Ep.65 Noxes Intrusion II:アウロンなら端っこの方で寝っ転がってるよ
「【ありのままで】」
肉が裂ける音。
私の下半身がぐちゃぐちゃに弾け飛び、そこから無数の触手が生えていく。
触手たちは瞬く間にそのサイズを肥大化させ、1秒も経たずに私の身体が化け物へと変化した。
『自制を捨てる選択か———長くは持たんぞ』
『自制を捨ててないからこの程度で済んでるって話なわけよ』
私の肩……肩と言っていいのかは分からないが、ともかく化け物の肩あたりにモーヴちゃんが着地する。
「やっぱりその姿の方が落ち着く?」
『正直言うと落ち着くね』
「うへぇ」
なんだその反応は。食べるぞ! 私は触手の先っちょをぐぽりと開いた。
「……キモ」
『さて、じゃあ気を取り直して……やろうか。【エフェメラルコール】』
霊のようなモンスターたちが召喚され、そして———
ズン!という鈍い音と共に、霊の胸の内側から黒い槍が飛び出した。
霊を構成する魔力は弾け飛び、ポリゴンとなって霧散する。
「召喚失敗?」
『いや、これでいい』
これ自滅カウント回避用の魔術だからね。【Obsession Chronicle】はこういうの簡単に作れて便利やなぁ……
『なるほど、暴走を抑えるには良い手だ。どうやら無力な代わりに干渉不可……ワタ人のような性質を持っているらしい』
『一瞬で解析されるとこっちとしても困るなぁ』
『こんなに単純ならすぐに分かる。さて、いくら力を増そうと本物の“戦闘”には敵わない……それを私が教えてやろう。来い、アステリア』
ぐぐ……と、バネのようにノクセスの両脚が縮み、力を溜めていく。そして———
『【ジェットムーヴ】』
『あ……?』
ここに来て初めてノクセスがスキルを使用する。猛烈に嫌な予感……っ!
何も考えず、すぐさま転移を発動する。短距離転移ではあるが、ひとまずこれで回避———っ!?
目の前には、既にノクセスの姿が迫っていた。早すぎる、このままだと———死ぬ!
「私に任せ———ぐぺえっ!?」
『ナイス肉盾!』
短距離転移スキルか何かで私の元へ転移したアウロンが、その一撃を受け止める。しかし威力が強すぎて私まで一緒に吹き飛んだ……まぁ即死しなかったならセーフだ。
しかし奴の追撃はまだ———
「私がやります、【Perfect Defense】」
『むっ……!』
剣と盾を十字にクロスさせ、その中心で……モーヴがノクセスのパンチを受け止める。
同時に、ノクセスがスキル発動後から纏っていた白いオーラが消え去った。
『……時間切れか、やるじゃないか。まさか受け切られるとは思っていなかった』
こっちも受け切れるとは思ってなかったよ。けど……受けきったなら、ここからは反撃の時間だ。
『【ホロビノホウコウ】』
口をかっぴらき、そこから灰色のビームを放つ。これ別に口からじゃなくても放てるんだけど、こうすると手が空くからね……!
私は口からビームを発射しながら足の触手をもぞもぞ動かして走り出す。
そのまま右手のアストライア、左手の新武器【模造終幕剣アルカロム】を構え……ラピスから借り受けたスキルを発動する。
『【桜吹雪】』
『なっ……!?』
ラピスのオリジンスキルは私に全てを捧げることに特化している。
前に彼女のスキルやレベル、種族などすべてが私のものになった時……それが解除されても一部のスキルは私に残ったのだ。
どうやら彼女のものを借りパクしているという訳でもないらしく、単純に私のビルドと相性のいいものが少しだけこちらにも残ったらしい。
これいつものアレね、スキルの能力解説欄に書いてないやつ。オリウォあるあるすぎるけど……
桜が散るかのようなエフェクトと共に、ノクセスの身体に傷が入る。お? やっぱ防御無視は効く感じ? というか、もしかしてやたら硬いだけでHPは低めなのか?
『【リカバリー】』
ノクセスの傷が一瞬で癒える。クソゲーだなぁ!!!
