001
護廷八騎士という最強の名を持つ騎士がいる。 しかし、その騎士を見た民は誰一人としていない。
いや、見た事が無いのではない。 民は誰が護廷八騎士なのか把握していないのだ。 国もそれは公開しておらず、本当に国の危機の時だけに召集され、危機を凌ぐと言われている。
ある村に1人の男が居た。
その男は護廷八騎士の第3席に存在しており、その村の民もその男が護廷八騎士だと知っていた。
というのも、国から離れた辺境のこの地は禍愚と呼ばれる生き物に度々襲われている。 それを討伐、撃退しているのはその男なのだ。
「ミツネ様、国からのパーティー招待どうされますか?」
ミツネと呼ばれた男は席に座りながら「んー」と考えるように声を漏らす。
「シノヅキはどう思う?」
対称にシノヅキと呼ばれた女性はキッチリとした姿勢のまま、ミツネを睨みつけるかのように見ていた。
「私は副隊長です。 ミツネ様への招待を答える訳にはいきません」
「堅いなぁ……。 そうじゃなくて何かおかしいと思わないか?」
ミツネの言葉にシノヅキは胡散臭そうに目を細めると、「どういう意味でしょうか?」と尋ねた。
それに対してミツネは寄り掛かっていた椅子からゆっくりと前のめりになり、机に肘を立てた。
「名目上だけであって、実は国の危機の召集だと思わないか?」
確かにこの時期にパーティーを開いたらおかしいとは誰も思わないが、今まで音信不通を貫き通してきたミツネに住所を当て更にはこの手紙を送ってきていると思えば裏がありそうな気がしないでも無い。
「では、ミツネ様は他の八騎士も来ると思われているのですか?」
しかし、シノヅキは疑問に思うところもあった。 十中八九、ミツネはパーティーなどに参加する訳が無い。 にも関わらず、パーティー名目で招待を出してきたのだ。 他の八騎士も招待を受けない可能性が高いと思うのも当たり前だ。
「いや、俺と同じような考えの八騎士は多分いるだろう。 会った事ないから明確には言えないけどね。 でもこのパーティーの裏に俺が疑ってるんだ。 他の八騎士も気付いているだろうな」
ミツネみたいに音信不通にしているのは八騎士全員そうだと言える。
つまり、他の八騎士もミツネにどこか似たり寄ったりという事だろう。
「では、ミツネ様も参加するのですね?」
「そこなんだよな」
ミツネの困惑の声にシノヅキはハテナマークを頭に思い浮かべながら首を傾げた。 このパーティーの意味に予想が立てられているのなら、八騎士として参加するのが当たり前だ。
それが八騎士になった者の使命でもある。
「参加したら暫く町に戻ってこられないよな?」
「件が解決するまでは難しいと思いますね」
「つまりだ、俺が居ない間、この村を守護する者が居ないって事になる」
確かにこの村にミツネは必要不可欠であるだろう。 しかしだからと言って参加しないのでは仕事放棄も良いところだ。
「ミツネ様の隊が居るではないですか?」
「へ?」
「え?」
だからシノヅキは当たり前のようにそう言ったのだが、ミツネは驚愕の声を上げた。
それに対してシノヅキも、まさかそのような返答があるとは思わず、ミツネの顔を凝視してしまう。
「シノヅキ……。 俺に1人で王城に行けと?」
「護廷八騎士でしょう?」
「そ、そうだけどさぁ」
どうも歯切れの悪そうにミツネが頭を掻くと、溜息を大きく吐いた。
「わかった。 隊は全て置いてく。 その代わりシノヅキは俺と共に来い。 1人じゃ面倒い」
「貴方という人は……わかりました」
呆れた様に声を漏らすが、シノヅキが第3席副隊長に任命されてから、ずっとの上司なのだ。 もう慣れたというところだ。
「では、私は指示を出してきますので、ミツネ様は準備をお願いしますね」
「あぁ……。 っとその前にトールを呼んでおいてくれ」
「わかりました」
それを最後にシノヅキが部屋を出て行き、その数分後に扉が開き、トールが入室してきた。
「兄貴、何かご用ですかい?」
この呼び方は中々慣れないなとミツネが思っているとトールは何も切り出さないミツネに疑問を持ったのか更に近寄ってくる。
「あぁ、いい。 近づくな。 お前に頼みたい事がある」
近づくなと言われてショックを受けていたが、その後の言葉に仕事の顔に切り替える。
「頼み事ですかい?」
「俺はそうだな……短くて1週間、長ければ1ヶ月はここに帰れない。 その間隊の指揮はお前に任せる」
トールは何を言われているのか理解できていない様な顔の後に必死に理解しようと目を閉じた。
そして、目を閉じたまま、口を開いた。
「つまり、八騎士の仕事ですかい?」
「恐らくだがな」
「……わかりました! この町は俺に任せてください! 兄貴は思う存分暴れてきてくださいね」
ニパッと笑ったトールは左胸に手を当てると凛々しくそう言った。
それをミツネは苦笑いで返し、トールを下げさせた。
「暴れるって……。 そんなイメージなのか」
ミツネの声は誰に聞こえる事もなく、部屋に響いのだった。