎや恐喝働きをしていたりするが、命をとったり娘をさらったり有り金すべて巻きあげるような(むご)いことはしない。


 被害が大きければ領主の耳に入り、討伐令がくだり、たちまち成敗されてしまう。逃れてもお尋ね者ならば、闇討ちどころかトイレや風呂で襲撃されても文句は言えない落ち着かない人生になってしまう。




「諸君、今回のヤマはデカい!しかも、護衛の少ない王を()るだけの簡単なお仕事だ」首領格の男が熱く語った。


 1人だけ兜を抱えていて刀は大小の二本差し、それ以外の数人は刀や槍など思い思いの武器に、鉄板を鉢巻きに縫い付けた粗末な(ひたい)あてだったのでリーダーとわかるだろう。

 齢30といったところだが、長らくの傭兵稼ぎでやさぐれた印象を与える目つきだった。


「日頃の野稼ぎと違って容赦はいらねぇ!皆殺しだ!」


「褒美は思いのまま、侍稼業ともオサラバってわけだ」

リーダー格の男は、この公王暗殺の依頼に狂喜し、不遇だったここ数年の辛苦から部下を解放できることに感謝した。



 1人背が高いが、ほほが()けている足軽が、らしくなく質問した。


「皆殺しなんて言わず、犬と女は逃がしてあげませんか?」と。


「まあ、犬はともかく女は駄目だな。かなりの手練れらしいから、生け捕りはあきらめるしかない。」、戦闘狂を捕らえるためにどれほど被害がでるかわからないからである。


 確かに、と足軽は納得した。



「段取りだが、宿場中間地点の街道で鉢合わせになるようにし、儂が天気の話題かなんかで話しかけて警戒を解いて、すれ違いざまに問答無用で皆で斬りかかり、任務完了だ」


 一同「承知!」と、気合いの入った声で応えた。



 と、そこに店の主のような男が現れ、皆に茶を振る舞いながら愛想よく話しかけてきた。


「ずいぶん物騒な話みたいですけど?」とさり気なく言う。


 リーダー格の男は笑いながら、

「これは驚かせましたな。我等、旅の劇団員でして、台詞(せりふ)合わせをしておったところです」、ニコニコしながら、訳のわからない言い訳をした。




「ああ、最近は侍が活躍する劇が人気とか。踊る侍探偵シリーズとか最高ですよね」と、ありもしない劇を振ってみるも

 



「ご存知でしたか!まさにそれです。是非、劇場に観に来てください」と、愛想よく言った。




 店の主のような男は、演技のヘタな暗殺者だな・・と、厳しい採点を心でしながら、店をでてソドム一行に知らせに行った。

 ソドム達が宿場を出発して数刻たった頃、街道の行く先で5人の男が向かってくるのを確認した。



 侍と足軽、このタイミングで()うのは不自然だったので、ソドムは、戦闘に備えるよう小声で指示した。



 ソドム、不意に背後で気配を感じ・・・


 振り向けば、茂助が片膝ついてうずくまっている。


「こんな場面で脅かすんじゃねー!」と、叫びたいのを抑えて、まずは話を聞いた。



「アレは、間違いなく敵でございます」



「そうか、ならば遠慮はいらんな」、(うなず)き茂助を下がらせた。



 両者あと10メートルの所でソドムが前衛を追い抜きざまに、手で合図した。「すれ違いざまに斬れ」と。


 すかさず、シュラが合図で応える「敵なら、即殺でしょ?」


 合図を無視もできないため、一旦先頭になったソドムは振り返り、手で合図した。


「適当に会話して油断させるから、すれ違いざまに斬れ」と。



 タクヤは、「一番槍は俺だ」と手で合図し、


 タジムは、「自分1人で殲滅できる」と、合図で主張した。



 合図しあってる間に、歩みは止まり街道で揉めはじめて、侍たちが接近したときは、道を塞いだ状態になっていた。




 当初の計画と違う展開に戸惑う侍たちだったが、兜を被ったリーダーが、不自然な愛想笑いをして話しかけた。



「今日はいい天・・」、すべての台詞を言わない内に、シュラから言葉を被せられた。


「うっせー、死んどけぇー!」、言うなり、シュラが渾身の力(両手)で斧を投げた。


 斧は勢いよく回転しながら、リーダー格の兜ごと頭をカチ割った。男の両目は明後日の方向に向き、愛想笑いのまま絶命した。




 足軽達は状況がわからず、ただみていたが次の瞬間、足軽2人の胴を、投げつけられた両手剣(グレートソード)が貫き、2人は即死した。



 いきなり、半数以上殺され戦意を失った足軽だが、よく相手をみたら小娘と筋肉ダルマの2人はメイン武器を投げており、丸腰だった。


 他はなんちゃって侍と王と犬だ、勝ち目はなくもない。


 足軽2人は覚悟を決めて、丸腰2人を始末しにかかった。




「はあぁぁ~!」タジム、気合いの声をあげる。



 みるみる腕が光に包まれていく。指先まで光が行き渡ったところで距離を詰めて、敵の振り下ろした刀を両腕をクロスさせて受けた。


 素手相手に無傷で受けられ狼狽した相手を押し返し、両手を手刀のようにして、相手の胸を鎧ごと突き貫通させた。


「ブヘッ」と血の泡を吐いて足軽は死んだ。



「ぬぅ、あの技は金剛聖拳(こんごうせいけん)!」ソドムが(うな)った。

「しかし、一子相伝(いっしそうでん)の拳のはず。なぜ、ヤツが」、後ずさりしながら首をふった。



「なーに訳わかんないこといってんの?」シュラは最後の足軽を、両足絡めて全体重で引き倒し、敵の首をホールドしながら、からかってきた。


「はい!フィニッシュ~!」と、首の骨を折った。これで足軽の抵抗はなくなった。


タクヤは、リーダー格の首をとり、

「兜首、討ち取ったり~!」と、自分の世界に入っていた。



「って、おい!皆殺ししてんじゃねーよ!」キレるソドム。

「それに、ウチは兜首とかカウントして報酬がでたりしないから!」


 それから、生かしておく理由を説明したが、


「えー、聞いてなかったしー」と、不満げにシュラが言い


「まあ、敵はそのつど倒せばいいではありませんか」と、タジムが豪快に笑った。



 ソドム、歳のせいか怒りが長続きせず、気持ちを切り替えて

「依頼主を知るために、次は気をつけろよ」と、軽く注意した。


 本来、遺体の埋葬は野生動物から掘り返されないために2メートルくらい掘る必要がある。

だが、今は任務中で体力と時間がもったいないので、街道から少し離れた茂みに放置し、手紙を添えた。


「不届き者を成敗! ギオン公王」と。


 戦乱の世の中は死生観が違い、あっさり死を受けいれる、まして敵の死などかまってられない。賊や刺客などの犯罪者は人権などない。道端に捨て置いても咎められないのだから、茂みに隠すだけマシというものだ。


 一行は気を取り直し、先を急ぐ。とくに、タジムとシュラは全然気にも留めてなどいなかった。



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