表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マヴロス大陸開拓記  作者: おおらり
4. 探す意味
44/47

花畑にて


 目の前で、アサナトスの花が揺れている。薄い水色の花は、明るい春の陽光に咲く。水色の中に、白や青の花も入り混じりながら、春風に揺れる。


 花畑の真ん中に、シンシアが居る。今代の魔王アステルの妻だ。前に見たときより随分と年老いている。お茶にして煎じる花を選んでいるのだろう。


 俺はぼんやりと、シンシアの姿を眺めている。



 アステルの中で目覚めるのも、いつぶりだろうか。


 俺はなぜ、ここに俺がいるのかを考える。

 アサナトスの花を見つめ。

 そっと花びらに触れると、やわらかかった。

 アサナシアにも見せてあげたかったな、と思う。


 タフィもいない。

 アサナシアも、もういない。

 アサナトスの花だけが、揺れている。



 俺がアステルの中で最初に目覚めたのは、アステルがタフィの村で目覚め、その場にルーキスが居た時だ。そのときは意識や記憶が薄ぼんやりとしていた。


 アサナシアは、アステルの中にいなかった。

 アステルが俺の魔力を得るたびに、俺は記憶を取り戻した。けれど、アサナシアは、魔力の中にはいなかった。



 会ったのは、魔王の遺骸が、魔術の触媒として使われたときが最後だ。


 アサナシアと、手が重なった気がした。

 金色の長い髪が、ふんわりと揺れたのを見た。

 となりにアサナシアがいて、懐かしい紫の瞳と目が合った。

 アサナシアは笑っていた。幸せそうに。



 結局、話すことは、かなわなかったな。



 アステルのなかでときおり浮かび上がっては、沈む意識。彼が幼いころは、頻度が高かった。俺の魔力がまだ、彼の魔力になっていなかったからだ。だが、歳を重ねるにつれて、アステルは俺の魔力を彼の魔力にした。


 今日は、何十年ぶりくらいだ。

 だから、次があるかはわからない。



 幼いアステルの中で目覚めるのは彼がピンチなときが多かった。それと同じくらい、美味しいものを食べているときが多くて、俺はどれだけ美味しいものが食べたいんだと笑ってしまった。


 調味料がない時代のマヴロスを知っているし、ひもじい思いもしているからさ。

 感慨深く食べたけど。


 でも、美味しいものを食べると、アサナシアにも食べさせたかったな、とか。一緒に食べたかったな、とか、思ってしまうんだよ。


 俺は大陸の開拓の果てを見たよ、アサナシア。



 なんで今日は、起きたんだろうか。

 でも、天国みたいな景色だ。

 春先で、天気がよくて、水色の花がたくさん揺れていて。綺麗だな。



 ふと気づくと、ルーキスがとなりにいた。黒いスーツに、癖のある黒髪をオールバックにまとめあげている。かっこいいぞ、ルキ。


 ルーキスは俺が起きたときからずっと40代くらいの見た目だ。不思議な感じだよ。ルキの見た目の年齢が、俺を超えていて。


 ルーキスはシンシアのことを眺めているようだ。シンシアはルーキスの娘だから。

 シンシアを見て、あと何年、一緒にいられるかなって思っているのかもしれない。

 ルキは魔物で、シンシアは人間だから。


 その姿に、俺はレフコスのことを思う。

 レフコスは、エオニアって国の最初の王様になったって知った。若くして亡くなったようだけど。初代皇帝なんて、きっと苦労したんだろうな。


 でももう、レフコスも天国にいる。

 きっと今、目の前にある景色みたいなところだ。


 アサナシアもいるかな。

 俺だけ魔王だからって、地獄に落ちたりしないよな?

 魔王はアステルが代わってくれたし、俺はもうただのリョーだから、許してくれよな。



 しかし、本当に見事だよ、ルキ。

 探すの大変だったろう? 育てるのも。


「ルキ」


 花を見ながら俺は、ルーキスに声をかける。


「ありがとう」

 

 ルーキスはいつもどおり無表情に見える。けれど俺には、すこし微笑んだのがわかるよ。小さな頃を知っているからな。


 それにしても、良い天気だなあ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