Ep.85 ORIGINS WAR /* ファイナルショーダウン */
「やっほー、ユキちゃん。遊びに来た……よっ!」
桃色の髪が靡き、その中から紫色の目がこちらを見つめている。
背中には巨大な天使の羽。両手にはそれぞれ、神聖な雰囲気を持つ剣が握られていた。
スパスパ、スパンスパンと心地いい音が鳴るが、しかしこの音は……私の触手が斬り落とされている音だ。
高速で飛び回り、ラピスは私の身体を次々と切り落としている。
『よそ見は良くないな……【アストラルドライブ】』
ノクセスの拳に光が集まり、そして跳躍。
振り向いた直後の私の顔面に向けて、その拳が振り抜かれ———
ガンッ!!!と鈍い音。
『なに……?』
『はひほたへあるひゃん』
まるで鋼鉄のような硬さ! ハマる人はハマるかも……?(グミのCM)
私はノクセスの拳を噛んで受け止めた。
犬歯がじりじりと彼女の腕に刺さっていき、やがて青いポリゴンがそこから溢れ出す。
「ふふ……また……よそ見してるね……?」
背後にラピスの気配。しかしそれには気づいている。
「んぁっ」
『やぁ、ラピス』
「やぁやぁ」
触手で彼女の身体を絡め取り、宙に固定。
『【コンバット・リサーチャー】』
青い残像を残しながら、凄まじい速度でノクセスが私の本体へと迫る……が、残念。それも見えている。
『ぐぅっ!?』
触手でノクセスの身体も絡めとる。
「いやーん♡ わたし……触手で《自主規制》されちゃうー♡」
『お前は何を言っているんだ……?』
「でも……そう簡単に《自主規制》されると思わないでよ……? 【限界突破】」
ラピスの身体から桃色のエネルギーが噴き上がり、そして彼女は何かを呟いた。
『ふふふ……勇者っぽい……よね?』
絡めとっていた触手たちは余波で消滅。
そこには羽を6対にまで増やし、悠々と空に浮かぶ大天使……ラピスがいた。
『勇者ってよりは天使じゃない?』
『でも……勇者が魔王に《自主規制》されて《自主規制》に堕ちて……自分から《自主規制》するっていうシチュエーションの方が……いいと思わない?』
『……【コトゥーグ・ラッシュ】』
『やぁっ♡ ユキちゃんに《自主規制》されちゃう……《自主規制》されちゃうんだ……』
『私は何を見せられているんだ……?』
ノクセスはそんなことを呟くが、しっかりと触手による連撃は捌いている。ラピスは全弾命中、しかしダメージはほぼ入っていないだろう感覚があった。
というかこの会話漏れてないよね?
流石に高度100mくらいだし誰にも聞かれてはないと思うけど……こんなん流出したらラピスの評判地に落ちちゃうよ。
『【桜吹雪】』
突然キリッとした顔になったラピスが剣を抜き、大量の斬撃エフェクトが私の身体を襲った。今更そんな顔しても遅いよ!!!
『【レジェンドクラッシャー】』
真正面から飛びかかってくるノクセス。その右手には黄金のエフェクト……なんかヤバそう。こういう時は逃げる!
『……ん、あれ……転移発動しな……いぃっ!?』
『重たい一撃だろう?』
落雷かと思えるほどの轟音。私の身体……化け物部分の中央部が大きく抉れる。なんで転移発動できないのーっ!
『かはっ、けほっ……今のは痛かったよ……』
Bloodが一撃で3万ぐらい吹き飛んだ。私はスキルでかなり防御力も上がっているはずなのにこのダメージ……生半可なプレイヤーなら何回死んでもお釣りが来るほどの一撃だ。
『きゃっ♡ 苦しげな顔してるユキちゃん……可愛いね。【狂華絢爛】』
再び、斬撃の雨。しかし今度はさっきよりもダメージが低い。
これなら問題ない……展開した【虚鎖ノ黙示ト黄昏ノ王域】の効果でBloodも回復してきていることだし、そろそろ本気で暴れよう。
しかし、その前に……
『そんなに触手プレイがお望みなら……これはどうかな!? 【天終・触滅】』
『それは……おぐぅっ!?』
大量の触手すべてが後ろへと引き下がり、そして一気に一点を狙って急伸する。
その一点は———ラピス。
彼女の身体のど真ん中に、大きな穴が空いた。
『ふふふ……そういう性癖なんだ……?』
何が???
ラピスはその言葉と共に、再び翼をはためかせ……空中に静止。
『ふふふ……まだ戦ってもいいけど、やっぱり……わたしは……』
その言葉と共に、ラピスは黒いナイフを取り出して———自らの脳天に突き刺した。
『一緒に、戦いたい……かな……』
彼女の身体が完全にポリゴンと化す。おそらく彼女のオリジンスキル……【この身、この願いをあなたに捧ぐ】を発動したらしい。
効果は自身のステータスすべてを私に与えるというもの。前にも発動したが……今回はあの時よりも、私とラピス……そのどちらも強くなっている。
その分、効果も高い。
『根源を媒介とする自身の贈与? まさか、お前たち……』
『あれ、キミにも知らないことってあるんだね。てっきり私とラピスの関係性くらい知ってると思ってたけど……』
なんか、いかにも『私、全能です』みたいな雰囲気を醸し出していたキャラがこういう反応をするとガッカリするよね。
いや、別にノクセスにガッカリしている訳じゃなくて……漫画とか読んでる時の話だけどさ。
『まぁいい、それでもやるべき事に変わりはない。お前にはアルテルト討伐の力になってもらう……』
ん? あれ、目的そんな感じなんだ。てっきり『コイツ邪悪だし邪魔だから殺すか……』的なノリだと思ってたわ。
『仕切り直しだ、アステリア。前のリベンジと行こうか』
『マネキンみたいなモブ風情が……やれるものならやってみなよ』
私はラスボスがよくやる感じに両手を広げ、そう言い放った。




