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連邦王都アスガルド

 夕暮れに辿り着いた連邦王都アスガルド、堂々たる高い城壁は初めて見る者を圧倒する。



 壁の厚みと高さは大陸一であり、よじ登ることはおろか、投石機で崩すのも難しかろう。

 門さえも巨大かつ堅牢で、攻城兵器の破壊槌(はかいづち)をもってしても容易には突破できるものではない。


 地方都市は幾度となく訪れた事があるシュラであったが、大陸一の王都は初めてなので、巨大さと壮麗さに思わずつぶやいた。


「これが連邦王都かぁ!」


「これに比べれば、ギオン公国の街は砂場遊びの延長みたいね」この非常に失礼な感想に、ソドムは顔色を変えずに、国によって城と街への構想が違うことを説明した。



※ギオン公国は、自称城塞都市であるがシュラの言うように陳腐さは否めない。

 ただ、ギオン公国の名誉のために、城と街の防衛はお国柄があるということを加筆させていただく。


 

 大和帝国では、街全体を囲うスタイルを「総構え」というが、あまり一般的ではない。

 帝国の城自体は何重にも壁で守るが、街は柵程度にとどめることが多い。

 理由として、戦になれば城下町は敵により焼き払われるか、逆に敵の戦略拠点にされないために自ら焼き払うことがあるためで、守る思想がないのだ。

 住民は、諦めて山に避難するのが当たり前で、建て直しや引っ越しが多いために、住居や店はすべて木造の個性のない画一的なつくりになっている。タンスなどの家具も全国共通の造りなので避難や引っ越しのときも、衣類・財産を運ぶだけという身軽なものだ。

 城の構造としては、門は木造・壁は高くないので一見攻略しやすいのだが、わざと敵を招き入れて虎口(門をぬけても直線ではなくL字になっていたりして勢いを削いで上から矢を射かけたりする場所)で殲滅したり、通過中の櫓から石を落としたりと、攻撃的で敵の出血を強いる造りにないっている。



 これに対し連邦王国の城は、街を丸ごと頑丈な高い壁で囲い、壁の上から矢を射かけ、敵を近寄らせない思想で、その堅固さゆえに外から攻略するのは難しい。欠点としては、完成までの時間と資金が膨大ということがあげられる。

 


 ギオン公国は、住民を守るため総構えを目指した形跡はあるが、仮の防衛設備で今まで善戦できたこともあり、防衛予算を凍結して福利厚生や、他の何かに投資している事情があるのだ。




「城や街は建設に時間がかかる。莫大な資金があるからといって一ヶ月でできるもんじゃないからな」


「何年か、長くて10年かけて作るものだから、我が城は未だ建設中なのだよ」、大和帝国の侵略や連邦貴族からの妨害・死の岬からのアンデットの襲来などがありながらの築城は、更に大変なものだと補足した。


 彼女は、なかなか話題を変えてくれない。

「でもさ、土を搔きあげて柵を打ち込んだだけじゃ農村集落と変わりがなくて恥ずかしいんだけど!ちゃんと壁で囲ってよね」


「そこは、予算の優先順位があってだな・・守りきれる最低限の防衛施設にして、福利厚生なんかに当てているわけよ。てか、税収少ないし。」実際、街自体に過度な投資をするつもりもない。


「ふーん」、シュラは適当に納得したふりをして、この話題の終結をはかった。

(おっと、あぶない。石壁予算の確保のために、ミニスカ無税が撤廃されると困るもんね)


 

 一行は、身長の数倍ある高さの門をくぐり街へ入った。いちいち検問されないのは、先ほど王と共にいた騎士の一人が門番に話をつけてくれていたためで、万が一のトラブル防止のために先導してくれることになった。


 騎士が先導してくれる歩調に合わせねばならないのだが、シュラと犬が何度も立ち止まり苦労した。


 人口と活気が桁違いなことから、シュラは祭りにきた子供のように、お(のぼ)りさん丸出しではしゃぐため、ソドムとタクヤは赤面を余儀なくされた。


 茂助は、とっくに市民に紛れ込み一行を見守ることにしたので、どのへんにいるか分からない。

 

  

 街を歩き、程なくして白堊(はくあ)の城が近くなったので、ソドムは騎士に用事をこなしてから向かう旨を話した。


「旧い友人に会いに寄り道させていただきたい。あと、こちらの侍は旧友たちと飲み明かすようですので、晩餐は私とシュラの二人だけの参加とお伝えいただきたい」と丁重に言った。


 タクヤは騎士にたいして現実的な確認を忘れず、城で彼らが旅塵を落とし、正装を貸してもらえるように要請しておく。


 騎士は快諾して先に城へ向かった。

 

 ソドムが連邦出身と知っているわけだし、旧友との親交もあろうと察してくれたようだ。


 騎士が去ってからタクヤが疑問をぶつけた。

「どういうつもりだ?俺は知り合いなんぞいないんだが」


「まあ、繁華街に行こうか」、ソドムは勝手に話を進め歩き出す。


 シュラは周りすべてが物珍しく、キョロキョロしながらもついてきた。


 

