ソドムの惚気(のろけ)
黒いコカトリスに牽引され、闇の大神殿へ向かうソドム達。干潟の泥を足で漕ぐ必要がなくなったため、楽にはなった。
3人とも板にまたがっていて、
先頭はシュラ・・暴れ疲れて寝てる。
二番目は冴子・・戦士系でないので、疲れて寝てる。
最後尾のソドム・・前の二人を抱きかかえながら、コカトリスの尻尾を掴んで、引っ張ってもらっている。
(密着できて嬉しいが、3人分の体重を握力だけで耐えるのはキツい。これは、想定外だ)
犬のレウルーラは、冴子とソドムの間に挟まるように居座る。
そのため、ソドムの視界には犬の胴体しか見えない。明らかに、ソドムの邪な企みを妨害している。
とはいえ、連邦王族(しかも年頃の女性)二人を直に抱きかかえることになり・・
腕では くびれ近辺に触れ、足では太股と横尻に触れることに成功した。
これ以上いかがわしさが増すと、逆鱗に触れる恐れがあるため、その戦果で満足することにしたソドム。欲望はさておき、資料としては十分だった。
ソドムの見立ては以下のとおりである。
シュラ
美貌⭐⭐ 健康的美しさ
豊満⭐ 悪くはない
弾力⭐⭐⭐筋肉質なため
肌質⭐⭐ まあまあ
性格⭐⭐⭐気が合う
冴子
美貌⭐⭐⭐大和美人
豊満⭐⭐⭐メリハリあり好み
弾力⭐⭐ 程良い
肌質⭐ 普通、色白は⚪
性格⭐ なぜか油断ならない
レウルーラ(10年前)
美貌⭐⭐⭐ 一目惚れ
豊満⭐⭐ 標準
弾力⭐⭐⭐ メイジマーシャル
肌質⭐⭐⭐ 神
性格⭐⭐⭐ 気が利き、聡い
圧倒的にレウルーラの評価が高い。出逢って半年で、婚約腕輪を渡したソドムの眼力はさすがである。それとも、愛情ゆえに点が甘くなったのか。
※婚約腕輪は、かつて大陸北の老魔術師ザームの雑貨屋に行った時、未鑑定アイテムのワゴンセールで、何となく良さげな気がして買ってあげた腕輪。
婚約の証としてプレゼントしたのだが、相当喜ばれた記憶がある。
残念ながら、婚約よりも鑑定結果が嬉しかったらしいのだが。
「召喚の腕輪」とかいう、魔導書なしで召喚魔法が使える上に、召喚を維持する魔力と対象の名前さえ分かれば悪魔王や竜王をも呼び出せる伝説武具だとか。
では、なぜアーティファクトみたいなトンデモアイテムがワゴンセールで叩き売りされていたのか?
それは、悪魔王などの名前は誰もしらないし、召喚するための膨大な魔力がある人間はいないから。
結果的にガラクタということになる。まあ、鑑定した直後は天にも昇る気持ちにはなるのだが。
ともあれ、レウルーラの魅力は、10年経過した現在、多少減点されても一番は揺るがないと思われる。
お気づきだろうか?肌質⭐⭐⭐神。そう、神的な逸材なのだ。
ちょっとした街なら、美人やスタイル良い姉さんはゴロゴロいるものだ。両方兼ね備えてる女もいるだろう。
だが、レウルーラのような肌質はいないはずだ。百人に一人いるだろうか、何万と女性をさわるわけにはいかないので、百人に一人としておくが、ともかく希少かつ さわり心地が最高なのである。
美形?胸?尻?くびれ?
「浅いわ!若造め!」、と外見にばかりとらわれる男達に喝を入れてやりたいソドム。美人でも、実際触れてみたら鮫肌だったり、弾力がなく・・指で押すとズブズブと底なし沼のように跳ね返らない場合もあるのだ。部分的な話で言えば、アレやコレの色素がピンクとは限らず、黒っぽい場合もある。それらを加味して採点すると、レウルーラが神クラスとソドムは結論付けた。
正直、自慢したい!
