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3・おこごと

 





「リーシェ、聞いてるのですか?」


 時刻は午後四時の夕方。

 更衣室にて、お仕事を終えたリーシェはヴァンネルに服を着替えさせてもらっていた。

 堅苦しいメイド服からカジュアルなワンピースへ。腰元の大きなリボンが特徴的である。


 その最中、ヴァンネルからの少しばかりの説教タイムが始まった。


「ちゃんと休憩は取らないとダメですよ。休憩をとるのも仕事のうちですから」

「だって、いけそうだったんだもん。それにきゅうけいしなかったらはやくおわるよ?」

「それは良くない考え方ですよリーシェ。体は資本なのですから、それを蔑ろにするようなことはあってはいけません」

「そうなの? リーシェまだ若いからだいじょうぶだよ?」

「若い若くないは関係ありません。……それと、まるで私が若くないみたいな言い方はやめなさい」


 リーシェの髪を梳かしながら、ヴァンネルは彼女の頭に軽い裏拳をコツンと落とす。


「分かったら、次からはちゃんと休憩を取るように。食堂でもちゃんとあなたの分を用意しているのですから」

「うん、わかったヴァンネル」






 ◇





 裏庭の花園は、ここアッシムの古城にある庭の中でも一番美しい庭園である。

 この場所には実に多種多様で色とりどりの美しい花々が咲き誇るが、中でも夜にだけ咲く「蝶夜草」と呼ばれる花が特徴的だ。


 まるで両羽を広げた蝶のようなその花は、夜になると蒼色や赤色などに美しく光り輝く。

 どこにでも咲けるわけではなく、特別な土壌にしか咲くことのできない希少な花。


 そんな蝶夜草の光に照らし出された庭園の、ガゼボと呼ばれる東屋にて。

 日も沈んだ午後六時頃、リーシェはそこでイチゴアイスを食べながら本を読んでいた。

 今日一日のご褒美である。

 夜ご飯は午後七時からのため、それまでの間、お仕事が終わればここで本を読むのがいつもの日課となっていた。


 心地いい夜風が肌をくすぐる。

 読んでいる本は「魔法応用読本」という、彼女の年齢にしてみれば難しそうな本だけれど、彼女はそこに書かれている文字をすらすらと読んでいく。

 普段は小説を読んだりもするけれど、今日はこの本の気分。


「本を読んでいるのか」


 ザッと土を踏む音が聞こえる。

 黒い長髪と白い外套をひるがえし、ガゼルに背の高い男が現れる。

 低く落ち着いたその声に、顔を上げたリーシェは満面の笑みを浮かべた。


「りゅうおうさま! おしごとはおわったんですか?」


 マグナはリーシェの隣の椅子に腰を下ろし、彼女の読んでいる本に目を向ける。


「つつがなくな。何の本だ?」

「ふふん。まほうのおべんきょうですよーりゅうおうさま。わたしはきんべんなのです」


 リーシェは自慢げに読んでいた本の表紙を見せた。

 それは中等部などでようやく理解できる程度の本。もっとも、熟達した魔法使いからすれば絵本レベルの内容でしかないけれど。


「そうか」


 マグナは口元を緩めて優しい笑みを浮かべ、彼女の頭に手を置いた。

 優しい手つきで頭を撫でられるリーシェ。


「掃除を頑張ったそうだな。ヴァンネルが褒めていたぞ」

「えへへ、それほどでも」


 しばらくの間、リーシェは目を細めてマグナの大きな手に身を任せていた。

 頬を撫でる手は少しくすぐったいけれど、それ以上に心地の良い安心感を与えてくれる。


「明日、水族館にでも行くか?」

「すいぞくかん……?」

「様々な魚を集めた展示場のようなものだ。先日オープンさせたばかりでな」

「いきたいです! けど、りゅうおうさまおしごとは?」

「明日は休養日にしている。問題はない」


 ゆっくりとマグナの手が離れる。

 席を立った彼は、それから外套をひるがえして城の中へと歩いて行ってしまう。

 去り際、彼は思い出したように一言付け加えた。


「それと、ちゃんと休憩は取るように」

「あ……はい」






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