Ep.8 レイドナイト/The heroine appears.
ヒロインが あらわれた。
【剣界】によって無数の剣がラピスに放たれ———
彼女は、大量のポリゴンを噴き出しながらその場に倒れた。
「……消えない?」
何かがおかしい。このゲームにおいて、HPが全損した場合は即座にアバターがポリゴンと化して消えるはずだ。
ラピスの身体が、大量のポリゴンを流しながら起き上がってゆく。彼女のアバターはヒビ割れ、真っ白な光がそこから溢れ出す。
光が爆ぜる。
太陽を直視したかのような光が放出され、視界が塗り潰された。
そして、視界が戻った頃には……彼女の姿が消えていた。
『ここからが本番だよ……?』
その声が頭に響くと共に、私の周囲すべてが桃色の斬撃に斬り刻まれる。
9体の分身は一瞬で消滅し、霧化によって身を守った私だけが生き残った。
『なんだか弱いね……?』
「うるさい、そっちの火力が高すぎるだけだよ」
『こういう時はなんて言えばいいんだっけ……あ、思い出した。ざ〜こ!』
殺す……
『ふふふ……今はわたしの方が早いよ……?』
ラピスは背中に天使の羽のようなものを生やし、縦横無尽に飛び回る。
私は武器の生成を更に加速させ、それを用いて防御しつつ攻撃も重ねる。が、射出した剣は即座に弾かれ、彼女の攻撃は防ぎきれなくなっていた。
戦い始めのタイミングよりもラピスの速度が上がっている。それも、明らかに2倍以上。
『それとね……実はわたし、他のみんなをここに呼んだんだ……』
ちらりと横目をやると、無数のプレイヤーたちがこちらへ向かって押し寄せていた。分身をラピスの方に向けていたせいで気づけなかったらしい。
「チーミングじゃないの、これっ!」
次々とラピスに向けて剣を放ちながら、わたしの口からそんなセリフが漏れる。
『その場での協力はルールの範疇だよ……』
「確かにそう書いてあったかもね。だけど……これは失敗だよ」
『なんで?』
「雑魚がいっぱいいる方が、私は強く戦えるからだよ……そら、【虚滅】!」
100本の剣を指定された場所に構え、スキルを発動する。黒い斬撃の嵐がその場にいた全員を巻き込んだ。
私はそもそもダメージを与え続けないとBloodを回復できないからね、1対1はそもそも不利だったんだ。
それならチマチマ殺していった方が良いんじゃないのかとも思うが……そんなことをしたら、私のやりたい事を一瞬で察したラピスが彼らを皆殺しにするだけだろう。
『痛いよぉ、アステリア〜』
ラピスがなぜか可愛こぶってるが、気にせず武器を生成して投げ続ける。
彼女は黒嵐に巻き込まれながらも、こちらへと斬撃を放ってきている。
攻撃を喰らう瞬間のみ霧化することによってダメージを軽減する。
ダメージは99%カットされているはずなのに、目に見えてダメージを受けていることが分かる。
「【万雷】」
空から巨大な雷の柱が降り注ぐ。
追加でBloodを使えばもっと範囲が広がるスキルだが、元からこのスキルは高火力で、追加消費しても威力自体は変化しない。
今回のように1人を対象とするならば、追加消費はなしで十分だ。
『今のは痛かったよ……?』
万雷が降り注いだ後、砂煙が舞う中からラピスが現れる。どう見ても無傷だ。ダメージ与えられない系の負けイベ?
「なんか高火力スキルあったかな……」
『戦闘中に考え事は命取りだよ?』
気づけば、目の前にラピスがいた。薄桃色に輝く刀が振り下ろされ———
『あれ?どこ?』
私はラピスがよそ見した隙に上空に投げていた武器に向かって転移した。考え事よりよそ見の方がどう考えても命取りだろう。
あの防御を抜ける攻撃について少しの思案を巡らせていると、どうやらラピスがこちらに気づいたらしい。にっこりと笑顔を浮かべているのが上空からでも分かる。
「いいよ、こっちも使えそうなのがあったことを思い出したから……火力比べといこうか?」
『今行くよ、ユキ……』
私は血の剣を構え———
「【天終】」
『【桜吹雪】』
◇
私たち2人の衝突は、私の攻撃がラピスを貫くことで終わりを迎えた。終わってみると呆気ないものだが、割とマジで死ぬかと思ったね……
百剣天帝の奥義、【天終】は単体を対象とする高火力のスキルだ。
スキルの説明は非常にシンプルで、『すべての耐性を貫通し、対象に極大ダメージを与える。』というもの。
正直ラピスを一撃で倒せるとは思っていなかったが……もしかして、彼女は復活してから光属性的な存在になっていたのか?
