007
女の表情からミツネの空間支配は枷にはならないらしく、ニヤリと口角を歪ませている。
「空間支配っての始めてだけど、私の魔法は瞬間移動じゃ。 別に重力を変えられても移動には支障無いのじゃ」
「そう言う事」
ミツネは納得したように重力制限を解除した。 そして同時に頭で思考を回転させる。
「なら、やっぱリスクって背負うのは必要だよな」
「何を言っているのじゃ」
ミツネのセリフに女は始めて口角の歪みをやめた。 イツキも同じような事を考えているのか首を傾げていた。
「範囲内は魔法禁止!」
ミツネの言葉に女とイツキは驚いた顔をした。 勿論、これは自分にも作用される為かなりのリスク背負った魔法である。
「この魔法は自分にも効果がある代わりに魔力をほんの少し残してくれる。 だけど流石に他の魔法を行使できる程残ってるわけじゃないんだよな」
「空間支配……。 恐ろしいのじゃ」
女は始めて苦痛に歪めた顔に変え、俺を睨みつける。
「ミツネ……。 それじゃ君が身を守る術が無いじゃないか」
「イツキさん。 俺は何時もシノヅキが居たから安心して使ってたけど、今はあんたしか居ない。 つまりわかるよな?」
ミツネの言葉にイツキはフッと笑って握っている刀二本を強く握りしめた。
「頼りにしてる……か」
「ちなみに空間支配が解けるのは俺が自ら解くか死ぬかの二択しか無いからな。 イツキさん! 全力で守ってくださいよ!?」
自分で言ってる間に怖くなったミツネはイツキに必死に懇願するように頼み込む。
「わかってる。 相手に魔法が無くなったなら負ける事は無いさ」
「弱点は見えてるんじゃ。 そこの魔導師を殺せばいいだけじゃ」
女は一気に走り出すとミツネに迫って来る。 女は魔法を使わなくても十分早く、一歩早く出たお陰かミツネの前まで来て腰に隠していた短刀を抜き放った。
「早ッ」
ミツネは躱す事を叶わず、目を瞑ったが聞こえたのは金属音だった。
「お前の敵は私だろう。 女」
イツキは気配無く瞬身の様にミツネの横に来て短刀を刀で止めていた。
「恐ろしく早い奴じゃ。 お主から殺さぬ限りは勝てなそうじゃ」
女は一度大きく後退すると持っていた短刀の刀身を舐める。
「お前名を言え。 これから殺す相手だ名くらいは聞くのが礼儀」
「すっかり勝つ気満々じゃな。 良いだろう私の名はヒルンじゃ」
「ヒルン……。 あの世で後悔するが良い。 八騎士に目をつけられた事を!」
イツキが走り始めるとヒルンも走り始めた刀身同士をぶつけ、再び金属音を共振させると更に物凄いスピードで刀が振られていく。
「なんだよこれ。 人間離れしすぎ」
ミツネはついポツリとそう溢す。
もはや、イツキの刀は残像を残して振られている状態だ。 ヒルンもやっとの思いでついていける様で、余裕そうな顔は消え、口元は苦しそうに垂れ下がっていた。
暫く当てているとお互いに大きく後ろに下がった。
「流石に速さではついていけないのじゃな」
「速さが取り柄だからな」
ヒルンは息があがってるの対し、イツキは目を閉じたまま余裕そうな顔だ。
「取り敢えずこのままじゃ勝てないのは分かったのじゃ」
「そうか。 ならどうする? 降伏するか?」
イツキがそう聞くとヒルンはクハッと笑い出した。 それに対しては魔力回復に集中しているミツネも怪訝そうな顔でヒルンを見つめた。
「降伏? 笑わせるのはやめるんじゃ。 人間にはもう一段階上があるのをお前らは知っているか?」
「上の段階?」
ミツネはその内容を聞いたのは初耳だった。 もし聞いたとしたのなら使える様に鍛錬をしているはずだ。
「言霊じゃよ」
ヒルンはそう言うとゆっくりとまた余裕そうに口角をあげた。
「『飛流』」
ヒルンが言葉を放った瞬間に魔力が膨れ上がり、魔力が少ないミツネは一気に膝をついた。
「何て圧力だ……。 言霊か」
「言霊は己のリミッターを解除する言葉。 お前らじゃもう勝てんのじゃ」
同時にミツネの魔法が解けた。 あまりの圧力の強さに魔法は解けミツネは驚愕の顔を隠せずにいる。
「これが魔導師なのか」
イツキには元より魔力が無い為に圧力に気づかないが、隣にいるミツネの表情から事の深刻さを判断した様だ。
「イツキ城に戻ってこの事を報告してくれ。 俺にここは任せろ」
「いや、その必要は無い様だ」
どういう事だとイツキに視線をズラし、イツキの目線を追う様に後ろを見た。
「待たせたな3席。 死にそうじゃねぇーか」
「ニコラス」
ここに来て遂に援軍が来たらしく、ニコラスはニヤリと笑ってミツネの横に立った。
「流石にこの魔力は桁違いだな。 他の連中は城に戻した。 イツキもミツネも戻ってろ」
確かにイツキは相手に瞬間移動が戻った時点で勝ち目は少なくなっただろう。 だが、何故ミツネまで。
そう言う気持ちでイツキがニコラスを見ているとニコラスは不敵に笑みを強くした。
「まぁ、別に居ても変わらないけどよ。 少し離れてろよ?」
そう言うとニコラスは一言言った。
「『二懲』」
その瞬間、周りの建物の瓦礫が分散し、一定距離が平地と化したのだった。