Ep.7 レイドナイト/Vampire Survivors
なお、今回の役割は真逆……と言いたいところだが、別に本家だと吸血鬼なんて出てこないし生き残ることもできない。
◇クラン『起源帝国』———ガーリアのパーティ
「おい、あれはなんだ。ボスモンスターか何かか?」
起源帝国クランリーダー、ガーリアのパーティメンバーの1人……
ヒーラーを務める『大天才』が口にしたその言葉に反応し、ガーリア含む他の3人はその方向へと視線を移す。
そこに見えるのは、無数の黒い点。
「虫の群体型モンスターとかか……?」
「なんか真ん中あたりにちょっと大きな影が……」
それは、近づくにつれ見えてくる。飛行するモンスターの大群のように思えたそれは、無数の剣。
中心に位置するのは、それを指揮するモンスター……ではなく、赤黒い人影。
「まさか、あの剣は……」
ガーリアの脳内に、苦い記憶が蘇る。一瞬で10人が葬られたあの戦いは、アステリアも知らぬうちにガーリアの育成方針に大きな影響を与えていた。
今の彼は防御寄りのビルドだ。あの日一撃で葬られた時から、獲得するスキルは耐久に関するものを多く取っている。
被ダメージを無条件に5%軽減する【剛体+++++】に、盾を構えている間は被ダメージを50%軽減する【アブソリュート・シールド+++++】
そしてその他、防御や被ダメージ軽減を増幅させるスキルにエンチャント付き装備にジョーカー。
「今の俺はあの時よりも堅いぜ……【プリズム・ガード】!」
両手のに盾を装備し、ダメ押しのアクティブスキルを発動。
これで被ダメージ軽減は176%……もはや過剰とも思えるほどの防御を重ねていく。
「やれるものなら……やってみろ!」
「なんか1人で盛り上がってますね?」
「コイツテンションの上がり方よく分かんねぇんだよなぁ」
赤黒い影が、少しだけ首を傾け……視線をこちらに向ける。そして片手をガーリア一行へと向け———
「がっ……はぁ!?」
血の剣が、盾を貫いてガーリアのHPを全損させた。
このゲームにおいて、被ダメージ軽減ほど信用できないステータスはない。
そもそも、このゲームにおける被ダメージ軽減は……80%を超え出したあたりから、上昇率が著しく減少するという仕様が存在する。
具体的な数字を出すと、被ダメージ軽減80%はそのままダメージを80%減らすのだが……100%の場合、およそ80.2%までしか減らすことができない。
このラインを超えると、被ダメージ軽減1%あたりのダメージ軽減率が100分の1にまで減少してしまうのだ。
その上、クリティカルが起きた場合の計算式には被ダメージ軽減の数値が関与していない。
つまり———クリティカルが発生した場合、被ダメージ軽減はまったくもって意味を成さない。
「あっ」
「ちょま」
「ぐげぷっ」
続けて、残り3人のパーティも一撃で死亡する。
あんなにも守りを固めたガーリアですら一撃なのだから、パーティメンバーがそれに耐えられる訳もない。
影はその後も周囲のモンスターやプレイヤーを殺し続ける。
そして、付近には誰もいなくなったと判断するやいなや、即座に次の目的地へと転移した。
◇イベント開始より20分———中央エリア
「1位の人、すごいポイント数だね……?」
桃色髪のプレイヤー……|LapiS.Lazuliが、巨大なモンスターとの戦闘を続けながらそう呟く。
「【桜吹雪】……しかも、見たことある名前」
桃色のエフェクトと共に、モンスターの肉体がバラバラに切り刻まれる。
ラピスが脳内でイベント用UIを展開すると、そこには3000ポイントが追加されたことを示すログが表示されていた。
「これはもう……わたしが会いに行ってあげるしかないね?」
ゆっくりと、そう呟く彼女の名は……ラピス。かつては『NEXUS』というゲームで『AsterL』というクランのリーダーを務めていた彼女は……
ついに、このゲームを始めた理由を見つけた。
「ふふ……待っててね、ユキ……」
現在、27万5610ポイントでイベントランキング2位の彼女は、彼に会う為に行動を開始する。
◇イベント開始より40分———山岳エリア
【深紅の影群】———それは、最大で100体の分身を生み出すスキルである。あまりにもぶっ壊れてはいるが、これは制限あってのものだ。
