表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/35

光明

「世の災厄は、邪教徒の仕業」、何者かの画策により戦が絶えない暗澹とした時代。

 そして現在、大陸南東にある小国 

祇園公国・ギオン城1階・炉端食堂「祇園」



 炉端テーブルを数人で囲み朝食軍議の場で、くだんの女魔術師について公王ソドムによる説明がされようとしていた。


 犬のレウルーラは機嫌が直って、彼女にとっての定位置であるソドムの膝に座る。ソドムは日課であるレウルーラの食事を作り食べさせた。


 やっぱり御飯はソドムが作ったのに限るわね、と言わんばかりにエサを夢中で食べ始めた。


 何のことはない、冷飯と食べ残しに味噌汁をぶっかけただけなのだが、人間達と同じ匂いの食べ物をソドムが作ってくれるというのが嬉しいのだろう。



 説明前に、ソドムは少し緊張して、手元の牛乳を一口飲んで喉を潤す。


「まずいな」


 牛乳の味ではなく、状況が。さすがに、過去の策謀をありのまま話す訳にはいかない。



 悪を滅ぼすのが生き甲斐の正義超人・君主ロードタジム、戦争孤児だった戦闘狂シュラが同席しているのだから。



 シュラが髪を短めにしているのと、赤い服を好むのは・・返り血浴びても洗いやすく汚れが目立たないためだということをソドムは知っている。


 この二人を至近距離で敵にまわすのは、十中八九勝ち目がない。よくて大陸引き回しの上、打ち首獄門…悪ければこの場で切り刻まれるだろう。


 だが、嘘は苦手だ。紛らわしい説明は得意なのだが。さて、どうするか…





 でまかせにゆだねちまうか。




「実はな、変身魔法実験に失敗してしまって犬の姿から戻れなくなってしまったのだ」嘘はついていない。


 一堂、初めて聞く魔法だったので今ひとつ理解できない面持ちだ。ソドムは話を続けた。


「変身対象を決めて、変化する魔法だったのだが、対象が知能の低い犬だったため記憶をすべて受け継げず、解除方法を忘れたのかもしれん」


「それとも、解除のポーズの設定が、犬の関節では不可能なものだった可能性もある」いずれにせよ、間抜けな話だが。



 魔術師らしからぬ低レベルなミスに、シュラまでも呆れた。



 話を聞き、レウルーラが唸る。話に嘘はないのだが、微妙に隠してるのが納得できなかったらしい。


 ソドムは察して渋々補足した。

「手近で凶暴じゃない小犬で試したらどうか、と薦めたのは俺なんだが」


「まさか、人間に戻れないなんてな。ハハハ」ソドム、笑いと罪悪感が混在する複雑な表情になった。



「いや、父上 笑うとこじゃありませんよ!」息子のアレックスがテーブルを両手で握りしめながらいう。

「私がこの国に来た当時には犬でしたから」と、言葉に詰まる。



「十数年になりますかな・・。美味そうな太股ふとももを見納めてから」感慨深く、立ちっぱなしの重騎士ゲオルグが言った。



「ああ、いい女だった…」少し寂しげな表情になるソドム。



「そーじゃなくて!十数年も犬のままにしといたのかって話よ!」、シュラが怒鳴る。



 隣国のゼイター侯爵から派遣され、軍議に参加している騎士リックは、話のバカバカしさと、店外にも聞こえるであろうやり取りに気を失いそうだった。

 先の帝国侵攻に苦戦したのも、このような情報漏れが原因ではないのか?こんな連中に兵の命を預けねばならない絶望感で帰国したくなっていた。


 ソドムが反論した。

「八方手を尽くしたさ。光の高司祭に解呪を依頼したり、実力ある老魔術師に解除方法を聞いたりな。」


「だが、どうにもならなかったんだ!」珍しく感情を爆発させた。


 皆にソドムは本気で助けようしてたことは伝わった。

 

 シュラを除いて。


「高司祭って、あのカウンターで朝からへべれけになってるアル中司祭のこと!?」50歳くらいの鳥の巣ヘアの男を指差し、笑いを堪えながらシュラが言う。怒ったり笑ったり忙しい年頃なのだ。


「しかも名前がパプア!」ぎゃはは、と慎みもへったくれもなく涙を流し笑う。テーブルをバンバン叩く。


 ソドムもつられて「パプア!」と言って笑う。



 連邦出身の騎士達は、小声で「笑うな、聞こえたらマズいから!」と二人をおさえた。


 騎士は出陣や叙任などで、司祭に祈りを捧げてもらったりする。国と光の神殿の守護者であるロードなら関係性は深いどころの話ではない。


 神聖魔法の効果もロードの比ではなく、人々の尊敬も高いのが司祭なのだから、笑い物にするなど論外である。しかも、高司祭に。


 そして、パプア高司祭がアルコールに依存するようになった事情は、連邦のロードなら知っていることなのだ。


 これも、十数年前の話だが次期最高司祭とももくされてたパプア高司祭だったが、ロード叙任の資格に欠ける者から賄賂を受け取り、合格扱いにした疑いが浮上し、このような辺境に左遷させられたということを。


