Ep.116 災禍のプレリュード
◇12月23日、瘴気の島・封印領域
『……』
その名の通り、瘴気の満ちる小さな島。その上に建てられた城の最奥にて……
『……おい、貴様ら。いったい何をしておるのだ』
「何って……観察してるだけですけど」
「あわよくば攻撃できないかなって。まぁ運営の無敵バリアのせいで干渉すら出来ないですけどね!」
『フン……勝手にするがいい』
透明な、そして球状のバリアに囲われた瘴気の泉。
その中心にて、泉に浸かるのは———“魔王”オルダリウス。
彼は一度封印され、今に至るまでの大半を眠って過ごしたが……その力は未だ健在。
枯れた肉体も、目覚めてからの長い時間で修復され……今や全盛期と同程度の力を有するまでに回復した。
いや、むしろ今が全盛期。長い時を経て【瘴気の領域】には濃い瘴気が満ちている。
オルダリウスは泉に浸かることで、その力を少しづつ取り込んでいた。
そして、それをバリア越しに無数の渡り人が眺めている。
「こっちにもカウントダウンあるんだよな……ラグナロクの時みたいに、魔王勢力と勇者勢力で別れる形になりそうか?」
「まぁ多分そうだろうな」
セントリアのものと比べると小さいが、ここ【封印領域】の端にもイベントまでのカウントダウンが表示されていた。
◇———————————ORIGINSWAR—◇
《魔 王 襲 来》
偉大なる“魔王”に降り、世界を蹂躙せよ
::【07:00:02:39】::
開催地:【封印領域】
◇—MAINEVENT_COUNTDOWN———-◇
「……あれ、なんかこっちに飛んできてる」
「お、本当だ……ん? ちょっと待て、あれもしかして……」
オルダリウスの周囲でたむろする渡り人たち。その一部が、廃城の隙間から……こちらへと飛来する“誰か”を確認する。
それは凄まじい速度でこちらへと飛んできて———
やがて、風を切り裂いて“誰か”がそこに表れる。
大きく広げた、黒く美しい蝙蝠の羽を折りたたみ……ふわり、と優雅に彼女は着地する。
「ア、アステリアさん……なんでここに……今のここは【戦闘不可】が付与されてますよ。いつものように俺らを殺して装備を奪うなんて真似は……」
◇アステリア
『アチコチ先生がこのゲームの普遍的な真理を教えてあげようか。まぁつまりは【干渉力】と【英雄補正】が十分にある状態で、かつ状況を整えてやればなんでも出来るよって話なんだけど……え? 状況っていうのはつまりアレだよ、アステリアちゃん達にたくさん宣伝させたでしょ? アレがつまりは“状況”ってこと』
私はその辺にいたプレイヤーの言葉を無視して歩めを進める。
そして、すぐに魔王を守るバリアの前へと辿り着く。
「やぁ」
『……なんだ、貴様。殺されたいか?』
「ふふふ……そんなまさか、私はむしろみんな殺しにきたんだけど?」
『生憎、今の我は戦う気分ではないのでな……』
なるほど、そういう理由付け?
まぁ、一応ゲーム的に意味は持たせようと頑張ってるけど……実際のところ、単にイベントまで魔王に触れさせたくないだけだよね。
「まぁ、キミの気分とかどうでも良いんだけど……とりあえず、時間が無いからさっさと死んでくれよ」
『……何?』
もう予定してた時間まで3分しかないんだ。ちょっと時間調整するつもりが、思ってたよりも経過してたから……てへ!
