Ep.4 無手の極意(大嘘)
背後に大量の武器を生成しながら「私は無手です!」と叫んでいるネカマの図
「こんにちは。あなたの名前はなんですか?」
このゲームは、頭上にネームが出ないタイプのゲームだ。だから、プレイヤーの名前を聞きたい場合……直接聞かなければならない。
まぁここは普通に名乗っておこう。あ、そういえばまだ言っていなかったが、このゲームでは声も自在に設定できる。つまり声で性別を判断することはできない。
「私はアステリアだよ。そういうキミは?」
「あー、俺はね……ガーリアっていうんだけどね……」
さっきからこいつら、私に対して敵意が漏れすぎている。メンバー全員がさりげなく手に剣を掛けているし……もはや隠す気がなさそうだ。
「ぶっちゃけて言うとさ、クラメンがPKされたんだよ。そいつらは3人組で剣士、魔術師、僧侶のパーティだったんだ……アステリアさん、アンタなにか知らないか?」
「いや、まったくもって知らないな。そういう情報なら他を当たってくれ」
私は嘘をついた。
「いやぁ、それがさぁ……なんかアイツらの話によると、犯人は黒いドクロマークのTシャツを着ている人物らしくて……」
さらり、と彼……名前は忘れたけど、多分リーダーっぽい奴が剣を抜き、即座に私に向けて突き出す。
私はそれを、血の盾を生成して防御する。
「えぇ……これ防御すんの?」
「さて、キミたち……これはあくまで正当防衛だ。いいね?」
無手の魔拳士相手に10人あまりのプレイヤーで囲んで不意打ち……これは晒しスレに名前が載っても仕方のない悪魔の所業だなぁ!?!?
「エクリプス・フォージ……死んでもらおうか!」
私は背後に300本の剣を生成し、発射する。
「ちょまっ———」
「防御スキルを———」
赤髪の魔法使いと青髪のタンクらしきプレイヤーがポリゴンとなって消滅する。一撃死かぁ……味気ないね。
「うーん、これは予想以上の強さだ……全員、てった」
「やらせると思う?」
相手パーティが全員、モノリスワープで帰還するそぶりを見せた。
もうちょっと楽しんでいたかったが、逃げようとするのなら仕方がない。最速で殺すのみだ。
8本の剣をそれぞれの頭へと向け……発射。
一応耐える奴がいるかもしれないので、更に追加で8本発射。あっという間に全員ポリゴンと化した。
「敵が弱すぎる……せめてもうちょっと数か質が欲しいところ」
ま、そういう機会は後々あるだろう。私は再び翼を広げ、空へと飛び出した。
◇分岐路の街 セパリオン
山脈を抜けると、だだっ広い荒野が現れた。その横をそれぞれ湿地と荒廃都市が挟んでおり、その3エリアが交差する場所には街が位置している。
ここから先の情報はゲーム内SNSにもほとんど存在しない。ひとまずはこの街に入ってみて、情報収集でもしてみることとした。
「さて、誰かプレイヤーでも……いや、街中だと流石にマズいか?」
「おい嬢ちゃん、アンタ初めて見る顔だな?」
私に話しかけてきたのは、鎧を着た兵士……おそらくこの街の門を守るNPCだ。
「新顔には俺からこの街を紹介するって決まりでな。ちーっとばかしここで俺の話を聞いてもらうぜ?」
「……まぁ、今ならいいよ」
「うーし、じゃあ軽く説明するぞ。この街はセパリオンっつってな?ここから少し進んだ先には“荒廃都市レイヴァンシア”と“ワスティル荒野”、そして“メージメ湿地”っていうエリアがあるんだぁ」
「なるほど」
「そんでな、この3つのエリアはそれぞれ出てくるモンスターの強さに差があってだなぁ……荒廃都市が一番強くて、メージメ湿地が一番弱え。そんで荒野はその中間ってところだぁ」
「おっけー、それだけ聞けたならもういいよ」
なんかこのまま放置してたら、めちゃくちゃ長い時間話を聞かされそうな予感がする。
「そうかぁ?まぁ大体伝えるべきことは伝えたからなぁ……また話が聞きたくなったらオラんとこ来いよぉ!」
「へいへい」