どうもスキル説明やらを読む限り、このゲーム闇属性は光属性が弱点らしく、しかも光に対して弱点を付けないように思えた。
光属性になった上にステータスが上がっていたのならば、あそこまでダメージが入らなかったのも納得はできる。
「ちょっと慢心してたかもね、反省反省……」
これが終わったらレベル上げは休憩しようと思っていたが、やっぱりそれはやめる。置いていかれたくないからね……
とりあえず今後の課題は光属性対策と単体敵対策、更なる防御と攻撃に速度……つまり全部だね、これ。
まぁ、何はともあれ勝ててよかった。彼女は最期に『また戦おうね……?』とか言っていたが、まぁ気にしないことにする。どうせ場所なんかバレんだろ(フラグ)
ラピスのせいで準備も遅れてしまったが、どうやらそれもそろそろ終わりそうだ。
必要なのは7つの魔法陣。6つは六芒星の角にあたる場所に描き、最後の1つはその中心に描く。
重要なのは私の血で描くこと。幸い、分身は私の血でできているおかげで時間を大幅に短縮することができた。
別に六芒星の範囲を狭めても発動することはできるが、それだと効果範囲が狭くなってしまう。なので、限界までイベントエリアの外側に魔法陣は設置した。
効果範囲は6つの魔法陣で囲まれたすべて。
中心部の魔法陣は今、私が描き終えた。ようやく私の“オリジンスキル”を使うことができる。
「さて……やろっか。なんだか黒魔術やってる気分になるけど」
気分というか、普通に黒魔術の可能性が高いような気もする。まぁPKが黒魔術使うのは解釈通りだし問題ない。
【ルナティック・フォージ】で手元に赤黒いナイフを生成し、私の指に傷を入れる。これ人生で一度はやってみたいよね。
傷から垂れた赤いポリゴンが魔法陣へと垂れ、魔法陣の光が強まってゆく。なんかヤバいことしてる気分だねぇ!
「【闇よ広がれ、光よ滅べ】【弱者は死ね、闇よ従え】【これより此処は闇の城】【永劫の闇に閉ざされよ】……」
魔法陣が光出すのと共に、私も詠唱を開始する。今回も8節の詠唱が必要だ。
「【屍は灰となりて命を蝕む】【骨は砕け、血は煮え滾る】【魂を喰らい、蒼月は輝く】【私こそが黄金の王である】!」
詠唱は終わり、魔法陣から暗い輝きが溢れ出す。
「【虚鎖ノ黙示ト黄昏ノ王域】」
その瞬間、世界は闇に染まった。
【混源】
特定条件を満たしたプレイヤーが目覚める、プレイヤー毎の特殊能力。本人の精神性によって、発現する能力が大きく変化する。本体はオリジンスキルの方であり、混源はあくまでオマケ的なパッシブ効果しか持たない。
アステリアもこれに目覚めてはいるが……ラピスほど普通の効果はしていない。
【オリジンスキル】
強力な効果をもたらすスキル。厳しい条件と長いクールダウンを必要とする。プレイヤーがオリジンスキルを発動する毎に、そのプレイヤーは⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が上昇する。
混源とオリジンスキルの違いは、パッシブかアクティブかの違いで覚えてもらって構わない。
混源【???】
ラピスの混源。
効果不明。
オリジンスキル【星見る瑠璃の死天使】
消費MP:0
CD:7d
能力:自身のHPが0になった時、それが敵キャラクターの攻撃によるものなら、このスキルを発動できる。これ以外の方法でこのスキルを発動することはできない。発動した時、最大HPを10000増加させ、HPを全回復して復活する。また、敵の能力に応じて、すべてのスキルが一時的に進化する。周囲の敵キャラクターすべてに【光属性耐性低下:50%】を強制付与し、自身に【光属性】【最終ダメージ軽減:50%】【挙動補正:100%】【英雄補正】を付与する。戦闘終了後、これらの能力をすべて解除する。
【英雄補正】
つまりは主人公補正。これを持っている状態だと、最終ダメージ軽減をある程度無視することができる。その他にも色々と有利な展開が起きやすくなる。英雄補正なしのラピスは本来アステリアの攻撃で6パンぐらいの耐久力なのだが、これが1つ付与されただけで本編のような硬さになる。
このゲームは極論、英雄補正をどれだけ積めるかですべてが決まると言っても過言ではない。
【挙動補正】
積めば積むほど強くなるタイプのステータス。言語化するのは難しいが、このバフを付与されている状態だと『攻撃のしやすさ』や『攻撃の速度』『回避のしやすさ』などが上がる。
このゲームは極論、挙動補正をどれだけ積めるかですべてが決まると言っても過言ではない。
【食事・睡眠不要】
アステリアと同じく、ラピスも食事・睡眠を取らなくても生きられる特殊な体質を持っている。ただし原理は別物。
面白かったら☆☆☆☆☆のとこから評価くれると嬉しいです。レビューとか感想もいいぞ。




