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序章

 深い闇が支配する大森林、ソコは夜目の効かない人ではなく獣や人外が支配する土地


 しかし、それを知りながら一人そこそこ身なりの良い男が、駆けている。

重りを感じさせず更に極力、動きを阻害しない様必要な箇所を強化した銀のガードとサポーター。

 腰には質の良い80センチ程の木製の鞘に収まった刀。


 荷物は、その腕に抱えた古い木箱だけで何も無い、

 一見貴族にも騎士でも見える出で立ちが、この闇が支配する深林の異物感を際立たせて


 走る…走る…走る…走る………


 荒い呼吸は、いつから走り続けているのかわからない程に乱れ、服のいたる所汚れ破れ切り裂けている。

 何かが這えずった。辛うじて獣道と言える道を出来るだけ出せる速さで走り抜ける、

 所詮、そこは獣が通れる程度の道であって人が通れる様には出来ていない。伸びる木々は男の装備で護られていない箇所を更に傷付け、膝より高い草々は容赦無く男の体力を奪っていく。


 しかしそれだけでは説明出来ないほど男の装備は赤黒く変色し、一歩一歩進む毎にその色を増し苦悶の表情をつくるが一向に止まる気配はない。


 ずっと続くと思わせる大行進、

 しかし何の前触れも無く男は停止した。

 停止と、いうより壁か何かを使った急制動の如き動作で男は止まった。


 そのまま2秒程虚空を睨み。


 瞬間、男は後方に飛び込む。刹那、3つ鈍く乾いた音が鳴り響く。

 見れば三本の黒塗りのナイフが木にほぼ根本まで突き刺さっている。即座に男は、木箱を左脇に抱え刀を抜く、


 虚空を睨みつけながら少しずつ間合いをとった。

 すると、三人の黒装束が闇から音も無く滲み出る様に現れる。


 男がこの森にとって異物なら、

 黒装束の三人は人として異質

 三人とも同じ格好で草木生える。この森で足音はおろか衣擦れすらしない。

 気配なく 感情もなく、まるで幽鬼の如く立つ姿は、そこに存在しているかも疑問に感じられた。


 男と黒装束の間合いは約12・3メートル


 肩を上下させる程の呼吸のなか、男は、決して意識を黒装束から放さない。

 理解しているのだ。

 黒装束にとってこの距離は、すでに彼らの間合いだと……



………………


 4人の間に男の荒い呼吸だけが響く。


 最初に動いたのは、黒装束の一人だった。

 それは、何の前触れもない一挙動。

 極限まで無駄を排した動きの一動作。

 まるで挙手する様な動きで三本の漆黒ナイフを投擲。

 狙いは、 左大腿 鳩尾 首 に正確無比な狙撃。

 それにあわせ残り二人は飛び出した。

 二人の動きもまた異常。

 まるで木々が黒装束を避けるが如く。

 滑る様 落ちる様に、一足跳び。


 それに対し男は、一振りで喉 鳩尾。

 それぞれ飛来する視認すら困難な神速の凶器を、一歩右足を踏み出ながら刀で二本叩き落とした。

 暗闇のなか一瞬の火花が男を照らし

 予想より重い感触に愛刀の心配をするが、今は、確認する余裕は無い。

 刃渡り約60センチの鉈の様なブレードを、左肩から袈裟斬り振りかぶる者と。

 柄の部分が約1メートルの槍を右脇狙い、全体重を乗せた一撃を放つ者が、

それぞれがナイフを弾いた隙に、間合いに入いり、絶妙のコンビネーションで男に同時に仕掛けた。

 片方を避わせば、確実にもう一人が男に必殺の一撃をたたみ込むだろう。殺陣。


 男はそれを手品か 魔法か、はたまた神の加護なのか………そう思わせる神業を男は見せた。

 まず振りかぶるブレードの柄めがけてカウンターの左足蹴りを放つ。

 刹那の狂いない一撃に、ブレードを持つ手骨は砕け折れた。


 だがその隙を逃さず、槍による男の右脇腹めがけた必殺の突き、

 男は、片足を地面に着いてもいない。

 刀で弾かれようとも力不足で串刺しだ。