 それからは、今の現状である。もはや、祈りも適当なもので、

「はいはい、神のご加護がぁ~あららんことを~」っという調子なので、挨拶する騎士は少ない。


 初老の騎士ポールが、シュラに高司祭は尊い方なのだと、くどくど説明した。




 ソドムは、笑いに飽きて話を戻した。

「元に戻す方法がないとわかってからは、自然に治ることを期待しながら、犬として飼ってきたという訳だ」



 心が痛むのは、本当であったが、ここ数年は犬が板についてきて何とも思わない日が多かったのは秘密だ。



「おまえらも、変だとは思ってたんだろ?犬が女子トイレで用を足すなんて」



 シュラとアレックスが即答した、

「他の犬が、しつけがなってないのかと思ってた」と。



 ああ、もっとも身近な犬がコレだと、そうなるわな。ソドムは妙に納得した。




 これから雇う魔術師は、イマイチ信頼できない派遣魔術師より、親交あるレウルーラのほうがいいのはわかる。

 コストも、世俗に関心がないだけに、ほとんどかからないかもしれない。



 だが、解呪できないのだ、本当に。



 光・闇・魔術すべてあたって、不可能と結論づけられ打つ手がない。それほど強力な闇の魔法だったのだ。


 もしかしたら、同じように怪物モンスターに変化したままの人間がこの世にはまだいるのかもしれない。未知の領域には、しっかりとした下調べが必須だと、この案件でソドムは学んだ。(レウルーラには悪いが)



 話が暗礁に乗り上げた状態になったが、意外な人物が手を上げ、解決法を示した。



「お金はかかっちゃうけど、それなら治るかも!」


「ポン」、と手を合わせシュラが笑顔で言った。何かを思い出したようだ。


 全員が「はっ?」魔法から1番無縁な小娘が何を言いだすのやら、という思いが表情に露骨にでた。



 それこそ神業でない限り無理だろ、皆が思った。



 そして、またまた意外な結論で彼らを悩ませた。



「闇の最高司祭が、どんな病気や呪いでも治せるんだって」、シュラが説明をはじめる。

 


 どうやら治すというより、すべてをリセットして健康健全な体にするらしい。


 どんな症状でも一律金貨100枚(大和帝国1000万円)、呪い・瀕死の重傷・ヘルニア・糖尿病・はたまたED・何でもござれ、まとめて健康体に戻すことができるとかで、富裕層や権力者に顧客が多く、それ故に干潟に押し込められた闇の大神殿を攻略せず、長きに渡り包囲したまま、形式上戦闘状態にとどめてると言う話も付け加えた。



 あくまでも、金のある者達でしか共有してない情報で、庶民は知るよしもない。



「なぜ、シュラ殿がお詳しいので?」当然の疑問を初老の騎士ポールが投げかけた。ソドムも、忍びである縄跳茂助であっても疑問に思った。



「そ、そりゃ~治療のためよ。そのために、色々聞き込みしたりして調べたし、必死で稼いでるわけだしー」赤面してうつむき、もじもじしている。




「だれか、身内がご病気でしたか」




「違う!顔のタトゥーを消すためよ。」と、シュラは思い切って言った。




「・・・」、気にしてたんだぁ、皆が思った。



 彼女は普段、天真爛漫・機嫌のおもむくまま生きているので、キッパリと諦めたのかと思うのが当然だが、顔に「床上手とこじょうず」と書いてあるのを毎日鏡で見て、気にならない訳がないのも当然か。


 あまり、つっこむとブチ切れるので、「そのようなすべがあるのか」という流れで話を進めることにした。




 ソドムが昔、闇の大神殿に出入りしていた頃に、ザーム老師が最高司祭を辞して、繰り上がり就任したのが今の最高司祭だが、そのような強力な魔法を使うなど聞いたことがない。


 念のため、縄跳に命じて探らせ、夜に軍議を再び開き結論を出すことにして、各々職務に戻った。





 ソドムとシュラは、犬の散歩がてらに領内視察を行った。



 その日は、晴れ渡り気温も上がったため、比較的薄着でリラックスして外出できた。


 犬のレウルーラもご機嫌だった。散歩中のお小水は、メスだけに後ろ両足を低くして行う。何気なく見ていたシュラがつぶやく。



「人間に戻ったとしてさ、犬だった頃の記憶はあるのかなー?」



 素朴な疑問だった。



沈黙で答えるソドム。




そして、2人は思った「覚えてたら、マズい」と。



 シュラは子供の頃、恋バナを犬にしてたり、郊外を1人で散歩に連れて行ったとき、お小水を真似た黒歴史があった。



 ソドムは、ここ数年‥完全に犬として接してきてしまった。



「ヤバい、口止めするためにも、今から最大限つくさねば!」

うって変わって、2人は優しく接してはじめ、いつもなら いちいちそこらの臭いを嗅ぐため立ち止まる犬を引っ張って歩きを再開させていたが、今日は気の済むまで嗅がせてやった。


 そのため、散歩時間は数倍になってしまった。


 本来、犬の知能は2才児程度というけれど、確かにそれ以上賢かったら飼いづらいな、と実感した2人であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