006
先に進む度に殺気だとハッキリしてきた。 更にその殺気は増幅しているような感じがする。
「現場はどれだけ殺気に満ちてるんだよ」
多少ばかりの苦笑いを隠し切れずに走ってる最中も冷や汗は止まることを知らない。
「人が邪魔だな……。 屋根から行くか」
未だ時刻は12時を少し過ぎたばかりだ。 人も多く躱しながら走っていたのでは着いた頃には終わってるなどあり得るかもしれない。
ミツネは屋根に飛び移ると更に加速して走ったのだった。
ミツネが到着した頃には既に戦いは終わっているようだった。 そして賊かは定かでは無いが相手の姿は見えない。
ミツネはゆっくりと現場を歩き、その悲惨さを垣間見る。
建物は崩壊し、店などの品は道端に転がり落ちている。
幸いか人は避難されていたのか死者は見受けられない。
「酷いもんだ」
「3席」
暫く歩いていると、役職を呼ばれ振り返った。 そこに居たのはイツキだった。 しかしその目は友好的なものではない。
「違いますよ? 俺がやったわけじゃありません」
「どこに証拠があるですか?」
確かに今を見られれば、終わって間もないし、ミツネが疑われるのも仕方無かった。
そしてイツキはゆっくりと一本の刀を抜き、切先をミツネに向けた。
「少しは弁明の余地くださいよ」
「それは連行してからでも遅くはないでしょう?」
ミツネは溜息を吐くと腰に構えていた短刀を抜き、構える。
「大人しくする気は無いんですか?」
これは驚いたのかイツキは目を見開いていた。 そしてミツネは目を瞑って首を横に振った。
「違いますよ……。 盗み聞きとは無粋な真似してくれるじゃねーの!」
ミツネは短刀をイツキに向かって投げるが、そのスピードが異常だ。
イツキは躱すことも出来ずに見つめて驚愕の顔を張り付けることしか出来なかった。
短刀はイツキの頬を掠る様にして後ろへと流れ、同時に金属音をこの場に轟かせた。
「ッッ!」
イツキは漸く殺気に気づいたのか、ミツネの方に向かって大きく飛び、ミツネの横に立つ。
「ありゃ〜? なんで私のスピードに追い付けてるじゃ?」
独特な喋り方をする賊と思わしき女は口元をニヤリと歪める。
「申し訳ありません。 結果的に助けてもらったみたいですね」
「気にすんなよ。 仲間だろ?」
イツキは相手の不気味さに当てられたのか自然ともう一本を抜き、二刀流の構えを取る。
ミツネも空間を短刀まで伸ばし、短刀を自分の手に戻す。
「短刀が消えて彼奴の手に戻ってるんじゃ……。 成る程お前ら八騎士じゃろ?」
「第1席イツキ」
「第3席ミツネ」
そう答えた瞬間に目の前にいた女の姿が掻き消えた。 ミツネは空間を自分の周りに均等に伸ばし、存在を確認するとその場から一気に飛び、女の攻撃を躱した。
「やっぱ、躱されるんじゃ……。 どうなってるんじゃ?」
イツキは突如後ろから聞こえた声に驚き、遅れてその場から離れた。
「なら、そこのイツキだっけか? お前から殺してやるじゃ」
イツキは刀を今一度構えると目を閉じた。 ミツネはそれを感心した様に見つめる。
「心眼とか使えんのかよ」
やはり、人外染みてるなと再度確認しているとイツキは女の攻撃を完全に見切り、一見するとスピードについてきている様に見える。
だが、実際はイツキからの攻撃は出来ず防戦一方だ。
「これはイツキには相性が悪いかな」
元より、イツキは相手とのスピード勝負に勝敗を委ねる戦い方だ。 今回は魔法でそのスピードが異常な程までにある相手にイツキは勝利を掴むことは出来ない。
「イツキさんよ! 助太刀は必要か?」
イツキは首を横に振って拒否を表す。 ミツネは溜息を一つ吐くと地面に手を触れた。
「ならこっちは勝手にやらせて貰いますよ」
ミツネの魔法により、地面は浮かび上がり、一本の柱が出来上がる。
そして、その柱に一文字ずつ大きく文字を作り上げる。
『賊発見!』
これで来ない戦闘員が居なかったら後日締め上げよう。
そんな事を思いながら再度イツキに目を向けると、やはり防戦一方らしい。
いや、正確に言うとイツキに攻撃が当たり始めている。 どうやら心眼とは無限に使えるわけでは無い様だ。
精神力を何処まで持続させられるのかが勝負の分かれ目なのだが、このままではイツキは負ける。
「後で怒られてやるからな」
静かにそう呟くと魔力を跳ね上げ、空間支配領域を拡大させる。
それは半径100メートルくらいだ。
「さすがにキッツイな……。 範囲内の重力を倍化」
そう言うとイツキと女の動きが一気に止まった。
そして同時に此方に鋭い視線を向けた。
「悪いなイツキ。 俺の魔法は無差別型だからさ。 仲間でも効果が出ちゃうんだよ」
「不完全な魔法だな」
「まぁ、そこは元の能力が強すぎるからね」
もしこれで掛かる相手も特定出来るならば、死ねの一言で終わらせる事ができるのだが、都合良くはいかないらしい。
実際、死ねとか毒化とか最終的に死に繋がるものはそれ相応の魔力が必要な為に使いたくない上にそういう系は自分にも作用があるのだ。
「空間支配とは珍しい魔法じゃ」
「然程、危機だとは思ってないみたいね」
ミツネの疲れたような声に女はニヤリと笑ったのだった。