Ep.59 ダウナーお姉さん(クズ)(ダウナーではない)(そもそも男)
◇アメリカサーバー
さて、再び私はアメリカサーバーにやってきた。場所はオイレリスから遠く離れた【Anode Canyon】……いたるところに歯車が突き刺さっている渓谷である。
アメリカサーバーは機械系のモチーフで統一しているのかなぁ……? なんかやたらと機械をよく見るよね。
で、目的地はこのすぐ近くらしいのだが……なにせ空島関連の情報はネットにそこまで載っていないのだ。
だから現地の人に聞き込みでもしよう、という流れになっている。もっとヒバナに色々聞いてから行けばよかったかな……
「そこのキミ、ちょっといい?」
「え? ボク?」
そうそう、そこの中身の年齢が若そうなキミだよ。なぜ中身の年齢が分かるか……それはこれまでの経験によるものである。主にNEXUSやってた時の、ね。
ということでこのダウナーお姉さんに色々と情報を吐き出してもらおうか……! ダウナーじゃないだろお前とかツッコんではいけない。そもそもネカマって話も禁止だ。
「最近、空島に行ったプレイヤーがいるって話なんだけど……キミはこの話、聞き覚えないかな?」
「え? それ多分ボクのクランの話だよ?」
「えっ」
マジかよ、1発で当たり引くとかある?
「じゃあ、お姉さんにその話聞かせてくれないかな?」
「は? どうせネカマだろお前」
殺すぞクソガキが!!!
「……お姉さんに、その話聞かせてくれないかな?」
「……まぁどうでもいいから教えるけど、まず【Phantom Spire】っていうダンジョンの頂上まで進むんだ」
ふむふむ、それで?
「で、そしたらそこにパチンコみたいな形の装置があるから……それに乗って飛ばされたら行けるよ。あ、これ以外の方法で行こうとするのはやめた方がいいよ。空島と地上の間の空間はスキルとか特性とか魔法とか全部無効化されちゃうからね」
「なるほど、ありがとう。ところで、その塔の場所は教えてくれるかな?」
「うーん……まぁいいか」
そう言って中身がクソガキの洋ゲー主人公アバターはマップを開き、とある箇所を指差した。
そこは火山のようなエリアの中心———火口部。
「ま、これ以上は教えらんないかな。あとは自分で探しなよ」
「ありがとう、おかげで助かったよ」
「そりゃ良かったね、ところでアンタの名前は?」
「私はアステリアだよ。どこかで聞き覚えがあったりするかな……?」
「アステリア……? あ、お前まさか機械戦争の時の……」
その続きを言い終わる前に、クソガキの頭と身体は真っ二つに別れた。
はーっはっは! ダウナーお姉さんをネカマ呼ばわりするからこうなるんだよォーッ!!!
そして、私はドロップしたクソガキのアイテムを拾いながら火山へと向かうことにした。うーん、アイテムはしょっぱい……
◇Vulcan Crest———アステリア
火山エリア【Vulcan Crest】はその名の通り、王冠のような形をした火山を中心としたエリアである。
ここ一帯は温度も高く、本来は色々と対策が必要なのだが……〔独自〕コマンドは偉大である。クーラーのような働きをする魔法でそこは完璧に対策済みだ。
「おうおう、不人気なエリアだなぁ。まぁ塔の情報があんまり広まってないからってのはあるんだろうけど……ヒバナはこの情報どうやって見つけたんだ……?」
もしかしてヒバナは結構このゲームをガチっているのだろうか。
海外の情報まで調べに行くとか、熱心な考察勢ぐらいでしか見たことないけど……
「っと、火口までは着いたね……ここから先の情報も教えてくれたら良かったんだけどなぁ」
この火口に透明な塔があるらしいのだが、普通に見えないだけで誰でも入れる……なんてことはないだろう。
それならもっと早く発見されているはずだ。検証勢やアホな奴らはすぐに火口に飛び込むだろうしね。
「うーん、どうすればいいんだろうか……あ、マグマダイブするのか?」
対策せずにマグマに飛び込めば、おそらくプレイヤーなんて一瞬で死ぬだろう。現実ではどうなのか知らないが、少なくともゲームだとそんなに長く耐えられないはずだ。
しかし、ゲームだからこそ……そういうのは事前に対策できる。
「そうと決まれば……んー、まぁゴリ押しでいいか。〔超過・超暴走・アークリジェネシス〕」
効果は単純、超強力なリジェネを付与する。これで持続回復し続けてどうにか潜りましょうね〜
一応防御アップや火属性耐性を付与する魔法も使用し、これで準備万端。私は『ひゃっほう!』と叫びながら火口へと飛び込んだ。
ドボン!と音が聞こえる。耳元に何かドロドロとしたものが流れ込むような感覚……視界は真っ赤に染まり、全身がビリビリする。
「溶岩の中で目を開けて喋れるっていうのは、かなりゲームだけの体験だなぁ……」
いいよね、こういう不思議体験。
しかしここは深いね、もう20mくらいは沈んでるような気がするけど……これは当たりかな?
「お?」
ずぼっ、と足元が溶岩から抜け出す感覚。続けて身体もそこから抜け出し、そして私の頭も溶岩から抜ける。
私の身体は重力に従って下に落ち、そしてその目に捉えたのはガラスのような材質で作られた巨大な塔。
しかし、その塔にはおかしな点がひとつあった。塔が逆さまになっているのだ。そしてそれが遥か下の地面に突き刺さっている。
「よっと」
私は咄嗟に盾を生成し、それを浮遊させて足場とする。どうやら溶岩の下には空洞が広がっていて、その中心……溶岩湖の真下に塔が位置している。
そのまま私は、塔のてっぺんに降り立った。
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発見:極限ダンジョン【Phantom Spire】
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指でコンコンと塔の床を叩き、その材質を確認する。こんな音が鳴ってはいるが、その感触は少しふわふわとしている。
しかし、壊せるような感覚はまったくない……おそらく【不壊】は付与されていることだろう。
「ま、予想とは違う見た目だったけど……やる事は変わらないか。さて、攻略といこう」
そして、私は塔のてっぺん……その中心に備えられた階段を降りて……降りてるのか? まぁどっちでもいいや。降りていったらしいよ。
【ダウナーお姉さん】
この主人公はダウナーお姉さんをなんだと思っているのだろうか。謎は深まるばかりである……
【回復魔法】
アステリアはスキルの効果によりHPとMPが存在せず、その分がBloodに加算されている。そして、BloodをHPやMPとして扱う。
つまりはHP回復魔法を使うと“Bloodを消費してBloodを回復する”ということになる。
ちなみにこのゲームの回復魔法は、消費したMPより回復するHPが圧倒的に多い。
本来は魔法の演算に時間がかかるので、そこまでバランスは壊れていないが……?
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