 確実な勝利に黒装束の一瞬の感情揺れを感じた。が、男は刀を槍の穂先を 添わせる様にいなし、完璧な体捌による旋回で槍を回避する。

 まるで、槍を支点にして廻る独楽の動きで、完全に槍の力を、全く阻害させずに、突き抜きさせ、更に穂先は添わし辿る事により、甲高い金属を弾く様な音ではなく、金属同士を這わせる様な澄んだ音が、この森に鳴響いた。


シャアァン……。


 そして全体重の斬撃に槍の力を加えた。回転の一撃が黒装束の二人を斬り上げた。

 一瞬固い物を斬る感触がしたが、一気に振りぬく。辺りに錆び付いた血生臭さと、何かを噴き出す異音が満たし。

 そして胸と頭から上を無くした二つの体は、大量の鮮血を撒き散らしながら崩れ墜ち、男を染め上げる。


 間髪入れずナイフが飛来する……が、その神速のナイフを難なく弾き最後一人向き合う。

 僅かな刻、構えたまま動かない2人。

 すると黒装束は、体勢を立て直すのか、一歩づつ下がって行く。

 それに対し男は構えたまま不動。


 残り一人になった黒装束は、二つの死体を残し、そのまま出てきた時と同じ様に闇に融ける様に消えた。

 男は、しばらく構えたまま消えた方角を睨んでいたが、大きく息を吐いて 脱力し、愛刀の無事を確認し、刀に付着した血糊を振り払うと鞘に納めた。

 気を抜くと裂けた大腿の痛み、男の表情が歪んだ。

 連中が出てきた時のナイフを避わしきれず、深く切り裂いていて結構な血液か流れ出ていた為だ。

 仕方なく、近くに倒れている黒装束の死体の服を裂き、傷口を上から押さえる程度の、止血をすることで簡単な応急処置を終え、木箱を抱え直し、また走り始める。

 この終わりの見えないこの行進を。



 幕間。



 過去に戦争が有った。

 それまでの人間は、飛躍的な技術の向上 貪欲な思考により、様々な技術、意志 文化を生み出し、数は億を超え、兆に迫り

 神々に届くとすら、おもわれた。

 指一本で星を焼く兵器。

 髪の毛一つで産まれる生命。

 指示一つで全てをこなす機械。

 しかしそれには代償が必要で瞬く間に、自分たちの星の命を、食い潰した……。

 人間は、自分達の星でとれなければ、他の星で取れば良いと決断し、貪欲に…貪欲に手を伸ばし……'ソレ,の怒りに触れた。

 それは、数にして30にも満たない人の形をした、意志を持つ思考体。

いつ、何処で、どの様に派生したかも解らない。

 宇宙から侵略か?

 星の逆襲か?

 または新人類(ニュータント)か?

 彼らについて解る事は少ない、だだ解る事は、明確な敵意を持って攻撃をしてきたのだ。


 当然、人は反撃に出た。しかし当時の科学技術を駆使しても、彼らを傷つける事すら出来なかった。正に戦争と言うより蹂躙。

 100万を超える機械兵は、接近する前に粉々になった。

 星をも砕く遠距離兵器は、当たる前に消失する。

 地中奥深くに潜り、何重ものシェルターに隠れた者は、そのまま押し潰され。

 強固な城塞は、その意味を成さずまま、人一人残さず死滅する。

 更には技術に必要な、施設 資源を片端から徹底に燃やし破壊した。


 正確な記録は、残ってないが一年足らずで、当時居た人類の80%が命を落とし、このまま人間は絶滅するかと思われ。

 事実、技術文明は、確実に滅び滅亡の道を辿り。

 人類の存続は困難な、ところまで陥った。


 が、戦争は終わった。


 ある日を堺に'ソレ,の出現は無くなり虐殺という名の戦争は終焉を迎えた。

 しかし戦争で滅びなかっただけで、資源は消費し、技術の全てを失い、残った人類は現状に長い時間をかけて更に追い込まれていった。

 人口は以前の10%近くまで落ち込み、種としての存続は不可能に思われた。

 だが人類は、しぶとく更に幸運だった。

 'ソレ,により被害を受けた箇所には、新しく木々はが生え、新たな生命 法則、未知の鉱石が発生し、それを活用する事により限定ながらも星は息を吹き返していき。技術は失われたが無くなった訳ではなかった。