 進むにつれて、仕事帰りや酒場に向かう人々で道は混雑してくる。



 案の定、よそ見をしていたシュラが男にぶつかってしまった。


「ガシャン!」、中年の男が持っていた紙袋が落下し、中のワイン瓶が割れ、赤い液体が石畳に流れ出した。

 ちなみにギオン公国の場合は予算の関係上、残念ながら石畳は少なく、街路は土で割れずにすんだかもしれないが。



「どこみて歩いてんだよ!おねーちゃん!」、中年男は激昂した。


「どうした?兄弟」、赤ら顔の男が加勢ししてきた。


「こりゃひでぇ。楽しみにしていた、年代物のワインが!」、また一人仲間が増えた。


 三人がかりで、若い娘シュラに相手に、賠償を求めて騒ぎだした。



 つくづく運のない話で、



 ケンカを売る相手が悪かった。数秒で彼らはシュラに制圧されてしまった。

 

 一人はアゴに一撃もらいノックアウト、二人目はパンチラ込みのハイキックを首にくらい気絶、三人目は状況を理解する前に背負い投げされ石畳に叩きつけられた。


 騒ぎを聞きつけ、だんだん人だかりができてくる。


 面倒ごとを起こされると困るので、ソドムは止めようとしたが間に合わず。

「おい・・」、としか言葉がでないし、あとの言葉が続かない。



「だいじょうぶ!殺してないから」、両手を後ろに組んで振り返り、微笑むシュラ。


「おお、そうか」、褒めるべきか、叱るべきかソドムにはわからなくなっていた。



「ソドムの旦那ぁ!」、のびていた一人が、よろけながら起き上がって言った。

 

「久方ぶりでございます。ご活躍は聞き及んでおります」、フラつきながらも、笑顔で話しかけてきた。



「おー、ガイア!元気そうだな。そこで寝てるのはオルテガにマッシュか。実に懐かしい」、ニンマリ、応じて ならず者ガイアに軽くハグした。

 

 ガイアは、思い出したように慌てて仲間二人を起こした。



 周りにの野次馬たちは、知り合い同士のケンカと知って、興味をなくして散っていった。


 

 三人はシュラに怯えつつ、相変わらずチンピラ稼業をなりわいとしていると、苦笑いしながら近況を語った。

 この三人は、依頼があれば違法行為もする小悪党で、ソドムとの付き合いは10年を超える。



 ソドムは、会計士タクヤを紹介した。そして、タクヤに三人を商人にするように依頼し、資金の工面と目的をタクヤに説明した。


「おまえら三人、年齢的に今の稼業も難しかろう」


「そこで、公国御用達(こうこくごようたし)の商人にならんか?巨万の富を約束できると思うが」 偉ぶらずに、さらりと言った。


 小声でタクヤが抗議する。こんな話は初耳だし、将来に相場で儲けるための支店のようなものとは理解はしたが、素性の知れないゴロツキにやらせなくともいいではないか、と。


 ソドムは明快に答えた。


「繁華街まで寄り道して引き合わせたかったのはコイツらでなぁ。信用できるから頼むわ。絶対儲かるから!」 儲かるの一言に、タクヤは渋々納得した。

 

 今回の旅をしていた期間に、連邦が大きな軍事行動を仕掛ける予兆を感じたソドムは、久々に相場で儲けれると思った。

 さらに、いつの日か気象や災害もコントロールできれば、相場で一人勝ちして儲けることもできるのだが、というアイデアが浮かぶも、今は手段までは思いつかない。


 いずれにせよ、買い占めや転売のために、連邦王都に拠点は必要だった。そして、公国の部下を派遣するのは不自然なので現地雇用したいと考えていた。


 商売の拠点を任せる条件は二つ。地元に詳しいことと、裏切らないこと。

 ゴロツキでも、身なりを整えればなんとかなるだろうし、たとえ素性がしれても、改心したと言っておけば、真面目に働く姿は輝いて見えるのではなかろうか。俗に言う、不良が少し善行をするだけで目立つ的な。

 裏切りについては、心配していなかった。なぜなら、ソドムが公王になっても、過去の悪さをネタに ゆすりたかりを一度もしてこなかったからだ。

 小悪党にとって、いい収入源であるに、彼らときたらソドムの出世を喜んで酒の肴にしてるらしい。なんとも愛おしい連中ではないか。

 

 ソドムは、コイツらにカタギの仕事を与え、人並み以上の幸せを享受させつつ、自分も儲けたいと願った。



 三人組は、二つ返事で仕事をさせて欲しいと、逆に頼み込んだ。ソドムは、タクヤに彼らと酒でも酌み交わして今後の話をするように言った。

 

 それから、馬に乗れないタクヤは、どのみち帰りは一緒でないので、闇の大神殿へは別々に行くことで話はまとまった。


 シュラにとって彼らの話が、ちんぷんかんぷんだったので、無理に話題に入らず、近くの屋台で焼き鳥を買いこんで歩きながら食べ、他に美味しそうなものがないか店先を見てまわっている。

 三人をやっつけた罪悪感はまるでない。彼女にとっては戦いは日常だから、ハエを追い払った程度なのかもしれない。


 むさくるしい男たちを酒場において、ソドムとシュラは城での晩餐会に出席するため白堊の城に向かった。


 

 この時はまだ、


 タクヤ達が若いおねーちゃんのいる高い店をはしごして、とんでもない請求書を持ってくるなど想像だにしていなかった・・。


 


 自分が参加しない飲み会は、上限金額を決めて行かせるべきと、学ぶことになる。

 



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