第二章 癖は不安の色がする
私の名前はサクラ。中学一年生の頃、運命とは程遠い出会い方で彼と出会った。
私は母子家庭で育ち、基本的にひとりぼっちだった。母親はいつも仕事でなかなか話す機会もなかった。なかったと言うよりも、こっちから避けていたのかもしれない。その仕事が普通の仕事ではないことを若い頃から理解していたからだ。たまに家の中が賑やかになることがある。いつもは知らないおじさんばかりだけど、今日は違った。大人のように見えるけど、まだ大人ではないような、そんな雰囲気を漂わせているような人。母と行為をするのに緊張しているように見えた。行為中、目が合った。すぐさま隠れて2階へ上がったが、鼓動の高鳴りが止まらない。後に、行為が終わり母が眠りにつくと、さっきの人が私に会いに来た。名前はアキトと言うらしい。彼は私の痩せ細った体を見て、心配になり、食べ物をあげるために来たらしい。コンビニのパンを渡された私は、一瞬で食べ尽くし、今まで忘れていた満腹感を感じながら眠りについてしまった。起きたら、彼はまだいた。夜は明けているが朝には程遠いような時間、彼と会話を交わした。家が貧乏であること、助けてくれる友達や先生、大人がいないこと、将来に対する不安など、全てを明かした。彼は私を抱きしめて、「もう心配しなくて良いよ、僕が付いてる」そう言ってくれた時、心の底から安心できた。何かあった時いつでも連絡して良いと、旧式のスマートフォンに連絡先が追加されていた。それからアキトとは毎日ように会っては、たわいのない話を繰り返し、気づけば彼と行為する仲になっていた。心と体が満たさせる行為に、私は溺れるように深く深く、浸っていった。
アキトと私は恋人同士になった。何もかもが幸せでなんでも上手くいくと思っていた。でも、そんな日々は長続きしないことをなぜか心の奥底で感じ取っていた。母にアキトとの関係がバレた。母は怒り以外の感情を失ったかのように、怒鳴り続けた。それは娘に女として負けたことへの屈辱か、はたまた、私の身を案じて言ってくれていたのか。考えなくても答えは出ていた。すぐさま、アキトとは会えなくなり、最後にこんなメッセージをくれた。「きっと迎えに行くから」その言葉がどんなに私を支えてくれたか数えきれない。でも、一つ不安があった。私が彼にこう問いかけた時がある。「一生私といてくれる?」彼はうなじに手を当てながら、少し間を空けて「もちろん」と答えてくれた。
なぜかそれだけが私の中で、幸せな記憶と共に渦巻いていた。
地元とは遠い高校へ進学することになった。
母の新しい恋人が近くに住んでいるらしく、すぐに引っ越すこととなった。その行動力だけは、尊敬している。普通なら知り合いが誰一人としていない環境に不安を感じるのだろうか?私はそれが普通だから、特になにも感じることはなかった。無色透明、そんな言葉がお似合いであろう。でも、その予想は桜と共に散ることになるなんて思いもしなかった。私は教壇に立つアキトと目が合った瞬間、見える景色全てに色が塗られていくのを感じた。