私は適当に相槌を打ちながら門の先へと進んだ。
◇1時間後
『ログインボーナスが付与されます』
『アイテム獲得:【くじ引き券】』
『明日もログインしよう!』
『ログインボーナスのリセットは毎日0時に行われます』
プレイ開始から、多分24時間ほど経った。突然ログインボーナスが発生したし、多分今0時を回ったんだろう。このゲーム、ログインボーナスあったんだね……
「んー、これくじ引き券はどこで使えば……」
そんな風にメニューを開いて四苦八苦していた時、突然通知が鳴った。
バグの補填とかだと嬉しいな……とか思いながらその通知を開くと、イベント開催のお知らせが。
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イベント:【オリジンズ・ウォー・プレリュード】
【イベント概要】
『オリジンズ・ウォー・プレリュード』は、全プレイヤーが参加可能なPvPvEイベントです。イベント開始時、ロビーに滞在しているプレイヤー全員が特殊エリアに転移します。イベント開催前なら、いつでもメニューからロビーに転移できます。
特殊エリア内では『モンスターの撃破』か『プレイヤーの撃破』でポイントを獲得することができます。モンスターの撃破で得られるポイントは、そのモンスターによって変化します。プレイヤーを撃破した際のポイントは一律で10に固定されます。また、一度撃破したプレイヤーが復活した場合、以前にそのプレイヤーを撃破していたチームは、それを撃破してもポイントを得ることはできません。1時間の制限時間内に最も多くのポイントを獲得したパーティ、もしくは最後に残ったパーティが優勝です。パーティメンバーの最大数は、本イベントに限り4人に制限されます。また、死亡した後はその場に『復活カード』をドロップします。『復活カード』は同じパーティのメンバーのみが拾うことができ、カードを所持した状態で5分が経過すると、そのカードに対応したメンバーが復活できます。カードは複数枚所持することが可能です。また、カードがドロップされた状態で5分が経過した場合、そのカードは消滅します。
アイテムの持ち込みは許可されておらず、初期所持アイテムは『MPポーション・初級』10個と『HPポーション・初級』10個に固定されます。武器、装備、アクセサリー、ジョーカーは装備状態なら持ち込むことが可能です。
その他、細かいルールや開催日時、報酬などは以下のリンクからご確認ください。
(公式サイトのリンク)
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いいね、面白そう。
もうちょっと観光してから探索でもしようかと思っていたが、予定を変更しよう。ユニークモンスターを狩まくってレベル上げだ。
目指すは参加プレイヤーの皆殺し。だが、このレベルではまだまだ安心できない。
開催日時は……たったの1日後、残された時間は45時間。これどっちかというと2日後だな。
数値にしてみると結構あるが、それでも1日とちょっとしかない。
私はとにかくこの時間内でひたすらレベルを上げ、スキルを強化し、強力なアイテムか何かがあったら回収する。
ついでにトップ層を見つけたら襲って戦力を削いでおこう。
「今のところ、各エリアに1体づつユニークモンスターがいるから……まずは一番弱いらしい湿地帯から行こうかな」
よし、そうと決まれば早速出発……の前に、くじ引きだけ引いておこう。
メニューの『ショップ』タブの一番下の方には、ひっそりと『くじ引き屋』という文字が浮かんでいた。
そこを選択すると、脳内の光景が変化した。周囲は体育館でやってる地域イベントみたいになって、真正面にはガラポンが1つだけ置かれている。
「さて、なんか良いの出ないかな……ん?」
テンプレみたいな見た目をしたおばあちゃんがガラポンを回す演出が入り、ガラポンから出てきた玉の色は……金色。
……マジ?
