Ep.82 ORIGINS WAR /* メガ・エーテル・ハザード */
そろそろキル数条件は達成した。【赤月の天軍】で分身を生成でもして……出来ない?
なぜか分からないが【赤月の天軍】が発動できない。分身の一体すら生成できない。
『まぁいいや……それなら別の方法を使うまで』
分身が生成できずとも、ここら一帯をめちゃくちゃにするのは簡単だ。
【エーテル・ハザード】とかいうイベントは、ラピスお抱えのクランが色々と検証をしている時にトリガーを引いたせいで起きた事故らしい。
そして、その条件の予想についてはラピスから詳しく聞いている。次はこれで行こう。
『悪巧みしている化け物にはお仕置きが必要だな。【ミソロスクリエイター】』
遠くで浮き上がったノクセスが、手元に……ロケットランチャーを生成した……え、前は剣生成してなかった?
『私たちに大人しく協力すれば良かったものを……』
ノクセスの指がトリガーを押し込み、轟音と共にそれが発射された。
わざわざあんなもの撃ってきた時点で、おそらく私にとって大きなダメージとなるこうげきなんだろう攻撃なんだろう。
アレは必ず回避する。
『キミのを参考に私も色々試したんだよ、ノクセス。〔独自・アストラルフリーズ〕』
私の眼前まで迫ったロケットランチャーの弾……なんて言えばいいのか分からないが、とにかく弾だ。弾がその場でぴたり、と静止した。
この魔法の効果は『対象の時を止める』
ノクセスが私たちの時を止めたのを参考に作ってみたが、いかんせん消費が重すぎる。
正直使いたくはなかったが、ワープゲートでお返しするのはもう対策されてそうだったし……安定をとって今回はこちらを選択した。
『当たってたらどうなってたんだい、ノクセス?』
そっと時が止まった弾を私の手(本体の)で掴み取り、全力で適当な方向に投擲する。
着弾地点では白と黒の爆発が起き、その周囲が完全に消え去っていた。しかも範囲が広い……!
『おぉ、こわいこわい……こんな酷い物投げつけてくる奴にはお仕置きが必要だと思わないかな?』
手元に魔力を寄せ集める。
大魔法……つまりは魔法版の極限スキルは、通常の魔法と少しシステムが違う。
まずコマンド……超過だとか複写だとかが使えない。
そして、脳内魔法陣お絵描きタイムと呼ばれるアレが、通常のものよりもかなり複雑。
クールタイム無しという魔法の特性は引き継いでいるが、そのかわり極限スキルのように消費は軽くない。
今から発動するのは【神蘇の吸血鬼】……というか【吸血鬼】の大魔法。
魔法陣は描き終わった。2秒も必要ない。
『大魔法———“ファイナルカオス”』
天に巨大な赤い魔法陣が形成される。
空が真っ赤に染まり、魔法陣からぽた、ぽた……と血が滴る。
赤い輪郭が微細に震え、魔力の波紋がゆっくりと落ちてくる。その瞬間、魔法陣が弾け———赤い血の鎌が生成された。その数……何個だろ、これ。多分100個くらい?
血の鎌は地面に向かって落下を始める。しかし、その速度は意外にも遅め……
『逃げる時間くらいはあげよう』
「死にさらせぇーっ!」
「《自主規制》!《自主規制》!《自主規制》!」
「気持ち悪いんだよテメーッ!」
リスポーン直後に足元までやってきたプレイヤーたちは、私の忠告を1ミリも聞かずに触手への攻撃を繰り返していた。
どのサーバーでもこういうタイプの奴らいるんだね……
『まぁ、逃げないのなら仕方ない。それなら———〔独自・アストラルアクセル〕』
今度もノクセスからパクった魔法。効果は“対象の時間を加速させる”というもの。いや、正確にはパクったというか……応用というか……まぁいい、とにかくそういうことだ。
百を超える血の鎌が、凄まじい速度に加速する。そして、それが地面へと着弾し———
小さな破裂音を残し、爆ぜた。
「見掛け倒しぃぃゃぁぁぁ……」
「おい、急に倒れてどうしぁぁぁ……」
「そんなコントみたいにぁぁぁぁ……」
鎌の爆発によって発生した血の霧。それを浴びたプレイヤーたちが一瞬でその身体を溶かしていく。グロい……
『まぁこれも序の口だけどねっ!』
吸血鬼の能力によって遠隔で血を操作する。
距離が遠くなればなるほど、操作できることが限られていくが……まぁ動かせれば問題ない。
6箇所。
6箇所に血を集め、それを操り魔法陣を形成。
準備は整った。久々にアレをやろう!
『【闇よ広がれ、光よ滅べ】【弱者は死ね、闇よ従え】』
詠唱開始。オリジンスキルの詠唱はおそらくプレイヤーの心理を反映しているんだろうが、それにしてもこの内容はあんまりだ。私はそんなに暴力的じゃないのに……
『【これより此処は闇の城】【永劫の闇に閉ざされよ】』
こっちはまぁ分かる。つまりは世界征服したいって内容だ。
『【屍は灰となりて命を蝕む】【骨は砕け、血は煮え滾る】』
これは……よく分からない。多分カッコいいことを言っているだけだろう。
『【魂を喰らい、蒼月は輝く】【私こそが黄金の王である】———』
『私も手を貸すわね。【神蘇神権】』
そんなこんなで詠唱が終わった。さぁ、久々に世界を闇に染めよう!
『この世界は私のものだ…… 【虚鎖ノ黙示ト黄昏ノ王域】』
◇Noxes Area
蒼き月が昇り、赤い空は真っ黒に染まる。
地面からは気色の悪い触手が大量に生え、すべての生命を拘束した。
……ノクセスを除いて。
『ふん、そんなもの私がすぐに解除……なんだ?』
遠くに見える異様な巨体。その頂点に位置する白い人影。
その周囲で、異常なほどの魔力が渦巻いている。
『ダメージによる血の回復……そしてそれによる大魔法の連続行使……何が狙いだ?』
アステリアは、どうやら再び吸血鬼の大魔法を発動したらしい。空にまたもや赤い魔法陣が展開されて……
『む……3度目?』
魔法陣がさらに増える。どうやら先ほどの大魔法が終了する前に、さらに新しく大魔法を発動したらしい。
『いったいなぜこんなことを……まさか!』
ノクセスはすぐに答えに辿り着いた。しかし、既にそれは手遅れ。
魔法陣が増える。増える。無限に増え続ける。
【虚鎖ノ黙示ト黄昏ノ王域】による範囲内のキャラクターへの持続ダメージ。
それによって急速に回復していく血。それを用いた大魔法の連続発動。
周囲の魔力が一気に消失し———今ここに、再び魔の災害が巻き起こる。
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『警告:魔力の大規模な暴走を検知。』
『アノマリーイベント【メガ・エーテル・ハザード】を開始します。』
『参加人数:109,337』
『クリア条件:マナ活性率を0%まで低下させる。』
『マナ活性率はアルテルト陣営に所属していないモンスターの撃破によって低下します。』
『現在のマナ活性率:2,790,990%』
『これが、世界の怒り。』
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戦場のいたるところから光の柱が噴き上がり、巨大な緑のモンスターたちが現れる。
同時に地面からも緑のモンスターが這い出る。その数はアルテルトの召喚した機械たちと比べても劣らない。
戦場は、さらなる混沌に包まれた。




