魔術師の脅威
「世の災厄は、邪教徒の仕業」、闇の神を信奉しているだけで、邪悪な人間と決めつけられ、迫害されし暗澹とした時代。
深夜、身支度を整えた二人は、闇の大神殿へ向かうために、城を抜け出す事になった。
1日に色々ありすぎて、正直ベッドで寝ていたいところだが、今しかチャンスがないので仕方がない。
シュラはエクステを外し、いつもの赤いミニスカートと皮鎧を着込み、片手斧を腰に下げ、盾を背中に背負う。
泥干潟越えとはいえ、海には違いないので水分補給のために、水を皮袋にいれ持参した。
ソドムは、何かと身分証代わりになる連邦の鎧と兜を借りた。あとは、適当な剣。念の為の携帯食料だろうか、王宮の厨房から貰った肉のようなものを皮袋に入れてを腰に下げている。
今はいちいち挨拶されてはかなわいので、騎士の格好をしたわけだ。金縁の白鎧は何年ぶりだろうか、若き日に戻った気もしないでもない。
抜け出すと言っても、そこは公王。誰にも文句を言われる筋合いはない。
深夜だろうがなんだろうが、門番に
「街で呑みなおす、門を開けよ」、と言って終わりだ。
そう、べつに連邦王ファウストの部下ではない、盟友なのだ。あくまでも、相互互助関係な上に、第2王子をも預かってもいる。何を遠慮することがあろうか!
犬であるレウルーラのリードを手に、深夜に城を出ようとする二人。門番に話しかけ桟橋を降ろすように命じた。
「あの~、深夜にすいません。久々の王都なので街に繰り出したいのですが」と、兜を外して話しかけ銀貨一枚を渡すソドム。
1日あたりの給金と同じ額を受けとった門番達は、すんなり城外へだしてくれた。
「あんた、腰低すぎない?」、拍子抜けしてシュラが言う。
「だからお前は青いのだ。身分の低い者ほど、丁重に扱えば感動し、協力してくれるもんよ」
「逆にいつも大事に扱われてる貴族などは、普段通りに接したほうが喜ぶ。宮殿でシュラがウケが良かったのも、そんな理由だ」
武辺だけでは出世はできない、やはり人間通でなくてはならない。応援してくれる人を増やす事が重要だと、このやり取りで学んで欲しかった。
「あ、みてみて!まだ、灯りが沢山」、城のある丘から街を見下ろしてシュラがはしゃぐ。ソドムの話などまるで聞いていない。
「ああ、タクヤ達はまだ吞んでるだろうな」、と普通に応じ
「茂助・・」と、忍の名を呼ぶ。
「ははっ、これに」、と先ほどの門番の1人が駆け寄って来た。
よく見れば、門番の格好をした茂助だった。ありきたりな顔なので、全然気がつかなかった。さすがと言うべきか。
「これより、大神殿に向かう。偵察を頼む」
「承知」と言い残し、かけていった。
これからの道すがら、伏兵なり山賊なり必ずいる。ソドムがあぶれ物だったら、必ず待ち伏せすると思う。
なぜなら、病などを治療するため闇の神殿に人が集まるからだ、しかも大金を持って。
体の弱った連中が、金貨100枚以上のお宝を持参して、ノコノコやってくる。
鴨がネギを背負って、しかも代わる代わる訪ねてくるようなものだ。
それを待ち伏せしてブチ殺し、身ぐるみ剥いで海に捨てるだけの簡単なお仕事だ。
その一件で、えーと・・兵士月給が金貨3枚だから・・約3年の収入になるわけで、さらに裕福な獲物なら金貨1000枚(大和帝国一億円)をもってる場合もあろう。
殺害現場を目撃されたら?
