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アンノウン  作者: 己銀
6/6

EP6『抑止力』



「あ、あう、…ま、待って…待って………」


止めなければならない。

でも、突然始まったこの殺し合いに、どう終止符を打てば良い?

そもそも、彼らの目的は…?

十中八九、私に関連した事で争っているのは、よく分かる。

その判断を委ねられて、今、私が答えを出せずにこうなってるから。

今の状況から鑑みて、私の事で争うと言うのなら、それは多分、絵画のことだ。

Code付きが好戦的であるなら、絵画の取り分を争っているか、はたまた、絵画に関連した別の何かで争っているか、それのどちらかとなる。

なんであれ、二人の戦闘を止めなければ。


「な、なんで、なんで争う必要があるんですか…?」


「ダメ?、俺達は君を狙ってる訳だけど、アンタは一人しかいないでしょう?」


「だ、だって、少なくとも貴方は、私じゃなくて、『私の絵画』が欲しいんじゃないんですか…?」


「『佐藤くん』な。確かに君の絵画は欲しいけど…でも、完成した作品が全部欲しいってなるなら、いっそ君の隣で、ずっと完成していく絵画を眺めてた方が、効率良いだろ?」


その点で、俺は君が欲しいんだよ。と彼は子供を諭すような言い方で、私に近付いてくる。

だが、私の前に立ち塞がり、それをダメだと阻止する高橋くんが現れる。


「ダメです。Code付きが近くに居れば、Code付きと戦闘をしたいがために、この人が、別の外部に利用される可能性があります。」


「守ってあげるって選択肢はないんだ?、お前の実力ってその程度なワケ?」


だったら俺が隣にいた方が良いだろ。と、彼はくるくるとナイフを振り回して遊び出す。


「守るとか守らないとか、そう言う問題じゃないんですよ。この人が、表でちゃんと生きていけるようにするのが、正しいことでしょう。アンタは、自分の私利私欲を優先するって言うんですか。」


「それの何が悪い?俺はOriginalだ。赤い紅い、Blood Codeのfirst.7、“価値”のあるものに執着して何が悪い。何かと引き換えに従うしか能がない、Blue Moonのお前のことだ。どうせ、『お前も同じなんだろう』?」


「………。」


「お前は、その子の『何かと引き換え』に、これから先、一生、『面倒見の良いクールな後輩クン』として、隣に立ってるつもりなんだ。Code付きの事実を隠して、表では世話役として、Blue Moonの本質である『忠誠心』をその子に捧げようとしてる。」


