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大天使の裁き

「世の災厄は、邪教徒の仕業」、そう囁ささやかれるが、光の神とて悪党を野放しにしているわけではない。


 今、大天使の裁きが始まる。

 干潟沿いで、大天使アークエンジェルに遭遇した冴子たち。


 風もなく、緊迫した空気に息を呑む。背後では日が昇ろうとしているので、巨大な大天使の姿をハッキリ見てとれた。



 神々しさ、美しさ、力強さを兼ね備えた圧倒的存在感に、ソドムを含めた小悪党達は身動きすらできない。



 ソドムとシュラはテントに隠れたが、隠れそびれた賊三人は、裁かれる前の罪人のように平伏した。



 そして、大天使は付近にいる者達に対して、心に直接語りかけた。


 これは心話しんわといって、知能の高い巨大な魔物モンスターなどが用いるもので、言葉を発する構造でない場合や声量が大きすぎ相手を気絶させてしまわないための能力である。



 連邦兵崩れの賊三人に慈愛の目向け、片膝をついて

「不幸にも道を踏み外し者たちよ・・」、そう言って右手の三本指で優しく男達をつまみ上げる。




「ぎゃーっ」、口々に苦痛の叫びをあげる男達。優しく掴まれようが、三人ひとまとめに掴まれて持ち上げられれば、痛いわけである。


 大天使は、立ち上がり彼らを肩まで持ち上げ、羽衣のような服?に、そっと置いた。



 必死にしがみつく男達。なんせ、城より高い場所まで持ち上げられたのだから、もはや痛さなど吹き飛び、ただただ落ちないようにするだけだった。




 冴子は、真正面で魔導書をドサリと落として、ただ眺めている。


 晩餐会でソドムがデーモンロードとの戦いを必死にめるように進言していた意味がわかった。



 人類では、勝てない。



 テントでは、シュラが隙間から様子を見ていた。その手は震えている。

 さすがに、「勝負しなさい!」などと血迷った言葉はでてこなかった。

 


 一方、ソドムは諦めていない。



 僅かな可能性に賭けていた。



 テントの下に穴を掘って隠れようと、剣で砂を掻きだしているのだ。レウルーラも前脚で穴を掘っている。

 諦めても事態は好転しない!天使や神相手にデマカセは通用しないだろうから、徹底的に隠れるしかないのだ。

(なんてこった、最悪だ。闇の眷族にとっての天敵ではないか!よりによって、大神殿付近に出現するか!?)