 過去の遺産を使い数を減らした人類は、過去の栄光を胸に再び立ち上がった。

そして誰が広めたか解らないがこの戦争の事を'落日,と呼ばれる様になった。



それがもう何百年も前の話だ








 若木ですら直径1メートルを超える大森林

 葉により日の光が全く届かなくなるこの森を黒天の森と呼び

 日の届かないこの森は、闇を好む生物に好かれ凶悪な獣が数多く存在し人間の侵入を拒んでいた。その奥深くに、頂点が計れない程の高さをもち、更にその幅が1キロメートルを軽く超え年輪を計る事すら困難で、そして荘厳な雰囲気を醸し出す巨木が1本。


 それはこの大森林にとっても異様なまでの成長を遂げ、まだ成長兆しを見せていたが、周りの木々の成長を阻害している様子はなく、すぐ近くには、直径2メートル位の木々が生え、どれも立派に成長し、この巨木に寄り添う様に乱立している。


 そしてこの巨木を利用しながら人間を寄せ付けない黒天の森で、細々と暮らす集落がある。

 それは枝の上に家が建ち、枝と枝の間に道があり、更には枝を利用した階段や広場まで出来ており、さながら森の民といった感じか……

イヤ、実際森の民か。


 ただ不自然な事が一つ。

 そう一番下にある家でさえ地上から20メートル以上の高さに在るのに対して、そこまでの登る為の階段や器具が全く無かった。

 そう彼らには、人とは違う器官を持ち、それを使い狩猟を営んで生活していた。



「そっちに逃げたぞ。急げ」

 暗い森の中で2メートルを越す大型犬の様な狼が、一目さに駆け抜ける。

 静寂の支配する森に草木をかき分け、必死に自分の出せる最高速度を維持していた

 多分、平地なら時速80キロは軽く出していただろう速度で、木々の間を縫うように駆ける。

 しかしここは森。そんな事をすれば強靭な毛皮に護られいるとはいえ、その速度のまま木に突っ込んだり、木の根に足を引っ掛けて折ることすら考えられる。

 野生の生物がそんな事になったら終わりだ。多分、彼も分かっている。だが今この速度を維持しないと自分の生命が終わる事も理解していた。

 そう、彼の背中には何本もの矢が容赦なく生えて少量とはいえ、血を流している。



「まだか、先回りして頭を狙え」

「あいつの準備が終わったから、泉に誘導してくれ。」

「分かった。丁度そっちに向かっているから逃さない様に誘導する!」



 彼の頭上…枝の上から聞こえる怒声と気配の数々、しかしまだ彼は一人も相手を確認していない。

 体力は、固い毛皮と筋肉に護られて致命傷は受けていない為、まだ余裕があるが、見えない相手というのは、精神的負荷が大きくて参ってしまう。

 しかし、奴らが枝の上に居るなら、枝の無い所に行ってしまえばいい。

 そう決断して早数分。

 木々が急に途切れ、大きな湖へとたどり着いた。

 この場所はこの森唯一の水源で、陽の光がまともに届く場所。

 湧き出る水を中心に約200メートル、木々は、生えず更に八方に伸びる川は、この森全てに行き渡る様に出来、この森の心臓部ともいえる場所。



 彼の背には先程と同じ数の矢がそのまま刺さっていたが、奴らが枝の上から狙撃している以上、降りてきて姿を表すしかない。