考えることはどちらも同じだと、彼はナイフを構えた。


「構えろ。どちらにせよ、原点は戦闘でしか存在意義を見い出せない、獣性を持った人間だ。」


「そ、そんな、…」


待ってくれと、私は思わず声を上げる。


「ン、止める?やっぱ止めちゃう?」


今にも、どちらかが死ぬまで終わらないような、殺し合いが始まろうとしているのに、私が情けない静止の声をあげるだけで、彼らは一度動きを停止させる。

私の一声一声に、耳を傾け、次の言葉を待っている。


「よ、要は…えっと、貴方は私の絵が欲しいんですよね…、でも、完成する度、いちいち絵を貰ってたらキリがないし、それなら完成していく絵を見ていたい、」


言葉が途切れ、上手く発音出来ない。

どもってしまいながらも、私は何とか一つ一つ言葉を選んでいく。


「じ、じゃああの、あの、付き合いませんか?」


「は?」


「あ゛?」


「ごめんなさい」


佐藤くんの反応は当たり前だとして、問題は高橋くんだった。

焦っていたとは言え、あまりにも突発的に告白してしまったものだから、見当外れな声が出るのも仕方がない。

でも、ずっと絵を隣で見てたいって言うなら、関係性的には恋人であった方が、都合が良いんじゃないかと思ってしまったのだ。

とは言え、殺し合いに発展しそうな場面で、あの発言は“ は? ”となるし、仕方がない。

仕方ないんだけど……。


「アンタ、自分が何言ってんのか分かってんのか?」


すっごいドスの効いた声を出して、こっちを見てくる高橋くん。

何人か人を殺してるってレベルの声と顔に、私は即答で謝罪の声を上げた。


「ちが、違うの…ごめんなさい許して」


殺さないでと、高橋くんに懇願する情けない姿ときたら。


「あは、いきなり下僕から恋人昇格?めっちゃ好条件じゃん。」


「殺すぞ。」


今度は上機嫌な佐藤くんに向かって、ストレートな脅しをかけている高橋くん。

再三言うが、十九の青年がしていい顔じゃない。


「ひぃん……」


「あ゛〜、もう…っ」


回答を間違える度に高橋くんが怖くなるので、じわじわと自分の視界がぼやけてきた。

すると、その様子を見た高橋くんが、頭を掻きむしりながら家庭用の包丁をくるりと回転させ、キッチンの収納スペースにしまい込んだ。


「原因作ったのは自分達ですけど…そんな答えありかよ。」


包丁をしまった後、高橋くんはスタスタと私の所までやって来る。

そうして、へたり込んでいた私をグイッと助け起こし、ぎゅっと手を握ったまま、彼は呟いた。


「アンタがその選択するなら、自分で妥協してください。」


「え…?」


「付き合うなら、自分とで良いでしょ。得体の知れないそこの男より、よっぽどアンタのこと理解してますよ、自分。」


「ぇ、いや…」


でもそれだと、殺し合いを止める手立てが…、と言うか、高橋くん、彼女どうするの…???


「お前、付き合ってる女いるんじゃねえのかよ、二股か?最低だな。」


佐藤くんは嘲るようにそう言うが、予想外の方向に話が飛んで行ってるので、多少の余裕の無さが滲んでいる。


「黙れ。こっちにも事情があったんですよ。」


「い、いや、でも、彼女さん、」


「……酒ですよ」


「お、お酒?」


急にピンと来ない言葉を出されて、私は首を傾げる。

訳を聞くと、高橋くん曰く、私と出会う前、大学のサークルで、新人歓迎会があったそうな。

スポーツ系のサークルに入って体を動かしたかった高橋くんは、サークルに入ろうとしたは良いものの、そこはいわゆる、ヤリサーだったみたいで。

何も知らずに新人歓迎会に参加して、強い酒をちゃんぽんで飲まされ、彼女さんにお持ち帰りされてしまった。

で、朝起きたら全裸。

既成事実を作ってしまったので、責任を取って彼女さんと付き合うことになったそうで、現在に至っている。

だからまあ、うん、端的に言えば、お互い明け透けな理由で付き合ってたみたい…。

既成事実作っちゃったから、顔がいい後輩くんと付き合いたかったから、みたいな。

そりゃ長くは続かないし、破綻寸前に至る訳だ……。

同棲の話とか、どうやってまとめたんだろう…?


「お持ち帰りで、逆レされるとか馬鹿かよ。」


「うっせえですよ、ほぼ記憶ないし、ノーカウントみたいなもんでしょ。」


「クズ過ぎ〜。本命以外どうでもいいタイプかよ。」


「そ、そうだったんだ……」


ヤリサーの存在とか、彼女さんとの関係とか、理由が結構衝撃的なので、どう反応していいか分からない。

と言うか、ウチの大学、ヤリサーとかあったんだ…怖……、近付きたくない…。


「とにかく、理由は話しました。んで、アンタがソイツと付き合うにしても、そうじゃないにしても、彼女とはもう別れて清算します。なんで、悪いとは思いますけど、自分で妥協してください。」