その制限とは、1回の戦闘中で一定数のキルを重ねること。
この対象はプレイヤーでもモンスターでも構わないが、合計で1万もの敵をキルしなくてはならない。
このゲームにおける『戦闘中』という単語は少々特殊だ。
基本的には『敵を認識してから、認識した敵を実際に倒すまで』というものになっているが、途中で敵が追加された場合はその敵も含めて全員倒すまでに変わる。
さらに、敵が逃げた場合は自分自身が追うか見逃すかでも判定が変化する。
ここまでは普通だが、大規模な戦闘……つまりは今やっているイベントのような規模になると、『戦闘中』の判定は非常に広がる。
それこそ、プレイヤーの目的を達成するまで戦闘は終わらないといったように。
今現在、【深紅の群影】による私の分身たちは自動で思考し、散らばったプレイヤーを殺し続けている。
流石に100体もいれば殲滅の速度も上がる。
私自身が範囲に特化したビルドなのも追い風だろう。
「さて、まぁまぁな数をヤったような気はするけど……」
手元に生成した剣をその辺のプレイヤーに向けて射出しながら、私はそう呟く。
キルログを見た感じだと、キルしたプレイヤーはおよそ14万人というイカれた数字を叩き出している。こんなに参加者いるんだね……
だが、これだけやってもまだ生き残りがいる。さすがにこれどけの数をキルしてしまったせいか、分身も含めて敵を発見するのが難しくなってきている。
中には私や、私の分身に挑むプレイヤーも存在しているが……現在生き残っているプレイヤーのほとんどは、隠れてやり過ごすことを選んだのだろう。
だが、今の私にはそういったプレイヤーを探し出す手段もある。条件は満たした、今から———
「見つけた」
勘に従い、即座に転移を発動する。振り返ると、そこには桃色のエフェクトが発生していた。
この私に不意打ちができるほどの能力を持っているところもヤバいのだが、聞いたことある声だというのが一番のヤバいポイントであった。
私が頭装備を解除して素顔を晒すと、そこにいた桃色の彼女が顔を明るくする。
「おひさだね、ユキ?」
「……」
LapiS.Lazuli……通称ラピス、本名は瑠璃坂サクラ。
私と彼女は以前……そう、私がクランから追放されたあのゲームで、よく一緒にプレイしていた。
元々、私が追放されたクランも2人で作ったものだったし、追放される少し前までは仲良くやっていた。
だが、私はあのクランを追放されてからというもの、彼女と一度も連絡を取っていなかった。理由は怖いから。
「じゃあ……昔みたいに、やろっか?」
「はぁ……」
昔……前のゲームを私がプレイし始めた頃、彼女は私とよく殺し合っていた。それはなぜか?
理由は単純だ。彼女はPKで私はPKKだったからである。
「そういえば、ラピスはこのゲーム……どういうプレイをしてるの?」
「わたし?わたしはね……正義の味方、かな?」
「……?」
私の記憶にあるラピスは、楽しげな表情で初心者プレイヤーを虐殺していたはずだ。これは偽物か?それとも記憶喪失か?
「ユキ……わたしはなぜ、みんなを殺してたんだと思う?」
「サディストだからじゃないの?」
「わたしはサディストじゃないよ……?」
こほん、と咳をしてラピスは話を続ける。
「それはね……」
「あなたの敵になりたいからだよ———【桜花散閃】」
突如として刀を抜いたラピスは、私の首元に向けてそれを滑らせる。
「じゃあ最初はなんだった……のっ!」
間一髪、霧化によってそれを逃れた私は手元の剣を彼女に発射する。が、これは一刀の下に斬り落とされた。
「覚えてないの……?」
「いや、あのゲームが私たちの初対面……ちょっと待ってよ、まさか……」
「『アポカリプス・オンライン』に『シロップストーリー』……『ADAM ONLINE』や『World of Workcraft』……『赤い砂漠』なんかもやってたよね?」
かつて私がやっていた、非フルダイブのMMOゲームの名前がいくつも挙げられていく。
「どのゲームでも粘着してくるPKいるなぁ、とは思っていたんだよね……」
「そうそう、それ全部わたしだよ?」
私たちは言葉を交わしながら、いくつものスキルを撃ち合っていた。
なぜ私が急に苦戦しだしたのか?
