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苦しみの名前
こころは、苦しい。
けれど肉体を失ってからはずっと、以前よりも思考がはっきりとしていた。闇のなかは、あたたかかった。あなたと私の魔力が混ざって、ひとつになれて嬉しかった。
私は闇のなかで光り輝いている。
今の私は、神聖力のかたまりだ。
あなたは、私を探して、指先に触れる。
「アサナシア、戻ろう」
城の寝室へ行こう、もう一度眠ろうと、促す。
「アサナシア、」
私に触れるたびに、あなたの指先は焼け爛れる。魂から悲鳴がきこえる。
けれどあなたは、あなた自身が損なわれることに、気づかない。
なにも気づかず、私に笑いかける。
ある日、可愛らしい女の子が闇のなかにやってきて、私に言った。
「アサナシア様、私ととりかえっこしませんか?」
救いの手を伸ばしたいと、彼女は私に微笑んだ。
苦しみから逃れる方法なんて、あるのかな。
「私が『魔王の花嫁』を代わりますから――」
その瞬間に、わかった。
救いの手なんて、いらない。
あなたのとなりをとられたら、私には、もうなにも残らない。
あなたを知らない私は、私ではなくなってしまう。
あなたを愛するから、苦しい。
私の苦しみに名前をつけるなら、それはあなたの名前だ。
だから、私の苦しみは、私だけのもの。