「だ、妥協ってそんな…」


妥協のレベルじゃないだろ、君。

基本的に頭がキレて、何でも出来るタイプだし……。

文武両道だから、少しお金さえあれば、良い大学行けたくらいの子で妥協って、どんな贅沢だよ。


「ヤリサーの女に持ち帰られてるガキで妥協って、それはキツイだろ。」


「ポッと出の傲慢野郎に、この人の何が分かるってんですか。」


「今更知ったかマウント?お前よりかはマシだろ、やんのかオス猫、あ?」


「人の神経を逆撫でするのが上手いですね、アンタ。噛み殺したくなる。」


もういい、もういい。

本当にCode付きなるものは、お互い好戦的なのだと目の前でまざまざと見せつけられた。

これ以上、また殺し合いをされては困る。

慌てて、猫の喧嘩を止めるように間に割って入った。


「じゃああの、あの…付き合うのは私もいきなり過ぎたと思うんで、友達からとかじゃダメですか…?」


「ダメです。」


「エッ……」


高橋くんが背後からそう言って、佐藤くんを睨んでいる。


「決めんのはお前じゃねーだろ、俺だ。」


「じゃあ断ります。」


「言い方変えろって言ってんじゃねえんだよ。」


何を言ってもダメそうな雰囲気に、私は萎れて小さくなるしかない。


「Masterが殺し合い望まねえってんなら受け入れろよ、主人の命令は絶対だろ。」


高橋くんは佐藤くんをじっと睨んでいるが、ため息混じりに佐藤くんは、高橋くんを諭している。


「俺達は、自由にMasterとなる人間を決められる。だが、一度主人を決めたら、ソイツが死ぬまで従い続けるのが性だ。」


「死ぬように仕向けることも出来ますよね?、気に入らなきゃ、間接的に死に加担出来る個体もいる。」


「俺がそうだって言いたいのか?」


「そうじゃない確証もないでしょう。」


信用ならないのか、高橋くんは一歩も譲らない。

お互い睨み合うが、さっきみたいに凶器を向けるようなこともないため、血が流れることは無さそうだが……。


「はー、メンドクセェ。話が合わねーな、仲良くしようって気はねえのか?」


「ねえよ、消えろ。二度と現れんな。」


「んじゃ、Master。アンタの連絡先を代償にしよう。」


「おいッ!」


帰れつってんだろ!と高橋くんの怒声が部屋に響くが、佐藤くんは何食わぬ顔をして、私の連絡先を聞いてくる。


「アンタの飼ってるオス猫がうるさいんでね。今日は諦めるよ。今日はね。でも、等価交換だ。アンタの連絡先を代償にしてくれたら素直に消えるよ。」


「え…そ、それは……」


佐藤くんの素性を知った手前だが、なんか変な詐欺に使われたりしないだろうか…?

