Ep.50 Mech’N Shock!! —Shock and Awe—
「全員、雑魚どもに集中しろ! あの戦車どもは見た目より脆いし火力も低い!」
「それされると面倒だなぁ……というか、口塞いでおくべきだったか」
「油断したお前が悪い」
アウロンは私の触手にぐるぐる巻きにされながらも、こちらをキッ!と睨んだ。中身を知ってると小動物にしか見えない。
「なんかクラメンに指示出してたけどさ、普通にキミのこと殺し続ければ全員肩代わりして死ぬよね? てことでごかーい……む、解除したか」
切り落とされたアウロンの首が転がってゆく。サラサラの金髪が風に靡いている。
「んー……味は普通。狂夜の血があんなに美味しかったのは何故なのか……」
ま、もうこれは要らないや。私はポリゴンへと変化していく彼女の身体をその辺に投げ捨て、周囲を見渡した。
「めんどくせぇバラけ方しやがってからに……隕石落とすのもワンパターンでつまらないし、どうしようかな……」
とりあえず機械たちを動かしてみようか?
私はインベントリからヒバナ特製のアクセサリーアイテム……【通信イヤリング】を取り出し、装備した。
『全員、適当に近くのプレイヤーを殺せ』
脳内に『……』とも『!』とも取れるような、よく分からない信号が大量に流れ込む。とりあえず命令は通ったか……
ふと、上を見ると……戦車から放たれた大砲の弾が数十……数百は見えた。発射音がないのは強いとは思うが、やはりインパクトに欠ける気がしちゃうね。
いたるところから爆発音、悲鳴、そしてスキルや魔法を発動させるための詠唱が聞こえてくる。しかし、まだまだあっちには余力がありそうだ。
「【Dragon Flame】ッ!」
龍の形をした炎の拳が戦車に襲いかかり、一撃で戦車が破壊される。
「〔EXC; Geo craft〕!」
周囲の地面が沈没し、数台の戦車がそれに呑まれて消え去った。
「【Combo Action:Combat】……俺の連撃を食らえッ!」
白い格闘着のようなものを着たおっさんアバターが、機械人形たちを殴り、蹴り、壊して……そして私の元へと潜り込む。
「オラァッ! ……!?」
「おいおい、ボスを倒すんならまずは雑魚処理し終わってからだろう……まだまだいるよ?」
私の背後から更なる援軍が駆けつける。
十数の戦車、20人近くの量産機械人形、10体程度の不定形銀色スライム……あと恐竜。
『パギョギョギョギョ……』
恐竜の鳴き声とかよく知らないし適当に決めた。そんな雑な出来のモンスターが格闘家の頭を食いちぎり、ペッと吐き出す。
今更だけどこのゲーム、普通に戦場で生首になって転がる奴多いよね……ほのぼのプレイヤーとかいるんだろうか。まぁいるんだろうな、多分。
「ちょっと遊んでみようか……」
舐めプ癖は治さないといけない。それは分かっているのだが、分かっていても止められないものというのは存在するのだ。
インベントリから取り出した【ミュータリウム・キューブ】をすべて右腕を囲うのに使用し、義手のような形を取る。ちなみに今の私は義手義足モードなのでやたらと硬いぞ。
銀色のスライム……【アルケミー・ゴーレム】という名前のこのモンスターは、ヒバナが変なギミックを入れて【War Machine】で作り出した機械モンスターだ。
ギミックについてネタバレすると、【ミュータリウム・キューブ】とのドッキング機能である。
「何作ろっかな……やっぱ金属だし鎖とか……」
私が近づけた手にアルケミー・スライムが群がり、そしてそれらはドロドロに溶けてこちらと癒着する。
鎖とか……いや、鎌もいいな……とか考えていると、いつの間にやら鎖鎌の形にスライムが変形していた。丁度いいしこれ使……これ扱うのムズくねー?
