表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/35

出迎え

 精神力体力を使い果たして、戦闘不能の巨大な御荷物になり果てた君主タジム。旅を急ぐ一行には悩みのタネであった。


 シュラは主張する、タジムを木陰にでも隠して先を急ごう、と。


 まあ、重量的にもわからんでもない。考え方を変えれば、大剣を抱いた大男を野生動物や盗賊風情が獲物に選ぶだろうか?


 虎が寝てるからといって、狼が獲物と認識しないように、タジムを放置しても問題ない気もする。



「いや、待て待て。いくら何でも駄目だろう、それは」、さすがにソドムは反対した。

 それはそうだろう、公国に尽くし、今も窮地を救ってくれたタジムを放置するわけにはいかない。


「じゃあ、どうすんのよ!?担げる重さじゃないわよ?」、シュラは足だけでも持ち上げてみせたが、それだけで精一杯という面持ちでソドムを見た。



「・・犬ソリだ!何頭かでソリを引っ張る北部の犬のように、4人で引きずればいいんじゃないか?」、侍のタクヤが言う。

 ちょうど本物の犬もいることだし、と付け加えた。


 確かに担ぐのは無理でも、各々(おのおの)縄を腰に巻き、引っ張れば何とか夕暮れには街まで到着できそうである。


「その(げん)や良し!」、ソドムは茂助に縄を準備させ、皆で引っ張ることに決めた。



 かくして、タジムは両足に縄をくくりつけられ、引きずられて旅を続けることになる。


 その姿は、仰向けのままで、両腕が万歳したように引きずられ、まるで狩られた熊が運ばれるような無様な光景だった。

 せめて、背中に板を敷くなどの配慮があれば違った印象を与えるだろうが、そのまま引きずっていたため、引き回しているようにしか見えないかもしれない。


 タジムを引きずりながら二時間ほど進み、街が見えてきて一行は安堵の表情を浮かべた。

 安全を保障するかのように、前方から騎士団が巡回のため近いて来る姿も確認できた。


「あーもう限界!擦れて痛いし、足腰壊れそうだしー!」、シュラが不満を爆発させ、その場に座り込む。


「まあ、そう言うな」、合わせてソドム達も引きずるのをやめて小休止した。



「普段、仲間で助けておかないと、いざ自分の窮地に見捨てられるぞ。人間関係は、少し貸しを作るくらいがちょうど良いもんだ」、ソドムは、普段から傲慢で高飛車なシュラのために、味方を大切にする重要さを教えたいようだった。


 最終的には敵すら味方に引き込む人格者になってほしいものなのだが、今はそこまでは求めまい。




 前方の騎士団が接近するにつれ、連邦王直属の近衛騎士団であることがわかった。


 その列の中ほどに、仮の王冠をかぶった連邦王ファウスト=ガンダルフ=アスガルドの姿を確認した。


 

 本当に迎えに来るとはソドムも驚きだった。



「あれは、連邦王だぞ!だから言っただろ?連邦王自ら出迎えに来るって。この公王ソドム様の偉大さを思い知ったか!」、腰の縄をほどいてシュラに勝ち誇って言った。

(それにしても、私がここに来ていることを知っているとは、お耳の早いことだ。)


「すごい、あの白髪のおっさんが連邦王なんだ」、微妙に失礼な感想をシュラが言う。

(誰かに似てるような・・・、でも、アレックスには似てないわね)



 騎士団は数メートル手前で停止し、王らしき男のみが馬から降りて近づいてきた。慌てて、宮廷魔術師のような男が後に続く。


 王ならば、馬上から挨拶しても儀礼上問題ないのだが、わざわざ馬から降りるということは、よほどソドム公爵に礼を尽くしているのだろう。


 白い長髪を固定するかのように仮の簡素な王冠をはめて、齢50過ぎとは思わせない恵まれた体躯に白い連邦の鎧を着こみ、その上から白いサーコートを羽織っており、赤きマントと白い盾、そして長剣を腰に帯びている。 


 顔は日に焼け、古傷がかすかに見える。とても玉座でうたた寝をしている人物ではないと、誰もが感じるだろう。


 帝国では、畏怖を込めて【連邦の白い(はかま)】と恐れられている。別に袴をはいているのではなく、サーコートなのだが、例えるにちょうど良い帝国の言葉がなかったことと、神道の最高位がはく袴が白いことにもよるようだ。