 大天使は、心話で賊三人に裁きを伝えた。それは、近くにいるソドム達にも聞こえた。




「貴様ら、旅人襲うの何度目だよ?見てんだからな」、酒やけしたようなハスキーな女性の声が心話で伝わってくる。



 賊三人は、あれやこれやと言い訳に必死だ。



「まあ、問答無用で極刑だね。天国に行きな」、大天使は視線を肩にいる賊に移し、手で内側に払い落とした。



 叫びながら落下した賊達。



 だが、運良く胸の谷間にハマって、助かった。



 大天使は、両手を乳房の横に当て、



天国江御案内パラダイム・プレス!」、と技の名前を心話で叫んだ。男達が挟まったままの胸の谷間を、勢いよく締め付ける。


 男達は胸の谷間で、潰されたブルーベリーのように無惨にはじける。全身の骨は砕け、血を出し尽くし絶命した。



 大天使の皮膚は、魔力でカバーしているとはいえ、これだけの巨体の体液や内臓を包み込むため、相当厚い。


 人間の幼児が、ニシンなど魚の柔らかい小骨で大騒ぎするのは内外の皮などが薄いためで、成人になると丸呑みしても痛くないのは、食道などが厚くなったからであろう。

 手のひらなどの皮膚も同じで、赤子の手などはとても柔らかいが、成人の男の手は、鳥のついばみなどでは傷を負わなくなってくる。


 上記の理屈でいえば、大天使の柔らかそうなたわわな胸の皮の厚さは、数センチあることになる。


 つまり、厚さ数センチの皮を張り付けた何トンかの肉の塊に、勢いよく挟み込まれたのだから、即死はまぬがれない。

 人間の数倍ある巨人族とて、即死するだろう。



 魔法や炎ブレスを吐いたりするわけでなく、ただ胸に挟み込んだだけで屈強な男達が死ぬのだ。本気を出したら、連邦王国などひとたまりも無い、と冴子は恐怖した。


 ソドムは、かまわず穴を掘る。砂地を掘ってもすぐに埋まり、全然捗はかどらないので、シュラに砂の排出を手伝わせていた。



「ヒィ~、お助けを~!」、賊の一人の声が聞こえる。



 どうやら一人だけ、大天使の羽衣にしがみつき落ちなかったようである。

 ただ、両手でぶら下がっているので、落ちるのは時間の問題のようだった。



 大天使は、生きる執念に心打たれたのか、手を差し伸べつかまるようにうながした。


 男は、大天使の中指の先に飛び乗って、両手両足でしがみつく。


 それを確認した大天使は、更なる裁きを下す。



「り~んねてんせぃ~、絶対聖域サンクチュアリ!」、心話による掛け声と同時に、クルリと後ろを向いて、両足の間隔を大きく広げた。



 クルリという、かろやかな表現をつかったが、巨体で回転されたため、局地的な砂嵐が巻き起こる。地上にいる冴子達は、立っていることも困難な上に、前が見えない。



 二つのテントは吹き飛ばされたが、ソドムとシュラと犬がいるテントは、懸命に押さえたため骨組みが折れる程度で済んだ。


 だが、骨組みを失ったテントは、中にいる者達に覆い被さっているだけの布となったわけで、視線を遮ることはできても、モゾモゾと動くため、隠れているのがバレバレの状態になってしまった。



 大天使がゆっくりと振り返り、元の体勢に戻った。



 大天使の中指に、しがみついていた男の姿はない。



 あまりの出来事に冴子は状況を忘れ、

「い、今の男は・・」、恐る恐る質問してしまう。



「さてね」ソコは突っ込まないのがお約束でしょ~、などと意味不明な発言をしながら、照れ笑いをする大天使。




「あなた方は、今のクズ共を退治してくれてたみたいね」、と大天使は語りかけてきた。


 友好的なのだろうか、膝を少し曲げて両手を膝に置き、姿勢を低くして目線を下げた。

 

 その姿は、幼子の目線に合わせようとしている母親のようだった。とはいえ、城の高さ並なので圧迫感はなくならない。



 ・・あなた方、と複数形で話しかけてきたということは、、冴子だけじゃないのは、お見通しのようだ。


 テント潜伏組は、骨組みが壊れてから、ジッとしていたが残念ながらバレていた。身動きこそしないが、シュラはパニックになっている。

 対照的に、ソドムは覚悟を決め、呼吸を整えはじめる。

(やべぇ、万策尽きた・・いざとなったら、戦うしかねぇ)




 冴子は大天使を刺激しないように状況を説明した。

「いえ、正当防衛のようなものでして・・」、控え目に言う。


 

