Ep.73 あくまでロールプレイです。信じてください。
『あぁ、そういえば……これを渡すのを忘れていたわね』
「ん、何を……あぁ、これね」
ワタ人の街からストーンの方向へ移動している道中、グレイは私にアイテムを手渡してきた。
それは黒い指輪。名前は【Astral Ring】
私がヒバナにお願いしていた、NPCをいじめるための装備である。
効果は単純……装備者のHPを半分に減らし、【魂痛】を付与する。
これはアストライアから着想を得たアクセサリーであり、私の触手を素材として使用している。
というか、触手を使わないと【魂痛】による痛みがそこまで大きくないらしい。せいぜい切り傷程度……とヒバナは言っていた。
それが私の触手を素材に使うだけで痛みが10倍以上跳ね上がるらしい。
これはどうやら触手の呪術的特性が高い……いや、これ以上は話が逸れすぎるからやめよう。
「ひとまずしまっておくよ。ありがとう、グレイ」
『私が言うのもなんだけれど……趣味が悪いわね、あなた』
本当にね。
「さて、じゃあ……あそこにも寄ってみる?」
『あなたに任せるわ』
私たちの前に見える小さな村……村かな、これ。ボロボロすぎて、もはや身を守ることすらできなそうだけど。
ともかく、その村に……私とグレイはお邪魔することにした。
なんか面白いこと起きないかなぁ……このエリア魔物以外なーんにも無いからヒマになってきちゃった。
『どうせここには何も無いわよ。暇なら遊びでもすればいいんじゃない?』
「含みのある言葉だね」
『ワタ人は遊べないからつまらないのよね……いい機会だし、どうかしら?』
それあなたの殺人衝動が抑えきれていないだけでは……? 私は訝しんだ。
『あら、心外だわ。あなたの触手も餌が欲しいと叫んでいるというのに……』
「え?」
うお、なんかいつの間にか背中と足元がヤバいことになってる……改めて見るとやっぱりキモいね。
「……よし、じゃあやろうか」
『ふふ、いい顔してるわね?』
いや、普通にそっちの方が満面の笑みで怖いけど……?
私はそんな、笑顔なんてそんな……ね?
◇名もなき廃村
村への第一歩を踏み入れると……痩せこけた男が一人、縋るような目で近寄ってきた。
「お、お待ちくだせぇ……! あなたはもしや伝説に謳われる渡り人様なのでしょうか……! もしそうであるならば、ほんの少しばかりの恵みを……」
『汚らわしいわね』
「え……い、今なんと……?」
グレイが侮蔑を含んだ溜息を吐くと同時、彼女の唇が三日月の形に変わり———
『〔独自・アストラルペイン〕』
その魔法が発動すると同時、眼前にいた男の様子が変わる。
「が……ぁ……ァァァアアアア!?!?」
『うーん、思っていたより効果は弱いわね……』
「えぇ……?」
というかなんだその魔法。【魂痛】付与してるの?
『あなたの使っている剣と、その指輪……それを参考に新しく作ってみたの。あなたならもうこの魔法、使えるわよね?』
「そりゃもちろん。〔独自・超過・アストラルペイン〕」
7重合成。魔法の対象は先ほどと同じ男。
発動と同時、男の顔が凄まじいものに変わり———そして、固まった。
「……?」
『痛みで死んだわよ』
「えー……まぁ今後丁度いい塩梅を探していく、ということで……」
まぁやっちゃったものは仕方ない。誰にでもミスってあるよね……そう言いながら私たちは村の中を進んでいく。
「お、おい……お前さんたち、なにも……」
「老人はいたぶる趣味ないかなぁ」
アストライアを振り抜き、老人NPCの首を切り落とす。私は老人の叫びよりも女子供の悲鳴が聞きたいんだ。
しかし、街判定じゃないからバンバン殺してもデメリットなくていいね。もっとNPCの旅人増えてよぉ〜
「しかし人少ないね。もしかしてこれだけしかいないの?」
『ふふ、どうやら隠れている子たちがいるらしいわね……【神蘇術】』
グレイの背中側に、大きな鏡が現れる。しかし、その鏡面には闇だけが映っていた。
『真実の鏡、隠れている者たちを暴きなさい』
鏡から闇が溢れ出し、弾け飛ぶ。
脳内に村の立体図のようなイメージが浮かび、3箇所に黒い点が打たれた。
ひとつは近くの家、ひとつは村はずれの家、もうひとつはその家の地下深く。
『本当に少ないわね……』
「でも……怪しいのはあるね」
『そうね、行ってみましょうか?』
そして、2人ではずれの家に向かい———その扉を蹴り開けた。
「おうおう!借金滞納してるのはテメェかぁ!?」
「ひ、ひいっ!? 何言ってんだアンタ!?」
『急にどうしたのよ……はぁ、まぁいいわ。そこのあなた、少し痛くなるけど……拒否権はないわよ』
「な、何言って……」
さぁ! 楽しい楽しい拷問の時間だよ!
良い子のみんなは目を瞑ろうね!
◇10分後
ちょっと思うんだけど、このゲーム……グロ表現に制限なさすぎじゃない?
なぜこんなことを言っているのかといえば、まぁ……
目の前には、赤とピンクの抽象画が完成していたからだ。
現在、私はグロ描写フィルターをオフにしている。
するとどうだ、ポリゴン欠けもバグも一切なし……臓器の断面から溢れ出る体液の光沢、飛び散った肉片の質感、そして絶望に歪んだまま固定された表情……すべてがリアルすぎるオブジェがそこにはあった。
R-18G指定どころの騒ぎじゃないよ、これ。運営の頭の中どうなってるの? なんでこんなことやれるようにしたの……? やれるんだったらやっちゃうじゃん、ねぇ?
『あら、芸術的な仕上がりじゃない。あなたの触手、ミンチを作る才能があるようね』
「褒め言葉として受け取っておくよ。……ま、情報は吐かなかったけど」
『最初から聞く気なんてなかったくせに』
「バレた?」
男はただの村人Aだった。隠し財産もなければ、レアアイテムの場所も知らない、地下の人体反応も知らない———つまりは無駄死にである! 南無三!
まぁ楽しかったからヨシとしよう。ゲームとはそあいうものである。
『で、どうするの? あなたがどうやって地下の反応の場所に向かうのか、少し気になるのだけれど……』
「え? そんなの……【コトゥーグ・ラッシュ】」
背中の触手がガンガンと地面を打ち砕く。やがて周囲は瓦礫で埋め尽くされ、それを続けているうちに……やがてその奥の空間が見えた。
「こうでしょ」
『うーん、芸術的じゃないわね……』
これ以外の方法あったかなぁ……?
【Astral Ring】
痛みに素材のポテンシャルを振りすぎたせいで、特に戦闘で有利になる効果は働かない。ただし【魂痛】の痛みはアストライアよりも上。