 

 余談だが、帝国では白→紫→浅葱あさぎといった色の序列で、連邦は紫→赤→青となっており、国によって違う点はおもしろい。



 ソドムにとっては、昔の上司でもあることから、連邦式敬礼で迎えた。


 直立姿勢、右手に握り拳をつくり「ドン」と自らの胸に当ててから、斜め前に突き出しながら手のひらもまっすぐ開く敬礼であるが、仮にも爵位が最高位であり一応・・同盟王であるソドムがそこまでする必要はなかったのだが、連邦王ファウストの威厳がそうさせたようだ。



 ソドムの敬礼に反応せず、ズンズンと連邦王は歩みを止めない・・。


 視線を合わせないようにしながら、ソドムは少し焦った。

(えっ?なになに?なんか怒らせたか?それともサプライズで褒められるのか!?)


 眼前に来た時、ソドムは貰った。



 褒美を。いや、ゲンコツを・・。

「ゴスッ!」鈍い音がし、ソドムの思考は一時停止した。



 せきを切ったようにファウストが野太い声で怒鳴った。


「ソドムゥゥ、戦の最中さなかに国を離れるとはどういうことだぁ?」


「ん?大切な息子達を預けてるんだぞ!この儂は!」逃がさんぞ、と言わんばかりにソドムの両肩をがっしりと掴んだ。



 そして無理やり笑顔をつくり、ソドムに優し~~く語りかけた。

「どうした?そちのいいわけを聞こうではないか・・」




 ソドムは・・悪魔にでも捕えられた気分だった。



 物理耐性プロテクトがあっても、かなりのダメージな上に怪力で鷲掴みされ、さらには言い訳を強要させるくせに受け付けない上司である。

 これに比べれば道中の暗殺者たちが可愛く感じられた。



 なにか言おうにも口をパクパクさせるのが精いっぱいで、打開策が浮かばない。


 そこに、ファウストの後ろから追いかけてきた宮廷魔術師が止めに入ってくれた。


「陛下、ソドム殿は今や公爵であり同盟国の王なのですよ。非礼はなりません」、ごく常識的な人間が間に入ってソドムは安堵した。


 ファウストも、冷静さを取り戻しソドムの肩から手を離した。


 ソドムがチラリと後ろを見れば、ソドム一行は全員直立姿勢で立っていた。シュラですら、王の強さを肌で感じたのか、からかう気配は微塵もみせなかった。



 状況説明するにあたって、レウルーラの呪いを解くために闇の大神殿に向かうということは伏しておき、あくまでもゼイター侯爵からの援軍への礼と、できるならば連邦本国からの援軍もいただき、一挙に帝国を駆逐したい旨を伝えた。


 話してる途中、他の騎士たちも馬上では具合がよくないので、みな下馬して王の後ろに整列していた。


「そうか。そういうことなら貴公ではなく代理の者でもよこせばよかろうに。こんな時代だ、謀反むほんや寝返りには目を光らせないといかんぞ」、話に納得するや連邦王は優しく同じ王として先輩の教訓を教えてくれた。


「そうよ、暗殺集団が二度も襲い掛かってきて大変だったわ」、少しくだけた空気になったのを見計らいシュラが話に入ってきた。

(ナイスだシュラ、このまま雑談に持ち込んで無料ただ飯・無料宿コースにもちこめ!)



