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男装令嬢の専属従者、リーヴァイの苦悩。  作者: 日夏


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第1話 クリス様の告白ー転生ー

「男装令嬢クリスティーナのお見合い結婚 」の従者目線のお話です。

『レヴ、お前にだけは、話しておきたいんだ。私は───』

いつになく真剣な面持ちで、私の主、クリス様が告げてこられた内容に、私は心底驚いたものです。



「転生、でございますか?」

「そ」


クリス様が言うことには、毒を盛られて生死をさまよわれ───目が覚めると別の人格がクリス様の中に宿られた、というのです。

その方は、別の世界で、しかも男性。

21歳の学生であり、こちらでいう剣術に似た、フェンシングというスポーツに日々鍛錬をしていたようです。


確かに、目覚めてから3日後の本日、『もうへいきだ』と周りが止めるのを押し切り、剣の稽古を再開れたクリス様でしたが、その腕前は、以前と比べ劣るどころか鋭さが増していたように思いました。

もともとクリス様の剣の腕も素晴らしいものでしたが、更に磨きがかかったようにも見受けられたのです。



クリス様───本名は、クリスティーナ=メイシー様。

メイシー伯爵家三女の、れっきとしたお嬢様であられます。


ですが、奥様の言いつけで、クリス様はメイシー伯爵家の三女ではなく、ご長男として育てられました。

生まれてから今まで、そう、15歳になる今まで。

奥様が亡くなるまで、ずっと、15年間というもの、長い長い間です。


服装も、調度品も、語学や経営学や政治等の勉学、さらに剣術や乗馬の、何もかも。

伯爵家のご長男として、それらが奥様からクリス様に与えられてきました。

上のお二人のお嬢様は、ドレスや宝石が与えられていらっしゃいましたが、クリス様にそれらはありません。


この家で、クリスティーナ様、お嬢様、などと呼ぶ者はおりません。

ご家族からは、クリス、使用人からは、クリス様、と呼ばれています。


『クリス、あなたはメイシー伯爵家の長男です』が、奥様の口癖であられました。

クリス様は奥様に応えるべく、非常に優秀なご長男としてお育ちになり、その姿に奥様も満足しておいででした。


傍から見れば、歪以外の何ものでもありません。


ただ、クリス様は旦那様の若き頃にとても良く似ていらっしゃいましたし、与えられたことに対し、真摯に取り組み、成果を上げていました。

本当にクリス様がメイシー伯爵家のご長男であれば、誰もが手放しでお喜びになったことでしょう。


旦那様は、奥様の心の病に気がついていながらも、時に任せておいででした。

『いつか、娘と認めざるを得ない時が来る』と。

クリス様がいくらご立派に成長されても、女性は女性です。

身体のつくりは変わりようがありません。

旦那様がお出しした決断は、『見守るように』とのことでした。


旦那様はお優しい方です。

まだ成人前の私に対しても『くれぐれも頼むぞ』と頭を下げてこられるほどに。


ただ、クリス様に対しては。

私はもう少し、クリス様ご本人のお心に寄り添っていただきたい、そう思っていました。

あのような事件が起こる前に。



旦那様の言い分は、正しかった。

『いつか、娘と認めざるを得ない時が来る』そのいつかが、クリス様15歳の誕生日にこられました。

そしてそれを認められた奥様がお取りになった行動は、クリス様に毒を盛り、自らも毒を煽る、というものでした。

誰もが予想をしなかった出来事です。


奥様付きの侍女も、私も、もう少し警戒していれば違ったかもしれません。

ですが、『クリスと二人きりで話をさせてちょうだい』と口にしてきた奥様の表情は、とても穏やかな優しいものだったのです。

ですから、油断してしまった。

私たちが訪れた時には、既に奥様の息は途絶えておりました。



クリス様は一命をとりとめましたが、医師の見立てでは、このまま眠りにつくか、目覚めるかは、天に任せる他はない、そのようなお話で。

旦那様はご自身を責めにせめて後悔なさっておいででしたから、使用人の誰もが旦那様をお責めになることなどございませんでした。


毒を盛られてから、10日経った昼下がり。

遡ること、3日前のことです。

ベッドの上で上半身を起こし、ぽかんとしているクリス様を目にした時は、私だけではなく家中が泣いて喜びに溢れました。

旦那様がクリス様を抱き寄せ、何度も謝罪をしていらっしゃいましたが、クリス様は、目が覚めれてすぐの状況が良くわかられていなかったのか少し戸惑われていらっしゃいました。


そして、トイレットルームに足を運ばれて───声を上げて倒れられて。

次に目覚めた時に、ぼそりと口にされたのは非常に衝撃的な言葉でした。

『女だったのか……』と。


旦那様には届いていらっしゃらなかったと思いますが、私の耳には届いておりました。

その言葉の後は、そういった戸惑いもなく、医師の質問に対してもきちんと答えられていらっしゃいました。


ですが、少し前と違うところもみられました。

私や旦那様に対して、壁がない、と言いますか、言い方や表情にも柔らかさがあるように見受けられたのです。

以前であれば、『すまない』とおっしゃることが多い場面であっても、『ありがとう』『たすかるよ』と口されておいででした。


奥様は、幼少の頃からクリス様が少しでも女の子らしさが出るともの凄い剣幕でいらっしゃいましたから、クリス様は常に気を張っていらしたのだと。

本来であれば、このように素直な方なのだ、そう思っていましたが。

違う人格が混ざったと言われ、それが学生であろうとも成人後の男性である、と言われたら、少し……いいえ、だいぶ納得がいきました。



◇◆◇  ◇◆◇  ◇◆◇  ◇◆◇



クリス様のお話───正しくは、クリス様と意識が混ざった男性の話によれば、こういった事象はとても珍しいものの、『転生』といわれ、彼の生きていた世界では全く前例がないわけではない話なのだ、と仰いました。