「邪教徒を成敗した」、で済むから恐ろしい。
弓による狙撃だと苦戦するが、ならず者が剣で襲いかかってくる程度ならば何とかなる。まずは情報が欲しかった。
白堊の城から城下町に行く下り道、シュラがぼやく。
「あ~あ、ふかふかのベッドに沈んで、死んだように寝たかったなぁ」
「まあな」
「んでー、昼過ぎに起きてさ、執事やメイド達が着替えや食事準備を全部やってくれて、優雅にブランチ…憧れてたのよねー」、やることはやるが、つい不満を漏らしてしまう。
「まあ、そんなに困らせんでくれよ」
「神殿に行くチャンスが、今しかないからいいんだけどさ」
「埋め合わせに、頬のタトゥー消してやるから」、ソドムは照れながら言った。
「・・・・えっ?ホント?嬉しいんだけどー!」、シュラは喜びで飛び跳ねた。
「ちょ、声が大きい!」
「アンタ、最初からそのつもりだったんでしょ?人がいいけど不器用なんだから」、ソドムの顔を覗き込んだ。
「は?ついでだよ、ついで。犬が走り回らないようについててもらって、二人まとめて治してもらうだけだ」、視線をそらしてレウルーラをなでる。
「ほうほう、ではありがたく”ついで”に治していただきます-」、上機嫌にシュラが笑う。
ソドムがいいことをしたときは、決まってさりげなくする。恩着せがましく言ったり、功を誇ったりができず、人知れず善行をしたりするのをシュラは知っている。
悪ぶってはいるが、常人よりもずっといいヤツなのだ。邪教徒だけど・・・。
ソドム達が城を出てしばらく歩き、城下町へ辿り着く手前で、背後から待ったがかかった。
レウルーラは止まって一吠えして、尻尾をふる。
振り向くと、息を切らした女性が走りながらソドムを呼びとめる。
「お待ちなさい。お話は聞かせてもらいました」、白い絹の服を着た冴子だった。スリットが深めに入っているので安定してエロい。
「邪教徒ソドム、あなた方はこれから大神殿に行くつもりなのでしょう!」、左手には魔導書を持っているので、戦いも辞さないことが見て取れる。
シュラとソドムは互いの顔を見る。
「大声出すから!面倒くせーことになっちまったじゃねーか」
「でも、誰だって邪教徒のカミングアウトは驚くわよ」
「いやいや、怪しさ満点だろ俺。気が付かないほうがおかしいわ!」、シュラをにらみつける。
「で、あのお姉さんと戦うの?」、護衛のいない魔導師なら詠唱中に仕留めることができそうだ。ただ、距離が10メートルと離れすぎで成功率は半々だった。
実戦慣れしている二人は、戦うと決めたら即動く。
名乗りをあげたり、冥土の土産に教えてやる・・などと語りだしてる途中の輩をどれほど斬捨てたことか。
生きるか死ぬかの刹那に眠たいことをよく言えるものだと思っている。
一方、冴子も抜かりない。距離を十分考慮した上で話しかけたのだった。
冴子が得意としているのは付与魔術で、中でもゴーレム(魔法で動く土などでできた兵)を操るのに長けている。
ゴーレムは、動きは遅いものの、力があり硬い。また、魔法はあまり効き目がない恐るべき兵士。
普通の魔術師だと、その場にある素材で即興で造るところなのだが、冴子はあらかじめ厳選された素材でゴーレムを作成・維持して、必要なときに召喚(呼び出す)する術があった。
冴子の方式ならば、作成時に必要魔力と素材を既につかっているため、召喚する魔力と操作する時の魔力があればいいので、使用者の負担や詠唱時間は少なくて済む大きな利点がある。
欠点としては(ゴーレム全般の)、素材にもよるが製作コストが高く、膨大な魔力と時間が必要だということ。
1番安い土ゴーレムでも金貨100枚(大和帝国1000万円)もするので、金に余裕のある魔術師といえども多く保有はできない。
宮廷魔術師長として、連邦の国家予算を使い込める冴子がストックとして城にスタンバイしているのは、14体ほど。
土ゴーレム10体・岩ゴーレム2体・鉄ゴーレム1体・石灰ゴーレム1体。
中でも、アイアンゴーレムは鉄の塊なので、武器・魔法も効果がない。唯一の弱点は炎であるが、ドラゴンの灼熱でなければ倒しきれないと言われている。
つまり、詠唱時間・秘薬・魔力がたっぷりあれば、冴子一人で千人ほどの軍隊と同じくらいの強さということになり、連邦で一目置かれて当たり前の天才ぶりなのだ。
今回の争いでは、詠唱が短くて済む3m級の土ゴーレムならば、距離を詰められる前に護衛として召喚が間に合う算段でいる。