「まぁゲームだしなんとかなるか……あそーれっ!」
「ぬぅっ!?」
さっき炎龍の拳を出していたプレイヤーに鎖が巻きつき、そしてスライムたちが勝手に締め付けたせいでそのプレイヤーはガックリと意識を落とした。
「うーん、微妙! 触手でいいね、これ」
心なしかスライムくんたちがしょんぼりしているような気がするが、まぁ事実なので仕方ない。なんかいい形ないかな……あ、そうだ。
「散弾銃みたいに、こう……お、できそう」
私はスライムたちを少し大きめな粒状に変化させ、その間を細いアルケミースライムで繋げる。やがてスライムのミラーボールみたいな形の何かが出来上がった。
「さぁさぁアウロンの下っ端共! 花火の時間だぞ!」
私は空へと飛び上がり、なるべく彼女のクランメンバーが多い場所の上空に位置取る。
そして、そのミラーボール的な何かを下に放り投げ……
「7重、〔超過・ビッグ・ボム〕」
一瞬、赤い閃光。
ミラーボールのようなスライムたちは爆発によってその繋がりが壊され、丈夫に作っていた粒の部分が四方八方へと飛び散る。
鉄粒は圧倒的な速度で周囲を蹂躙し、味方の機械だとか、敵のプレイヤーだとか関係なくすべてを穴だらけにした。
もはやこれに反応できたプレイヤーはいないだろう、何人か生き残ってはいるが……それは些細な問題だ。
「この分なら撃ち出し速度を早くすれば銃も戦えそう……というか、私の魔法でトリガーする銃でも作ってもらうか……?」
うーむ、色々と夢が膨らむ。私はこちらに向かってきたプレイヤーを触手でぶっ叩きながらそう独りごちた。
さてさて、そろそろ真面目にやろうかな。こちらの勝利条件は相変わらずよく分からないが、前と同じなら領主の殺害だろう。ただ……
「どう見てもアレ壊せって感じだよねぇ」
蒸気の街、オイレリス。雰囲気はザ・スチームパンクといった感じで、茶色が基本色となっている。
街の形は四角く区切られたブロック4つで構成された正方形で、中心には円塔が聳え立ち……そのてっぺんには青い液体のようなものが満タンに溜まった球体が存在している。
アレ壊したらヤバそう。多分エネルギー的な何かでしょ?
とりあえずアレ壊しに行こうか。飛行船あるしアレに乗って飛び降りる感じだと面白そ……なんか暗くね?
◇???
オリジナルズ・アイアンタイタン……それはオリジナルズの最終兵器である人形巨大ロボットだ。
本来はもう少し後のイベントやらで一定数以上のオリジナルズが開放されていることを条件にお披露目されたりするのだが……今回は戦力差も考えてAIが特例を出した。
今回乗り込むのはオリジナルズ創設に深く関わるメンバーの“リアリティ”だ。彼がその基本操作を取り持つ。
操作の補佐には他のオリジナルズが乗り込むところだが、今回はAuron’s Familyのメンバー4人である。
『【ジェットムーヴ】起動……振り落とされるなよ?』
「「「「LET’S GOOOOOOO!!!」」」」
オリジナルズ・アイアンタイタンのユニークスキル……【ジェットムーヴ】は、数秒間限定で音速の挙動を可能にするという強力なスキルである。
この世界でも現実と同様、基本的には速度があればあるだけ攻撃の威力が上がる。それも音速となれば凄まじいほどに。
空島から地面に向けて発進したオリジナルズ・アイアンタイタンが目標———白髪の魔王を捉え、姿勢を変化させる。
『行くぞーーーッ!!!【アイアンキック】ッ!』
轟音と共に、視界が爆ぜる。
アイアンタイタンの脚部が閃光のように煌めき、雲を切り裂いて地上へと突き刺さる。
衝撃波は都市一つを揺るがし、目標を中心に世界が反転したかのように景色が歪んだ。
もはや周囲の戦車も機械人形も、跡形もなく消え去った。
この攻撃を受けて生き残れるのは、それこそオリジンモンスターぐらいだろう。リアリティはアイアンタイタンの内部で改めてそう思い、口を開いた後に出た言葉は……
『やったか?』
祝50話!
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