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アンノウン  作者: 己銀
4/5

EP4『頼み事』


午後八時三十五分。

高橋くんとの待ち合わせを一時間三十分と少し過ぎて、ようやく私は、目的のステーキハウスで、高橋くんと席に着いた。


「アンタはもうホントにぃ…」


「……ごめんね」


ステーキハウスに着いたのが、午後八時二十分頃。

その頃には、高橋くんは駐車場の喫煙スペースで、不機嫌そうな顔で、タバコを吸っていた。

合流して早々、吸っていたタバコを消して、こちらを睨んでくるその眼光には、ちょっとチビりそうになった。


「なんか言うことありますよね?」


「遅れてすみません…」


「本当に反省してます?」


「はい…してます…」


この際、タバコの入手ルートはどうだとか、未成年なのに吸って大丈夫かとか、そういう話はナシだ。

と言うか、近年では十八歳で成人と言う認識が浸透してきているので、私的には、まあセーフっちゃセーフ。


「全くぅ…早く行きますよ。」


「………。」


もう余計なことを言って怒られたくないので、タバコを吸殻入れに突っ込み、大股で店まで歩いていく高橋くんの後に黙って続いた。

適当な席に座り、メニューを開きながら、私は高橋くんの様子を伺う。


「あの、遅れてごめんね、彼女さん、高橋くんが遅くなっても大丈夫かな?」


「今日は大丈夫です。アイツも友達グループと飯行ってるんで、帰るの遅くなりますし。話し合うのは、お互い頭冷やして帰って来た後です。」


「そ、そうなんだ…」


「最も、向こうが話し合いに応じるかは分かりませんけどね。」


話が出来ないほど、溝が入ってしまっているなら、完全に修復するのは、少し難しそうだ…。

であれば、こんな所で、呑気にステーキ食ってて良いんだろうか。

しかしながら、元々彼女さんも、そうやってお友達と遊びに行くのに、彼の行動は制限したいみたいな性質であれば、自分を棚にあげるタチなのかも。

でも、日々の積み重ねでこうなってる訳だし、最初の亀裂は、私が絵画を渡したことだから、私もアレだし、彼も彼で、彼女さんの癪に障るような何かを言ったのかな。

どちらにせよ、二人の事情には、下手に口出ししないことだ。

私が介入して、どうこう出来るような関係じゃない。


「にしても、友達が来る予定なら事前に言ってくださいよ、時間ズラしたのに。」


「いや…その…、実は、約束してたお客さんじゃないの…」


「あん?」


「えっと…話すと長くなるんだけど…」


まず、生羅 暁継さんのコンテストの件で、同じく作品を評価してもらった後、その作品を買い取られた人がもう一人いたということ。

その人に、私の作品が、初手で百万の価値を付けて貰ったんなら、自宅の窓際で絵画を飾って、売り出してみたらどうだと冗談で言われた。

私は生羅 暁継さんの評価と、買い取られた額を考え、本当にそれほどの価値があるのかどうかを確かめたくて、本当に今日この日、窓際に作品を飾って、千円で売りに出してみた。

そうしたら、ちょうど家を爆速で出ようとしていた時間に、作品を全部買いたいと言った男の人が現れて、財布を渡して来たと思えば、キープしておいてと言って、急に帰ってしまった。

とまあ、こんな感じの事情を話して、遅れたことに対する謝罪を再度呟く。

話を聞いている後半の段階で、高橋くんはすでに怪訝な表情を隠すこともなく、話し終わった途端、


「馬鹿なんですか?」


と一言。


「…はい。」


馬鹿なのは事実なので、そうです。と頷くと、彼はボリボリ頭を掻きむしって、「そもそもの話、」と呆れ混じりに言葉を続ける。


「いくらアンタの絵画が欲しいからって、素性も分からない男から、財布渡された時点で、もう怪しいでしょ。何してるんですか。」


「うん…、うん…。」


「言っときますけど、その金、絶対に使ったらダメですよ。変なビジネスに利用されたらたまったもんじゃない。最近は詐欺も巧妙になってますし、ひょっとしたら、金のトラブルで、犯罪の駒なんかに使われる可能性だってある。」


