1.再開
春。制服の新しい香りと、桜の花びらが舞う朝。
高校入学式。新しい環境に胸を弾ませる生徒たちの中に、ひとり、眼鏡の奥で静かに周囲を観察する少年がいた。
──充希。
小柄で色白、華奢な身体つき。整った顔だちはふとした瞬間に見る者の視線を惹きつける。けれど、地味で静かな性格なため、そのことに気づく人はは1人もいなかった。
そんな充希は、姉の影響で小学生の頃からBLの世界に魅せられ、二次創作小説を読むのが日課。周囲には絶対に言えないけれど、妄想癖だけは高校生になっても健在だった。
「腐ってますけど、何か?」
そんな自虐的な言葉を脳内で唱えながら教室へ入ったその瞬間、充希の身体がピクリと硬直した。
──そこにいたのは。
「……嘘、でしょ」
教室の一番後ろ、窓際の席に座っていた二人の男子。
一人は、金髪に近い茶髪で、爽やかに笑うチャラめの美少年。もう一人は、鋭い目つきで背が高く、どこか刺すような存在感を放つ無口な男。
「……空翔、海翔……?」
小学生の頃、毎日のように遊んでいた双子の幼なじみ。引っ越してしまい、それきり音信不通だった彼らが、まさか同じ高校の、同じクラスにいるなんて。
驚く充希の視線に気づいたのは、茶髪の空翔だった。
「──っ、充希?」
その瞬間、椅子が音を立てて倒れた。空翔は椅子を放り投げるように立ち上がり、一気に駆け寄り距離を詰めてきた。
「本当に……充希? まって、え、ほんとなの 」
動揺を隠しきれていない顔の空翔の後ろから、ゆっくりと立ち上がった海翔が、無言のまま一歩、また一歩と充希に近づく。
「お前、充希か.... 」
低くて掠れた声。でも、どこか懐かしくて優しい。
充希は唇を震わせながら、こくんと頷いた。
「う、うん……二人とも、大きくなったね また会えて嬉しいよ!」
「そっちこそ、昔と変わらず小さいまんまだな」
思わず出た海翔の一言に、充希は嬉しくなり思い出に浸っていた。
──あの頃からずっと好きだった。
その想いを、今でも抱えたままだった二人。ようやく充希との再開を遂げた。
「ねぇ、充希」
空翔の声が、ふと低くなる。
「高校生活、ちゃんと覚悟してる?」
「……え?どういう意味....?」
「僕と海翔、充希をずっと探してたんだよ。今さら“幼なじみ”で済ませるつもりはないよ?」
「── 俺らは、本気だ」
左右から距離を詰めてくる二人に、充希は気づく。これが、ただの再会ではないということに。
彼らの目は、獲物を見るような、それでいて熱を帯びた──明らかに、充希を「男」として見ている目だった。
──ここから、三人の関係が変わっていく。
それは、優しくも激しく、そして少しだけ歪んだ、欲望のはじまりであった。