「どうだ!美女にして、神肌。性格も良く、魔術師としても一流で、稼ぎもいい最高の婚約者だ」と。だが、ライバルが増えるので黙ってきた。(自分に自信がなくて情けない話だが)
レウルーラ自身は、自分の昔からの体なので、特別なにも感じてはいない様子で、百人に一人の逸材などと思ったこともない。
その至高の肌は、絹よりも滑らかでキメ細かく、弾力に富み、白く美しい。
赤子のプニプニ肌に ぷるりと張りが増したような、つきたての餅を若干冷まして打ち粉をまぶしたような、しっとり柔らかく かつサラリとしている、特に尻は永遠にさわり続けたいくらいの感触なのだが、うまく表現ができない。
フェミニストを刺激するつもりはないが、化粧やダイエットなどでは、「越えられない壁」がそこにはあった。
ソドムは、上記の讃辞をレウルーラに伝えたいが、体だけが目当てと思われては心外なので言ったことはない。
普段から直に触りたい衝動はあれども、自然な成り行きでない限り、我慢してきたものだ。
さて、普段ハーレムがどうとか言ってるソドムが、数多の美女たちに手出しもせずに、品定めだけして順位をつけるにとどまるのか・・。
良いと思えば、片っ端から妃にするなり、愛人にする財力はあるにもかかわらず、だ。
どうやら、性欲とは別に、彼なりの哲学がある。
「愛妻・家族を幸せにできなくて、国政など上手くいくわけがない!己の家庭が崩壊していて、民を導けるはずがないではないか」、という思いがあった。
つまり、将来の不仲や離婚を防ぐためにも、結婚相手を慎重に選んでいるのだ。慎重過ぎて婚期を逃す典型とも言える。
ちなみに、一般的な為政者が美女を妃に迎えるのには、政治的理由もある。
簡単に説明するとしたら、王妃や姫が可憐ならば部下・民のモチベ上がるだろ!?って話で、命を賭して守ろうという話にもなりやすい。その逆ならば、美談もなかなかできないのではなかろうか。
それ故のソドムの採点癖というわけなのだ。もっとも、10年前に出逢ったレウルーラを超える女性は未だおらず、一応は・・浮気せずにきたという生真面目な一面もあったりする。
女好きではあるが、逆に浮気されたら自分は発狂するだろうから、相手が嫌がることはしないと心に決めていた。
・・ただし、許可が出れば話は別だ。
彼のルールでは、許可さえあれば愛人なり、一夜限りの愛なり、やりたい放題してもいい。
・・レウルーラ復帰の前に、一夫多妻制の許可をいただけるよう、うまく丸め込む策をまとめなくてはならない。
ソドムは、考えることがあり過ぎて大変だ、と溜息をついた。
※もはや、自国の心配などしていないようである。野戦で敗北したことも、当然知らない。
苦しそうに皆を引っ張っているコカトリスのトリス。
デスリザードマンがひれ伏すほどの、ソドム王に確認したいことがあって、心話で話しかけてきた。
「あの~、つかぬ事をお伺いしますが。早朝、遠目に見えました大天使が、もがきながら消滅したのを目撃いたしまして。あれは、もしや・・?」、僅かに緊張しながら言う。
「あ?ああ、俺がやった」、ズケリとソドムは答えた。嘘はついていない、倒したとはいってないのだから。
「ぇえ!?世界三強のアークエンジェルを撃退したのですか!!」
「な、なるほど。それは、畏怖されて当然です」、やや興奮気味なのが心話で伝わる。
ただ、コカトリスのニワトリ顔は無表情のままなのは、そのような生態なので仕方がない。
詳しくツッコまれると面倒なので、ソドムは話題を変えた。
「そういえば、お前は人間だった頃、魔術師か何かしてたのか?」
「吟遊詩人を少々」
「ほう」
「撥弦楽器で英雄譚や民謡などを酒場で歌ったりしておりました」
自分の未来は、ソドム達によって、こき使われ、乗り潰される予感がしているので、人間として有能だとトリスはアピールしたかった。
「あと、気絶させたり、死を与えたりできますので、戦闘でもお役に立てるかと」、どうせ使われるなら、何としても馬扱いから、直属の側近に収まりたい。
この状況を奇貨として、版図を広げた功労者に列し、貴族として優雅な生活をおくれるかもしれないと、トリスは閃いた。
(ソドム王を踏み台に、一国持てるかもしれないぞ。まずは、ソドム王の華麗な軌跡を聴き出して、偉大さを喧伝してまわり、褒められるのが近道かな。素晴らしい曲を作らないと)
「魔曲か、これは良い拾いものをした」、とソドムは前の二人が寝入っていることを再確認して、話を続けた。
「ならば、着岸次第われわれから離れ、変身を解いて、俺の知り合いという形で、さり気なく顔をだせ。その時に、今後の方針を話す」
「かしこまりました」、トリスは相変わらず無表情で返事した。
「その任務を成功させたあかつきには、お前は我々にとってなくてはならない存在にあるであろう」
「有難き幸せ」
殺されてもおかしくない状態から、一転して大チャンスが訪れたため、心話からもトリスの興奮がソドムに伝わった。
と、ここでソドムの握力が限界をむかえてトリスの尻尾を手放してしまう。
やはり、三人の体重ではキツいにもほどがある。
それは、コカトリスの尻尾である蛇も同じで・・・気絶している。ニワトリ部分とヘビの部分が独立しているのかはわからないが、気の毒なのは確かだった。
ふと見上げると、もう大神殿の目前まで来ていたので、ソドムはトリスに目で合図をして立ち去らせ、二人を起こし大神殿にガタスキーを接岸させた。
ようやく、闇の大神殿に到着したのだ。
これで、レウルーラは人間に戻り、シュラのタトゥーも消せるだろう。
ここまでアクシデントの連続だったが、さすがに古巣ではトラブルはなかろう・・、そう高をくくっているソドムであった。