「それは災難、公国に戻るときには馬と護衛を貸すので安心されよ」にっこりと王は、若き娘シュラに目を向けた。



「頼もしき仲間に囲まれ、ソドム公爵は幸せ者だな・・」一行を見渡して王の動きが止まる。



 そして、ソドムは貰った。



 褒美を。いや、ゲンコツを・・。


「ゴスッ」また頭に一撃もらいソドムはふらついた。



 連邦王ファウストは、すぐさま走り寄って抱きかかえた・・万歳したまま仰向けでのびている君主タジムを。そして声を荒げる。


「貴様は、儂の息子になにしとるんじゃぁぁー!!」、と激怒した。


 他の騎士達も口々に「王子ー!」などと言いながら走り寄った。



 比較的に冷静な宮廷魔術師の説明によれば、君主タジムは連邦王第一王子であるゼイター=ガンダルフ=アスガルド侯爵なのだそうだ。


 先の戦は公国西のゼイター侯爵の援軍により、帝国を追い返すことができた。当たり前だが、公国にとっての恩人である・・この簀巻すまきにされてる人物が。




 それについてのソドム公爵の感想は、後世の歴史の教科書や舞台のセリフに常用される名言、


「えっ?」


であった。



 ともかく、客観的に状況をみたら無抵抗な第一子を、ならず者が縄でくくり簀巻きにし、引き回しているようにしか見えないのは確かだ。


 タジムに意識さえあれば、弁明してくれるだろうが・・回復するまで一日はかかるようなので期待できない。

 

 まあ、今のソドムは連邦王のかつての部下であって、公爵なわけだから、この場で斬り殺されることはないだろうが・・・またもや、牢獄にブチ込まれそうな気がしてならない。

 



 今思えば、一子相伝の金剛聖拳を、連邦から左遷されたようなタジムが使いこなしているのは変だとは感じていた。


 なるほど、素手で物理耐性(プロテクト)をブチ破ってくるのは親子(こいつら)聖拳使いしかいないだろう。

 

 しかし・・ゼイター侯爵とわかっていれば、丁寧に運んだものを。


 

 いやいや、ポジティブに考えれば、木陰に放置しなくて良かった。それで死んでいたら連邦までも敵に回し、ギオン公国は消滅していたに違いない。



 まず、搬送方法を謝罪し、ゼイター侯爵のおかげで何度も命拾いをして今の我々がある、と上げに上げた。シュラも加勢して、褒めちぎった。



 このような状況だが、ゼイターの命に別状がなく、嘘をついてなさそうだと思った連邦王は、彼らの息子に対する賛美が少し心地よくなってきたようだ。



「・・話はわかった。儂も少し言いすぎたようだ」、立ち上がりソドム達を見据えた。

 騎士達は協力して、ゼイターを馬に乗せて落ちないように縄で括りつけている。


「いえ、疑われても仕方がない状況でしたので。」、ソドムは微笑した。(・・言いすぎではなく、殴り過ぎだろ。フルスイングで金剛聖拳使いよってからに。一般人なら、頭がザクロのように弾け飛ぶところだぜ)



「もうすぐ、日も暮れる。街に着いたら、今宵の晩餐に付き合え。色々と聞きたいこともある」


「数日は城に滞在するがよかろう。なに、お主らが国を空けたと聞いて更なる援軍の準備はしておった。


 明朝、5000の兵がギオン公国に出立するゆえ、安心するがよい」連邦王は、さっきまでブチ切れていたとは思えない、優し気な表情をソドム達に向けた。



「ありがたき幸せ。我が小国ごときのため、ご配慮いただき恐縮です」

(ここまで肩入れするとは意外だな。局地戦を早めに切り上げて、大戦でもするつもりか?)


「では、後程(のちほどうかがわせて頂きます」、ソドムは頭を下げ、それにならい一行も頭を下げた。


 王たちはきびすを返し立ち去るが、騎士達の中でソドムの元同僚もおり、彼らは軽くソドムと手を合わせるのを忘れなかった。出世頭とはいえ、憎めないソドムの人柄がそうさせたのかもしれない。



 王たちから距離が離れ、声も届かないくらいになったころ、一行の緊張はようやく解けた。



「いやぁ~、諸々(もろもろ)ヤバかった・・」疲れ果ててソドムが言う。


 その姿は、ガンダルフ親子によって突き飛ばされたり殴られたりしたため、鎧は外れ服もボロ雑巾のように破れて散々な有様であった。


 徐々に傷を癒す魔法をかけながら、ソドムはボヤいた。

「まさかタジムが、連邦王ヤツの息子とはな。金髪刈り上げと、白髪を伸ばしていること以外は似てるっちゃ似てるか。体格もソックリだったしな」だんだん納得はしてきた。


「ゼイター侯爵への援軍要請が、すんなり行き過ぎて違和感がなくもなかったのですが」茂助が歩きだしながら言う。


「病弱といいながら、自領をもぬけの殻にして10年近く連邦の騎士に扮するとは・・さすがに疑いませなんだ」



「帝国の侵攻をせき止めるためか・・・、弟のアレックスを自ら鍛え、見守りたかったか・・だな。公国をどうこうする意思はなかろう」、ソドムは侍?のタクヤに客観的意見を求めた。


