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Ep.72 ROOTS

見た な 別れ 邪悪 子ども の 剣 とき、 遠い 笑み を は ただ


               かわいそうな子ども。

 この大穴は、サービス開始時点から何人ものプレイヤーが攻略しようとしてきた。

 しかし、そのことごとくが失敗に終わり……未だ誰も攻略できていない。


 まぁ全体的に敵が素早いし火力が高い、その上マップも広いとなればさもありなん。



「ようやく終わった……」

『……長かったわね』



 私たちの目の前には、ポリゴンとなって消えていく巨大なモンスターの姿があった。

 最後の最後に出てきたコイツは……まぁそんなに強くなかったが、やはりここまでの道中がとにかく長くて面倒だった。



「レーダーの反応的には……まだ下の方にあるらしいね」

『ええ、そうでしょうね。おそらく【裏世界樹 アヴェリィ】の民が保管しているはずよ』

「それもっと早く言えたんじゃ……?」

『あら、ネタバレは嫌だって言ったのはあなたでしょう?』

「まぁそれはそう……ん? なんか言いくるめられてないかな、これ」

『そんなことないわよ。さ、ほらほら……この先に進めば大穴が見えてくるはずよ。そして、それに入れば目的地……【灰裏界】に辿り着くわ』


 そう言いながら、彼女は大扉を開……開けてない……



『……ちょっと重いわね。あなたも手伝いなさい』

「はいはい……〔超過(イクシード)・エンチャント・パワー〕」


 まぁ6重くらいあれば足りるだろう。私は少しだけ手を抜いて魔法を行使し、そして、筋力が強化されたグレイが巨大な扉を開くことに成功する。



『ふぅ。ま、こんなところね』

「おー……神蘇国の時とは違って中々きれ……いたっ」


 や、やめて足踏まないで……Bloodがちょっと減ってるから。

 まぁダメージ受けると固定値で回復するから実質ノーダメではあるけどさ……



『あなた、アレ(・・)は絶対に起こさないように。前のように〔フラッシュ〕なんて使うのは言語道断ね』

「大丈夫、分かってるから」


 私たちの目の前、大穴の前で眠っている謎のモンスター。多分スライム……スライムの、はず。材質は骨みたいだけど。



『アレを起こすことのないように、さっさと穴に飛び込みましょう……さぁ、また私が手を……』

「今度は逆でいこうか」

『へ? って、ちょっと待ちなさ……キャーーッ!?』


 私はグレイをお姫様抱っこしながら、大穴へと飛び込んだ。

 なんだよ、意外と可愛い声出すじゃーん^^











◇灰裏界:???———アステリア/グレイ



 落下。


 落下。


 落下。



 およそ2分間、私たちはただただ落下し続け……ようやく、大穴の底———【灰裏界】への入り口に辿り着いた。


 だが、そこを抜けても落下は止まらない。

 視界が裏返るような感覚のまま落ち続け、そして……ある程度の高さまで到達したその瞬間、空間の法則がねじれる。


 ふ、と身体が持ち上がるような感覚。

 次の瞬間、重力が反転する。


 私たちは“底”へ向かって落ちていたはずなのに、“地上”へ向かって吸い上げられるように落下の方向が切り替わった。



「よっ……と」

『はぁ……私がやるつもりだったのに』


 まぁ最初にやったんだからいいじゃん。今はそれよりも……このエリアについて気になる。



「暗いね」

『そうね。私の記憶よりも暗くなっているわ』


 周囲は真っ暗な闇に包まれ、少し遠くはもはや真っ黒にしか見えない。

 だが、その中にひとつの違和感。



「どうやらあそこに誰かいるね」

『そうね。目的の民ではないでしょうけど……』


 少しづつ近づいていき、その輪郭がはっきりとしていく。

 やがてその姿がはっきりと見え———ワタ人じゃねーか!



『ようこそお待ちしておりました、渡り人のお方……そしてあなたはお待ちしておりません、邪悪なる娘』

『あら、ひどい言い方ね?』

「これにそんなこと言われるとか……もしかして昔に何かやったの?」

『うーん……覚えてないわね。でも色々したとは思うわ』


 よく考えたら最初はアンデッドみたいな見た目で私にコンタクトを取ってきた訳だし……性格が悪いのはそりゃそうなんだろう。

 ゲームの登場人物で闇系魔法を使っているとなれば、その9割は悪役……いや、最近は闇を使う主人公も増えてるから5割くらいかな?



『我々ワタ人の集落を死の病で覆ったこと。大いなる世界樹を2本も枯らしたこと。勇者の秘宝、光の起源石を大穴に放り投げたこと。心優しき人間たちを魂の牢獄に閉じ込め、それが死んでゆく様を笑って眺めていたこと。ひとつの村の住民を全員、己が満足のために殺害したこと。“あのお方”の愛しき妹を無惨に、苦しめて……その眼前で殺害したこと。そして……渡り人を悪の道にいざなったこと』


 グレイの方をじっと見つめながらそう言い放つワタ人。しれっと罪状がヤバい……



『悪の道にいざなった……? それは本人が元から歩んでいただけよ』

『信じませぬ、邪悪なる娘……しかし、我々の役目は渡り人の案内故……着いてきなさい、渡り人のお方』


 そう言って、ワタ人がゆっくりと私たちを先導する。


 3分ほど歩き続けると、やがて真っ暗だった視界に薄ぼんやりとした光が現れた。その光は進むにつれて強くなっていき、そして……



『着きました。ようこそ、渡り人のお方……ここが我々の住む場所、【ワニタッカ・カカイヤ】でございます』


 一言で表すのなら……“紫”だろう。そんな、すべての建物が真紫な街が目の前に広がっていた。



『この地では、このような明るい場所は希少なのでございます……ですので、渡り人のお方。ひとまずはこの街で準備を整えることをおすすめいたします』

「ふーん……じゃあさ、こっちの方角って何かあるかな? この方角に行こうかなと思ってるんだけど……」


 オリジンストーン探知レーダーの反応によれば、この街の入り口の反対側……その方角に目的のものがあるはずだ。

 さっきの話を聞くに、おそらく光のオリジンストーンが。



『ウーム……そちらには特に何も……ああ、思い出しました。真古代人類の遺跡……そして寂れた小さな集落があったはずです。ただ、あの周囲は強力な魔物が跋扈しておりますので……行くのならばお気をつけて』

「ん、情報ありがとう。まぁ別にこの街に滞在する理由もないし、すぐ離れるだろうけどね」

『でしたら、これだけお持ちください』


 そう言って、ワタ人は自身の腕をちぎり……それを渡してきた。



「……いらない」

『そうおっしゃらずに。食べると元気が漲りますよ』

「尚更いらない……」

『そうですか……』


 悲しげな声を出しながら、ワタ人はその腕だったものを自分の口に放り込み……飲み込んだ。



『フゥ。では行ってらっしゃいませ、渡り人のお方。悪の王女には気をつけて』



 そして、私たちはこの街を出た。ワタ人とかいう奴ら、生態までアレだね……

【“神蘇の王女”レイヴィ・グレイ】

もうびっくりするほど邪悪。趣味は拷問……しかし最近はやれていないので禁断症状が出ている。そしてそれを発散するために今は外に出ている。

まだまだ余罪があるし、この子のせいでシャマザリエ関連のゴタゴタが起きたし、自業自得な理由で封印されていた。

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