Ep.55 コリジョン —ショーダウン—
◇オイレリス正門———ヒバナ
「くそっ、なんでアタシがこんな目に……」
彼女は切り落とされた両手を補完するために、義手を装備しながらそう呟いた。
これは彼女自身が作り出したものではなく、ラピスから借り受けたものだ。そこも彼女の無駄に高いプライドを刺激する。
「でも、まぁ……とりあえず目標は達成できそうだしいいや。やっぱり目印があると、みーんなそこに向かってくれるから助かるね〜」
おかげで、正門前は手薄だ。
アステリアがあのロボットを叩きのめしたことにより不安に駆られたのか、防衛を担当していたプレイヤーたちが少しづつその場を離れ……それに釣られて、さらに多くのプレイヤーがアステリアを討伐せんと持ち場を離れた。
悪循環とはこのことだ。途中でヒバナがわざとらしく大きな声で焚き付けたのも、理由のひとつではあるだろうが……別にそんなことしないでもこうなっていただろう。
だってゲームなんだから。ゲームなら楽しそうな方に行きたいから。
「ま、アタシは楽しくない役割だけどね……」
彼女の持つ【ミュータリウム・キューブ】がフライパンのような形に変形する。
そして、彼女はそれをバリアに向けて———
「【淵星の鍛造炉】———【ウィークポイント・ウィルス】」
オリジンスキルを発動する。
見た目上は変化なし。しかし、その内部の魔術式はこれでほとんど機能不全に陥った。
「すっごいお金取られちゃった……まぁいっか、後で補填して貰えばいいや。あ、それと“総員、捨て身でかかれ”……これでよし」
役目を終えた彼女は、その場でキューブを刀に変形させる。
「なんて言えばいいかな……まぁなんでもいいや。ハラキリ!」
自分のお腹を真っ二つに切断し、そのまま彼女は死亡した。
◇オイレリス、アステリアの足元———アウロン
「あいつを倒せばこのイベントは勝ちだ! 全員突撃!」
まんまとヒバナの声に乗せられたアウロンが、そのクランメンバーを率いてアステリアの足元へと突撃する。
しかし、それを阻む機械の軍勢。
つい先程ヒバナから出された命令により、リソース残量を無視した銃弾の嵐が吹き荒れる。
「構うな! 意外とダメージは低い!」
「「「「「LET’S FUCKIN’ GOOO!!!!!」」」」」
迫り来る機械人形を拳や剣で叩きのめし、戦車は遠距離からの火属性魔法で燃やし尽くす。
銃弾は防御魔法を展開するプレイヤーにすべてを任せ、一際大きな砲弾は一部の気づいたプレイヤーが対処する。
その流れが何度も繰り返され、やがて彼女らは巨大な触手がうねる場所まで辿り着いた。
「【Friend Brave】!」
白く、美しい装飾の剣が触手に斬撃を……発動者のフレンドが多ければ多いほどに、それから慕われていればいるほどに強化される斬撃を放つ。
火の玉が、拳が、龍のエフェクトが、剣の舞が、テイムモンスターが触手にダメージを与えんとする。
しかし、合計して数百発は当てたはずなのに……触手には傷一つつかなかった。
「な……ぐぺっ!?」
地面に接しているいくつもの触手が、ぐりん! と全方位を攻撃した。機械人形、そして戦車すらも巻き込み、いとも簡単にすべてが吹き飛ばされる。
半分ほどのプレイヤーは当たりどころが悪く即死。アウロンは即死をオリジンスキルでクランメンバーに押し付ける。
彼女はかろうじて生き残った。しかし……これでまた、スタート地点へと飛ばされてしまったことになる。
「まだ……まだだぁ! 絶対に……絶対にお前は殺す! アステリアァァァァァッ!!!」
うつ伏せの状態から顔を上げ、そう吠えるアウロン。
「……? あれ、なんか暗く……あぴょっ」
ここで話は変わるが。
このゲームにおいて、何度でも復活できるスキルがあったとして……例えば“踏み潰されて圧死”などの常に死に続けるような状況に置かれた場合、どうなるのか。
答えは単純、スキルを貫通して即死する。
つまりは……そういうことである。
◇アステリア
『今、なんか踏んだか……?』
うーん、Bloodの増え方を見るに多分1キルしたっぽい?
まぁ踏み潰された方は御愁傷様ってことで……身体が大きすぎて下が見えないんだよね、これ。
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ヒバナ:
バリアはクソボロです。やっちゃえ!
あとめっちゃ金かかったから補填寄越せ
商売魂!のアルテルト:
《1兆ゴル》寄越せ!!