「うん…家に中身そのままにしてある財布あるから、あとで交番にでも届けに行きます……。」


変な皮肉の言葉を鵜呑みにして、遊び半分でやってしまった自分が悪い。

彼に言われて、徐々に冷静になってきたので、この後のことはもうお察しだ。

財布の中身には絶対に手を付けないこと、絵画の販売はすぐに止める、万が一何かしら、脅されてもいいように、ボイスレコーダーや、護身用武器を準備しておくとか、色々対処法は思い付いた。


「んでソイツ、また来るって言ってたんですよね?いつ来るって言ってました?」


「いや、そこまでは…また来るとだけしか言われてなくて…一方的に帰られちゃったから…」


「何かしら、アンタの家に目印付けてるとしか思えない動きしてますね、ソイツ。」


最近は空き巣とかでも、グループで行動して金目のものを奪うことがある。

行けそうな家には、その空き巣達しか分からないような目印を、近辺に付けていったりする場合もあるらしい。


「空き巣だったとしても、私の住んでるアパート、お金持ってる人が住んでる所じゃないんだけどな…。」


私の中での空き巣って、家にお金があって、警備が許そうな住宅街を狙うと思っていたんだが、最近はそういうの関係なしに、見境なくいけそうな家を狙うんだろうか。


「アンタ、臨時収入の件覚えてますか?、どっかでその話が漏れて、聞き付けたハイエナ共が寄ってきたみたいなことも有り得ますよ。」


「あっ…なるほど…」


コンテストの件で、臨時収入が入った話を、どこかで盗み聞きされていた可能性があるのか。

今の所、私がハッキリと百万で絵画が売れた話をしているのは、高橋くんと、コンテストの際に出会った、ウルフカットの男の人だけだ。

一番濃厚な説は、単純だが大学内で、誰かに聞かれた可能性。

大学を通して、外部に情報が漏れて、空き巣に繋がっている可能性もまた有り得る話だ。


「なんであれ、気を付けてくださいよ。詐欺に引っかかって、金スられたとか笑い話にもなりませんよ。」


「うん、気を付けるよ…」


あの時はとても急いでて、冷静な判断が出来なかったのもある。

せっかく貰った臨時収入だ。

怪しいと思うなら、警戒し過ぎるくらいでちょうどいい。

話がひと段落着くと、自然と会話はそこで途切れ、メニューからどのステーキを選ぶかの話に切り替わる。

高橋くんは、きっちりと五百グラムのカットステーキのセットを頼むらしく、遅れてきた私に容赦はなかった。

店員さんに注文をした後、私はこっそりと財布の中身を確認して、会計した後、お金下ろしに行かなきゃ…と密かな決意を抱いた。

とはいえ、何回か高橋くんとご飯を食べに行く上で、遅れると言う、前科が着いてる身なので、本当に申し訳ないと思っている。

それでも見捨てることなく、ご飯に誘ってくれるので、今現在における、私の貴重な重要人物である。


「高橋くん」


「なんですか」


「大学卒業したら、何かやりたい事とかってある?」


「急になんですか。」


何となく。

だが、ふと高橋くんが貴重な重要人物だからこそ、大学を卒業したら、縁が切れてしまうのかなとか、柄にもない考え事をしてしまった。


「や、別に理由はないんだけど、私、やりたいことがないから、ちょっと意見的なの欲しいなって…」


「そんなもん、自分にだってありませんよ。生きていける金さえあれば、なんでもいいです。」


「そうなの…?、お金が大事なのは認めるけど、高橋くん、趣味とかはないの?」


「齧る程度に色々やって来ましたけど、趣味ってほどハマってることもないんですよね。」


なるほど、前々から良い身体してると思ってた。

だからそんな、女の子にモテそうな筋肉質な体型なのか。

完全な偏見だが、スポーツ系で何か色々やって来てるんだろうか。


「スポーツ系かな?、体鍛えてるの?」


「学生の頃は、バスケとか、サッカーとか、アイススケートもやりましたし、水泳も割と好きでしたね。」


