Ep.98 狂夜の異常な愛情 または私はいかにして彼女に壁ドンされるに至ったのか
◇ちびモン工場———アステリア
「ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ……エンチャント付きのゴミ、ゴミ、ゴミ……」
えーっと……確かゴールドエンチャントイベントがあと5分で始まるんだったっけ……
あ、そういえばゴミの合成まだやってない……ギリギリ間に合うか?
「ぴーっ!」
口笛を鳴らし、ツルハシで鉱脈を掘っている亀型モンスター5体を回収する。
えっと……どこだったっけな、前合成機移動させちゃったから……あ、思い出した。8階だ。
私はエレベーターに乗り込み、『8』と書かれたボタンを連打する。カチカチカチカチ!!!と煩い音が響き渡るが、ゲームなので壊れることもない。
扉が開き、無数のモンスターがデスクに向き直ってパソコンをカタカタさせている光景が目に入る。
そして、その奥……8階の端に存在する合成機へと向かった。
「フルエンチャユニークかもんかも〜ん……チッ!ゴミが……」
間抜け面の猿が合成機から出現する。私は即座にそれをメニューから売却した。
「あっやばイベント始まっちゃう……」
急いでエレベーターに入り、そして一階へと直行。よかった、まだ始まってない……
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『夢島アカリからのプレゼント!』
『“ゴールド”トレジャー・ボックス[アカリ]3つが空きスペースに配置されます。よろしいですか?』
『YES/NO』
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「YES!YES!YES!」
脳内でボタンをぽちりと押す。一階の空きスペース……先ほど処分したゴミ5体がいた場所に、金色に輝く宝箱が3つ現れた。
もう時間かけてたらすぐ埋まっちゃうからさっさと開けようね。
猿はやめろ。
「いざ開封」
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『超レア!』
『獲得:“ゴールド”タルタル・トータス[アカリ]』
『超レア!』
『獲得:“ゴールド”タルタル・トータス[アカリ・ファイア]』
『超レア!』
『獲得:“ゴールド”タルタル・トータス[アカリ・スーパー]』
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現れたのは金ピカの亀3匹。
猿じゃないけどそれより酷い……ま、まぁまだイベント始まってすぐだし……あと30分あるし……
「……ん? あ、金ないじゃん。とりま回収しなきゃ……」
亀たちをよそに、私は他のモンスターたちの働く場所へと歩みを進めた。
カンカンと小気味いい音が響き渡るその場所では、やたらギラギラした犬やらドラゴンやら騎士団(?)やらがツルハシを振って採掘を行っていた。
「はい回収しますね〜」
ちゃりんちゃりんちゃりん!と金の音。
所持金は21億ゴル(このゲーム限定)から2070兆にまで一瞬で増大する。これでとりまイベント分は確保かな。
再び移動、工場内のベルトコンベアを確認……
「金のゴミ、金のゴミ、金のゴミ、金のゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、金のゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ……」
一番奥まで確認オーケー、草原見に行こう。
私は工場の端にあるゲートを潜り、工場の外……頭がおかしくなりそうなテクスチャで構成された平原へと赴いた。
金のゴミがいっぱい、まぁ流石に良いのはなさげ……お?
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『超超レア!』
『観察:“ゴールド”ドゥララーラ・ドラッグーナム[もふもふ・スペクトル・スーパー・セイントホーン]』
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「……!?!?!?」
なんかヤバいのいる……!? めっちゃ光ってるぞこいつ!?
なんだあのもふもふ犬ドラゴン……!? まさかタグに『もふもふ』って付けたいが為に出てきたんじゃないだろうな……!?
マジでいいぞこの子……
アカリの宝箱特有の『夢島アカリの顔が常に周囲に浮遊している』とかいうクソ特性が無いのもいい。自然発生最高かよ!
私は懐から青と白で半分づつ色が別れている“球”を取り出した。すぐに捕まえてちびモンエキスをいっぱい飲ませてあげるからな……!
