Ep.19 神蘇黎明譚 第三章
真祖の吸血鬼……なるほど、よくある話だ。やっぱり吸血鬼の進化といえば真祖かデイウォーカーの2択だよね。
「で? それはどうやってなればいいの……まぁ大凡検討はついてるけどさ」
『“真祖の鍵”を3つ手に入れることです。3つ揃えば真祖の吸血鬼に進化することができるはずです……多分!』
AIが“多分”とか言うの、リテラシーがちゃんとしていて良いね。それはそれとしてまだ確定していない情報を嬉々として伝えるんじゃねぇ、殺すぞ。
真祖の鍵……この言葉には聞き覚えがある。私の持つスキルの中に、2つほどその名を持つスキルがあったはずだ。
これらはすべて、吸血鬼の種族レベルが上がると同時に入手したスキルを強化した末に辿り着いたものだ。
となれば、あと1つ……なにか適当な吸血鬼のスキルを選び、最大まで強化してやればいい。
ただ、『真祖の鍵』と名につくスキルの条件はよく分からない。
【真祖の鍵・紅血狂宴】は初期からあったスキルを普通に強化していったら『真祖の鍵』へと進化した。これは分かる。
【真祖の鍵・血で創られた身体】は、もうあまり覚えていないが……確か吸血鬼のスキルを合成して、それを更に強化したら『真祖の鍵』へと進化したはずだ。まぁこれも分かる。
だが、吸血鬼のスキルを合成し……そして強化した【ルナティック・フォージ】は、最大まで強化しても『真祖の鍵』へと進化しなかった。ここが分からない。
現状、私が残している未強化の吸血鬼系スキルは2つ。【血塗られた剣】と【深紅の牙】だ。
【血塗られた剣】はすべての攻撃に血属性を付与し、【深紅の牙】は噛みつきダメージを強化する。
どちらもそこまで強くないし、強化しても私の強さにはそこまで寄与しないだろう。
それに、もし強化したスキルが『真祖の鍵』に進化しないなら、それはかなりのポイントを無駄にすることとなる。
「どっちがいいと思う、ドミノ?」
『ワタシは【血塗られた剣】だと思いますね!』
え、えぇ……マジ?
私はここまでの傾向を見る限り……『吸血鬼らしさ』のあるスキルが『真祖の鍵』に進化しているように見えるけどねぇ。
効果は産廃だけど、確率の高そうな牙の方を強化しようとしていたんだけど……そうか、ドミノはそういう意見か。
なら【血塗られた剣】を強化しよう。あぁ、なんで私がドミノの言うことを信用したかというと……これはシンプルにメタ的な考察だ。
ドリームメーカーは突然高難易度をぶち込んだり、露悪的にも程がある展開をやったりすることで有名だが……ユーザビリティだけは大切にしてきている。PK優遇については多分夢島アカリの暴走です……
ここで大事なのは『ユーザーの期待を裏切らないこと』だ。
他のプレイヤーが似たような立場になって、自立思考スキルに同じ質問をしたとする。それでスキルの言うことを信じて投資したら間違いだった……DREAMAKER社はそういうのを極端に嫌う。
これはスキルの合成や進化などの細かい仕様を見れば明らかだ。
このゲームにおいて、進化したスキルは進化前の完全上位互換になる。進化して使いづらくなるとか、そういったことは一切ない。
合成についても、合成後のスキルの情報は合成の前の時点で提示されるし、合成が大成功した場合に出来上がるのは予定されていたスキルの完全上位互換だ。
「ありがとう、ドミノ。キミのこと信じるよ」
『ワタシのこと信じてくれるんですね……やったぁ!』
本当に精神年齢下がってないかな、キミ。喋る度に子供になってきてるような気がする……
まぁとりあえずこれは後だ。今やるべきは【血塗られた剣】を強化すること。だがここで立ちはだかるのが強化ポイントの壁。軽く見積もって必要ポイントは10……4つか5つほどのスキルを分解する必要がある。
このゲームでは戦闘が終わった後にレベルが上がるので……雑魚を大量に倒してスキル獲得、というのはできない。
現状持っているスキルはどれも分解したくなどない。ならどうやってポイントを得るか?
「買っててよかった『オリジンズ・ウォー・バトルパス“デラックスエディション”』!」
デラックスエディションは通常版のバトルパスと比べて2000円高いが、その分報酬も豪華だ。
その中のひとつ……『力の珠』は、使用することでスキルの強化ポイントを10獲得することができる。
入手した時点では、強化したいスキルは全部強化し終えてたからね……残しといてよかった。
というわけで、10ポイントを【血塗られた剣】に注ぎ込む。5ポイントを投入すると進化、名前が【深紅の聖剣】へと変化した。
更にポイントを投入、強化する。頼む、頼むよ……?
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P【真祖の鍵・深紅の聖剣】
《能力》
・すべての攻撃に血属性を付与する。血属性の攻撃で与えるダメージが強化され、それが剣を用いた攻撃だった場合、さらにダメージが強化される。
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「はいビンゴーッ!!!」
とかなんとか調子に乗っていると、汚泥ミミズによる泥ビームが私の方へと発射されているのが見えた。
すぐさま離れた位置に浮かせていた武器に転移し事なきを得る。
危ない危ない、あとちょっと反応が遅れてたらワンチャン死んでた……お?
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『規定条件を達成しました。』
『進化が可能です。』
▶︎【真祖の吸血鬼】
▶︎【神蘇の吸血鬼】
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……なんか面白そうだし、下にしちゃえ^^
『進化を開始します。』
アナウンスと同時に、私の身体が黒みがかった血で覆われる。それらはすぐに私へと染み込み、私の身体になにか新たな感覚が芽生える。
『進化完了。』
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特性【神蘇の吸血鬼】
・特殊ステータス「Blood」が解放される。
・夜間、全ステータスが30%上昇する。
・キャラクターに噛み付くことで、対象を「眷属」にできる。この効果はプレイヤーに対して発動しない。最大眷属数は種族レベルに依存する。
・土属性、闇属性、血属性を含む行動による干渉力を大幅に強化する。
・〔時限解放〕【Shamazalie, Ruler of the Divinevival】との戦闘中、【英雄補正】を2つ獲得する。
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いいね、強そう。これで果たして足りるのかは分からないけど、少なくともさっきよりは戦いになるはずだ。
「ふふふ……これだけの力があれば、なんとかなるかもしれないね……ドミノ、この戦いの勝率は?」
『0%です。でも、ワタシとアナタに協力すれば……なんてこった、0%ですね。逃げましょうか!』
私はドミノの言葉を無視してミミズへの攻撃に復帰する。
どうやらダメージが少しは通るようになったらしく、私の発動した【天終】がすり傷を与えることに成功した。
風が凪いだくらいのダメージだった最初と比べれば、これはかなりの進捗だ。0と1では話が変わってくる。
「ここからは魔法も使っていこう。行くよ、ドミノ!」
『えー』
えーじゃない。お前最初の口調はマジでなんだったんだよ……
【ドミノ】
こういうタイプのキャラでこんなに無能な奴あんまり見ない気がする……
本領を発揮したら強すぎるので制限中なんです。本当なんです。あ、本領を発揮するにはアイテムをたくさん捧げてもらって……