「おお〜、凄い。それだけやってたら、体育の成績も良さそうだね。」


体育は常に一か二だった私とは大違いだろう。


「まあそうですね、基本的に体育の成績は学年トップでしたよ。スポーツ系の部活に取り合いされてました。」


「へぇ〜、アスリートみたい。ご両親のどっちか、海外の人だったりする?」


「どっからどう見ても日本人ですよ、高橋なんて在り来りな日本名で、海外の血が入ってること、そうそうないでしょう。」


「そうだよね。高橋くん、光の加減かなんかで、()()()()()()()()()()()から、つい。」


「…青い、目?」


不意に、高橋くんがピクリと反応を示し、私をじっと見つめる。


「え、う、うん、虹彩って言うのかな…、それが太陽とかに触れて、なんか凄く鮮やかな青い色に見える時があったから…だから、ご両親のどっちかが海外の人なのかなって思って……」


「………。」


…どうしよう、何かマズイことを言っただろうか。

高橋くんが沈黙してしまった。

だが、その数秒後、一瞬の内に、彼は机を乗り上げ、私の胸ぐらを掴み、自らの顔を至近距離に近付けてくる。

怒らせたのかと、私は視線を泳がせることしか出来ず、思わず恐怖で身を固めていると、「見ろ。」と、一言、低い声でそう言われた。

怖くて堪らなかったが、見ないとまた怒られると思った私は、彼と視線を合わせる。

いつかの日に見た、彼の、青い瞳の中には、私が映っている。


「Blood Code Type:Blue Moon(ブラッドコード タイプ ブルームーン)」


「へ?」


突然、彼がよく分からない英単語を口走る。

質問に答えろということなのか、はたまた話を聞けということなのか、理解が出来ない私は、ただただ間抜けな声を上げるしかない。

さっきの言葉を理解してないと認識したのか、彼はゆっくりと私の胸ぐらから手を離し、席に座り直す。


「Absolute.、…12(アブソリュート トゥエルブ)。」


どこか安堵したように、くったりと席に着き直す高橋くんに、私は混乱していた。

怒りは収まってくれたようだが、何に対して怒っていたのかが分からず、なんで私のあの反応で、怒りが静まったのかも分からない。


「た、高橋くん…?」


「………。」


「…ご、ごめんね、何か怒らせたなら、謝るか…」


「違います。」


怒ってないです。と、彼は私に、席に着き直すよう指し示す。

彼の瞳は、さっき見た青い目ではなく、いつも見る茶色い瞳に戻っていた。


「あの…」


「なんで、」


「え、」


「青い目に見える時があるって言いましたよね、それ、どんな時でしたか。」


どんな時、と聞かれて最初に思い浮かんだのは、彼と初めて出会った日。

バイト先で出会って、ミスをして慌てる私を、フォローしてくれた時に関わりを持った。

高橋ですと、自己紹介をされた際、面と向かって彼の顔を見た時、確かに青い瞳をしていた。

でも、その青は光の加減でそう見えるだけだったのか、すぐに普通の茶色い瞳に見えて、私は不思議な瞳をした子だなと思った記憶がある。

それ以外で言うならば。

例えば、彼にクロコちゃんの絵を渡す時。

出来たよ、と、透明なビニールバックに詰めて渡した時、彼は絵を見て、「ふぅん。シルエットっぽくて可愛いですね。」と言ってくれた。

その時、彼の瞳にじわりと青が宿った気がして、なんだかとても綺麗な瞳をしていると思った。

絵の具を水に溶かしたみたいに、じわりと瞳の奥から青が出てくるのだ。

少なくとも、私にはそう見える。

だが、かと思えば、それはすぐに色を失って、元の茶色に返っていく。

瞳の奥に、何かを隠すように。


「どんな時って言うか…青い瞳を見た時の条件はないの…初めて出会った時とか、クロコちゃんの絵を褒めてくれた時とか、滲み出すみたいに、染まっていく青い色が見えたから…。」


