Ep.74 誓いの指輪と吸血鬼のセクハラ
◇???———アストラ
『ここなら……ひとまず、見つかることはない……はず……』
疲れた声で、近未来的なスーツで全身を覆った人物———オリジナルズのアストラが呟く。
アステリアが彼女を殺害した後、アストラは復活し……奴に再び見つかることのない場所を探していた。
道中、リアリティに“奴”の情報を送信したが、どうやら長い時間を地下に閉じ込められていたせいでスーツが破損していたらしく……現在地の情報を送ることはできなかった。
これが機械や魔法に詳しいメンバー……『オリジン』『クリエイター』『リサーチャー』『カオス』あたりなら逆探知することも出来たのだろうが……それらにはおそらく届いていない。
オリジンは気づいているのかもしれないが、彼女はあの日から私たちを離れ、どこかへと消えた。当てにはできない。
クリエイターも同様だ。そして、リサーチャーも。
他のメンバーは、届いているかどころか拘束から抜け出せたのかすら分からない。
リアリティは解放されているのだが……あいにく、彼はロボットを操縦することぐらいしかできない。
復活機能にも異常をきたしていた。本来ならオリジナルズの基地で復活するはずだったが———目覚めたのは【灰裏界】のどこか知らぬ場所。
一刻も早くオリジナルズの基地に戻らなければならないが、灰裏界には危険な魔物が多く存在しており、その中には魂を破壊する魔王の幻影などもいる。
スーツも修復しなければならない。ほとんどの機能が破壊されてしまっており、彼女は現在、そこまで戦闘面において強力ではなかった。
一度自死してみたりもしたが、復活するのは最初と同じ場所。
こうなればもう、自分の力で拠点に戻るしかない。
しかし、アストラは———彼女は今、アステリアとの問答で非常に疲れていた。
ただひたすら眠りたかった。なので、彼女は選択する……しばらく休憩を取ることを。
スーツの自己修復機能は一応、生きている。効果は減ったが……一ヶ月程度あれば完全に治るだろう。
生命維持機能もギリギリ問題ない。その期間だけなら耐えられる……はず。
そして、アストラは偶然発見した洞窟の中へと入り、開けた場所で眠りについた。
そして、一ヶ月後———
◇名もなき洞窟・奥地———アステリア/グレイ
「起きないねぇ」
『そうね』
朝ですよー! そこの近未来なスーツのお嬢さーん!
「ダメだね、触手でヌメヌメしても起きる気配がない……」
『なんだか酷い見た目になっているけれど……』
うーん、どうしようか。まさかこんなタイミングで再会するとは思わなかったけど……とりあえず虐めるならば、一旦起きてもらわないと話にならない。
あと自殺してリスポーンされるのもできれば止めておきたい。なんかそういうのに使える魔法ないかな……
最悪【obsession Chronicle】使ってもいいんだけど、あれは燃費が悪いからね。できれば使わずにいきたい。
『あの指輪を使えば起きるんじゃないかしら』
「あ、確かに。じゃあそれでいこう」
私は【Astral Ring】をインベントリから取り出した。
赤い宝石が嵌められた、白と黒が入り混じる指輪。それをアストラの左手、薬指に嵌めて———
『んぅ……ぐ……が……ァァァァァァァァァアアアアアアッ!?!?!?』
「うわ、うるさ」
『そんなに痛いのね、これ』
少なくともアストライアよりは痛いらしい……どうやって調べたのかは考えたくもないねぇ!
『がっ……はぁ、はぁぁぁ……はぁ、ァ……アステ、リ……ア……』
「やっほ、アストラちゃん……会いたかったよ」
私は笑顔でそう話しかける。彼女の顔は苦痛に歪んでいた。
とりあえず自殺させないために必要なのは……“動けないほどの痛み”だろう。そんな状態じゃ死ぬことすら叶わない。
「【目覚めよアストライア】」
触手の剣が弾け飛び、その中から黒い刀身が姿を現す。私はそれをゆっくりと彼女の頬に近づけ……ちょん、と小突いた。
『う……ぁ……ぁ……はぁっ、はぁっ……ぁ……』
おー? これもしかしてちょうどいい感じに調整できたやつか?
足りなかったら〔アストラルペイン〕を重ねがけしようと思ってたけど、杞憂だったらしいね。
「ねぇ、アストラちゃん。私はキミに会いたかったんだよ……ずっとね。でも情報がなくてさ……」
『ぁ……ぅぁ……』
「でも、そんな私たちが今日! こうして出会った———これは運命だよ。キミもそう思うだろ?」
近未来的なスーツのグローブ越しではない、ひしゃげた装甲の隙間から覗く彼女の無防備な白い指に……禍々しい紅白のリングが食い込んでいる。
私はそれに触れながら、彼女の耳元で囁いた。
『本当に悪趣味ね、それ』
「実はそれ褒め言葉だったりする?」
『ふふ、どうかしら?』
ニヤニヤしちゃってさぁ……ま、とりあえず私はこっちに集中しよう。
「さて、返事してくれないってことは……私たちの出会いは“運命”ってことでいいんだよね?」
『ぅ……ぁ……ちが……ぅぁ……』
「よかったよかった! やっぱりこの出会いは運命だよね! それで、さ」
私は再び彼女の指輪に触れ、会話を続ける。
「これ、指輪の形ではあるけど……別に愛の印ってわけじゃなくてね」
『ぐ……ぁ……』
「用途はどちらかというと“首輪”なんだよ。キミが私の支配下にあるってことを示す……そのためのね」
口が勝手に動き続ける。なんだか楽しくなってきた……
「着けてると痛いかもしれないけど、これを外そうものなら……キミをさらなる痛みが襲うことになるだろうね。死んで逃げようなんて思わないでよ? そんなことしたら、私もさらに痛くするしかなくなっちゃうし……キミにはそんなことしたくないんだ。だから……」
『ぐぎぃっ!?』
首を掴み、持ち上げる。
触手が彼女の全身をギチギチに縛り上げ、その全身から鈍い音が響き渡る。
「私の言うこと聞いてよ、ねぇ」
『ぃ……ゃ……』
なかなか根性あるじゃないの。そういうの嫌いじゃないよ。
ならアプローチを変えよう。
私は彼女の指輪に手をかけ、そしてそれを抜き取った。
『ぁ……ぇ……?』
「話しずらかったでしょ? だから一旦、ね?」
『なんの……つもり……ぐぅ……っ!』
「だーかーらー、お喋りしようって言ってるの。分かる?」
『いま、さら……乗るとでも……』
「あっそ、じゃあいいよ」
再び、指輪を嵌める。
『ぐがっ……!?』
「せっかく私が楽しくお喋りしようって言ったのにさぁ! それを無碍にするなんて、酷いよアストラちゃん……」
触手がバキバキと音を立てて巨大化していく。先端の口が開き、尖った歯のような部分が露出した。
一本の触手を操り、彼女のヘルメット部分にそれを巻きつけ———頭部の装甲を破壊。
『うぐぅっ……!?』
「なんだ、結構可愛いじゃんね。血吸っていい? あ、今だとこれもセクハラなのかな?」
私はぺろりと舌を舐めた。個人的には、恐怖に歪んでいる人の血の方が美味しいと思うんだ……まぁわざわざそんなこと普段はやらないけどね!
……普段はやらないけどね!!!
【アステリア】
なんかこいつDVやってそう(n回目)




