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魔獣の襲撃

 大陸西南の干潟。太陽が昇り、野生の生き物達も活動をはじめ、少し滑稽な見た目のムツゴロウが干潟の表面を飛び跳ね、小さなカニたちも餌を求めてウロつきだす。それらを狙う渡り鳥などが、空を舞う。

 

 カニにせよ、鳥にせよ、恵み豊かな干潟では食べるに困らないので、どこかのんびりして見えなくもない。



 長閑のどかだ。風も弱く、眼前に広がる空も青く美しい。大自然は、素晴らしい。

 視線を下げて、近くを見るとソドム公王の眼前には、芸術的エロさが二つ。



 板に四つん這いになって、片足で泥を漕ぐ下着姿の女子二人。ソドムは、冴子とシュラを先に行かせ、それらを眺めながら神殿向かってヌルヌルと干潟を進んでいる。二人の尻や乳房が一漕ぎごとに揺れる。


 時折、彼女らは振り返るので、事前に察知して遙か遠くを見据えてるフリをしなくてはならないが、そのスリルもまた興奮を高めるのに一役買っていた。


 まだ、ソドムの楽しみは残っている。しばらくすれば、汗をかき、彼女達の下着は濡れ透けになるはずなのだ。

 直接手を下すことなく、熟柿じゃくしが自然にボトリと落ちるまで待てば願いがかなう。

(今は焦らないことだ。ヘタに行動を起こしては信を失う。時には、我慢強さも大切なのだ)




 もちろん、この隊列には女性陣から抗議があった。




 だが、ソドムによって言いくるめられる。

「これは、最善の編成なのだ。仮に、この身動き取れない泥にいる獲物を、リスクを減らして最大の戦果を上げるとしたら、どちらから攻撃すると思う?」


「そりゃ、奇襲できる後ろからでしょ。振り返るのも難しいから、静かに一人、また一人と殺すこともできるわ」、シュラは、干潟渡りの危険性を十分承知している。


「そう、だから年の功で戦闘慣れした俺が後ろを守る。前方からの敵は、シュラが牽制して時間を稼ぎ、冴子殿は魔法で仕留める、という作戦でいきたい」、そう言って冴子の方をみた。


「わかりました、確かに生存率が高そうです」、そう言って賛成した。

(自ら一番危険な配置につくなんて、温室育ちの貴族と違って人望が厚いのもわかる気がするわ)


「先ほども説明したように、あくまでも戦闘は避けるのが大前提だ。世の中、いちいち戦っていたら、命がいくつあっても足りないからな」、シュラに再確認する。


「大丈夫!あたしだって、殺気がない相手に先制攻撃はしないわよ」、殺戮狂と思われては心外だとばかりに言う。戦闘狂ではあるのだが。 



 このような経緯で、干潟を渡る編成はソドムの望み通りになった。ソドムの板に乗り込んでるレウルーラは、最初は嫉妬で噛みついたもんだが、疲れて諦めた。


 このまま、順当に呪いが解除されれば、黙っていてもソドムはなびいてくるはずだから、必死になることもない。ただ、感情的に納得できないではいるレウルーラであった。

 前を見るので精一杯のソドムであったが、何やら背後でヒタヒタと近づく気配を感じた。レウルーラは、吠えもせず恐怖のため、うずくまる。



 「ペチャ!ペチャ!」と、干潟の表面を歩いてるような音が聞こえる。振り返ろうか、迷うソドム。



 前衛の二人は、呑気に板を漕ぎながら女子トークを展開している。

「ちぇ、下着で移動するのわかってたらセンスあるのはいてきたのに!」


「シュラさんのショーツかわいいですよ」


「何言ってるんですかー、旅人用の量産品ですよ」


「旅人用?」


「そ、毎日自分で洗うわけにいかないじゃん。道すがら、宿場で洗濯済みのと交換するの」


「なるほど」


「ま、王城暮らしだもん、知らなくて当然よね」、とくに皮肉を込めないで言う。

「あ、そういえば本城を見学しそびれちゃった。外側の宮殿ばかりしかいなかったし」、シュラは観光しそびれて悔しがる。


「そうね、戦用の城だから豪華さはないけれど、後で案内してあげる」、すっかり仲良くなった二人。


「いいのー?嬉しいなぁ」


「ええ、後で必ずね・・」

 


