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最凶魔法

 デスリザードマンに聖水をぶっかけて、激昂させてしまったシュラ。武器である片手斧も失い絶体絶命になる。


「いま助ける!」そう言ってソドムは、ひた隠しにしてきた暗黒魔法の奥義【変化トランスフォーム】により魔獣に変身すべく、泥干潟に浮かぶ板の上に立ち、必要な動作を終えた。



「トゥ!」、変化へんげどうさの最後に両手を上げてジャンプしたソドム。ちなみに、本来は掛け声は必要ない。



 

 だが、板は不安定でバランスを崩し、足がもつれて泥にダイブしてしまう。


 当然、変化魔法は完成せず、泥まみれになっただけで、周りからは気がふれたとしか思われなかった。


 そんなドジをしてても、笑いすらとれず、残酷な現実がシュラを襲う。


 デスリザードマンの噛みつきをギリギリかわしたが、足場が悪いため左腕に手傷を負ってしまう。

 シュラは苦痛を堪えながらも、生きるのを諦めず、次の攻撃に備えて後ろに下がる。


 ソドム、今度は泥に浸りながら、再び変化(へんげ)を試みるも、虚しく失敗していた。まさか、足場が悪い所で変化しなくてはならないなどと想定はしていなかったのが悔やまれる。


 ソドム達の絶望とは正反対に、周りを取り囲む大人のデスリザードマン達は、余興を楽しんでいるかのようだった。加勢する様子は無い。



( ・・やむを得ん、【暗黒転生(フォーリングダウン)】を使うしかあるまい)

 

 ソドム、もう一つの切り札を使うことに決めた。



 本来は味方に付与する魔法(のろい)で、成功例としては、自らにかけた時に《物理耐性》を得たが、9割がたは失敗して《ゾンビ化》してしまうリスキーな魔法。

 しっかりとした統計はないが、部下を犠牲にして、だいたい上記の確立と仮説を立てたソドム。


 ゾンビになる、ということは生きてはいない存在になるわけであり・・・発想転換して、これを敵にかければ、ほぼ確殺の最凶魔法ということになるのだ。


 反則的な力の反面、永続魔法(えいぞくてきなのろい)のため、詠唱時間が長く、何より失敗(成功?)して《ゾンビ化》以外の効果が出た場合、相手を強化してしまうという欠点がある。


 ただでさえ手強い敵が、《物理耐性》や《ヴァンパイア化》などの恩恵を受けてしまったら、お手上げだ。




 だが、この手しかない。もう、本当に最後の切り札だった。


 正直、世の中なめていた。

 

 普段は物理耐性があるため、死ににくいし、いざとなれば魔獣に変化へんげすれば、すべては片づく、そう思っていた。

 

まさか、こんな事態に陥るとは!


 ライバルの存在や苦労、想定外の困難などをひっくるめてこそ、人生は面白いというものではなかろうか、などと(のたま)っていた過去の自分を殴りつけたい気分だった。



「シュラ、何でもいいから時間を稼げ!なんとかするから」、朗々と暗黒魔法の詠唱を始めるソドム。・・余裕がないのか、らしくないほど真顔だった。


 冴子は、足場が悪くても失敗しない、詠唱の短い初級魔法でシュラを援護する。


 ちょっとした魔法弾では、デスリザードマンは(ひる)まず、攻撃は止まらない。



「あたしは公王ソドムの護衛シュラ。ここは任せて、二人は逃げて!」、シュラの優しさとプライドだろう、助からないなら、せめて二人を逃がそうとした。


 泥にまみれた下着姿なので、いまいち悲壮な感じがしないのだが・・。



 何度か攻撃をかわしてきたが、ついに避けきれずに転ぶシュラ。全身泥にまみれたため、さらに動きが鈍くなる。

 疲労もピークに達して、死を覚悟しはじめた。



 そして、避けられない攻撃が迫る。デスリザードマンは、頭を狙い噛みついた。


  

 だが、()んでのところで何物かが両者の間に割って入った。


 体当たりされ、少し(ひる)むデスリザードマン。



 シュラを助けたのは、先ほどのコカトリスだった。

 巨大なニワトリのような容姿、羽毛の色が緑や紫で、毒々しく気持ち悪い魔物だが、今この瞬間だけは格好良くみえた。


「トリス!やっぱり、来てくれたのね」、力なくシュラは言った。



 コカトリスは、威嚇するように睨みつけ、後ずさりながらシュラに接近して、泥まみれのショーツを引っ張ってシュラを逃がそうとした。 


 かなり無理をしているのだろう。コカトリスの全身は、恐怖のあまり変色していき、ついには真っ黒くなった。


 見方を変えれば、ジェットブラックになって()々しくなったような。

 だが、やってることはパンツを引っ張ってるだけだから、残念な絵図なのだが。



 デスリザードマンは、逃げ回る獲物に苛立ちを感じ、全身がバネになったかのように、勢いよくシュラ目掛けて飛びかかった。今までと違って機敏過ぎるので、もはや避けられない。



 それと同時に、ソドムの詠唱が終わった!

「~にて闇に堕ちよ。くらえ、【暗黒転生】!」、ソドムは右手を(かか)げた。



 「ガシュ!!」、鈍い咀嚼音が辺りに こだまする。



 見ればデスリザードマンが、シュラの頭部から右上半身に渡ってガッシリと食いついていた。

 シュラの左手はダラリと下に向き、抵抗すらしていない。



 間に合わなかったのか、デスリザードマンに恩恵を与えてしまったのか、いずれにせよ最悪の結果になった。



 ソドムは、悪夢でも見ているような残酷な現実に思考が停止している。もはや、言葉もでない。


 

 この旅が終わったら、シュラにお似合いな相手を見つけてやり、武器を持たなくていい、普通の女の幸せをさせてあげるつもりでいた。


 戦いばかりの負の連鎖から抜け出し、ありふれた平和な暮らしをさせてやりたかった。


 何事も言葉で伝えなくてはいけないのは、わかっていたが、この結末は・・あまりにも唐突すぎる。




 だが、まだ終わりではなかった。




 獲物をくわえたまま、デスリザードは、横にゴロリと転がり、またゴロリと力強く転がった。


 これは、デスロールと言って、ワニが獲物にとどめを刺す行動で、獲物をくわえたまま横に転がり、回転させることによって、咬まれた箇所の傷口は広がり、無理な動きに耐えられず手足の骨が折れ、致命傷にいたる・・恐ろしい習性だった。その後、窒息させるため水に沈めたりもする。


 それは、まるで幼女が人形の腕を掴んで振り回すのに似ていた。生身の人間ならば、ダメージは計り知れない。




 シュラは、なすがまま・・・人形のように振り回され、泥に沈んだ。


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