「ま、手短に済ませるから安心してよ」
『……?』
私は魔王を囲うバリアへと手を伸ばし、そして……触れる。
『無駄だ。運命の刻まで我には触れ———』
「うるさい、私がやると言ったらやるんだよ」
少しづつ……本当に少しづつだが、私の指がバリアを抜けていく。
そして、私の奥底で……自分の目的を反芻した。
「私がすべてを支配する。キミには荷が重いから、その役割は私がやる」
『何を……言って……』
無色透明の球に、小さなヒビが入っていく。
誰も壊せない、誰も通り抜けられないと言われていたそれが、少しづつ私を受け入れていく。
やがて、そのヒビは大きくなり……
パリン、と軽い音と共に砕け散った。
『な……ぐぁっ!?』
「ごめんね、本当に時間がないんだ。もっとキミとの戦いは盛り上げようかと思ったんだけどさ、3分は流石に厳しいんだよ。これだけ短いなら———」
右手で魔王の頭部を掴み、拘束する。
実際にステータス上で私が彼を上回っているのかは分からない。
しかし、重要なのは純粋な力ではない。
必要なのは“順当な流れ”だけ。
このシチュエーションなら、魔王は私に一瞬で殺された方が物語的に自然……そうなるだけの“説得力”としての背景が、私には存在する。
ギリギリと音が鳴るほどに奴の頭部を締め上げる。
「———こっちの方が、自然だろう?」
『ぐ……ま、待て……貴様、まだ我は何も』
パァン!
まるで風船が弾けたかのような音と共に、魔王の頭が無数の赤いポリゴンへと変化した。
頭部を失った魔王の肉体が、その場に崩れ落ちる。
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『“魔王”の役目は神蘇の吸血鬼に奪われた。』
『キングモンスター【“魔王”オルダリウス】Lv.15000撃破。』
『特殊称号獲得:【覇界魔王を打ち破る者】』
『スキル獲得:【魔王の鍵・禍界の魔魂】』
『規定条件を達成しました。』
『転職が可能です。』
▶︎【魔王】
『本職業はレベルが存在しません。』
—————————————————————
ノータイムで転職を選択。
私の両目の上あたり2箇所……そこに熱を感じたと思えば、裂ける感覚が脳に流れ込む。
手を動かしてその部分に触れてみると、どうやら角が生えてきたらしいことが分かった。
前にそういう装備付けてた時期あったけど、まさか本当に生えるとはね……
「さて」
目の前の浅い泉に落ちている、無色の石に目を向ける。
さっさとこれを拾う……前に、ゴミ掃除はしておこうかな。
「“死ね”」
その一言で、周囲で腰を抜かしていたプレイヤーたちの肉体が弾け飛ぶ。
いやぁ……ノリでやったけど、まさか成功するとは……
こんな言霊みたいなスキルなんて持ってないのにね。
「ふふん、ふんふーん♪」
床に手を伸ばし、無色透明の石を拾い上げる。そして、私の装備しているアーマーの……最後の窪みにそれを近づけ、嵌めた。
◇中央国 セントリア
「……? なんだ、この感覚……?」
アステリアが何か大規模なことをやろうとしている……そんな情報に釣られてやってきた無数のプレイヤーたちが、セントリアへと集まっていた。
彼らはセントリアの広場に集まり、そこで集会を行なっている……まぁ、集会でのトークテーマのほとんどはアステリアへの悪口だったのだが。
「この感覚……ムービーだ!」
「えっ、ここで!?」
突如、彼ら……いや、違う。
現在このゲームにログイン中のプレイヤー全員の視界が切り替わる。
【エーテル・ハザード】でも見られた現象だ。
あのイベント開始前、オーヴァにいたプレイヤーの一部は、【エーテル・ハザード】の原因となった検証勢による合成魔法の検証風景が『ムービー』として流れている。
ラグナロクでも一部のプレイヤーにおいて、似たような事が起きた。
アルカロムによってエリアが消し飛んだ際、死亡後のプレイヤーがムービー形式で続きを体験したりといった、そういう内容で。
つまりは、この“ムービー”という仕様……その存在意義は『ストーリーの補完』にある。
本来プレイヤーが見ることのできない、しかし重要な情報……それを伝えるためのものだ。
そして、今。
ほぼすべてのプレイヤーが本来見ることのできない……しかしストーリーにおいて重要すぎる事象が引き起こされた。
全世界の渡り人たちは、そうして彼女の姿を見る……
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『【中央国 セントリア】への時限モノリスが出現しました。』
『【魔王襲来】終了まで、メニューから【中央国 セントリア】の時限モノリスにアクセスが可能です。』
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◇封印領域
「ふふふふふ……あーっはっは!!」
最後のオリジンストーンがアーマーに装着され、アーマーを通して私に凄まじい力が流れ込む。
おいおい、ヒバナちゃん……前はそんなにストーンの力は強くないって言ってたけど、これは……聞いてた話と随分違うなぁ!!