家を知られてるので矛盾してるが、さすがにスマホの個人情報開示は怖くて、目を泳がせてしまう。


「それもダメ?、じゃあ合鍵とか。俺ん家の鍵もあげるし。」


「殺すぞテメェ、この人のこと何だと思ってんだ。」


「お前が思ってる通りの人間だよ。お前がMasterに執着するように、俺にもそうなる理由があんだよ。」


まずい、高橋くんも佐藤くんも引かないせいで、イタチごっこになってきてる。

もう素直に電話番号くらい渡した方がいいんだろうか…、最悪なんかあっても、スマホを買い替える手がある。


「あ、じゃあ…電話番号あげるんで、あの……」


「何あげようとしてるんですか。ダメです。」


「エッ…で、でも、こうしないと帰ってくれない……」


「追い出します。」


シャキン、とまた包丁を出そうとする高橋くんを、私は慌てて止めた。

半ば強引に高橋くんを押さえ込んで、私は近くにあったキッチンペーパーに自分の電話番号を書いて、佐藤くんに渡した。

そしてすぐに帰ってもらった。

高橋くんはブツブツ文句言ってたけど、彼女さんのことがあったので、あんまり強くは出られなかったみたい。


「…。」


今日は泊まって行きなよ。

そう言ったは良いけど、案の定、高橋くんと彼女さんは現在、電話で喧嘩に発展している。

高橋くんが家のお風呂から上がってすぐ、電話がかかってきた。

彼女さん側は浮気だなんだと言ってるみたいだけど、帰ってくるなと先に言ったのはそっちだろと、高橋くん。


「イチイチ機嫌伺いの為に家に帰りたくねーよ。自分の言ったことくらい責任持てよ、年上だろ、アンタ。」


喧嘩っていうか、高橋くんはなるだけ冷静に諭しているような感じだが、やっぱり話が通じなくてイライラしてるみたい。

風呂上がりで濡れた髪をタオルで拭きながら、眉間に皺を寄せて、素人目からも分かるくらい、すっごい嫌そうな顔してる。


「アンタもさぁ、俺の事、単なる都合のいい財布としか見てないんだろ?、既成事実作って、金ズル用にキープしてる後輩何人もいるって話、噂じゃなさそうだし。」


エッ…、彼女さんそういう…。

話を聞いてる感じ、新人歓迎会とかで、後輩や年下の子の未熟な子を狙っては、既成事実を作って、色々貢がせているとか何とか……。

大学の裏側を知ってしまった感がある。

頭が良くなくても入れる大学だから、やっぱそういう人達も一定数集まってくるのかも…。

高橋くんには悪いが、友達のいないボッチで良かった…。

こういうのに誘われて揉めるくらいなら、一人の方が絶対いい。


「とりあえず…別れるのは確定として、クロコはこっちで育てるから。元々俺が拾ってきた猫だし。」


彼女さんはまだ電話口で何か言っていたが、高橋くんは一方的に話をまとめて、さっさと電話を切ってしまった。

ため息混じりに、キッチンからこっちへやって来て、スマホをカバンの中に閉まっている。


「高橋くん、大丈夫…?」


「クロコのことが心配ですけど、概ね大丈夫だと思います。」


明日から、別れるために本格的に動いていくらしい。

気分を落ち着かせるためか、入れてあげた冷たいストレートティーを飲んでる。

佐藤くんが帰った後、私の汚い部屋は文句を垂れる高橋くんに掃除された。

洗濯した後、無造作に散らばっていた洋服はきちんと畳まれ、キッチンも清潔な皿やタッパーが水切りラックにかけられている。

溜まっていたゴミも全部捨てられて、部屋はちょっと広くなった。


「……」


泊まって行きなよ。と言った手前、こんなとこで寝られねーよ。と正論を返された結果である。

それでも泊まっては行くのか…と、ちょっと思ったのは秘密である。

彼に言ったら、アンタがいいって言ったんだろ。と言われそうで怖い。


「アンタの絵に囲まれてると、おかしくなりそうです。」


「エッ…」


急に罵倒されたのかと高橋くんを見れば、じっと視線を私の描きかけだった絵に集中させている。

寝る場所を確保するために、私が隅に追いやったものだが、あの絵は猫を題材としている。

茶トラの猫が、どこかオシャレな夜の街並みを散歩している絵。


「何も言われてないのに、無造作に深層心理に入り込まれてる感覚がする。」


「気に入らない…?、布かけておこうか…」


「いえ、いいです。あのままで。」


絵から視線を外すことなく、高橋くんはストレートティーを飲み、そう呟く。

彼の瞳が、青い。

いつからだろうか。

じわりと滲み出てきている、あの奇妙な段階はもう終わっていて、今は深い海みたいな色をしてる。

深い海の中から、太陽の光を見てるみたいな、そんな不思議な色。


「なんでしょうね、強制的に心理を深く探るためのカウンセリングさせられてる気分になる。」


「…それは、褒めてるの?」


「褒めてます。いずれ向き合わなければならない問題に対して、強制的に見ろと言われてる。と、同時に、傍らにずっとそれが着いて、背中を支えている。」


「…えっと、…哲学?ごめん、よく分かんなくて……」


不安げに視線を彷徨わせながらも、結局、私は高橋くんの目を見てしまう。

いつもすぐに茶色に戻ってしまう彼の目は、ずっと青いままだ。

ここへ来てから、多分ずっと。


「“死”はいつも隣にいる。終わらせようと思えば終わらせられるんだから、別に“今”じゃなくてもいい。自分はアンタの絵に対して、そういう解釈をしています。」


「それ、良いことなのかな……?」


いわゆる、生羅さんの言っていた、絵が独自の性格を持ち始めるという話。

人それぞれ、死の解釈は様々だが、高橋くんには私の絵がそういう風に映っているとのこと。


「自分にとっては、良い転換期になりましたよ。いつも早く消えたいと思ってたんで。」


「き、消え…」


突然、闇深いことを呟いてくる高橋くん。


「この青いCodeのせいで、生きてきて良いことなかったもんで。」


「……あの、高橋くん。佐藤くんと二人で言ってた、“Master”って、なんなの?」


チャリ、と高橋くんの首からぶら下げられた、小さな青い粒がはめ込まれた二枚のプレート。

ICチップなる物がプレートに埋め込まれており、そこに高橋くんのCodeと情報が乗っている。

そして、さっき家に帰ってもらった佐藤くんも、赤い粒が埋め込まれたプレートを二枚、首からぶら下げていた。

だが。


「……。」


「いけ好かねえ野郎ですよ、ホント。」


机に置かれた、佐藤くんのプレートの一枚。

彼の個人情報が、今、私の手元にある。

佐藤くんを半ば強引に追い出す時、いつの間にか私の首にかけられていた。


「じゃあね、Master。明日も来るよ。」


そう言って、キッチンペーパーを片手に去って行った佐藤くん。

佐藤くんの言っていたMasterの意味的に、このプレートネックレスを持っていたら、それになるのか…?と私は疑問に思っていた。


「名前の通りですよ。付き従う主人のことです。そんで、主人に関してはCode付きが自由に決められる権利があって、Masterとなった人間はこのプレートを持ってなきゃいけないんです。」


