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Ep.61 「——————アズド、ルナリエ?」……ちょっと待った。アズド・ルナリエっていうのは、たしか古代オーヴァの英雄の名だ。起源教における最大の人物であり……(以下略)

「やっほ、アウロン。私に会いたかったかい?」


 なんかダウナーお姉さんロールプレイが抜けきってない気がするが、まぁ昔は基本ずっとこんな喋り方だったし……ひとまずこのままでいいや。



「お、お前……あんなことやっといてよく平気で私に挨拶できるな……?」

「昨日の敵は今日の友って言うじゃん?」


 これどういう感じで翻訳されてんだろ、あっち。海外でも似たような言葉あったりするのかな?



「それにしてもだ、アステリア。お前昨日私のこと踏み潰しただろう」

「えっ…………ごめん、覚えてない」

「そ、そうか……そうか……」


 ガチ悲しみやめてね。



「で? アウロンちゃんはこんなところで何してたわけ?」

「そっちこそだろう。私たちの方では昼過ぎだが、お前のところだと今は……朝四時くらいじゃないのか?」


 おはよう!朝4時に何してるんだい?ってか? ずっとゲームしてるだけだぞ。ヒバナはヒバナでド級の夜型……ド夜型だからね、彼女は完全に昼夜逆転してしまっているんだ。



「私は空島が発見されたって聞いたから来てみただけだよ。こんな時間なのは……まぁずっとこのゲームやってるからね、たまたまこの時間に来ただけさ」

「……嘘はついてないんだろうな、嘘は」


 あらら、意外にもアウロンは私のことをちゃんと理解しているらしい。そうだね、嘘はついてないね。



「ま、そんなのはどうでもいいか……私もここを探索しに来ているだけだからな」

「ふーん……なら一緒に探索する?」

「えっ!? ………………………わ、分かった。一緒にやろう! うん、そうしよう!」


 チョロくて助かる〜〜〜!!!







Asphendy(歓迎の浮), the() Floating(アスフ) Isle() of() Welcome(ディ)———アステリア/Auron



「ここはアスフェンディ唯一の村、名前は……なんだったか忘れたけど、とにかくそういう場所だ!」


 情報がほぼない解説をありがとう、アウロン。



「言っておくが、殺すなよ?」

「こんな少数殺したって面白くないじゃん。あと、NPCあんまりたくさんキルしてると面倒なペナルティ付くようになったからさ……ね?」

「……まぁ理由はどうあれ、やらないならいい」


 そう言った彼女と共に、木で出来た門をくぐって村の中へとお邪魔する。なんかエルフの村って感じの雰囲気だね、住民は全員天使の羽生えてるけど。



「あっ! お姉さん、おかえり!」

「ただいま。いつもお迎えしてくれてありがとう!」


 トテトテと彼女に近寄ってゆく天使の少女。ぎゅっとアウロンに抱きついた少女の頭を、彼女は優しく撫でていた。



「へぇ? ここに来てから何日か経ってるみたいだけど……」

「アステリア、余計な詮索はナシだ」

「そっちの白いお姉さんはなんて名前なんですか!?」


 天使の視線が私に向けられ、その眼差しはキラキラと輝いているような気がした。ま、眩しい……!



「私はアステリア、神聖剣を持つ勇者だよ」

「魔王の間違いだろ……あひゅっ」


 天使の少女からは見えない位置で、ひっそりと伸ばした触手がアウロンの首をじりじりと絞めている。余計なこと言わないで……ね?


 アウロンは小さく頷き、謎のジェスチャーをした。


 ……あ、締めるのやめろってことね。オッケーオッケー。



「? お姉さんたち、今何かしてた?」

「いや、何もしてないよ。多分気のせいじゃないかな」

「かひゅっ、かひゅっ……(首をコクコクと動かす)」

「ふーん……? まぁいっか! ねぇねぇ白いお姉さん、あなたはどうしてここに来たの?」


 理由、理由ね……まぁアウロンに言ったのと同じでいいだろう。私は彼女に“好奇心かな?”と伝えた。



「へー! お姉さん冒険者って感じの人なんだね! わたし、冒険すきー!」

「ヤンチャな子なんだね」

「えへへー! わたしヤンチャな女の子だよ! あっ! ねぇねぇ、白いお姉さん。お姉さんはこの村の壁画を見たことある!?」


 壁画……?