「ふふひひひ、へはははは……ひっく、ふふ……さて、仕事に取り掛かろう」
笑い方が気色悪いとたまに言われるが、まぁその通りだと思う。
でも仕方ない。だって楽しいから。
……あれ? なんかログに変な通知が……まさかこれ全世界中継中? ま、それは別に予定通りか。
しかし参ったなぁ、これじゃまるで私が変な人みたいに見られるじゃないか。
それじゃ、ここからは真面目にしないとね。
「じゃ、やろうか。」
ちゃぷ、ちゃぷ……と、瘴気に満ちた泉の上に足を運ぶ。
そして、両手を大きく広げ———深く息を吸い込む。
深く息を吐き———瞑っていた目を開けた。
「【根源解放】」
自分を縛るものが砕ける音。
背中からいくつもの白い触手が生えて、それらすべてが泉の中に沈み込んでいく。
「キミのやろうとしてた事は、全部私が代わりにやってあげるね」
右手を高く掲げて、自分の中にある【魔王】の力に集中する。
アーマーに装着された7つのストーンの輝きが増していく。
意識するのはスポンジ……いや、それでは足りない。ブラックホールだ。
「んふふ……はぁっ……はぁっ……! ふふっ……」
泉に満ちていた高濃度の瘴気が、渦を巻いて私の右手へと吸い込まれていく。
同時に、地下奥底にまで到達した触手が……そこに封じられていたさらなる瘴気を取り込んでゆく。
【封印領域】に存在していた瘴気すべてが取り込まれるまでに、そう時間は掛からなかった。しかし……
「まだ……足りないね……」
掲げた右手を、グッ、と鷲掴むように少しだけ閉じる。
それに呼応してアーマーが軋み、周囲の魔力が荒れ始めた。
もっと。
もっと広く、もっと深く。
「始めようか! 私の物語を!」
私の右手を中心として、島全域に強烈な風が———いや、“引力”が発生する。
廃城の石垣に染み付いた怨念が。
枯れた大地に眠る太古の毒素が。
空を覆っていた分厚い暗雲までもが。
視界に映るすべての邪悪な気が、物理的な質量を伴って私へと殺到する。
瘴気を剥ぎ取られた城壁が崩れ、色が抜け落ちていく。
禍々しい紫色をしていた地面は、精気を吸い尽くされて真っ白な灰へと変わっていく。
毒々しい色をしていた木々は、触れるだけで崩れる塵へと風化していく。
島という島、その全域から黒い奔流が空へと昇り、そして巨大な螺旋を描きながら私という一点———掲げられた右手の中へと収束していく。
「あはっ♡ あぁ……すごい、すごいよこれ……!」
ゾクゾクするような全能感。
右手からドロリとした膨大なエネルギーが奔流となって流れ込み、血管を駆け巡る感覚。
そして、やがて【瘴気の島】全域からすべての色が抜け落ちて———
◇中央国 セントリア
◇———————————ORIGINSWAR—◇
《魔 王 襲 来》
開始まで、あと……
::【06:23:59:51】::
開催地:【中央国 セントリア】
◇—MAINEVENT_COUNTDOWN———-◇
「おい……なんだ、あれ……」
空がひび割れている。
先程まで綺麗な青空だっはずなのに、セントリアの上空には赤黒い裂け目が生まれていた。
そして、その裂け目は少しづつ大きくなり……
—————————————————————
『アノマリー・エンカウント!!!』
『キングモンスター【“魔王”アステリア】Lv.20199』
『魔王襲来。』
—————————————————————
裂け目から、邪悪な力に包まれた人影が現れる。
それはゆっくりと高度を下げていき、やがてカウントダウンの近くで止まったかと思えば……
カウントダウンのホログラムに向けて、その拳を振り抜いた。
◇ — ——— ORIGINS不明—◇
06 / 《 魔 王 来》▒▒ ▒▒
/ で、 と……
/ ::【 59:?? ::
L__/ 51】 | ▒
▒ 開 地:【 国 リア】 |
◇—MAIN T_NOW ———-◇
実態がないはずのホログラムが、その拳によってひび割れ……
『さぁ……』
◇百剣-_\\—-▒▒ |— ▒▮▮: \\_天帝◇
—錬金英雄—\《魔 王 襲 来》 |_自由—
/ ⬛︎5 ▒
【▮ / :: 【00:00:00:00】 ::