分身が他の場所で準備をしているため、これに参戦できていないという理由もあるにはある。
だが、それに加えてもう1つ……彼女が普通に強いというのも理由として存在する。
「———【桜吹雪】」
ラピスの周囲に桜色のエフェクトが散り、私にもダメージが入る。
「桜———」
その言葉が聞こえた瞬間、瞬時に後ろへと飛ぶ。が……飛んでから気づいた、これ多分ブラフだ。
「———吹雪」
先程とは違い、発生したのは黒いエフェクト。さっきは周囲を攻撃するだけのスキルだったが、今使われたのは斬撃を飛ばすものだった。
そもそもこのゲームのスキルは、大体が声に出さなくても発動できる……わざわざ口に出してる時点で、それがなんの意味もないブラフだと気づくべきだった。
だが幸い、受けたダメージ自体はそんなに酷くない。ギリギリ霧化による防御が間に合ったらしい。
「ちょっと本気出そうかなぁ……!」
「ふふふ……それ、ちょっと遅いよ?」
だって数の暴力が一番おもんないからね。私は禁じ手……1v1での分身を解禁した。
そもそも準備をしているのは10体程度だ。別に最初からやろうと思えばできたのだが、初手でやってしまってはつまらない。
どこかでこういうのを見たことがあるだろう。そう、例えばバトル漫画の敵とかが舐めプしたりとかね。
舐めプは負ける可能性をわざわざ増やす、メリットのない行動でしかないとはよく言われる。だが……
舐めプして楽しむというのも悪くはない。だって圧倒的な差がある状態での1v1は本当にシラけるから。
それは『アポカリプス・オンライン』で私が粘着PKされていた時に害悪PKer『天使ちゃん』から学んだことである。一方的なイジメって本当に面白くないからね、マジで。
「【剣界】ッ!」
分身も含めた合計10人が、一斉に百剣天帝の奥義を発動する。
ラピスの周囲に位置取った大量の剣すべてが、その切先を彼女に向ける。
その数、およそ1000本。
「やたらと私の剣を弾いてたけど、これだけの数は無理でしょ?」
「さぁ?どうだろうね……?」
意味深な表情を浮かべながら、ラピスはそう答えた。ならば私もそれに応えるのみである。
すべての剣が彼女に放たれ———
【被ダメージ軽減】
クリティカルが発動するだけで完全無視されてしまう可哀想なステータス。2080%積んだら100%カットだぞ!やったね!
2080を越えて更に積んだ場合、攻撃を受けると逆に回復するようになる。つまり自分で自分を攻撃すると回復する。
【百剣天帝の極意】
天終:指定の敵単体に全耐性貫通の大ダメージ
地焉:自身の周囲に爆破ダメージ
剣界:指定の敵単体に連続ダメージ
剣翔:自身の周囲超広範囲に小ダメージ
冥破:自身の周囲に攻撃参照の魔法ダメージ
虚滅:指定箇所の周囲広範囲に連続ダメージ
※まだ解放していないスキルが存在する
【ヒーラー不要論】
このゲームでは、基本的にすべてのプレイヤーは万能ビルドになるように設定されている。火力ビルドをしているプレイヤーには自己回復系のスキルが生えるようになるし、ヒーラーは回復量に応じて火力が上がるスキルを得たりする。ソロプレイしたいプレイヤーが多いだろうと判断したためのバランス調整です。
【ラピス】
モチーフとなっているキャラクターはいるが、かなりマイナーなので多分誰も知らない。なんならそのモチーフ最大の要素を引き継いでないので知っていても気づけないと思う。髪色と喋り方で分かる人はいるかも。
下の方から評価してくれると嬉しいです。




