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ソドムの苦悩

「世の災厄は、邪教徒の仕業」、身勝手な邪教徒が暗躍する暗澹とした時代。

 さて、いよいよメインディッシュのサーロインステーキ(牛の腰あたりの肉)の登場。ソドムとシュラは、これを楽しみにしてきた。


 サーロインだって公国で食べれないことはない。


 では、なにが凄いのか?


 熟成度が違う。旨み成分が雲泥の差があるのだ。公国の土地柄的に低温で熟成させる事ができないので、とさつしたら、せいぜい2日で消費しなくてはならないため、旨みが足りない。

 連邦の宮廷料理の食材は、北方の脂ののった牛の枝肉を地下で一ヶ月熟成させてから納入されるので旨さは別物なのだ。


 最近の流行りは、大和帝国より伝わった「ワサビ醤油」「おろしポン酢」である。今までは、ヴァンルージュ(赤ワインソース)が基本であったが、バターを大量に混ぜ込むため、サシのはいったサーロインなどにはクドいということで上記の大和風な食べ方が流行りだした。



 ソドム、珍しくわがままを言い、自分とシュラだけに「はし」と「ごはん」を用意してもらった。マナーどうこう言っておいて、なかなかの太々(ふてぶて)しさしさである。シュラは、ソドムの気づかいに感激した。


 周りの貴族達は、軽蔑の眼差し…と思いきや、「そのような食べ方も美味そうだ」と興味を示していた。メインとパンの組み合わせも良いのだが、大和のソースには大和風の食べ方がいいのかもしれないと感じたのであろう。



 もはや、自分の前にあるシルバー(ナイフとフォーク)の数が限られてきたので、どれを使うべきかはシュラでも分かる。自然な形でサーロインに挑むシュラ。

 どうでもいい肉ならば、ナイフで全部一口大にカットしてから、箸で食べるところだが…今回のような高級肉は、肉汁が逃げないように食べる分だけ切りながら食べることにした。


 ナイフを入れる、違いがわかる。


 焼き加減はミディアム、おろしポン酢を絡めて口に入れ噛みしめると、肉汁が溢れ・旨さと脂の甘みが口いっぱいに広がる。


 肉が冷めないよう、皿を温めて提供した料理人の気づかいも感じとることができた。さすがは宮廷料理、来てよかった・・ソドム・シュラは本来の目的を忘れて感激した。



「美味しい」目を閉じ、ウンウンとうなずきながら、しっかりと味わうシュラ。



 おろしポン酢のサッパリ感で、飽きずに次の一口を体が求める。



 ご馳走する方にとっては、喜んで食べてもらうほど嬉しいものはない。連邦王ファウストは、目を細めて満足げだ。


 無邪気なシュラの姿を見たら、ソドムも放っては置けなくて、マナー違反を承知で、肉を半分シュラの皿にのっけた。目を輝かせ、シュラはソドムを見つめた。

(んー、少年の頃はシュラみたいな活発な女の子が好みだったなぁ)


 ソドム以外にも、肉を譲りたい者たちが声をあげる。


「あー、私は肉が苦手でして、あちらの貴女へお渡しいただけるかな」


「サーロインは好きだ、だがもっと喜んで食べてもらえる方に譲りたい」


「私の料理をソドム公令嬢へお渡しし、あとでお時間いただけるか尋ねてくれ」

 などなど、シュラの元にはサーロインステーキが集まってきて、ステーキ食べ放題状態になった。


 貴族や将軍達は、シュラの一連のやりとりを見ていて、外見もさることながら、明るい奔放な性格と優しさ(ズレてるが)たくましさに心奪われたようだ。

 宮廷婦人のような華麗さや女らしさもいいが、シュラのような弾けた女子は新鮮で、予測困難な発言や行動も興味深く、ワクワクする。


 この感覚を世間では[勘違い]と言うのだが、当人にはわからないものだ。仮に結ばれたなら、地獄をみるパターンかもしれない。



 そんな思惑とは裏腹に・・・肉は頂くしお礼も言う、だが異性には興味無し、と言うのがシュラで、会食後には誰とも個人的に会わなかったらしい。


 竜王以外は認めないのは本気のようで、竜王に近づくために、教団を組織して巫女にでもなって、竜王と結婚できないものかと、子供っぽいことを考えているというのが、最近の養父ソドムの悩みだったりする。