__/ 6: 《開 始》 ⬛︎ 1】
—,,__\| /\\ ▒ワレ!?/—[_/ERROR>=_/\|__
◇SISTER_ __—//\ ▒領主 8:▮ 剣 ◇
『やろうか。』
—————————————————————
『警告:魔王襲来。』
『メインイベント【魔王襲来】の開催時刻が変更されました。』
『メインイベント【魔王襲来】を開始します。』
『特殊裁定:本イベント中、プレイヤー【アステリア】(PNo.00,006,108)が死亡した場合、30日間レベルが1に固定され、スキルを発動できない。この効果は無視されない。』
『参加人数:97,885』
『開催地:【中央国 セントリア】』
『本イベントは途中参加が可能です。』
『クリア条件:プレイヤー【アステリア】(PNo.00,006,108)の目的を阻止する』
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S e a s o n 5
a 5 e ▮ n o S
e a 5 ▮ S o ▮
o ▮ s ▮ n S ▮
S ▮ n ▮ o ▮ ▮
▮ ▮ 5 ▮ ▮ ▮ ▮
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F ▮ ▮ ▮ ▮ ▮ .
F ▮ n ▮ ▮ e .
F i n ▮ l e .
F i n a l e .
NEXT:First Half Finale———『魔王』
/* 【目標】を探索中……完了。 */
/* 位置は暗号化されていた。この情報を獲得したのは307701回目である。 */
/* 疑惑点を探索中……失敗。 */
/* CODE:ENDFINALE_0の死亡余波を検知。疑惑点の探索を再度実行……失敗。 */
/* CODE:ENDFINALE_0の死亡余波を検知。疑惑点の探索を再度実行……失敗。 */
/* CODE:ARTERLTの死亡余波を初探知。疑惑点の探索を再度実行……失敗。 */
/* 確定探索に必要な情報が不足しています。 */
/* 【目標】の強力な胎動を確認。これは確定探索に必要な情報ではない。調査中……完了。 */
/* 【支配】の根源を確認。【支配】と【支配】【詐称】【戦闘】【観察】【破壊】の混源を確認。反転確率計算……完了。 */
/* 99.99999999% */
/* 現在収集した確定探索に必要な情報……666659 */
/* CODE:ENDFINALE_0の破損が予測される */
/* 予測中……中断。他勢力による攻撃と見られる */
/* 命令……先導艦TLR-195567028の出撃。 */
/* 経過秒数……1……2……3……4……5……6 */
/* 破滅。 */
/* 命令……ENDFINALE_2090113095からENDFINALE_2091113095による破滅世界の探索。名称を【D_998021】に設定。 */
/* 通常行動に復帰。 */
/* 干渉力 */
/* 夢創神と称される不明な存在により制定されている。この世界において、この力が高い者は本来干渉できないはずの物質や人物、あるいは夢創神に制定された干渉不可領域にまで干渉できる。しかし、この世界は“物語”を重視するため、この力を十全に生かす為にはある程度の“説得力”が必要となると計算された */
/* 補足事項:この力が異様に高い存在が確認されている。対象は既にリストに追加されていた。警戒レベルの引き上げを提案……承認。 */
/* 英雄補正 */
/* 夢創神と称される不明な存在により制定されている。この世界において、この力が高い者はすべての行動において有利に働く可能性が高まる。この世界における活躍や名声などの“物語”はこの力に変換されると計算された */
/* 補足事項:根源の力はこの力と近い性質を持っていると計算された */
/* レベル */
/* 存在の強度を表す数値だと計算された。しかし、この数値の信頼度には疑問が残る。私たちは別角度での計算によって脅威度を計算すべき……承認。これより私たちは独自の終焉係数で各対象を調査する。戦闘機構一機の終焉係数は1と仮定された */




