雪どけりんご
今年の冬はいつもとは違った。
単調な生活をくりかえし、変わらない毎日をいつもと変わらずにすごす。
これが日課のようになっていた。
二時間目のチャイムがなり、授業の終わりをつげる。
ノートは外に積もる雪のように白いままだった。
その意味のない授業を繰りかえして帰路につく。
部活には所属しない。
しかし、そんな自分にも唯一の好きなことがある。
雪国育ちだからか小さい頃からスノーボードだけは輝いていられる。そう感じていた。
スノーボードといっても高度な技はできない。
ただただ波を描くように滑ってリフトに乗ってまた滑る。これを繰り返すことに快楽をおぼえていた。
家と二駅しか離れていないところにゲレンデがある。
そこに休日はいくことが習慣だった。大好きなスノーボードをしに。
そして大好きなゲレンデに立つ。
いつもと同じようにリフトに乗ろうとした時だった。背中に衝撃がはしる。
「ごめんなさいー。」そう一人の少女がぺこりと頭を下げる。
「スノーボード初めてで、なんとなくできるかなーって思って一人で来てみたら案外難しくて」照れながら頬を赤く染めている。
「大丈夫ですよ。」素っ気ない返事になってしまったのはしゃべることが苦手なだけではない。こころの奥底で妙な振動が早くなることを感じていたからだ。
彼女は雪が似合う色白な肌でしゃべるたびに出る吐息が白くそまる。唇は色白のせいか赤く際立ち艶やかな光を放っていた。
つい見とれていたら。
「大丈夫ですか?」優しく語りかける姿もなお美しい。
「あ、だ、大丈夫です。」
そう行ってリフト乗り場に走っていった。
リフトに乗っている時も滑っている時もあの優しい声が頭の中で鳴り響き、こけそうになることがしばしばあった。
それとともに、もう会えないことに対する悲しさが冷たい外気と一緒に体を包んでいった。
あの日から彼女のことしか考えられなくなった。
授業中、いつもは白いままのノートがいまは色白で艶やかな唇をもつ少女を描き出している。
そして土曜日、いつものゲレンデに向かった。
スノーボードができる喜びよりも期待をふくらませて。
ゲレンデを見渡した。しかしいない。リフトに向かいリフトに乗り込んだ。
上に上に進んでいくリフトよりも高くに気持ちが飛んでいくきがしていた。
上に着いた時、一際目立つ存在が目に留まった。
彼女がいた。
鼓動がはやくなる。目線を向けていると彼女が振り返った。その瞬間手を大きく振ってきた
彼女の元に向かうと
「一緒にすべりませんか?」思いもよらぬ言葉が白い息とともにつたわってくる。
「あれから少しは上達したんですよ!」目を輝かせて言った。
「いいですよ。」自分でも声になっているかわからない。喉でつっかえていそうだった。
その瞬間彼女の顔が明るくなった。
反応から声が出ていたことに気がついた。
「じゃあ、どっちが先に行けるか勝負です!」
言い出すやいなやすぐに彼女の背中がとうのいていく。
その背中を見失わないように急いで向かった。
格段に上達していた。あの止まることができなかった頃とは比べものにならないくらいに。
勝者は彼女だった。あっとゆう間に時はすぎ、彼女と入れる時間もすぎた。
彼女は時間の都合で帰ってしまった。
一人で滑りながら心に誓った。
「また、来週もこよう。」
雪がかぶさるりんごのように、冷えたからだの中でほのかにもえる赤いほのおを感じていた。