 そして姿を表したら、持ち前の速度を生かし、この牙と爪で引き裂いてやろうと決めていた。

 が、湖にたどり着くなり彼はそれをみつけた。

 水汲みか何かをする。ヒトガタの生物を。


「■■■■■■□□□□□――――---」

 大地が咆哮により揺れ木々が振動し鳥が数羽飛び立つ。

 古来より生物は、音や振動に本能として恐怖を抱く、それに意思を込めれば込める程、恐怖は大きくなり、筋肉と思考の萎縮を呼び覚まし行動力を無くさせる。


 今までずっと見えない相手に追われた苛立ちをぶつける様な大咆哮の後、一目散にそれ目掛け駆け出した。

 連中と関係が有ろうと無かろうと関係無い、距離として、約30メートル走って2秒、切り裂くのに1秒足らずに、終わらす。

 ヒトガタは驚愕の為か一歩も動く気配はない、好都合一気に噛み殺す。

 先程とは違う暴虐の気配を纏って一匹の獣は走る。今だにピクリとも動かない獲物。

 間合いに踏み込み。飛び掛かり。そのまま馬乗りし喰い殺す。

 鮮明にそのイメージを脳裏に抱き、1トンに迫る巨体が勢いそのままに、跳ぶ……。


 しかし、そこでヒトガタを見失った。

 首に可笑しな感覚を覚え、長い妙な浮遊感の後あわせて身体の感覚を無くした。翔びすぎたか?と思い着地後に改めて探そうと思うが、体の自由が効かないまま、地面に不時着すると同時に完全に意識を失った。





 静かになった湖で一人佇む可憐な少女、彼女は自分がした結果をぼんやり眺めながら。

 完全に脱力した腕は垂れ下がり、手には引っ掛かる様に小さなナイフが握られ。その瞳は、何かを憂いているのか全ての事に無関心なのか……

 そんな彼女の周りを大量の血が撒き散らされていた。


 そんな惨状の彼女に向けて、いくつかの羽音と共に4~5人の男の声が近づいてくる。

「カナリア、ヤったな相変わらずスゲー腕だな!」

「あんな分厚いもんを一刀両断とか女腕力じゃね~」

 カナリアと呼ばれた。少女に何人もの男達が囲み、たった今起きた出来事を褒め称えている。


 そしてその脇彼女の何倍も有りそうな、巨体をもつ犬の胴体が転がっており首から上は近くの草むらに落ちていた。


 大狂犬(クレイジードック)

'墜天,以降発生した細菌により異常成長した犬 凶暴化しており大変危険

首の太さダケでも成人男性の胴廻りより太く、強固な筋肉と毛皮と護られた肉体は、基本ただの刃通さない。

事実、身体に刺さた矢は皮膚を破った程度で止まっていた。故に矢じりに毒や薬を塗り弱った所を捕獲するのが基本



「…………」


 カナリアは、男達に会釈だけして背を向け森の奥へと進んで行った。

残された男達は、苦笑と肩をすくめ、それから大狂犬の体を縛りつけ、運び易くし、彼らは、羽を展開させた(・・・・・・・)。すると男達の背から約2メートル前後の白い鳥の羽の様なものが1対~2対、騒がしい音をたてて飛行を始める。



「じゃあ、カナリア。俺達は、先に上に行ってるから」

「分かりました。お願いします。」

 カナリアと男達が巨木にたどり着くと、階段のない巨木を男達は難なく飛んで行き、姿が見えなくなりカナリアは、1人残された。

 彼女も飛んで行くのだろうか?