「そうだな、裏切る機会はいくらでもあった。なんにせよ、彼が寝込んでいれば、闇の大神殿に潜入する時の障害がなくなった訳だ」国の趨勢すうせいよりもタクヤの思考は増毛を優先していた。


「明日の朝に、街見物と称して抜け出すとしよう。茂助は連絡係、シュラはタジム・・いや、ゼイター侯爵に付き添うように」ソドムはあえて、シュラを外した。



「異議あり!裁判長、これは・・」、シュラは難しい言い回しをしようとしたが、それ以上言葉が浮かばなかった。


「とにかく、あたしもついて行く!」、腕を組んでソドムを見つめた。



「あのさ、タトゥー消したいんだろうけど資金あんの?金貨100枚(1000万円)だぜ」ため息交じりでソドムが応じる。


「えっと・・金貨20枚なら身に着けてる装飾品でなんとかなるんだけどさ」、足りない分は貸してくれと言いたいようだった。


「タクちゃん、どうよ?」ダメとわかっていながら、一応・・国の金庫番に聞いてみる。


「却下!無理ムリ!」タクヤは即答した。


「なんでよ!レウルーラはよくて、わたしがダメっておかしくない!?」


「おかしくねーから!彼女は貴重な魔術師で、いるかいないかで戦の勝ち負けが決まるかもしれない逸材なんだぞ」そして、タクヤはとどめの一言を言う。


「入れ墨ごときに、国の金はだせねーんだよ。」


 正論ではあるが、シュラはカチンときた。

「言ってくれるねぇ、落ち武者ごときが!あんたの髪だって重要じゃねーだろが!」


 シュラも含めて・・・髪の話しちゃってるじゃん・・と思った。ちなみに、タクヤは自腹で払う予定である。


 タクヤ、刀に手をかけてゆっくりと鞘から抜いた・・・。

「俺はなぁ、年下の女になめられるのだけは我慢ならねーんだわ」、上段に構えながら低い声で言って、間合いを確かめる。


 シュラ爆笑。


「抜いたな、素人が決闘すんの?冗談と上段かけてんの?アハハ」


 タクヤが無反応なのを確認すると、片手斧に手をかけて目を細め


「やっぱ笑えないわ、痛い目みせてやるよ・・」左手の小盾を前に突き出す。


 白髭つきの面具をつけているため、、タクヤの表情はわからない。



 ソドムは、止めない。力関係をハッキリさせるため喧嘩はよくあることだ。シュラも手加減するだろうし。

(むぅ。手加減するよな・・?まさか、一撃で首撥ねたりしないよな?)不安がなくもない。てか、なんでもいいから早く行かないと日が暮れるんだが。


 付き合っていられないので、茂助は先に進み安全を確認することにした。(公国の人たちはモメごと好きですなぁ。見ていて飽きないのだが、やるべきことはやらないと)



 先に仕掛けたのはタクヤだった。上段に構えたまま気合の声をあげて駆けだす


「きぇぇええぇぇぇ~!」


 間の抜けた、声が裏返ったような奇妙な声を発した。シュラ、思わず吹き出す。


「なにそれ、キモい。アハハ」半笑いで盾を構える。


 斜めに相手の力を逃がすように受け流してから、カウンターの一撃を見舞うつもりのようだ。



 素人が緊張のあまりに、声が裏返ったように聞こえるが、ソドムは様々な戦の経験から「猿叫えんきょう」ではないかと気が付いた。


 大和帝国の南部の流派でジゲンリュウの掛け声で、猿の叫びのような声をあげて走り寄り、最初の一太刀にすべてをかけ、二太刀目はない覚悟の一撃が凄まじい威力という流派。

 その一撃は相手の胴を両断するほどで、対峙した相手は猿叫を聞くだけで戦慄し逃げだすという・・・。


 素人とはいえ、戦士並みに筋骨たくましい男の一撃では、シュラも危ないかもしれない。


「シュラ、受けるな!かわせぇ!」中立のつもりが、とっさに指示を出してしまう。


 素人相手になんの冗談かと、シュラは聞く耳もたなかった。


 そして、侍の渾身の一撃!


