Ep.56 いかにしてネカマ吸血鬼が追放されるに至ったのか?
◇かつて、別のゲームにて———アステリア
「やっほ、アイラーティくん。急で悪いんだけどさぁ……【破滅の龍鱗】をカンスト分集めて欲しいんだけど、できる? 別に嫌だったらいいんだけど……」
「え、カンストって999個ですか?」
「うん。面倒なのは承知で……お願い!」
「えぇ……いや、うーん……」
「量が量だから他の人に任せるのも出来なくて……キミにしか頼めないんだよ、だからお願い! ね?」
「しゃーないっすねぇ……分かりましたよ」
「アイラーティくん、ありがとう! この恩は忘れないよ!」
さて、これで1ヶ月後のNEXUS第一部終焉クエスト———統一魔王メイノドーラ討伐戦の準備は整った。
あと何かやらなきゃいけないことは無かっただろうか。今作のドリメカはやたらと敵を強くしてくるし、ドリメカ第一作———“=Nospira”などとは違い、勝ち確のイベントなんて絶対にやらないだろう。
だからしっかりと準備する必要がある。
しかしなんなんだこの条件は。各種ボスの素材999個必須って頭イカれてんじゃないのか?
「ま、言うこと聞く奴隷が沢山いて助かったのは幸いかな……」
これで合計10人が素材集めを手伝ってくれることを確約できた。彼らなら1週間あればなんとか……いや、さすがに2週間は必要か? まぁ間に合うならどっちでもいい。
「アステリア、少しお前に話がある」
「ん? どしたの、右腕ちゃん」
右腕……あだ名ではなく、プレイヤーネームのことだ。
彼女はこのクランの副リーダーであり、私がクラン作成時にそれを指名した。今ではラピスがリーダーになったが、彼女は副リーダーの位置から変わっていない。
見た目は緑色の髪という印象以外に突出したものはない。だけどまぁ、そういうキャラクリする人間だからこそ副リーダーに選んだんだよね。
「最近、このクランの一般メンバーがお前にこき使われているように見えるのだが」
「えー? 別にいいでしょ、どうせ元々そういう使い方もする予定だったしさぁ」
「それとこれとは話が違う。第一、お前自分の性別をあいつらに教えてないだろ?」
「いや、何人かにはバレてるよ」
「えっ?」
別に男だとバレても人間なんて簡単に堕とせるだろ。それはVRの黎明期から分かりきっていたことだ。
「ん”ん”っ! ともかく……そんな風に他人を扱うのはやめろ、アステリア。最近のお前はゲームに本気になり過ぎている……悪い意味でだ。何かあったのか?」
「……何もないよ。そもそもキミには私のやり方なんて関係ないだろ?」
「まぁ、それはそうなんだが……」
「ならいいでしょ。ね?」
「ねー」
隣にひょっこり現れたラピスが私の言葉に同調する。いつの間に……
「むぅ……まぁ、今日のところはいいんだが……ほどほどにしてくれ」
「分かってるって。大丈夫、私を信じてくれればいいから」
「……」
そして、私は素材狩りのためにメニューからマップに転移した。
「ねぇ、右腕ちゃん。ちょっと話したいことがあるんだけど……」
◇統一魔王メイノドーラ討伐戦
『これがわらわの本気だ———雑魚共よ、わらわにひれ伏すがいいっ! ふはははははは!! “ギャラクティック・インパクト”ォ!!!』
金髪のロリが長身女性の体型へと変化し、その拳に周囲から青いエネルギーが集まってゆく。
「守ります、“アブソリュートガード”」
「“アブソリュートガード”」
「“防御の布陣”」
「“スコルテリス・コンセントレーション”」
「“カバー”」
「“ペネウェイト”」
魔王の拳を前に、6人のプレイヤーが立ちはだかる。他のプレイヤーはほぼ全員死に、今はリスポーン待ちだ。これが全プレイヤー参加のイベントだってのが笑えない。
「あとは、頼みます———」
青い力の奔流に全員が消えていく。私もその光に呑まれるが、彼らが全力で肩代わりしたおかげで生き残ることに成功した。
『む、1人残ったか……』
「私の可愛い下僕たちを容赦なくぶっ殺してくれちゃってさぁ……慈悲とかないの?」
『慈悲? お前たち渡り人に与える慈悲などないぞ。わらわが“ネクサス”に辿り着くのを邪魔する者に温情など与えんよ』
このゲームはかなりクオリティが高い。AIも自然だし、戦闘は楽しい。素材をたくさん集めて武器を作るのだって楽しい。
だが、敵の強さだけが本当に異常だった。
これまでに何度もこういった大規模戦闘はあったが、その3割ほどは私たちプレイヤーの敗北で終わっている。
イベント専用のバフまであるのにこのザマだ。ドリメカは急に気が狂ったらしい。これまでのゲーム体験優先デザインはどうしたんですか?