「……。」


「ご、ごめんね…、自分でも変なこと言ってると思うんだけど、どう表現したらいいか分からなくて…」


「いえ、別に構いません。自分こそすみません、変なこと聞きました。」


納得したのか、妙にスッキリとした顔で高橋くんはドリンクバー行きましょ。と、立ち上がる。


「変なこと聞いた上から申し訳ないんですけど、」


ドリンクバーのスペースで、ゼロコーラのボタンを押しながら、彼は話を続ける。


「クロコの絵、もう一度描いてくれませんか。」


「クロコちゃんを…?」


「今度はもう少し大きいサイズで描いて欲しいです、金が必要なら用意するんで。」


「いや、いらないよ…描くのは良いけど、また部屋に飾るの…?」


唐突にクロコちゃんの絵をまた描くよう言われ、私は首を傾げる。


「そうですね、飾ります。」


「大丈夫…?、ほら、彼女さんもそうだし、クロコちゃんとか変な行動するって言ってたから…」


「そこなんですよね、クロコが急に絵を引っ掻こうとしたり、体を擦り付けたりするのか、原因が分からないんで、描いて貰ったら、クロコが通れない玄関周りか、トイレにでも飾ろうかなって考えてて。」


「た、高橋くんは…?」


クロコちゃんと同じで、絵を見ておかしな感覚になると呟いていた分、大丈夫なのかと、私の頭の中には疑心が浮かんでいる。


「自分は大丈夫です、今分かりました、アンタの絵に対して思ってたこと。」


「……?」


「でも、クロコの絵は、時間があったらで構わないです。あの時、アンタに突っ返したこともあるんで、考えてくれたらありがたいってだけなんで。」


「あ、うん…分かった…。」


「…自分が突っ返したクロコの絵、生羅 暁継の所に持って行ったんですよね?、なんて言ってました?」


ドリンクバーのスペースから戻り、机にプラスチックのコップを置くと、中に入った氷がカラン、と音を立てる。

高橋くんは、ストローで味が均一になるようにコーラを混ぜた後、私にそう聞いてきた。


「…よく分からない。」


「…、」


「『生命の終わりを経験した人間』にしか、私の作品の魅力は分からないって言われたの…。」


自分の作品を他者に伝えようとした時、『生命の終わりを経験した人間にか伝わらない』なんて文章、そうそう使うことはない。

だから、どう伝えれば良いのか分からないけれど、出来るだけ、『死』と言う表現は使いたくなかった。

良い評価を貰えたからこそ、絵を買って貰えたんだろうけど、歪な表現の仕方を、私が無意識にしているのだとしたら、それは、………。


「でも、高橋くん、どうして急に、そんなこと聞くの…?」


「惜しいんですよ、手放したのが。だから聞くんです。アンタが描いたクロコの絵を見て、他の人間がどう思ったのか。」


「そんなに返して欲しいなら、生羅 暁継さんに交渉してこようか…?、また会う約束があるから、その時に他の絵と交換して……」


「いいえ、それは大丈夫です。自分があそこで変な事言って突っ返しておいて、また返して欲しいなんて自分勝手な事言うつもりはありません。ただ、その勝手な事を通せるなら、もう一度、クロコの絵を描いて欲しいんです。」