 大天使は、ソドムに斬り殺された賊達の亡骸なきがらを見まわし、

「ん~、惨状からするに、明らかにりにいってるっしょ」、と言ってから




「隠れてないで、出てらっしゃい!」、と心話で怒鳴った。




「ひゃい!」、シュラが思わずテントから飛び出した。



 根が素直なだけに、太刀打ちできない相手の言葉に体が反応したのだろう。見つかったからには、どうにもならないので、うずくまる。



「はい、一人みっけ!」、ハスキーな心話が伝わる。



 邪教徒であるソドムが見つかると都合が悪かろうと思い、話しかけて注意をそらそうとする冴子。わざわざ庇う必要性がないのだが、義理堅い一面を見せた。


「申し遅れました。私は連邦王国の宮廷魔術師長、冴子=ガンダルフ=アスガルドと申します。幾つか・・」




「あ~、はいはい」、大天使は冴子が話しているのを遮り話しだす。


「あのさ、わたしも忙しい訳じゃないから話につき合ってもいいけど」


「まだ一匹テントに隠れてるのが気になるのよね。しかも、強い魔力が漏れ出るほどのデカい魔物が!」、ハスキーな声が心話で伝わる。



 潰れたテントは、沈黙している。



「大丈夫、何もしないからさぁ。ただ、隠れっぱなしは失礼でしょ、って話」、大天使は苛立ちからか、直立に戻る。



 この雰囲気では、何もしないという大天使の発言は反故にされると思い、堂々とテントから出た。



 テントから出てきた白い小型犬を見て、大天使は目をパチクリさせた。

 確かに魔力を感じる犬ではあるが、潰れたテントの大きい盛り上がりはそのままだ。それも、明らかに人型のシルエット。


 一応、レウルーラの決死の身代わりであったが、全く効果はなかった。



 業を煮やした大天使は、魔法を詠唱し始める。


「あれは、千里眼の魔法?いや、少し違うわね」、攻撃魔法ではないと判断し、警戒を解く冴子。シュラはレウルーラを抱きかかえ、砂に座り込む。


 ソドム以外、全員が大天使の動向を見守る。



 大天使は詠唱を終えると、一応魔法の説明をしてくれた。



「千里眼は人間の魔法だけど、天使は上位の【真理眼しんりがん】を使えるの。万物を見透かす透視魔法ね。てなわけで・・」


「真理眼!」、そう心話で叫ぶと左の人差し指と中指を伸ばしてVの形にして、ひじを折り左目に添えた。



 テントを透視するなど簡単なはずだが、ソドムの魔法抵抗が高いせいか、なかなか見えない。

 大天使は首をひねり、人間如きが生意気だと言わんばかりに、最大出力にすることにした。


 右手もV形にして右目に添えた。

「超真理眼!」、やや目が血走る。


 

 終わった、絶対見つかる。シュラ達は絶望した。


 そしてソドムは邪教徒として、さっきの男達のように嬉しいような残酷なような、よくわからない処刑の道が待っている、そう思った。




 だが、圧倒的優位な大天使に異変が生じた。


 両目を押さえ、もだえ苦しむ大天使。

「ギャァ~、眼がぁぁ!」、そう叫びながら両膝をついた。着地の爆風による砂塵が一行を襲う。


 そして、段々と大天使の存在が希薄になり、出現したときとは逆に、その姿は消えていった。



「・・消えた・・?」、冴子は緊張から解き放たれ膝をついた。シュラも疲れて、砂地に大の字になって寝そべる。


「あー、マジでビビったわぁ」、安堵の溜息とともにシュラが言う。



・・周りの緊張感がなくなったのを察して、ソドムはテントから這い出てきた。



「・・勝った」、ノッソリ立ち上がりながら、右拳を上げて勝利宣言するソドム。



 皆でかばったのに、礼より先に勝利宣言されたので、三人の眼は冷ややかだ。

「いや、お三方には感謝してますとも!つい、勝ったことが嬉しくてな」、殴られたり咬まれる前に機嫌をとるソドム。



「あ、そういえば何でいなくなったんだろ」、ケロリと、シュラは疑問を口にした。冴子も、それを気にしてはいた。ソドムが何らかの攻撃したようには見えなかった。



「ふふ、答えはアレだ」、とソドムは冴子の後ろを指差した。



 何のことはない景色、今ようやく朝日が出たところだ。



「つまりだ、透視能力を上げすぎて、テントどころか地表すべて透視して、太陽を直視して眼がやられたわけだ」、作戦どうりと言わんばかりの表情で勝ち誇るソドム。

(たぶん、な。しかし、大天使とは思えないマヌケさだ)


「なるほど、粘り勝ちですね」、と冴子は称賛した。

(まあ、諦めないで隠れ続けた結果、撃退できたのは確かね。これが、連邦王国にとっての悪材料にならなければいいのだけど)



「何でもいいから、まずこの場所を離れよぅ!」、どうにもならない個体差を見たのは、人生初だったのでシュラは逃げたくて仕方がない。



「うむ、逆恨みされてるかもしれんしな」、と言ってソドムは漁師小屋へと向かい、一行も後に続く。



 漁師小屋には、干潟を渡るアイテムと、さっきの賊が貯め込んだお宝があるはずである。



 ただ、これほどの騒ぎがあっても、小屋の主が外の様子すら見に来ないのせない。

 既に、殺されているのか、息を殺して待ち伏せているのか。不安を胸に建物に近いて行く。


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