Ep.24 エーテル・ハザード/魔法
マズい、このままだと私が負ける———
この調子じゃ、シンプルに時間を稼ぎ切るのが不可能だ。
転移にもBloodを消費する上に、〔フラッシュ〕による目潰しにもBloodは少量だが消費する。
自動回復量からはわずかに下回っており、その上で同時並行で色々とやっているからか……本命の9重合成魔法の構成に時間を掛けてしまっている。
「誰か、都合よくかわりに戦ってくれる人いないかな———っ!」
『⬛︎!』
首を傾けて斬撃をかわす。フラッシュ、転移、魔法陣の構成……振り向いてきたらフラッシュからやり直し。
問題なのが、黒騎士側もこれに対応してきていることだ。もう既に、ほとんど決め打ちで背後を攻撃し出している。
私も転移場所を変えたり、逆にフラッシュを使わずにその場で一瞬停止したりと、色々と手は打っているが……こういうタイプの集中力は私にはない。
何か、誰かいないか。そう思っていたところ、空から何かが降ってきた。
空から降りてきたのは……背中から天使の羽を生やしたラピス。こうして見ると正義の使者とか勇者っぽく見えるね……見えるだけね。
「やぁやぁユキちゃん。時間稼ぎがお望みかな……?」
ニコニコ笑顔で私に向かってそう問いかけてくるラピス。そうです、時間稼ぎがお望みです。
「じゃあ、わたしに任せてね……あ、そうだ。お願いされてた物が出来たから……はい、これあげる。料金はユキの愛情ね?」
ラピスは黒騎士の攻撃を刀で逸らしつつ、私の注文していた装備一式を渡してくる。
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胴装備:【覇王のアーマー】
防御:350
《能力》
・超高耐久
・最終ダメージ軽減:2.5%
・耐久値自動回復
《エンチャント》
・魔力+138
・魔法ダメージ増加:29%
・クリティカルダメージ+19%
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腰装備:【覇王のレギンス】
防御:300
《能力》
・超高耐久
・最終ダメージ軽減:2.5%
・耐久値自動回復
《エンチャント》
・魔力+144
・魔力+14.5%
・魔法ダメージ増加:27%
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足装備:【覇王のブーツ】
防御:300
《能力》
・超高耐久
・最終ダメージ軽減:2.5%
・耐久値自動回復
《エンチャント》
・攻撃→魔力転換:14.1%
・魔力+150
・魔法ダメージ増加:21%
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アクセサリー:【シークレットグローブ】
攻撃:20
《能力》
・不壊
・右手に武器を装備していない場合、与ダメージ+25%
・左手に武器を装備していない場合、与ダメージ+25%
《エンチャント》
・クリティカルダメージ+30%
・与ダメージ増加:10%
・魔力+147
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アクセサリー:【プライム・ホワイトコート】
防御:50
《能力》
・不壊
・魔法ダメージ増加:15%
・最終ダメージ軽減:2.5%
《エンチャント》
・魔法ダメージ増加:30%
・クリティカルダメージ+29%
・魔力+139
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「いいね、最高。愛情はまた今度で」
「一応、頭装備も作っておいたけど……いる? もしかしてその角は頭装備だったりするのかな……?」
「これ? これは【神蘇グレーターデーモンの角飾り】っていう装備だよ。見た目をそんなに損なわずにまぁまぁ強いからお気に入りだね」
見た目はヤギのような2本の黒い角、といった感じだ。重量を感じないレベルで軽くて、オマケに見た目もいい。
というかその渡そうとしてる頭装備ダサすぎるだろ。なんだこの……噛ませ役の闘士の着けてる装備みたいなのは。
とりあえずは貰った装備を身に着ける。おー、いいね。すごくイイ。特にこのコートがいい……
「じゃあ、これはわたしが抑えてるから……あなたはやりたいことをやって?」
「おっけー。できるなら10分くらい足止めお願い」
「余裕……ごめん嘘、かなり怪しい」
「それでもやってくれるだけありがたい……じゃ、頼んだよ!」
私は翼を羽ばたかせ、場所を移した。
◇
脳内で9つの魔法陣を構成し、調整する。このゲームで1人が複数の魔法を同時に使おうとした場合、各魔法陣の複雑さは元のより跳ね上がる。
複雑さは同時に使おうとする魔法の数にも応じて上昇し、9つも同時に使おうものなら……それはもう大変な複雑さになる。
言葉に表すのは難しいのだが、例えるなら……
『九つのジグソーパズルを一斉に組み上げながら、その完成図は上下左右表裏がひっくり返っても繋がるように設計されていて……しかも、存在しないピースは自分で形を考えて彫り出すしかない。』
このレベルで不条理な難度だ。しかも途中で1個でも失敗したらやり直し。
だが私は幸運なことに、こういった方面において非常に高いパフォーマンスを発揮できる脳の構造をしていた。
なのでこれらをおよそ10分で完遂させられる。8重なら3分、7重なら1分程度で、それ以下はほとんど1秒程度で終わる。
まぁ9つでも、頑張ったら9分ぐらいで完成させることはできないこともない。多分。
現在の完成度はおよそ10%だ。時間にすると……残り9分。
正直私が1分ぐらいで音を上げたあの敵相手にラピスが耐えられるのかは疑問が残るが、まぁ直接戦闘ならラピスの方が私より全然強いからね、5分ぐらいなら多分問題ない。
ということで、私は魔法陣の構成を続ける。そして、ついでにやりたい事もある。
【赤月の天軍】及び【虚鎖ノ黙示ト黄昏ノ王域】の発動条件を今のうちに満たしておきたい。これが今私のやっておきたいことのひとつ。
まずあの敵を倒すのなら、私1人では無理だ。だからこのスキルを使うことは勝利するにあたって絶対に必要な条件だ。
赤月の天軍の使用条件は、進化前より少し緩和された。具体的に数値を出すと、一回の戦闘中に敵キャラクターを合計5000キルすればいい。
受けたダメージが10000以上でなければ使用できないとかいう条件はあるが、これはBloodがHPの代わりとして扱われているせいか、普通にBloodを合計で10000消費したら問題ないので考えなくていい。
その他の条件は勝手に満たせる。【虚鎖ノ黙示ト黄昏ノ王域】は1000キルするだけでいいので、こっちも考えなくていい。
これを満たすため、今から私は魔法陣を演算しながらここら一帯のプレイヤーとモンスターを皆殺しにする。
多少演算効率は落ちるが、ここでキル数を稼いでおかないとアレに勝てない。
「さて、では……」
私は眼下のプレイヤー達に向けて宣言する。
「皆殺しだ。」