「いや、多分見てないかな」

「そうなの!? それ人生の半分ぐらい損してるよ!」

「そんなに……?」


 いかん、この子と話してると……なんだか親戚の子と話しているような感覚になってくる。今更だけど、このゲームのNPCはかなり人間っぽいね。

 ほぼ即殺してたからあんまり気づかなかったけど。



「クエストの壁画だ。アレを見たらクエストがはじま「アウロン、それネタバレだよ」……すまない、悪いクセだ」


 アウロンは自然とネタバレをこぼすタイプの人物である。

 なお、私もそうだ。

 いやぁ……ネタバレしないようにはしてるんだけど、なんか気づいたら口止まらなくなってるっていうか……



「しかし、お前は変わっていないな。やはり根は考察勢とかそっち方面らしい」

「まぁこのゲームはあんまりそういうのやってないけど、そういう背景情報とかストーリーとかは好きだよ」


 実際、気になった単語とか人物とかはちゃんと調べるようにしている。


 【無手の極意】のフレテキに書かれてる人物とか、魔法の教科書を書いた人物とかも調べてるしね。



 そんなことを話しながら少女についていく。そして、村のはずれにある巨大な石の壁へと辿り着いた。



「これが村の壁画だよー!」


 そこにあったのは、思わず息を呑むほど精緻な壁画———ごめん、息は呑んでないわ。


 村のはずれの岩壁いっぱいに広がる古いレリーフの、その中心にひとりの人物が刻まれている。

 それは長い黒髪を高く結ったポニーテールの女性であり、まるで浮かんでいるかのような姿勢で……両手は空を仰いでいる。

 彼女の周囲には十数本の剣が浮かび、まるでその意思に呼応するかのように放射状に展開していた。


 壁画の下面には宝箱のようなモンスター、ミミズのようなモンスター、花のようなモンスターが描かれており、それらはその女性に怯えているかのようであった。



「これはねー! この空……スカイエリアを襲ってきたすごく強いモンスターを倒した英雄……アズド・ルナリエさまを描いた壁画なんだって!」




「——————アズド、ルナリエ?」


 ……ちょっと待った。

 アズド・ルナリエっていうのは、たしか古代オーヴァの英雄の名だ。

 起源教における最大の人物であり、人間の悪性を守護する夢創神、あるいは終末神と九千年間戦い続けるという、悪性の否定者。あるいは“百剣天帝”

 起源教はこの二柱の悪神と英雄による確執が主軸になる物語で、この世界で終末と英雄の二元論を形にした最初の宗教だ。



「急に語り出してどうしたんだ、お前。なんか変だぞ、知識が偏ってるっていうか……」

「“百剣天帝”の名前は何度か目にしてるからね、ちょっと気になって色々調べたんだよ」


 しかも、どうやらこの人物は今も生きているかもしれないのだ。


 その伝説を記した石板には“今も戦い続けている”みたいな内容が書いていたからね、多分まだ生きてるはず……誰かに殺されでもしていなければ。

 まぁ強いだろうし、そんなことはないと思うけどね。



「すごい! 白いお姉さん、詳しいんだね!」

「えへんえへん」

「お前、そんなにほんわかしてたか……? もっとこう、ねちょっとした感じの……あっ分かった分かったからやめて(小声)」


 私は彼女の首元に近づけていた触手を退かせた。悪口禁止!



「あれ……? ねぇねぇお姉さん、そのなんか気持ち悪いタコみたいなのは何……?」

「これはね、私の息子さ」

「息子!? お姉ちゃん、ママだったの!?」

「おいお前、流石にそれは……いや、うん……」


 ん? アウロン、今何か言ったか?

【“百剣天帝”アズド・ルナリエ】

偽名。アステリアは生きてると思っているが、つい最近死んでしまった。誰が殺したんでしょうかね!



あ、よければ下の方から★★★★★をいただけると嬉しいです。作者がとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとても喜びます。

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