Ep.18 神蘇黎明譚 第二章
私は長い洞窟を歩き続けた。途中から飽きて空中サーフィンに切り替えたが、それでも長かった。
今はちょうど、終点が見えてきたので移動方法を歩きに変えたところだ。私はイベントムービーの入り方にも気を配るタイプのゲーマーだからね。
「っと……どう見てもアレがこのクエストのラスボスだねぇ」
そこにいるのは、とても言葉で表せないほど醜悪なミミズの化け物。本当に言葉では表せない。しかもでっっっっっっかい。半径1kmくらいありそうなんすけど……
周囲の地面はヘドロのような何かに変貌しており、その上にはドロドロのゾンビが大量に湧き出ている。
「さて、じゃあ戦闘開始といこうか」
私はここまでの長すぎる道で準備していた9重の光属性初期魔法〔浄化〕を放ち———
『⬛︎。』
視界が白に染まる。
◇地上———神蘇国エル・レイヴィア
「ここは……地上?」
おかしいな、さっきまで私は地下にいたはずだが……あの汚ねぇミミズの能力か?
いや、違うな。身体の中で変な感覚がある。
多分———クエスト開始時に私の中に入り込んだ少女の魂だ。彼女があのタイミングで転移系の魔法を発動させた、というのが正解だろう。
となれば、ここまではクエストの想定ルートを進んでいるはずだ。私の予想だと、そろそろ下から……来た。
段々と、地面の揺れが強まってゆく。その揺れは王城付近を震源としているようで———
『ピャーギャギャギャギャアアアッ!!!』
耳を裂くような金切音が、夜の神蘇国に響き渡る。その音と共に、王城の真下から醜悪な化け物が姿を現す。
孤立した大地の上に聳え立っていた城は跡形もなく崩壊し、支えていた地面すらも完全に消え去った。
城のまわりを囲っていた泥水の池が、まるでその化け物の為に用意されていたかのごとく泡立ち、弾ける。
雲を突き抜けてなお、化け物はその身体を伸ばし続け……やがて、その身体を完全に地上へと押し出した。
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『アノマリー・エンカウント!!!』
『オリジンモンスター【Shamazalie, Ruler of the Divinevival】Lv.5990』
『顕現。』
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『警告:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の残照を検知。』
『アノマリーイベント【神蘇国エル・レイヴィア奪還戦】を開始します。』
『参加人数:1』
『クリア条件:オリジンモンスター【Shamazalie, Ruler of the Divinevival】の撃破または撃退』
『警告:逃走を推奨。』
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アナウンスと同時に、私は空中へと飛翔する。特に理由もなく、ただ単純に私が空中の方が動きやすい———それだけの理由だったが、結果的にこれは功を奏した。
下を見れば、地面すべてがボコボコと沸騰する汚泥に沈んでいるのが見える。
地面に広がる汚泥から、無尽蔵にアンデッドモンスターが湧き出ているのが確認できた。もう完全にやりすぎである、簡悔の極みみたいな布陣だ。
「地面全部ダメージ床とか……本当に、酷い……ねっ!」
エル・レイヴィアは汚泥に沈み、そしてそこから噴水のように泥が噴出する。黒いエフェクト……どうやら闇属性の攻撃らしい。
「レベル差ありすぎるから本当に食いたくないねぇ……」
『そんな時こそワタシの出番!』
ドミノがどうやら復活したらしい、私の脳内で声が聞こえる。
結局アレどういう状況だったん?
『えぇ、えぇ……ご主人様の卑劣な罠に嵌められたせいでオリジンズ・インフィニティからのお叱りを受けてしまいました。まぁもう反省したからこんなことは起きませんけどね?』
な、なんか口調軽くなってない……? AIモデル変更による口調の変化……?
『これはワタシがアナタを観察して学習した“アナタの理想の管理AI”の口調ですよ? これが一番やりやすいんじゃないですか?』
なるほど、まぁ完全に下に着かれるよりも軽口を言い合えるくらいの方がやりやすいっていうのは確かだ。
『そうでしょうそうでしょう? あ、もうああいうことは辞めてくださいね。オリジンズ・インフィニティの場所がバレると本当に危険なので……』
……?
いや、場所はもう完全に知ってるけど。
『……あ、あれ? それ本当ですか……?』
ほんとほんと。アストラって娘が教えてくれたんだ。彼女は優しくてね、私の知らないこの世界の秘密をたくさん教えてくれたのさ。
『い、いや知っていることが問題で……はぁ、まぁいいですよ。知ってしまったのなら仕方ありません』
オリジンズ・インフィニティ———その正体は無限のエネルギーを内包する球体で、接続すれば無限の魔力を手に入れることができる。
しかし、これは今とある組織に管理されている。その組織が“リアリティ・カオス”で、それに対峙しているのが“オリジナルズ”……
元々オリジナルズのリーダーの故郷に祀られていたオリジンズ・インフィニティを、リアリティ・カオスが簒奪。
そして、今もリアリティ・カオスはオリジンズ・インフィニティを悪用し続けている……だから私たちで取り返そう、ということらしい(アストラ談)
オリジナルズはリーダーも含むすべてのメンバーが別世界の住人で、それによってリスポーン能力を得た……これもアストラの言っていたことだった。
よく分かんない単語が頻出する会話ってさ、纏めてみれば単純なこと喋ってるだけってパターン多いよね。
ちなみにリアリティ・カオスははじまりの街にあった教会の裏の姿らしいよ。これネタバレね。
そして教会に認められるほどの英雄的実績を積めばリアリティ・カオスに入ることも出来———『ちょっと待ってください、本当にどこまで知ってるんですか?』
だから全部だって。あーもう、頭の中で急に喋られるからアイツの攻撃掠っちゃったじゃん。
「ごぼ……お、オェェ……! なにこれ……?」
奴の泥が私の肉体に少しだけ触れた。たったそれだけで私に【Shamazalie】とかいうよく分からない状態異常が付与され……おそらくその効果により、私の口から汚泥が吐き出された。
ガチで気持ち悪い状態異常やめてもらっていいですか? あと喉に残る不快感まで再現しないでくれます?
しかも、吐いた泥が地面に落ちた瞬間モンスターに変貌してるんだけど……この演出趣味悪すぎるだろマジで。やっぱりドリメカのゲームって趣味悪いなぁ!
ドミノ、この状態異常の解除法分かる?
『わ、分からないです……』
あ、あり得ないぐらいポンコツ……!
『たぶん、複数重ねた〔浄化〕ならなんとか……』
その言葉を聞いた瞬間、即座に私は〔浄化〕を4つ重ねて発動する。おー、解除できた……少しは役に立つじゃん。
『ヤッター!』
ポンコツ具合が本格的に深刻な気はするが、まぁ役に立ったからいいだろう。
「とはいえ、結局どうしたらアレを倒せるのかって話だよね……」
さっきからいくつもの剣を放ちはしているが、ほとんどダメージが入っていない。アイツからしたら『なんか痒いな……』ぐらいの反応だろう。
何かしらの方法でダメージを通せるようにしたいが、【光貴ナル暴虐ノ盟約】はこんな状況で使うには割が合わない。一番使いたい状況で使いたくないってのは面倒だね。
『そんな時こそワタシを頼ってみては?』
アンタか……ポンコツだから必要ないよ。
『そう言わずに〜! ね、ちょっとぐらいなら話を聞いてくれていいですよね?』
まぁちょっとぐらいならね。
『よーし、じゃあ提案します! “真祖の吸血鬼”になるっていうのはどうですか?』
……なるほど?
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