「ガァァン!」刀と盾がぶつかる激しい金属音が山にこだまする。


 盾で受け流そうにも、剣撃が凄まじく受けきれない。とっさに体を後ろに逃がすも、2メートルくらい弾き飛ばされた。


 なんとか、転がりながら衝撃のダメージを軽減し、シュラは片膝を着き戦闘態勢に戻った。


 一撃が重いので次は受けきれないと判断して、盾を外し反撃を狙う。思いのほか相手が強く、ゾクゾクしてシュラの殺気が満ちてきた。


 

 タクヤの強さは、一夜漬けながら教わった修行を真面目にひたすら忠実に繰り返したことと、元からの筋力、そして才能センスがあったのかもしれない。見事な一太刀であった。


 そして、侍は仁王立ちのまま動かない。


 ここで、ソドムが仲裁に入った。

「よし、喧嘩は終わりだ。俺が悪かった、金の問題はともかくシュラも一緒に神殿に連れていくから」


 まあまあ、と両手を広げ両者に割って入る。


「タクちゃん、ついて行くだけなら問題ないだろ?」


「はぁはぁ。・・・・ああ、いいぞ」息を切らしながらも、あっさりタクヤは承諾した。

(やべぇ、一太刀目以降どうすればいいか習ってねぇ。ドムの助け舟ありがてぇわ)


「よっしゃ!」、無邪気にシュラがガッツポーズをする。受けた左腕の痛みなど、もはや気にしてはいない。

(大神殿に着いてしまえば、値切るなり借りるなり、どうとでもなるわ)


「けど、干潟の泥を横断するのは大変だからな。後悔すんなよ」、先の苦難をタクヤはあらかじめ忠告した。


「そう。行けばわかる。俺とタクちゃんがお前のためを思って辞退させようとしたことをな」ニンマリと意地悪な笑いでソドムはシュラの全身を見た。そして、タクヤの方を見て互いにニヤつく。



 シュラは大神殿行きが決まったので、もはや二人の会話に関心はなく、城での晩餐の料理に思いをせた。


 一行は、再び歩き出す。が、はじめて王城に行くシュラが落ち着かなくてしょうがない。


 料理・ドレス・メイク・ふかふかの広いベッドなど、期待でいっぱいのシュラによる質問攻めに、ソドムは辟易へきえきしてきた。


 で、ソドムが釘を刺した。


「おまえの食事は自室でとれよ」ぶっきらぼうに言う。


「なんでよ!?」のけ者にされイラつくシュラ。


「おまえ、テーブルマナーいくら教えてもマスターできなかったろ。公爵の連れがそれでは、私と国の恥だからな!」と、ピシャリ。

 それはそうだろう、幼少よりチャンスは与えていたのだ。結果、身についていないのは自己責任だ。


「う・・」痛いところを突かれた。粗暴な自分に後悔しなくもない。そして、しばし考える。



「そうだ、ナイフフォークの順序とか、あんたの真似すりゃいいじゃん」、歩みをとめてソドムとタクヤの方に体を向けた。


「おとなしくするから・・参加・・させてください」ソドムを見つめて、珍しく頼み込んだ。宮廷は女子のあこがれで、おてんば娘も例外ではないのだろうか。


「まあ、いーんじゃねぇか?」、タクヤが擁護した。

(いまさら、評価下がっても・・下がりようがない国なわけだしな)


「タクヤさん!」目を輝かせ、シュラは【さん】づけした。先の一撃で、タクヤの力を多少認めたから【さん】と呼んだのかもしれない。



「わかったよ、おふざけや暴力はナシだぞ。国の威信もそうだが、代表して俺が殴られるかもしれないからな。」渋々ソドムは歩みをとめず了承した。(40にもなって、叱られたり殴られたり・・か)



 しばらく歩き、先を見れば茂助が手を振っている。道は安全だと知らせているようだった。


 旅も終わり、久しぶりに命を狙われずに夜を過ごせる安堵感が一行を包み込んだ。



(注)王都が目的地ではありません




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