サレン・シュヴァリエ&リナ・カヴァリエ④
ある日の夕方、パン屋に疲れた顔をして老騎士のレンドが来た。
おそらく仕事帰りだろう。
私達に気づき、
「……久しぶりだな。パン屋で働いていたのか。」
と驚いていた。
リナがここで働いていることを知らなかったようで、偶然このパン屋に寄ったようだった。
「お久しぶりですレンドさん」
「にゃあ」
久しぶりだな。レンド。
レンドは私達を見て悲しそうな表情をしていた。
「騎士団は最近どうですか?」
とリナはパンを袋に詰めながら聞く。
「……そうだな。」
と言いづらそうにした後
「今、少し大変だな。新しく隊長になったのがイクスなんだよ。」
イクスか。
私が猫になって叩こうとしてきたやつだ。
「え!?副隊長のレンドさんが隊長になるんじゃないんですか!?」
「それがな、王にお前たちの姿が変わった時に支援をするように言ったんだが、それが気に入らなかったらしくてな。王は自分には向かわないものを隊長にしたいらしい」
「そんな!」
「それで、イクスが隊長になったことで騎士団はガタガタだ。作戦もあまりうまくいってない。王はどうするつもりなのか。」
私は数日前の出来事を思い出す。
私が隊長だったときはあんな行動許さなかった。
イクスが隊長になったからだと考えると納得がいった。
「またよらせてもらうよ」
そう言ってレンドさんは帰っていった。
「今後騎士団がどうなるか不安ですね……」
確かに不安だ。
毎日働いていたある日、店の前を何人かの騎士たちが通った。
街の見回りだろう。
堂々とした立ち振る舞いで歩く
作戦が上手くいってないからかイライラしているようだった。
私はそれを見ながら、騎士だった頃見回りしていた自分を思い出す。
そうしていると悲しく、もう届かないもののように感じた。
リナの方を見る。
彼女も騎士たちを見ていた。
無表情で見ていた。
ただ、目が悲しさを物語っていた。
そうしていると彼らは気づき、店に入ってきた。
「騎士だったのにこんなところで働いて恥ずかしくねえのか?」
にやにやしながらそう聞いてくる。
イクスだった。
憂さ晴らしに来たのだろう。
「あなたも仕事中のはずですよね。隊長がこんなところで油打ってていいんですか?ちゃんと見回りしたらどうですか?」
と冷静にリナは返した。
イクスはムッとしながら
「おい、誰に口聞いてんだ?まだ対等のつもりか?お前はただのパン屋の子供だろうが」
と威圧してきた。
「ふしゃー!」
と私はイクスを威圧する。
そうするとイクスは私に気づき、
「全然気づかなかったよ。あんたもいたのか。でも、お前に何ができんだよ!」
「隊長!」
そう言って私を殴ろうとしてきたその時だった。
「お客じゃないなら出て行ってくれるか」
そう言って店長がそのこぶしを止めた。
「パン屋風情が……」
と言いかけたが、店長の圧に負けて、
「チッ!」
と帰っていった。
「大丈夫か?」
と店長は心配してくれた。
「はい。ありがとうございます」
とリナは少し微笑んで言う。
「それにしても、なんだったんだあいつら。いきなり入ってきて猫に暴力をふるおうとするなんて。碌な奴らじゃねえな。騎士のくせして」
そう店長は言いながらなでていた。
店長は話は聞こえていなかったらしい。
「あ、そうだ。気分転換にパン食わねえか?新作のパンがあってな。」
と店の奥からパンを持ってきてくれる。
「良かったら試食してくれねえか?リナとえっと……」
と私の方を見ていた。
「えっと、隊長です!」
とリナは元気よく言った。
それ名前でいいのか?と少し思ったが、店長は
「そうか!隊長か!不思議な名前だけど強そうでいいじゃねえか!」
と豪快に笑いながら私とリナにパンをくれた。
そのパンはすごくおいしかった。
「すごくおいしいですよ!これ!」
「にゃあ!」
「そうかそれは良かった!店に出してもよさそうだな!」
「はい!すごく売れると思います!」
と盛り上がった。
さっきの暗い気持ちはどこへやらと消えていた。
そんな風に楽しく会話しながらも、時間は過ぎていき、閉店時間になって、
「お疲れさん!これもってけ!」
とパンをもらった。
「いいんですか!ありがとうございます!」
「ああ明日もよろしくな!」
そう言って、別れた。
昼間嫌なことがあったから元気を出させるためにもパンをくれたんだろう。
本当に優しい人だ。あの人は。
そう思った。
帰りながらリナは
「家で一緒に食べましょうね!」
そう笑顔で言ってきた。
そうして家に帰り一緒にパンを食べて眠りについた。
そんな風に過ごしていると数日後に新聞で、新しい隊長にレンドが就任したことを知る。
さすがに作戦の成功率が下がったことが痛手となり、経験豊富であるレンドを隊長にするしかなかったのだろう。
それからパン屋にレンドがたまに来るが、表情を見るに疲れが減っているようだった。
そして隊長じゃなくなったイクスは騎士団を辞めてどこかに行ったらしい。