「……。」


高橋くんの瞳に、また『青』が見える。

海を連想させるような、鮮やかで深い、青藍だった。

彼の瞳が、何を条件にしてに、その青を出すのかが分からない。

じわりと、茶色い虹彩が深い青に染まっていくのを見ていると、その瞳をついじっと見つめてしまう。


「お待たせしました。」


しかし、頼んでいたものを届けに来た店員さんが現れたことで、高橋くんの瞳はすぐに元に戻った。

私もすぐに、視線を店員さんに向けたので、妙な間を避けることが出来、食べ物が来たことで、急にお腹が空いてくる。

高橋くんに至っては、セットで頼んでいた大盛りのご飯を、ステーキと一緒に早速かきこんでいて、相当お腹が空いていたことが伺えた。


「ふおぉ…」


私はハンバーグステーキを頼んでみたのだが、これもなかなかいける。

アチアチと口の中で肉を噛み締めながら、えぐい勢いでステーキを吸い込んでいく高橋くんに、若干の引きを覚えた。

勢いがカー〇ィだ…。

そんなにお腹空いてたのか…。


「お、美味しい?」


「ふぁい」


鉄板にもりもりにあった五百グラムのステーキが、あっという間になくなっていく。

別に、若い男の子だから、このぐらい食べたっておかしくはないんだろうけど、私の方が頼んでる量少ないのに、私より先に完食してしまったのには驚いた。

ご満悦な顔でコーラを飲んでいる彼を他所に、私もようやく完食し、膨れたお腹を摩る。


「ふぅ…」


「帰り、送りますよ。もう遅いんで。」


「あ、うん、ありがとう。」


高橋くんに言われて時間を確認すれば、もう時間は午後十時前だ。

夜道を女一人で歩くのは心もとないと、高橋くんが家まで送ってくれることになった。

お会計が終わった後、二人で最寄りのバス停を目指して歩き出す。

バス停までは、クロコちゃんの話をしていた。

元々、高橋くんの住んでる場所の地域猫が、どこかから拾ってきたメスの子猫だったらしく、その地域猫が里親さんに引き取られるとの事で、クロコちゃんを代わりに育てられる人を探していたらしい。

推定の年齢で、今は二歳くらい。

人慣れしているので、割とどこを触っても許してくれるらしい。

ただ、爪切りが嫌らしく、爪を切ろうとするとめちゃくちゃ怒られるので、寝てる時を狙うしかないとの事。

その代わり、お風呂は好きらしく、いつもお風呂は一緒に入っているらしい。

しっぽはスラリと長く、金色の目とモフモフの毛がチャームポイントだ。

いつかクロコちゃんの絵を描くとなった時、原画となりそうな写真を渡しておくと、高橋くんは私のスマホに、クロコちゃんの写真をまた何枚か送ってくれた。

可愛らしい顔をしているなぁ。と、クロコちゃんの写真を眺めていると、不意に高橋くんが、「さっきの」と、小さく声を上げる。


「さっき…?」


「Codeの話です。自分のBlood Codeの話。」


「えっと、血液型のこと…?」


それなら、前に聞いたことがある。

血液型に関しては、私と同じだったはずだと、話を続けようとした時、彼は小さく首を横に振った。


「覚えててください。Blue MoonのAbsolute個体は『対価』か、『代償』です。それさえくれたら、()は__ 」


「あ、待って、高橋くん、」


私は、彼の言葉を遮り、その場で静止をかける。

この時点で、私の住むアパートには、もう着いていた。

わざわざ高橋くんを静止をさせるほどの問題は、彼の言いかけていた、Blood Codeじゃない。

私の住んでいる部屋の前に、誰かが座り込んでいるということだった。


「ごめん、話遮って…でも、家の前に誰かいるの…」


すでに日は沈んで暗いので、部屋の前に誰が座り込んでいるのかは分からない。

これ以上、誰かが訪問してくる予定も、私が覚えている限りでは無かったはずだから、余計に怖くなった。


「誰だろう…あの人、でも、どっかで会ったような…」


「ちょっと、不用心に近付いたら危ないですって、」


不審に思いながら、ジリジリと距離を詰めて、その人物が誰か、私はゆっくりと確かめる。

そうして、家の近くに設置された街灯の光で、辛うじて分かった特徴から、私は「あっ。」とようやく誰かを認識した。


「高橋くん、あの人だよ、今日、家に絵画買いに来た人…ヤバいかな、財布返した方が良いよね…」


「それが通じる相手なら良いですけどね。」


危ないんで後ろにいてください。と言われ、私が高橋くんの背後に回ると、彼は家の前の人に声をかけに行ってくれた。


「あの、大丈夫ですか?、ここの部屋の人に、何か用でもあったんですか?」


「あー…?、あぁー…ヤバ、寝てた…」


高橋くんが声をかけると、座り込んでいた彼は、ぐしぐしと目を擦り、高橋くんと視線を合わせる。


「…お前、Blue Moonか。」



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