アステリア:
全額補填おっけー
ただし100億まで
ヒバナ:
あなたは神様です
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特にグループに招待したわけでもないのに会話に混ざってくるアルテルトは無視して、ひとまず彼女に返信する。
作戦は成功だ。ヒバナのオリジンスキルは金さえ積めば本当に凄まじい力を発揮してくれるってのは本当らしい。
さて、バリアが脆くなったんならここからは私の出番だ。
あのイベント以降、すべての街においてバリアの強度が引き上げられた。私の見立てでは……おそらく、単純な攻撃では絶対に破壊できないほどに。
だから強度を下げる必要があった。別に今回は舐めプとかではない。
『しかし、そうは言っても高火力は必要だし範囲も広い方がいい……ならアレを使おう』
私が暴走状態で使っていたスキル。【Obsession Chronicle】を最高効率で使ったらああいう形の攻撃が最適解ってことなんだろうか。
なんにせよ、アレの魔術式はしっかりと覚えている。今回は別に急ぐ意味もないし、しっかりと魔法陣を展開して……これ口の位置になるのちょっと変な感覚だな?
『コォォォォ……〔独自・超過・超暴走・ホロビノホウコウ〕ァァァァァァァァッ!!!』
口元の魔法陣が真っ白に輝き、私の奥底から破壊的な力が溢れ出す。
灰色の光は一直線にすべてを呑み込み、一撃でその軌道上の何もかもを消し飛ばした。もちろん、街を守るバリアを含めて。
『さてさて、侵略開始といこうか……なんか吸血鬼ってより大怪獣とかみたいだけど……』
このサイズ大きすぎて問題ありまくりなんだよね……具体的には下の方の声が聞こえないし見えない。射程が分からなくなるし小回りが当たり前のように効かない。
次からはもうちょい効率的な変身にしたいところだ。そう考えながら、私は街の方へと足元の触手を動かして移動していた。
『さて、目標はこれかな』
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商売魂!のアルテルト:
《ソレ》この街ノ“超重要機構”ナリ.
『青い液体』が全部の《《カナメ》》
フラ スコ[破壊]してワレに〔戦果〕見せてミロ!!
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『クライアントのご所望でね……特に恨みはないけど〔独自・超過・超暴走・ホロビノホウコウ〕!』
灰色の閃光が青い液体に満たされたフラスコのような機械を壊……せてない!?
あぁそうだ、思えば前の時も……領主はやたらと硬かった。名前なんだっけな、確かアルケリオートだったっけ?
意味深な言葉……“二度目の夜明け”とかなんとかを遺して死んだ彼女も、30秒くらい首を締め続けてやっと死んだぐらいだ。そりゃあ重要な部分は硬くするよな、簡単にこんなことできるゲームなんだし。
『けど……壊せないこともないね』
フラスコには僅かながら、ヒビが入っていた。このまま続ければ破壊できる———と、私の本体に矢が飛んでくるのが見えた。一旦触手ではたき落とす。
視界を強化、撃ってきたのは……アウロン。クランハウスらしき場所から弓を使ってこちらに攻撃したらしい。ムカついたので、適当に足の触手でクランハウスをメタメタに破壊した。ばーかばーか!(幼稚)
『【コトゥーグ・ラッシュ】【ルナティック・フォージ】……【天終】【虚滅】【天終・触滅】【孤剣】〔独自・超過・超暴走・複写・イージスブレイカー・ランス〕』
触手、剣の雨、触手、剣の雨、間に魔法の槍を挟んでまた触手、剣、触手、剣、魔法、魔法、魔法、魔法……
『【コトゥーグ・ラ———お?』
十数秒間に及ぶ私の攻撃のダメージが蓄積し、フラスコがみし、ピキと音を立てて———
決壊した。
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『契約満了確認.。』
『ワレ《感謝感激雨あられ》なう』
『《転移サービス》オマケで付けちゃう,,』
『行き先:化け物3人..,《ネクサス・ユニオン》の本拠地→【ネクサス・メガロポリス】でおk??』
『制限時間ゼロ,, ゼロゼロ!! ワレ《アステリアと愉快な仲間たち》全員転移させちゃうネ』
『ではまたいつか会おう、《渡り人》』
『(╹◡╹)アナタの協力に感謝する!!』
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『は? えっ、ちょ待っ転移は———』
そう言い切る前に、私の身体は消え去った。
◇防衛側———リザルト
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『【Steam City Oileris】 central system destruction confirmed.』
『Anomaly Event 【Machinery War PART III】 Failed.』
『Area transformation: 【Gear Ruin Oileris】』
『Monster spawn rate has increased.』
『Event Quest 【Oileris Evacuation Plan】 initiated.』
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そのログを確認するプレイヤーの元に、どこか遠くから小鳥がパタパタと飛んでくる。
その小鳥は彼女の頭の周りをくるくると飛び回り、そしてうるさく鳴き続けた。
『保険ダヨ! 保険ダヨ! ネクサス・ユニオンの保険ダヨ! 今回損失したクランハウスのアイテムはすべて補填されるヨ! 保険会社“ネクサス・インシュランス”を今後ともどうぞヨロシクネ! かわいいかわいい小鳥サンからの報告でしタ!』
騒々しくアウロンの周囲を飛び回る鳥。
元々クランハウスだった瓦礫にもたれかかった彼女は一言、こう言った。
「うるさい」
前半終了
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