「エッ…な、なんで……」


「責任を取ってもらうためです。Code付きがなんかやらかした時、アンタが主人になるので、監督責任っつーモンが付き纏うんですよ。」


「そ、そんな…」


いや……無理だよ、監督責任とか。

生まれてこの方、そんなものになったことすらないのに…。

ていうか、主人ってそんな…、こんな勝手に決められるものなの…。


「分かりますよ、アンタの考えてること。自分も予想外でしたからね。」


「うん……」


「Code付きがMasterとして選ぶ人間は、基本的にやらかしても責任を取れる程度には、上に立てる立場のヤツばっかなんですよ。」


「そ、そうだよね…、分かりやすくお金持ちとか、そういう権威を持った人じゃないとダメだよね……?」


高橋くんの呟きに、自分の感性は間違ってなかったと安堵しながらも、彼の動向が少しばかり気になる。


「その方が都合が良いですからね。Code付きじゃない普通の人間に付き従って仕事してるだけで、生活には困らないし。」


「うんうん、私もその方がいいと思う…。」


「主人が気に入らなきゃ、間接的に殺して新しい主人を探せば解決なんで、大半のCode付きがそうしてますよ。」


「エッ……」


くぁっ、と大きな欠伸をしながら、なんでもないように呟いてるが、高橋くん今、とんでもないこと口にしなかったか?


「こ、殺すって……」


「文字通りです。主人が主人として機能しなくなった場合とか、主人に自分の地雷踏まれたとか。そうなったら、さっさと捨てるか、殺して別の主人のとこ行きゃ、雇って貰えますから。」


「ひぃ……」


「これでMasterなんて笑わせますよね、都合のいい寄生先って素直に認めた方が良いのかも知れません。」


じんわりと目頭が熱くなってきた。

じゃあ、いつかは私、殺されるってことじゃないか。

この呪いのネックレスを返して拒否しないと、酷い目に遭うってことだろ???

信号機のように顔を青くしながら、私はネックレスを震える手で机の上に置く。


「今じゃMasterなんて言葉、機能しなくなっちまうくらい都合のいい単語になりましたけど……、ちゃんと自分らの間で意味はあるんですよ、Masterって。」


「そうなの…?」


おもむろに、高橋くんは私が机の上に置いたネックレスを手に取り、チェーンを外す。


「本来、Masterってのは、“俺ら“が生かすことを条件とする場合に、必要な要素を兼ね備えている人間のことを言うんです。」


「必要な要素…、佐藤くんも言ってたよね、それ…。」


「あのピンキー野郎の持つ赤いCodeは、主に『価値ある人間』に執着する傾向があるんですよ。」


「『価値ある人間』……」


何に対して価値があると捉えるかは、赤いCode付き達によって様々ですけどね、と高橋くんは続ける。


「まんま金を持ってる人間に価値を感じる野郎もいれば、こんなふうに、価値あるものを作り出す人間そのものに価値を感じる野郎もいます。」


「じゃあ、高橋くんは…、」


「自分の場合は、『対価と代償』です。」


「『対価と代償』……。」


高橋くんが言うには、Blood CodeのBlue Moonは、主人が自分達に対して何かをさせる度に、同等の代償か対価を支払うのが、主人を生かす条件なのだとか。

故に、それらを支払えなくなれば、すぐにお払い箱となる。

だが、対価や代償を支払い続けることが出来るのなら、Blue Moonはその際決めた主人に生涯付き従い続ける性なのだと言う。


「『価値』や『最適解』よりも、余っ程対等で分かりやすくて、やりやすいと思いませんか。」


「いやでも…払えなくなったら始末されるんだよね……?、エッ……」


高橋くん、さっきから机のネックレスで何をしているのかと思えば、自分のネックレスから青のプレートを一枚外している。

そして、机に置いた方のものにプレートをぶら下げ、赤と青の二枚綴りのネックレスにしてしまった。


「まあ、なんであれ、アンタが後悔しようが、拒否しようが、もう“俺らは”認めちゃってるんでね。」


こういうの、なんていうんでしたっけ。と彼は二枚綴りのネックレスを私の首にかける。


「もう逃げられないゾ。って、ボケるべきですかね。」


「ひ、ひぃ……」


「Blood Code Type:Blue Moon Absolute.12。これからよろしくお願いしますよ、Master。」


まるで死刑宣告を受けたかのような、この状況。

一夜にして、よく分からない二人の人間から、主人として認められてしまった。

情けない声をあげて、縮こまるしかない私に対して、


「ほら、返事。」


と高橋くん。


「ひぃん……」


「はは、情けな。」


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