プロローグ
不幸な話ばかりですので、(だといって一切面白くないわけではありません)ハッピーエンドを好まれる方、もしくは鬱になりたくない方は控えた方がいいかもしれません。
男は震える手で、腕の中で首をかしげる少女の、ふくよかな白い頬を撫でた。完璧だ、今回は他のよりも格段に美しい。こぼれた唾液がぽたりと、彼女のスミレ色の瞳に落ちる。
「ジャンヌ、出来損ないの姉様達をごらん?」
彼はいささか興奮したような声で、彼女に問いかけた。
彼の視線の先には、折り重なった黒い物体達が無造作に散らばっている。片方しか腕のついていない少女、その上に積まれた美しい金色の髪をもつ少女の唇は、眼から滴り落ちるエメラルドの液体で濡れている。他にも、右足と左足を逆につけられた少女や、大きく凹んでしまった頭を持つ少女が、火のついてない暖炉の前で寒々と横たわっていた。
「・・・・・・醜いだろう?」
どれもこれも僕が失敗してしまったのがいけないのだけれど。
男は染料のこびり付いたエプロンを脱ぎ、それを人形達の山へと放り投げる。毛布の代わりに、ではない。彼女達の山が物置の代わりなのだ。
「こっちはマリーシア。目のところを削りすぎてしまって、僕好みの美しい顔立ちでなくなってしまったのさ。」
「そっちはエルシカ。彼女はお気に入りだったんだけどね、飽きちゃったんだ。」
「ああ、奥のやつは駄作だよ。初期のやつ。あんまり首が回らなくてね、無理やりやったら折れちゃった。」
ぼそぼそと薄暗い地下室で、腕の中の人形にひたすら話しかける彼の姿は、まるで『普通の人間』ではない。無造作に伸びた黒い髪に、灰色の薄汚れた肌、焦点のあってない緑色の眼。
どちらかといえば、その姿は化け物屋敷の蝋人形に近かった。