『ならもう一撃で決めるしかないよねぇ……【のぞむままに】、アセンショ……これ以上サイズ大きくすると動きづらすぎるな、やっぱりやめよう』
2段階目はだいたい30m級のサイズ……しかし3段階目では100m近くまでサイズが肥大化してしまう。戦闘フィールドが広めだとはいえ、さすがにそこまでデカいと的でしかない。
『見た目のわりに、高まっているのは主に演算能力か?』
『プライバシーを侵害するマネキンは店頭に置いてもらえないぞ!』
『あいにく旧式なのでな、今のマナーなぞ知らぬのだ。老人と言った方が分かりやすいか?』
コイツ意外とちゃんと返してくるな……しかも身ぶりがめちゃくちゃムカつく。やれやれ……じゃないんだよ。
『残念ながら、お得意の隕石は島を守るバリアで防がれるぞ?』
『なら壊すだけだよ』
『しかしそれより決着の方が早い』
おうおう、映画でよく見る感じのファイティングポーズ取りやがって……私以外は眼中にないのか?
まぁそれもそうだ。モーヴちゃんは隠密系のスキルを多く所持しているとのことだし、アウロンは影が薄い。そりゃ見失う。
さっきからモーヴちゃんには不意打ちさせてばっかだけど、私がわざとらしく演算をしている間に……ちょっとだけちょっかいをかけて貰おう。
「【Killing Draw】」
気づかれていない場合、威力が6倍になるという破格の効果を持つスキル。その凶刃がノクセスの首を狙って放たれる。しかし———
『気づいていないとでも?』
「アウロンッ!!! 守れ!!!」
今のセリフは私ではなく、モーヴちゃんのものである。もうリーダーとすら呼ばなくなってしまった……ていうかこれ間に合うのか?
「【Blink】ぁぁぁっ!?」
どうやら転移スキルのクールタイムがギリギリ終わっていたらしい。モーヴの目の前に転移した金髪がまたもや片腕で吹き飛ばされる。
『時間稼ぎありがとう、〔複写・超過・超暴走・プライマル・メテオ〕』
空が真っ赤に染まる。巨大な影が島に落ちる。
『そんなにバリアの強度に自信があるなら……これも耐えられるんだよね?』
『ふむ、予想以上の数だが……問題はない』
そう言いながら、こちらへと向き直るノクセス。コイツが断定するんならそうなんだろう、しかし……
◇フィールド端———Auron
「こ、これを使えばいいのか……?」
アステリアから『合図があったら使え』と言われて渡された謎のアイテム。見た目はまるで、ウイルスをホログラムにしたかのようなもの。
そして彼女が装備しているのはフライパンのような武器。これらはペアで力を発揮する。
アウロンは知る由もないが、これはヒバナが街のバリアを破壊するのに使用した力———それを彼女自身で実体化させたものである。
名前は変わらず【ウィークポイント・ウィルス】、そしてこれをフライパンのような武器を用いてバリアに注入すれば———
「えい」
コツン、と軽い音。
しかし、それだけで……この地を外界と隔離するバリアが砕け散る。
キラキラと輝くバリアの破片、そして空に見える隕石群———アウロンは巻き込まれて死ぬ自分を幻視した。
そして2秒後、その予想は現実のものとなったのだった。
【HPループビルド】
モーヴのビルド。HPをMPのように扱うパッシブスキルと回復魔法でスキルをぶん回し続ける。現環境の答えと言われており、実際アステリアもほぼこんな感じになってるので正解。
というかこれ調整ミスでは……?
【Shamazrian Familiar Link】
実質残機∞
アウロン以外(特にアステリア、ラピス)が持ってたらカチ壊れだった。まぁ強いプレイヤーにここまでヤバいのは渡されない。
【Blink(英語版)】【瞬転(日本語版)】
短距離転移スキル。人権と言われている。実際かなり強いし、使い道が多岐にわたる。
【模造終幕剣アルカロム】
【Arcallom, Sword of The WorldEnd】とかいう誰も装備できないゴミをガワだけ再現した剣。普通に強い剣ってだけ。防御無視ガン盛りではあるので中々に使いやすい。
【Bausmana, the Ring of Thorned Oath】
これから書くか怪しかったのでここに。商売魂!のアルテルトがクエスト報酬としてアステリアに渡したアクセサリーであり、秒間6の固定ダメージを受ける代わりに色々な強化(特に魔法系)をもたらす。現在アステリアが装備中。
Blood消費トリガーのパッシブスキルを常に起動し続け、ダメージを受ける度にBlood回復のスキルも同時にトリガーする。ハマるとぶっ壊れるアイテム。
秒間6ダメって実は結構重たいので、その分本体の強化量も多い。
よければなにとぞ、下の方から☆☆☆☆☆をいただけると嬉しいです。