兵士10名ほどの働きをする土ゴーレムが足止めしている間に、より強力なゴーレムを呼ぶか、雷の魔法などで戦闘不能にすることができるだろう。
はっきり言って、余裕があった。
「取り引きしましょう。条件をのめば、邪教徒だったことは知らないことにしてあげるわ。そんな小事かまってる暇もないので」、あくまでも一人で来たのは信用させる為らしい。
一方ソドム、取り引きする気はない。交渉相手としては危険と判断している。
(公国には忠実な戦鬼兵団ががいる、一般兵の練度も上がってきている。これにレウルーラが復帰するれば、立ち回り次第で連邦と渡り合うことができるかもしれない)
もう、通報するなり好きにしろ・・・、だが本当は、万全の態勢が整ってから、闇君主として名乗りをあげて、連邦や帝国との戦いに身を投じたかった。
袂を分かつかは別としても、10年前に建国したときから、将来は闇君主として堂々と宣言するつもりではいたのだが、それは数年先の予定で、今回バレたのは早すぎた。
うかつとしか言い様がない。
だからといって、口封じのために冴子を殺すのは忍びない。
一撃離脱に限る。あとはレウルーラが復帰してから、戦うか詫びを入れるか決めることにした。
ソドムは詠唱時間が短く、対人に有効な暗黒魔法をかけることにして、詠唱を始めた。
昔、町娘をナンパしてシカトされて、その腹いせに使った魔法。結果、阿鼻叫喚の大惨事になったので使用を控えていたのだが。
【洪水】の魔法。
腸の水分を一時的に増やすだけのシンプルな魔法である。
腸は、水分が増えると排出したくなるもの・・つまり強制的に下痢にするわけだ。
いかに鍛えられた戦士でも、下痢を我慢しながらでは実力の半分もだせまい。魔法抵抗が高い冴子といえども、唾液がにじみ出るような腹痛に襲われるのは必至。
むしろ、魔法抵抗高いから気兼ねなく使うことができる。
前述した、町娘に使ったところ魔法抵抗が全くないため、効き目がダイレクトで、その場で諸々を排出する大騒ぎになった。
更には魔法をかけたソドムに本能的にしがみついたから堪らない。
ソドムも訳も分からず娘を抱きかかえて、川に連れていって洗って着替えさせ・・・平謝りした。
その時の衝撃と罪悪感で、娘の人生を支える約束をしたという黒歴史がある禁じ手。
その被害者は、ギオン公国の公営ハプニングバー「ハニートラップ」を任されているマダムということは誰も知らない。マダムの収入は一般の数倍なので、過去の事など忘れ、ケロリとしているもんなのだが。
ソドムが暗黒魔法を詠唱し始めた直後、冴子は交渉決裂を悟り、土ゴーレムの召喚を始める。
先に魔法が完成したのは冴子。眼前に人の倍ほどある土人形が出現する。土でできているため、人型であること以外・見た目の造りは雑なのだが、弱点である魔法石は胸部深くにあるため、かなりしぶとい魔法生物だ。
ソドム達の予想を遙かに上回る反応の早さだった。
やはり、あらかじめゴーレムを作り置きしている優位性は大きい。
だが乱戦でない限り、魔法対決では威力が小さくとも、素早く効果が現れ、敵の詠唱を妨害したり、手傷を与えて、隙をみて強力な一撃か物理攻撃を仕掛けるのが効果的ということまで知らなかった。
実戦慣れしたソドムの選択が正しく、ゴーレムを無視して術者本人に暗黒魔法を行使したため、
「うっ!」と、腹を抱えて冴子はうずくまった。
集中力は途切れ、護衛のためのゴーレムは送還されて消えてしまう。
止めを刺そうと走り寄るシュラを引きとめ、
「俺たちは老犬レウルーラの呪いを着くために大神殿に行く。これ以上邪魔だてするのなら、不本意ながら殺すしかない」、言い含めるように睨みつけソドムは立ち去った。慌ててシュラが追いかける。
離れ行く二人に、冴子は腹痛によろめきながらも叫ぶ、
「覚えておきなさい!この礼は必ず・・・」、だが段々声が弱弱しくなる。
ソドムは少し安堵した、冴子の魔法抵抗力の高さに。
だが、通報されて光の神殿から邪教徒討伐令が出されるのは確実だろう。連邦軍も黙ってはおるまい。
・・・生きるためにも、泥干潟を早々に突破して闇の大神殿に逃げ込まなくてはならない。大神殿に着けば、神官戦士や連邦軍も手出しはできないはずなのだから。
冴子を始末できない甘さが原因ではあるが、そんな非道なことをしてまで自己保身する気がない、相変わらずのお人好しのソドムにシュラは可笑しみを感じつつ、誇らしくもあった。




