魔王アステル、エオニアを歩く
魔王アステルは、エオニアの首都を歩いている。彼は、少年の死体を探していた。
黒いローブのフードを被らずに顔を晒していても、魔力を隠しているだけで誰もアステルに気がつかない。
ときおり視線を感じても、金髪碧眼の見目麗しい青年がいるなあという程度のもので、魔王だなんて微塵も思われていないようだ。
(何百年も、引きこもりすぎたみたい)
アステルの話なんて、御伽話の類なのかもしれない。先代魔王カタマヴロスと同じだ。
引きこもって物語を読み耽るうちに、アステル自身が物語になっている状況にアステルは笑う。
街の広場の噴水の近くに、アサナシアの像があった。聖女アサナシアの意匠のようだ。
タフィ教の生き神アステルは、アサナシア教の女神 アサナシアに祈る。
「アサナシア様 人間も魔物もみんなが、仲良くできるように見守っていてください。
ぼくは魔王カタマヴロスの意志を継いで、みんなが仲良く楽しく暮らせる世界をつくります。
だからどうか、見守っていてね」
アサナシアの像は、アステルにやさしく微笑んでいる。アステルも、微笑みを返す。
(ぼくはずっと、タフィ教とアサナシア教がどうして喧嘩しているのかが、わからなかったんだよね)
(ぼくの中の魔王カタマヴロスの記憶が、アサナシアを愛しているって、ずっとそう 伝えてくるからね)
昼下がりの広場には、遊ぶ子どもたちが走り、親が子をたしなめ、店先で店主と客が喧嘩をしている。年老いた夫婦が語らい、楽しそうに議論する若者たちのそばで、旅人が歌を歌ってお金を稼いでいる。
彼らはアサナシア像を見てはいない。彼らにとってその石像は、ただ、そこに自然にあるものだ。
思い思いにそれぞれが過ごす広場にて。
アサナシアの像は平和の象徴のように、人々に微笑み続けている。
(マヴロス大陸開拓記 おわり)




