Ep.53 コリジョン —ビッグ3—
◇オイレリス正門前———ヒバナ
「ふん、ふんふふーん♪」
アステリアが大怪獣バトルを繰り広げる中、街のバリア破壊という仕事を任されたヒバナは……両手に金属の球のようなものを持ちながら、堂々と街の正面を歩いていた。
それも、周囲を機械人形たちで守らせながら。
彼女が持つ機械の球。それはアステリアが装備していたものと同一の武器であり、彼女が創り出した武器でもある。
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武器【変化球】
攻撃力:75
クリティカル率:10%
消費MP:任意
《詠唱》
【模倣:トールハンマー】
【模倣:バウンドシールド】
【模倣:エネルギーキャノン】
《能力》
・不壊
・機械系武器1つを対象とし、それを取り込むことによって【模倣:】として使用できる。取り込んだ武器は消滅する。
《エンチャント》
・クリティカル率+15%
・クリティカル率+14%
・与ダメージ+28%
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名前は完全にふざけて付けたが、その性能はしっかり強い。
普通に見ればただ単に取り込んだ武器を再現するだけ……わざわざそんなことをするまでもないように見える。しかし、この武器の強みは書いていない部分にある。
この武器で再現されたものは、この【変化球】自身のスペックとエンチャントを引き継ぐのだ。元のスペック、そしてエンチャントも再現した上で、だ。
つまり、機械に分類される武器はこれに取り込まない理由などない……そういう、所謂“人権”のような性能。
このゲームでは稀に、こういった明らかにバランスがおかしいアイテムが作れてしまう。
なんでこんなバランスなのかは分からないが、ドリメカはインフレを歓迎する傾向にあるのでその延長なんだろう、おそらく。そう彼女は考えている。
そして、彼女はこの球にひとまず3つの武器を取り込ませた。これはアステリアのでも同じである。
なぜ3つなのかといえば、それはこの3つが簡単に作れてそこそこ強かったからだ。
1つ目……
「【模倣:トールハンマー】」
彼女の右手の球が、シンプルなハンマーのような形に変形していく。
この武器は【悪性】という隠しステータスが高くなければ装備できない武器であり、この【悪性】はプレイヤーの素の“ワルさ”を反映した数値でもある。
だからカルマとは特に関係なく、このゲームでどのような罪業を積み重ねようと……本性が善性なら装備することができない。
実際、狂夜はこのアイテムを装備できなかった。多分鏡夜ミライも同じ結果になるだろう。ラピスはまだ試していないが……どうなんだろうか?
さて、話が逸れたが……この武器のメイン効果の説明に入ろう。効果はシンプル、超火力の雷を落とすことができる。
「【万雷】」
その言葉と共に、空高く掲げられたハンマーから天に向けて青白い光が昇り———
「あ? なん」
街の正門を守るプレイヤーたちに、神の裁きが下された。
アステリアの持つユニークスキルの魔術式を解明し、それを武器に落とし込んだものがこれだ。
効果は元のスキルとかなり違い、性能は単純な防御無視とクリティカル時の火力上昇に振ってある。
「てめ、【Speed Arrow】!」
雷から逃れたプレイヤーが素早い矢を弓で放つ。ヒバナは冷静にハンマーを構え、そしてそれを全力で前方へ投げ飛ばした。
勢いよく飛ばされたハンマーは矢を破壊し、そしてそのまま狩人職業のプレイヤーを一撃で粉砕する。
その後、ハンマーはその勢いを止め、ヒバナの方へと自ら戻っていった。
これがトールハンマーの2つ目の能力。投擲された後に自分で持ち主の元へ戻ることが可能というものである。
この武器はシンプルにスタッツが高く、その攻撃力だけで言えばあの【神聖剣アストライア】すら超えている。
形状によるダメージのボーナスも高く、この武器は単に投擲するだけで強いのだ。
むしろこっちがメインで、基本は投げたり叩いたりしながら暇になったら雷を降らす……それがこの武器、トールハンマーである。
『……』
「ふん、ふふーん……おや? カオスの執行者さんですか……なんでアタシがこんな面倒な奴と戦わなきゃいけないのかは知らないけど、まぁいいさ。やってあげようじゃないか」
カオスの執行者。それは教会…..リアリティ・カオスとかいう組織が抱える戦力であり、お仕置きNPCでもある。
黒い装束を身に纏ったそれは、両手に短刀を構えてヒバナに向き直る。
「【模倣:バウンドシールド】」
左手の球が丸い盾の形へと変化する。
バウンドシールドは特殊な素材で作られた盾であり、その性能は非常にシンプルだ。
まずは単純な【不壊】。これは素材の弾性と強度から設定されたタイプのものである。
それに付随するように、この盾は衝撃吸収能力を持っている。マトモにこれで受ければどんな攻撃でもほぼ無効化だ。
カオスの執行者はあんな見た目だが|ビームを撃ってくる《このゲームビーム撃つ奴多くね?》ので、そういった攻撃に対しても有効なのはありがたい。
「ほら、来なよ」
くいくい、とヒバナは指を動かした。すぐ調子に乗るのは彼女の悪癖である。
『……』
「およ?」
ぬらり、と執行者が動いたかと思えば———ヒバナの両手は切り落とされていた。生産職なのだから、わりと当たり前の結末である。
『……』
「あ、ちょ、まっ……助けて狂夜ちゃーーーんっ!!!」
「呼んだかい?」
短刀の一撃を義手によって防いだのは、茶色の長髪を揺らすシンプルな装いのプレイヤー……狂夜。
「あ、あれなんとかしてくれない!? アタシがバリアの破壊やるからさ!」
「ふむ……いいよ。けど———ちょっとその武器を貸してくれないかい?」
「も、もちろんでさぁ……へへ……」
ヒバナはそれらの所有権を狂夜にすぐさま譲渡した。そしてすぐにその場から逃げた。
「……さて、じゃあやろうか? 今度は私が相手だよ」
『……』
遠くからは巨大な化け物とロボットによる戦闘の振動が響き渡り、そこかしこで機械と渡り人との戦いの音が聞こえる戦場で———また、新たな戦いが始まった。
【オリジンスキル】
このゲームにおいて、オリジンスキルの名前から所持者の性格はだいたい分かる。
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