 しかし彼女の背には、羽が生えておらず本当に可憐なだけの少女だ。


 すると(おもむろ)にナイフを二本取り出し巨木に突き刺しながら、そのまま慣れた手つきでよじ登っていき、あっという間一番低い家にたどり着いてしまう。

 そしてノックも無しに家の中へと消えていった。



 彼らは、空翼人(フェザード)と呼ばれる亜人種、人間と違い背に後翼と呼ばれる発達した器官を持ち、自在に空を駆ける事を可能とした。高い知能と能力を持つ、しかし絶対数が少なく男女共に美形で人間の迫害対象になりえる為、種族で隠れ住む。

基本弓を好み、空という安全地帯からの射撃が基本戦術。



 部屋に入り手に持つナイフの手入れをし、片付ける。そして上の解体場へ、向かう前に河で服や体に付着した大量の血液を落としたかったが、大狂犬の解体作業でまた汚れるから後でいいや等、ぼんやり考えながら家をでる。上に向おう。


 血塗れの自分が通れば騒ぎになるが、いつもの事、気にしない。

「羽なしが今日も無様に穢れて来たゼ~」

「マジ、マジ」

「寄るな、寄るな、穢れが移るし飛べなくナルゾ~」

 広場の近くを通る時に遊んでいる子供達に後ろ指のさされ。

 そっと溜め息を溢す。子供は悪気は、有っても悪意が無いだけマシだ。大人の悪意に比べれば……

「「「羽なし♪カナリア♪今日も真っ赤に汚い女♪」」」

 歌い出した。

…………

 慣れたとはいえちょっと傷付く……

 大人の嘲笑 子供は悪口等を受け流し上を目指す。


 共同解体作業場にたどり着くと先程の大狂犬の胴体が逆さ吊りにされ、ここの主とも言える1人の空翼人が血抜きをしている途中だった。

 彼の名前は、ディール私にとってパートナーともいえる相手だ。


「お、来た、来た、いつもみたいに頼むぜー」

「今日は、どうゆう風に解体(ばら)せば良いの?」

「内臓はどうせ駄目だろうから肉を部位毎ブロックに刻んで、骨は矢に使うから出来るだけ傷つけないでくれ」

「分かったわ」

 それだけ伝えるどディールは、他の保存用の食肉でも確認か違う作業でも遣り()に行くのか部屋から出て行った。

 血抜きは完全では無かったが、構わず作業台の上にその巨体を下ろす。

 大狂犬は死後の硬直が早く、残った細菌が直ぐに肉を腐らすので早めに、解体 殺菌しなければ使い道が無くなってしまう。

 脇に刃入れまず硬い毛皮を表皮ごと剥がしていき全部削ぎ。

 次に関節部を裂き、腱を切り筋肉を落とす。モノや順序が違えどいつも()っている事だ。迷いなく解体する。

「相変わらずスゲー早えな」

「こんなの普通よ」

 集中していたせいかもう30分程過ぎていていつの間になディールが側で今の解体を、そう評価していた。

「イヤイヤ、俺がやったら3時間は余裕でかかるし。」

「貴方が遅いだけよ」

「俺は普通だ! イヤあえて言おう。まだ、早い方だ。アレのほぐす前の筋肉を、そんな風に切れるのはお前だけだ!」


 大狂犬の筋肉は、硬い為、まず高温でほぐしてから捌くか、専用ののこぎりで挽き切るのが基本、というか常識らしい。確かに硬いが切れない程では無いと思うのだけど、実際ディールが似た感じに解体しようとしたら、何本か包丁を駄目にしたらしい。

「それより、内臓の方を捨てて来るから骨の方は、工作所に持ってくれる? もう生臭くて堪らないから、早く河で流して着替えたいの。」

「分かったけど1人で大丈夫か? 骨を届けるまで待ってたら手伝ってやるけど」


 多分'羽折れ,でも嫌っている。'羽なし,にこんなに気を使ってくれる仲間は、きっと彼だけだろう。

 少し心が温かくなる。

 それとは別に、ここは軽口で返す

「水浴びを手伝うなんて、そんなに私の裸が見たいの? 変態ね」

「違うわい!それを捨てるのを手伝うつてんだろ!」

 ディールは頬を膨らませて怒る

 相手は少し歳上の筈だが、こうゆう仕草がかわいいのが困る。

 言葉はぶっきらぼうなのに親愛に満ちた態度、きっと彼がいなければ私は、もう少し歪んでいたかも知れない。

「ありがっと、でも大丈夫、河はすぐ近くに流れてるし何か有っても私よりも強い獣なんて居ないし、ディール登るの大変でしょ」

「まぁ確かに、ここで一番刃物の扱い上手い。どころかこの間灰鉄熊(グレイベア)1人で狩って来て、頭 持って来たのはビックリしたけどな!」


 灰鉄熊(グレイベア)この森での最強種の熊、全長4~6メートル程の巨体で灰色で鉄の硬度を持つ毛皮が一番の特徴、分厚く硬く柔軟な筋肉を持ち、この森をかなりの速度で移動する。