 いいかげん現実に目覚めて、適当な異性と恋でもして、ソドムの寝室から出て行ってもらいたい。



 もっとも、婚約者同然の間柄であるレウルーラの呪いが解けたなら、ギオン城の寝室はソドムとレウルーラで使うのが自然だから、その時はさすがに出ていくだろう。


(む、10年ぶり・・で、お互い歳をとっての再会、老化には触れないようにしないとな)


 ソドム40代になって、腰が痛い日があったり、肘の腱鞘炎けんしょうえん慢性化まんせいかしたり、極めつけは肌が水を弾かず濡れると水がベッタリ張り付く・・・もはや、青年とは名乗れないという自覚がある。

 レウルーラは10歳くらい若いとはいえ、プルリとした肌の弾力がなくなっているかもしれない。なんとか見た目をキープできても、肌年齢はどうにもならない。


 当然、恨まれるだろうと思う。変化魔法の対象に、とりあえず犬をすすめたのがソドムで、しかも解呪に10年も時間ロスがあって、若い娘でなくなってしまってるのだから。



 後悔と罪悪感で眠れぬ夜もあった。(ここ数年は、本当によく眠れているが)



 レウルーラを犬から戻せない現実を受け入れるのには時間がかかったが、せめて二人で目指した建国という夢を実現すべく情熱を注ぎ、変化魔法の研究にも没頭した。



 連邦領に侵攻する大和帝国に痛打を与える力を得るために、命がけで竜王の縄張りにも踏み込んだ。


 矮小なる人間であり、権力すらないソドムが、城ほど巨大な竜王に会うなど自殺行為であるが、当時のソドムはレウルーラを失い捨てばちになっていたこともあり、目的を完遂できた。

 

 レウルーラを失ったからこそ、野望のために覚悟を決めて、能力以上の実力を発揮して、建国にこぎ着けたと言えるかもしれない。


 などと、ソドムはしみじみ今までの出来事を思い出していた。呪いが解けたなら、10年で成し遂げたことを喜んでくれるだろうか。


 今さらながら、不安になってきた。


 こんな気分の時に、シュラのような無邪気に現在いまを精一杯生きてる姿をみると、心が落ち着く、というより悩んだり心配したりする無意味さに気づかされる。

 


 隣のシュラに食べきれないほどのステーキが集まっているのが目に入ると、「こりゃいかん、残しては非礼。助太刀致す」といって、ソドムは悔いが残らないよう食べまくった。

(心配しても仕方がない。今はタダ飯を堪能しようか)


 自分が連邦王国と大陸に激震を起こし、歴史上類を見ない死傷者を出した元凶であることなど、微塵も感じていないソドム。


 連邦の重鎮も何も知らずに、ステーキ大食い競争状態の二人を見て喝采をあげている不思議な光景であった。


 もしも、ザーム老師が【遠見の水晶】で、この間抜けな光景を見ていたら、膝を叩いて笑うかもしれない。連邦から追放されたザームにとって仕返しは大成功で、さぞや痛快だろう。


 

 さて、ステーキを心ゆくまで堪能した2人は、ワインから番茶(焙じ茶)に切り替え、一休みした。1人あたり500グラムは食べただろうか。金額にして1人銀貨2枚(2万円)くらいかかる肉、自腹だったら絶対注文しないだけに、満足感はひとしおだ。


 2人が落ち着いたのを見計らって、ファウストが一つ提案してきた。



「どうじゃ、ソドム。公国は後継に譲って、わしの近くにいてくれんか・・。爵位はそのままで、副王で迎えたい」、連邦王ファウストが破格の待遇で帰参をうながした。

 王の身辺にあって、連邦の政治・軍事の方針も決めれる連邦NO.2といえる立場であり、爵位も公爵のままNO.1という高待遇であった。

 ファウストにとっては、2人の息子を10年にわたり預かり、公国の民の評判もいいソドムを信用しない理由がない。その信頼感は、側近や貴族(親族中心)など比べものにならないだろう。そして、裏切りなどのセコイことなどあり得ないと信じている。

 とっくの昔に裏切られているのだが、おめでたいことに全然気がついていない。

 

 まさかの提案、ソドムも諸侯も驚いた。賛否分かれるところだが、冴子の口元の引きつり具合から王の独断ということは読み取れた。




※仮にソドムが引き受けてしまえば、王様でなくなるので「王様稼業も楽じゃない!」は完結と相成ります。

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