いや、まぁ細かいところは体験優先なんだけど……ボスだけ本当におかしい。
今の一撃もそうだ。私以外の全員がHP満タンから一気に即死、私もほぼ瀕死……
そして、あの技を撃たれた瞬間にマップの背景も変化した。星が砕けるエフェクトと共に、平原から宇宙空間の背景へ。
こういうところは、夢のフルダイブゲームから遠いところだよね。
「そっちがそうなら……私も本気だ」
『む、その剣は……』
あの肉壁になってくれた下僕たちが集めた素材で作った剣……効果は完全なるメイノドーラ特攻。
このゲームの大規模イベント戦闘は、こういった特攻武器を装備したプレイヤーの数でほぼすべて決まる。
2回目のイベントくらいからこれは周知され始め、何回目か忘れたが……途中からほぼすべてのプレイヤーが“ちゃんと特攻武器を装備してイベントに参加する”ということを意識しだし、そこからイベントでの敗北は無くなった。
しかし、今回は必要素材が多すぎるのでこのザマである。私たちぐらいしかこの武器を作れていない。
『おもしろい、わらわが遊んでやろう!』
『くっ……こ、このわらわが負けた……だと?』
あの後、何度も何度も復活した下僕たちを肉壁としながら私は戦った。
明らかにHPを削る速度が少なかったが、運営もこの武器の制作難易度を理解していたのか……他のレイドボスと比べれば、ほぼ1人で与えているダメージにしては削れていた。
途中からは追加の特攻武器を完成させたラピスも戦闘に加わり、さらに戦況がこちらに傾いた。
制限時間である1時間が過ぎようとした時、その3秒前……私の攻撃でメイノドーラのHPバーの赤色が完全に消えた。そして今に至る。
『認めん、認めぬぞーっ! わらわが負けるなんて、そんな……』
「認めるんだ、メイノドーラ。お前は負けたんだ」
私の口が勝手に動いて、そんな言葉を発した。このラストアタック賞考えた奴マジでイカれてるだろ、どんだけプレイヤーに恥かかせたいんだ……
『嫌だ、いやだ……』
「これよりお前を次元の果てへと追放する。二度とここには戻れない」
『そ、そんな……いやっ、やめてっ!』
普通に可哀想な反応すんのやめて?
別に私も本心でこんなこと言ってる訳じゃないからそこは勘違いしないでほしいな!
そういった私の心情とは裏腹に、私の手元には謎の槍が握られていた。これ何? いつの間に手元に?
そう思ったのも束の間、私はその槍を遠くに投げ———そこにワームホールが現れる。
「さようなら、メイノドーラ。これでお前は本当に……終わりだ!」
『いやぁーっ!!! ヤダーっ!!!』
そう言いながらワームホールに吸い込まれていくメイノドーラ。しかし彼女も魔王である、全力でワームホールの縁に掴まっていた。掴めるもんじゃないだろそれ!
『お、覚えてろよ渡り人共……! わらわは必ず“ネクサス”に辿り着く……そしてお前たちに復讐してやるのじゃ! あーっはっはぁぁぁっ!?!?』
そう言い残して、彼女はワームホールの中……次元の果てへと追放された。
……あ、ムービーパートここで終わりなんだ。なんかラストにしてはあっさりしてるね。
◇オリジンズ・ウォー
「……ん。」
なんか変なこと思い出したな。そういえば右腕ちゃんはあんなこと言ってたっけ……まぁどうでもいいことだ。
「あ、次の人どうぞー」
少々休憩していたが、とりあえず面接を再開しよう。一応彼女らのことは信用しているのだが、やはり本当に下僕たり得るかは自分の目で確認しないことには分からない。
「クランメンバー募集してたので来ました、アイラーティです。アステリアさん、また一緒に戦いましょう!」
「あー……んー……」
ちょっと厄介になりかけてる感あるからダメ。私はそれをオブラートに包みながら言い放って彼を即座に帰らせた。
クソ落ち込んでいたが仕方ない。
私は引き際を弁えてるんだよ、あくまで“ちょっといい雰囲気”を維持するぐらいが丁度いいってね。
それ以上いくとガチの問題が起きかねない……私はそれをちゃんと理解しているのだ(一敗)
【レイドバトル(NEXUS)】
大量のチャンネルに分けられ、パーティやクラン毎に戦闘する。ラストアタックを決めたプレイヤーはムービーパートの代表ポジを獲得!
別に罰ゲームではないが、言動を恥ずかしく感じるプレイヤーは多かった。
【特攻武器(NEXUS)】
メイノドーラの特攻武器はこんな感じ↓
武器【起源へと別れを告げた夜】
《攻撃力:9500》
《魔族に対してダメージ増加:5000%》
《魔族に対してダメージ軽減:25%》
《夜間に最終ダメージ増加:20%》
《夜間に最終ダメージ軽減:5%》
《レイドバトル中にダメージ増加:5000%》
《レイドバトル中に耐久力低下無効》
《フィールドが“銀河”のとき最終ダメージ増加:500%》
《フィールドが“銀河”のとき最終ダメージ軽減:65%》
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