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マヴロス大陸開拓記  作者: おおらり
4. 探す意味
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探す意味 1


 足元にハチドリの死骸がある。

 薄茶色の羽のハチドリだ。


 すこし離れたところにまた、ハチドリの死骸がある。すこし離れたところに、また。

 ハチドリの色は、どんどん変わっていく。

 赤から黄色へ。黄色から緑へ。緑から青へ。青から紫へ。数多の死骸の先に、生きたハチドリたちの楽園があるようだ。


 ルーキスは、薄茶色の羽のハチドリを探す。

 オリジナルのタフィに似たハチドリを探す。

 探したところで、もう、ハチドリは死んでいる。


 ルーキスの足元で、息絶えている。



「ルーキスさん」

 

 コルネオーリ国。辺境伯の屋敷の庭で倒れていたルーキスに、フリルのついた黒い日傘が差し出される。

 はしばみ色のふわふわとした髪の向こうで、同じ色の目が不思議そうに瞬く。


「おひさまが苦手なのに、こんなところで寝ているの?」


 ルーキスは面倒くさそうにリーリアを見上げた。体の外側を魔術で治したが、内側が治せていない。魔力も枯渇しかけている。昨晩の出来事に比べれば――太陽は苦手だが、焦げることくらいどうだってよかった。


 吸血鬼が昼間にまったく外に出られなかったのなんて、600年近く前でも御伽話だ。未だに、そうした先祖の特徴を持つ者が産まれることがあるらしいが、ルーキスには関係のない話だ。



 ルーキスは昨夜、コルネオーリ城の図書室に忍びこみ――驚くほど強い魔術師に遭遇し、戦闘になり、かなりのダメージを負って帰ってきた。何百年も生きてきた魔物が、たった数十年しか生きていない人間と互角だなんて。


 ルーキスはプライドが傷つくのを感じた。若草色の瞳の魔術師だ。大量の魔石をローブに隠し、わけのわからない魔術を連投してきた。二度と対峙したくない。


「ルーキスさん? 起きてる?」

「ええ、リーリアお嬢様。体調が優れないので、もう行ってもよろしいでしょうか?」

「良いけど……」

 リーリアは、起き上がり屋敷に帰るルーキスの背中を心配そうに見つめたかと思うと……。

「えいっ」

 急に神聖医術を行使した。



 夜、ルーキスは辺境伯の屋敷の客室で目を覚ました。


 まさかルーキスが最弱の人間のひとりだと思っているリーリアにトドメを刺されるとは思わなかった。


「ああ! よかった、ルーキスくん。リーリアはすごく泣いていたよ、キミが倒れてしまって……」


 辺境伯 レヴァンタ・ラ・オルトゥスが、おろおろしながらルーキスを見ている。焦茶色の髪に、はしばみ色の瞳の男だ。

 後ろに控えている若いメイドのほうがよほど落ち着きがあり、ルーキスは心の中でため息をつく。



 コルネオーリで最も愚かな貴族は誰か。

 誰に聞いても、貧乏貴族、辺境伯 レヴァンタ・ラ・オルトゥス の名が上がるであろう。


 コルネオーリのどこかに不老不死の伝説を記した本があると、他国の貴族から耳にしたルーキスは、コルネオーリ国の社交界に潜入した。外大陸の貴族であると身分を偽り、20代の青年の姿で。


 そこで、レヴァンタの噂話を聞いた。辺境伯の屋敷には先祖代々続く書物庫があるという。

 レヴァンタは、領民に甘い上に詐欺に遭いまくりの愚鈍な人間で、あの愚か者に書物が必要と思えないので、貴重な本を売れば少しは金の足しになるのではないか……というような話だ。


 首都で詐欺にあいそうなところをルーキスに救われたレヴァンタは、ルーキスが『各国の薬草を蒐集するためにマヴロス大陸に来た』と知ると客として辺境領に来ないかと誘った。


「娘が体が弱くてね、効き目のあるものを探しているんだ。きみにお礼もしたい」


 辺境伯の書物庫は、医術・神聖医術・薬草術の本が中心であった。噂ほどのものではなかった。確かに古く珍しい本も多かったのだが、『命を不死にする花』の情報はなかった。


「ルーキスくんが来てくれて、薬草でお茶を淹れてくれるようになってから、リーリアの調子が良くなって本当に感謝しているよ。

 博識でリーリアの勉強まで見てくれるし……キミは本当に20歳なの? どうやったら20歳でそんなに博識になれるんだい?」



 アサナトスの花の情報がないなら、辺境領を去ってよかった。しかし、ルーキスが去ろうとすると決まってリーリアが熱を出してレヴァンタに泣きつかれることが続き、もう一年も辺境領に滞在している。


 辺境領を拠点としながら、コルネオーリ国内で情報を集める日々だ。



「ルーキスさんが20歳って嘘よね、だって魔物だもの」


 リーリアは微弱ながら神聖力をもっており、ある日、ルーキスが人間ではないと気づいた。

 今のところ、誰にも言っていないようだ。



 辺境領にとどまる理由は、もうない。

 自らを魔物だと知っている者がいるのもリスクだ。なのにルーキスは、レヴァンタに泣きつかれるとどうしても振り払うことができなかった。


 問題は、すぐに熱を出すリーリアではない。


 リーリアの病に翻弄され、リーリアのみを案じ、リーリアのために詐欺にあう、愚かな男。


「ルーキスくんは魔力がないのに魔術にも詳しくてすごいなあ。ぼくのほうが魔力があるのに、ぼくは本当に不出来で……」


 魔力も微々たる男の言うことを、膨大な魔力を持つ魔物が、なぜ振り払えないのだろう。


「ルーキスさんに魔力がないなんて、パパは何を言っているのかしら」



 体の弱いリーリアに寄り添う、その姿。


 ルーキスは抜け落ちた記憶のやわらかいところを、なぞられている気持ちがした。


 リーリアが飼い猫を大事にするたびに。

 病に伏せるリーリアに、レヴァンタが寄り添う姿を見るたびに。


 記憶のやわらかいところが(懐かしい)と言った。


 だが、記憶が抜け落ちてる事柄なんて、ひとつだけだ。ルーキスは認められなかった。許せなかった。


(我らが魔王陛下が、)


「ルーキスくん、おはよう〜!」

 レヴァンタはルーキスにひらひらと手を振る。


(こんな愚かな男に似ているはずがない)


 魔王カタマヴロスはルーキスの憧れであり、レヴァンタはルーキスが(こうはなりたくない)と思う姿そのものだった。


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