ですが、クリス様が全く消えたわけではなく、きちんと今までの記憶も残っておいでのようです。

そのあたりは、人によりけりのようですが、とにかく今のクリス様には、クリス様でない別の人格が合わさり、その性格部分においては彼を多く引き継いでいるというのです。

以前のクリス様には少し神経質な部分がおありでしたが、今のクリス様にはそれが見られないあたり、彼の言うことは正しいのでしょう。


そして、さらに驚くことには、転生のその記憶によりますと、『ゲーム』と呼ばれる物語に、同じ登場人物が存在すると言うのです。


「ゲームって言うのはさ、なんて言ったらいいか……小説の主人公が恋人にしたいお相手によって物語が変わるような感じで、それを読み手が自由に選べるんだ」

「相手を好きに選べるのですか?」

「そ。それで、途中途中にイベントが発生して、その選択によっても結末も変わる……っていうような感じかな」

「………」


少しわかり難く私が黙ると、クリス様が慌てて口を開かれます。


「流行っててさ、そのゲーム。凄いはまってたわけとかじゃなくて……気になった子がそのゲームが好きでさ、すすめられてちょっと気晴らしでやってたっていうか!」

「そこが引っ掛かったわけでは」


恋愛小説は女性が好むものですが、そこに引っ掛かったわけではありません。

物語の話の流れや最後までもが複数あることに理解が難しかっただけです。


「それで、えーと、フィオリーナ姉上が主人公でさ───」

「は?」


「や、だからさ、そのゲームの中ではフィオリーナ姉上が主人公なんだよ。で、王太子、王弟殿下、宰相の息子、騎士団長の息子、とそれぞれ相手がいて」

「……現在辺境伯のご夫人ですが、確かに騎士団長のご子息と婚約をされた後、破棄となられてますね」

「まーうん、でもさ、登場人物が一緒ではあるんだけれど、その真相っていえばいいのかな?そこはやっぱり現実と違うことも多くて」


クリス様のお話によると、ゲームでバッドエンド、つまるところフィオリーナ様が婚約破棄となられてしまうと幸せになれない道を辿るらしいのですが、

実際は、好きなお相手と結ばれて、現在はお幸せに暮らしていらっしゃいます。


「それにさ、クリスはモブ中のモブ。ゲームん中じゃしょっぱなで死んでるんだよな」

「はい?!」

「や、だから、もう、全然変わっちゃってるって言うか、違うことの方が多いし。レヴはそのゲームには出てきてもいないし。

 ってなると、実際の出来事の記憶は、元々のクリスが持っていた記憶の方が正しい上に鮮明なんだよ。性格は転生よりになっちゃったけど」

「なるほど。では、ゲームのその知識があったとしても、実際とは違うことも多く、未来については分からない、ということですね」


未来がわかるのであれば、良くも悪くも今後の行動に慎重にならざるをえないと思いましたが、

ゲームの中では、そもそもクリス様自身が生きていらっしゃらないとのこと。

ならば、クリス様の思うように動かれて、傍でお支えすれば何にも問題ないでしょう。



「そうそう、そんな感じ───ってわけで、多分、毒を盛られる前のクリスより色々適当になりそうだ。外ではちゃんとするけどさ」

「わかりました。後で辻褄を合わせましょう。その、つかぬことを伺いますが」

「ん?」


以前のクリス様は、男性として育てられていたとはいえ、心も身体も女性でした。

ですが、中身が男性の部分を多く引きずっていらっしゃる今、恋愛対象はどちらなのでしょうか?


「以前のクリス様は恋愛対象は男性でしたが、それは今もお変わりありませんか?」

「ん?ああ、うん……変わらない、な。うん、変わらない。女の子はそりゃ可愛いなとは思うかもしれないけど、欲情はしない。安心しろ」

「そうですか」


ちょっと考えたそぶりを見せたクリス様でいらっしゃいましたが、恋愛対象は男性の様です。

つい、ほっとしてしまいました。

いえ、もし、万が一、女性が対象となってしまわれたら、それはそれで受け入れる覚悟ではありましたが。



「んー……しっかし、どうするかな。今更淑女教育を始めるとか無理そうだ」

「語学や経営学は、元々好まれていましたが」

「あー、うん。今も好きだな。因みに剣術も好きだったぞ」

「クリス様のお好みは、以前と変わりありませんか?」

「多分、ない気がする。嫌々やっていたわけじゃないんだよ、元々。ただ、女性になってしまうのは……身体の問題はさ、どうしようもないからそこに悩んでいたな」

「やはりそうでしたか」


初潮を迎えられたクリス様は、全くの少年、というよりは、少女らしさも少し持ち合わせておいでです。

おそらく『そろそろ限界があったのは』と、クリス様ご自身も感じていたのでしょう。


ドレスを着れば、それはそれは美しい少女にあらせることと思います。

旦那様から調度品や服装の総入れ替えを勧められても、ぎょっとされてすぐさま断っておいででしたが。



「淑女教育は……全くしないというわけには」

「だよな」

「語学や経済学、剣術についても今まで通りをお望みだということを旦那様にお伝えいたします。その上で、最低限必要なものについては追加で学ぶ、と」

「たすかるよ、レヴ」

「そうすると……そうですね、今まで隠しておいででしたが、本来の自分はこうだ、ということを告げてお過ごしになっては?

今までは奥様の目があったので、私との時だけ地を出していた…とすれば、今のクリス様で皆納得されるかと」

「なるほど、それはいいな!さっすが頼りになるわ、これからもよろしくな」


そういって満面の笑みを浮かべるクリス様は、私が見る初めての表情でした。

これからのご成長を、ますます楽しみに思ったものです。

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