◇メージメ湿地
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【自動技能機構】
レアリティ:☆☆☆☆☆☆(ユニーク)
消費MP:1000
クールタイム:600s
▷常時発動能力
・『自動機構』に設定されたスキルを、任意のコードで実行する。コードはスキル管理から設定できる。コード設定はスキル毎に独立しており、『自動機構』の設定を変更しても保存される。
▷能力
・自身のスキル1つを対象とし、そのスキルを『自動機構』に設定する。再度発動した場合、最新のスキルのみが『自動機構』に設定される。
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私は湿地の上空を飛びながら、ついさっき獲得したスキルの設定を行っていた。
理想のマクロを作り上げているというわけである。任意のコードを実行するとか書いてあるが、割とマジで自由度が高い。
そして、ついにそれは完成した。それが……これだ。
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【自動技能機構:コード設定】
自動機構:【エクリプス・フォージ】
実行スタイル:常時
0:if player.thinking_state(): control 自動機構(sections = [“module_weapon”,“module_generation”], action = player.thinking_state())
1:if 自動機構(active(1)) is inactive:
if enemy nearby(100) and (Blood >= 100 or HP > 100):
trigger 自動機構(active(1))
2:if 自動機構(active(1)) is active and (Blood >= 10 or HP > 10):
trigger 自動機構(passive(1))
3:if 自動機構(passive(1)) is active and (Blood >= 100 or HP > 100) and player.perceives(enemy) == "threat":
trigger 自動機構(passive(2))
4: if 自動機構(passive(1)) is active and 自動機構(active(1)) is active and player.perceives(enemy) == "light_weakness":
trigger 自動機構(active(2), attribute = 1)
5:if 自動機構(passive(1)) is active and 自動機構(active(1)) is active and player.perceives(enemy) == "darkness_weakness":
trigger 自動機構(active(2), attribute = 2)
6:if 自動機構(passive(2)) is active and weapon.count > 0:
enemies = player.perceives_all(enemy)
sort enemies by threat descending
for enemy in enemies:
if weapon.count <= 0:
break
if enemy.threat >= threshold:
for weapon_type in player.available_weapons():
if weapon_type.matches(enemy.attribute):
trigger weapon.fire(target = enemy, attribute = weapon_type.attribute)
weapon.count -= 1
break
else:
trigger weapon.fire(target = enemy)
weapon.count -= 1
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簡単に説明すると、私の認識に応じて自動でいい感じにスキルが発動するというものである。
書き方がなんというか、どっかで見たことあるような気もするし無いような気もする……なんとも微妙な雰囲気ではあるが、少なくともこのゲームでは動作する。
なんなら近くに敵がいる場合、私の認識外だろうと自動で発動するので……
「お、そっちか」
このように、敵を探知するレーダーとしても機能する。
更に言えば、私の思考に応じて武器を待機させたりもできる……つまり、本当にレーダーとしての役割だけを果たさせることもできるというわけだ。
例えば、私が「強敵以外が範囲内に存在する場合は剣を生成したくない」と考えているなら、強敵が近くに存在する場合にのみ武器を生成するようになる。
なんなら武器の矛先はその強敵に向くようになっている。
現在はこれを用いてユニークモンスターを探している最中だ。そして、ついさっきそれを見つけた。
「やっぱり遠距離から剣を投げ続けるのが最適解だなぁ……」
私は真下に位置取っているきったねぇカエルに向けて剣を射出し続けながらそう呟く。
自動発動にしてからというもの、剣の生成速度も上昇している。
元々CTが存在しないスキルだからね、理論上人間よりシステムがやった方が、秒間発動回数が多くなるのは自明だ。
そうこうしているうちにカエルが爆散、脳内でファンファーレが響き、レベルが上がったこととユニークスキルを獲得したことが知らされる。
これをイベント開始時間まで繰り返していくことになる。
まぁ私はこういうレベル上げ作業が好きだからね、特に苦しくはない。なんなら種集めとかも好きだし。
【自動技能機構】
なんで急にプログラミングし始めたんだコイツ……?
0行目のコードのおかけで大体何やっても破綻はない……はず。
【ステータスポイント】
種族のボーナスSPは最大で100、職業は200まで獲得できる。それ以降は0で固定。
【エクリプス・フォージ】
このスキルで展開されるエリアは『夜』の属性を持っており、エリア内は夜間判定となる。
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