『きゅぅ?』
「ほいっ!」
綺麗な軌道で投擲されたボールがもふもふドラゴン犬にヒット、そのままそれに吸い込まれていく。
……まぁ別にこのゲームは捕獲確率とかそういうの無いから確定で取れるんだけどね。
◇30分後
「結構今回稼げたなぁ……」
序盤こそゴミのオンパレードだったけど、後半は結構いい感じのちびモンたちが私の元へとやってきてくれた。まぁ成果としてはかなり良さげだね。
「ねぇ、ユキくん」
「んー? どしたの、狂夜」
イベントの途中あたりでここにやってきた狂夜が私に話しかける。さっきまでつまらなそうにしてたけど、急にどうしたの……?
「ちょっとログアウトしてみてよ」
「えー……んー……まぁ、最近ずっと籠りっぱなしだったし良いけど……」
「そんなにゲームやってたら脳が腐っちゃうよ。まぁキミはいつもやってるけど……このゲームは本当にダメな気配がするからね」
まぁ一理ある。
久々に外に出てみるのも悪くはない。
「そうだ、それなら狂夜も一緒にどこか行く? ひとまずご飯でも食べに行こうかなって思ってるんだけど……」
「え? あー……うん、一緒に食べようか」
「おっけー、それじゃ」
私はメニューを開き、電子世界からログアウトした。
◇???
「ん……あれ、目が見えない……」
な、なんか前もこんなことあった気がする……!
「て、手も動かない」
なんなら足も動かない……というか、なんかジャラジャラ聞こえるんだけど……
これ拘束されてるよね???
「ふーっ……」
「ひゃ!?」
女の子みたいな声出たわ。いやまぁネット上では女で通してるし、そもそも現実の見た目も女の子に近いけどさ……
「おはよう、ユキくん」
「あの、狂夜? ちょっとこの手錠と足枷外してくれない? あと目隠しも」
「うんうん、分かったよ」
そう言って彼女は目隠しを外してくれた。やけにあっさり言うこと聞いてくれたな……
「キミがこういう人だって、知ってはいたんだけどね……それでも我慢できないことって、あると思わないかい?」
「……そ、そうだね」
「うんうん」
ドン!!と私の顔の横に手が叩きつけられる。心なしか壁から悲鳴が聞こえるような……いや、気のせいだわ。
「ひぇ……」
「少女漫画のヒロインみたいな声を出したって逃さないよ」
私は攻略対象だった……?
ずい、とさらに狂夜が顔を近づける。もはや唇と唇との距離が1cmもないぐらいに。
「ずぅっ…………と放置されていた私の気持ちが分かるかい?」
「ほ、放置はしてない」
「現実での話だよ、ユキくん」
意義あり! 別に現実ではそもそもほぼ誰とも交流してな『ドン!!』ひぃぃっ!?!?
「言い訳をするキミもかわいいよ……ユキくん……」
しょ、正直怖い。このタイプの女の子とこれまで関わってこなかったし……というか目!目がすっごいキマってる!
「ひとまず今日は……」
するり、と私の胸元に手が乗せられる。手袋越しに熱い体温が伝わってきた。
そのまま彼女の手は上へと移動し、首筋へ。
くい、と顎を上げられて、またすぐ戻される。
そのまま再び手が動いて、私の頬に添えられた。
「私のことを……」
後ろに下がろうとしたが、ジャラジャラと金属の音が鳴るだけで動くことはできなかった。
狂夜がにっこりと笑顔を浮かべる。
こんな状況だが、本当に綺麗だった。
この世で一番美しい顔というものがあるとするなら、これを指すのだろう。
「私のことを…………満足させてくれるよね?」
彼女の家から出られたのは、それから3日後だった。
【雪宮ユキと哀華竜宮庭狂夜】
実はこの2人、リアルの見た目がめちゃくちゃ似てる。
茶色の長髪で長身です。目の色と性別は違うけどね。
ちなみにどっちもナルシストだぞ!
あ、よければ☆☆☆☆☆評価くれると嬉しいです。




