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マヴロス大陸開拓記  作者: おおらり
1. アサナシアとリョー
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7. 添い寝と逃げ膳


 俺の家となる高台の洞窟に通される。

 村が一望できる位置だが、やや遠い。

 早く転移の魔術を習得しないと、面倒だ。


 アサナシアは『マスターは魔物だから願えば魔術で何でもできます』と言うのだが、どうも得意な魔術と苦手な魔術がある気がしてならない。転移魔術はまだまだうまくいかない。


「アサナシアの家は?」

「私は、マスターの護衛です。ずっと一緒ですよ!」



 洞窟の中には、獣の毛皮と緑の葉っぱが交互に重なった寝床のようなものがあったが。

 ひとつしかなかった。


 アサナシアを振り返る。

「アサナシアはどこで寝るんだ……?」

「私は入り口で、見張りをしています!」


 アサナシアが護衛……まあ確かに今は弱体化した幼児の俺よりも強いんだけれども……。


「いや…… 俺はどこでも寝れるから、アサナシアがここで寝ろ」


 アサナシアは目をぱちくりして俺を見て、ニコッと笑った。


「じゃあ、一緒に寝ましょう、マスター!」

「えっ!?!?」

 俺はたじろぐ。


「焚き火を囲んで寝ていたとき、マスターは言いました、『寒い』って。狼のご兄弟のなかで寝てたから、寒く感じるって」

「あ、あのときは、裸だったからだろ……」

「アサナシアお姉さんがあっためてあげます!」

「わ!」


 アサナシアは、俺のことを抱きしめる。

 そのまま寝床にごろんと横になった。

 良いにおいがするし、胸が俺の顔に当たっている。セーフか? セーフなのか?

 見た目 6歳なら、セーフなのか!?


 洞窟の入り口で、かがり火が揺れている。


 アサナシアの胸の中で聞く。

「……アサナシアって、何歳?」

「さあ、何歳でしょう〜?」

「15歳くらい?」

「それくらいに見えますか?」

 ふふ、とアサナシアは笑った。


 これは相当、年上と見た。

 村人たちは『不滅』と言っていた。アサナシアは、さらに太古の昔からマヴロスに存在しているに違いない。


 アサナシアは俺を抱きしめる腕の力を弱めて、俺に腕枕したまま、ごろんと寝転がる。

「カタマヴロス様……ふふっ」

 笑うなよ……。

「うそ、うそ、冗談ですよ、リョー」


 アサナシアは、俺を慈しむように微笑んだ。

 母狼にも似た表情で。

 俺の黒いもじゃもじゃの髪を優しく撫でた。

 かと思うと、俺の重たい前髪をかきあげる。


 アサナシアの紫色の瞳と、俺の黒い瞳がかち合う。


「マスターの目は、本当に真っ黒ですね」

「暗いって言いたいのか?」

「まさか、とんでもない。美しいと思います。

 村人たちが、マスターの黒髪と黒い瞳を見て、あまりの美しさに漆黒(カタマヴロス)だなんて名前をつけてしまうほどには」

 

 アサナシアはなんと、俺の額にキスをする。


「おやすみなさい、マスター」


 俺はドキドキして眠れない。

 刺激が強すぎる。

 アサナシアは1分とたたずに寝た。おい。


 アサナシアの嬉しそうな寝顔を見ていたら、いろんなことが(まあいいか)と思えてきて。

 俺はアサナシアを起こさないように金色の髪に少しだけ触れた。


「おやすみ、アサナシア」

 





 翌朝。

「きゃああああああ!」

 アサナシアの悲鳴で飛び起きる。


「敵か!? アサナシア!? 大丈夫か!?!?」

 寝ぼけたままアサナシアを探すと、長い金髪の少女は顔を真っ赤にして、床にへたりこんでいた。


 何かがおかしいことに気づく。へたりこむアサナシアは俺を『見上げて』いる。せっかくアサナシアが縫ってくれた服が破けて、また全裸だ。

 俺は、14歳くらいの見た目になっている。


「は!? 俺、急にでかくなって……!?」


 アサナシアの視線が、俺のどこに注がれているのかに気づく。寝床に敷かれた緑色の葉をひっつかみ隠す。

 葉っぱ一枚あればいいわけないだろ!!!


「い、いや、アサナシア? これは朝だからであって……決してアサナシアに欲情したわけじゃ……そもそも俺、なんで急に……」


「マスターが信仰を集めたからです」

「え?」

「マスターが信仰を集めて、マスターの魔力が回復したから成長なさったんです。

 少し考えればわかったのに……どうして服を脱がせなかったんでしょう……」


 そこ!?!? そこじゃない!!!!

 昨日の夜、アサナシアに急に脱がされてたらそれはそれで問題があっただろう!?


「目が覚めたら……は、裸のマスターが横にいたんです……」


 そりゃ叫ぶか。

 身に覚えのない男と添い寝していたなら。


 アサナシアは胸の前で両手を組むと、俺から目線を逸らし、恥じらいながら言った。


「でも、あの……私……。

 マスターにならいつでも、いいですから」


 え、なにその意味深なセリフ。

 よくないだろ。よくないだろ!?


 童貞のままマヴロスに来た男には刺激が強すぎるセリフだ。過去に彼女がいなかったわけじゃない、でも踏み込めなかった。


 真意が知りたくて俺はアサナシアに少し近づこうとする。葉っぱで股間を隠したまま。


「え、あの、アサナシア……さん?」

「でも、今はダメ!!!」

 アサナシアは真っ赤な顔で、俺を見た。


「か、体洗ってないから、ダメです!」


 アサナシアは走って洞窟から逃げて行った。

 据え膳ならぬ逃げ膳である。



 待ってくれアサナシア。待ってくれ。

 勘違いしないでほしい。

 俺はそばにいてくれる女の子に急に手を出す男じゃない。

 ちゃんと段階を踏みたいタイプなんだ。

 ちゃんと付き合って手を繋いでキスをしてそういう日々のあとに据え膳してほしいんだよ。


 アサナシア、本当に待ってくれ。

 服を……何か服を持ってきてくれ。


 俺は古代の寝床の上で裸で悶え苦しんでいる。


 アサナシアがもう一度帰ってくるまで、たぶん、ずっとこのままだ。


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