鍋にすると美味しいけど、1人で出会ったら狩るどころか一目散に逃げるべき相手だ。


 ある日河で水浴び中に視線を感じ、覗かれたかと思って襲いかかたら、灰鉄熊だったのにビックリして、そのまま斬殺したのが経緯だがこれは内緒だ。


「だから1人でも大丈夫だよ」

 まだ何か言いたそうなディールを制し

「それより、骨と肉の処理お願いね。」

 いつもなら捌いたあとの精肉まで手伝うのだが今の、自分の格好があまりにもあんまりなので、精肉は全部丸投げしようと、言葉を投げかけた。

 それでディールは、諦めたのか溜め息一つ吐いて。

「わかったけど、気を付けてな」

 たった今解体(バラ)した大狂犬の内臓を袋に詰め込み、ディールに軽く手を振って共同解体作業場を背に下へ向かう

「あら、穢れた肉娘よ」

「疫病神の羽なし、なんだから、早く居なくなってくれればいいのに。」

「ホント、役に立たない癖にあんな汚れた格好で堂々と道の真ん中歩かないで欲しいわ。」

 小陰で三人の女の空翼人の陰口が聞こえるが、いつもの事、あまり気にすると身が持たないので、気にせずひたすら下を目指す。


 正直、この生臭さ限界です。


 一番下の自分の家に着くなり即座に、着替えの入ったバックを掴み。

巨木を下りる。正直登るより、下りる方が楽で良い。

枝を下りて、木々を蹴らながらジグザグに下りる。

それだけで済む。


 降りた後、巨木の近く(ここ)内臓(これ)を捨てても良いのだが、(だいたい夜に獣が持っててくれる。)とはいえ自分の寝床の近くに、内臓(こんなもの)が有るのも、落ち着かないから河に向かう途中に捨てる事にする。


 河に着き、まず周りに気配を配り、特に危険な生物は居ない事を確認する。

 居たのは、精々、大型水棲草食獣の'ムー,が三体だけだ。ムーは、全長4メートル程の草食動物、水中に有る水草を主食にし体の1/4が口で、強靭な顎や頑強な歯で水草を磨り潰して食べる様は結構な迫力だ。時に大狂犬の様な中型の肉食獣を返り討ちにする事も有るが、基本、温厚な性格で、こちらから手を出さなければ、襲いかかって来ることは、まず無い。

食用としては、大変美味いのだが、私、個人としては愛嬌ある彼らをあまり殺害したくない。


 護身用のナイフを河辺に置き、血塗れの服に手をかける。脱いだ服は流れない様に細工し、河の水に浸けて置いて、生まれたままの姿で、近くで水草を食べる'ムー,を軽く撫でると、嬉しそうな鳴き声をし、満足した後、水を浴び、ある程度汚れを落としてから浸かる。


 なんというか、言葉では表せない感動? 快感?を堪能する。

 一時間位たっただろうか、まだもう少し浸かって居たいと思う中、急に森が騒がしくなって来た気がし、背筋に嫌な寒気が走る。

 近くに居るムーは、変わった様子は無くずっと水草をかじっているが、私はこの感覚の後、ロクな事にならないのは経験上わかっている。

 静かに河辺に置いてあるナイフの元に移動し、まずは下着を着る。

その時、荒々しい足音が聞こえ服を着る暇なく。


 そいつが、現れた。




「男の子が何でここに!?」



 出てくるなりそんな事を抜かしやがった。

よし殺す!

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