(おい!女子トークしてる場合か!何か、何かが後ろにいるから確認してくれー)

 

 騒ぐわけにもいかず、どうしていいか分からないソドム。いつものシュラだのみしかない。


「いい眺めだのぅ」、小声で尻たちに話しかける。


 怒りの形相でシュラは即座に振り返った。



 ソドムの真後ろにいる巨大なニワトリ・コカトリスと目が合う。



 シュラは、ゆっくりと視線を前に戻し、静かに足で泥を蹴る。

 

 そして、それは加速していく。

(ごめん、ソドム公王。アンタのおかげでウチらは助かったわ)

 ソドムを生贄に、どんどんペースを上げるシュラ。冴子も、何か理由があるのかと、スピードを上げた。



 心配どころか、逃げだした仲間たちに腹を立てたソドムは、コカトリスを刺激しないようにスピードを上げていく。


 

 コカトリスは、泥をヌルヌルと進むソドムを面白がって、頭を軽くついばむ。すると、逃げるようにヌルヌル進むものだから、追いかけては啄んだ。

(これが地上ならば、一撃かますところだが、どうにもならん)

 全身啄まれながら、ソドムは歯ぎしりした。




 しばらくレースは続いたが、ピッチを上げすぎた全員は、疲れて通常の速度に戻っていた。


 コカトリスのおかげだろうか、闇の大神殿まであと一時くらいに近づいていた。



 バテた三人は、漕ぐ足を変えゆっくりと進む。ソドムに興味を失ったコカトリスは、前衛の二人に近いた。


 シュラは息を切らしながら、ヒタヒタと近くコカトリスに観念した。


 コカトリスは、シュラに近くと、ショーツを啄み引っ張った。

ある程度伸びて「ペチッ」と戻る布が面白かったらしく、何度か繰り返す。



 襲撃されているシュラを横目に、冴子は距離を置こうと、手で方向転換を試みる。

「あら、シュラさんに懐いているみたい。よかったわねぇ、飼ってみたら?私はご遠慮させていただきますが」、そう言ってシュラと逆方向に進み出す。

 

 離れゆく黒いショーツを逃がすまいと、コカトリスは素早く接近し引っ張っては放した。「ビクリ」と固まった冴子。

「冴子さん、ウチの【トリス】に気に入られたみたいね」ニヤリと冴子を見るシュラ。特に攻撃らしいことはしてこないので、名前までつけてしまったようだ。


 冴子も諦めて、コカトリスのなすがまま、シュラと並行して進み出す。


 結局、二人の尻を交互に啄むことに安定したコカトリス。右向いて「ペチッ」、左向いて「ペチッ」というシュールな光景がソドムの前で展開された。


 戦う訳にはいかないので、どうにもならない。シュラも言いつけを守って、よく我慢した。


「大神殿近くで、コカトリスの縄張りは終わる。いずれ離れるから我慢してくれ」、小声で指示するソドム。


 その心中は、コカトリスの働きを褒め、撫でてあげたい気分だった。だが、ラッキースケベを悟られぬよう、真顔を保つのに苦労した。




「ガツッ」、シュラの板が何かにぶつかる。泥にひょっこり顔を出した岩。


「ありゃ?岩?」、とコカトリスに慣れきって、気にもならなくなったシュラが冴子に聞いた。



「岩礁がそのまま島になってるのでしょうか?」





「いや、ソイツはデスリザードマンだ!しかも、包囲されている」、顔を引きつらせてソドムは、足を止める。


 岩に見えたのは、水面に現れたわに顔で、鋭い眼光でこちらを見ているのがわかる。


 一噛即死ひとかみそくし、そんなバケモノ(一応、亜人)に囲まれ、青ざめる冴子。シュラとて、足場が悪いため勝ち目どころか、逃げ切れないと戦慄した。





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