処女受胎
クレムの街の酒場で、若者たちが騒いでいる。
聖騎士試験を受験しに来た者たちのようだ。4人は、笑いながら酒を飲んでいる。そのうち1人はかなり酔っ払っており、饒舌になっている。
「じゃあ、次の議題は、アサナシア様の処女性についてだな」
「あー でたでた」
「猥談?」
「女神様の処女?」
「女神様じゃない、聖女アサナシア様は本当に処女受胎だったのかどうか、だ」
「コイツ昔からアサナシア様が処女じゃないってうるさいんだよ」
「ここクレムだぞ? 大丈夫か?」
「聖なる街で性なる話をして大丈夫か?」
「聞こうか」
「俺は、ぜったい違うと思っている。宗教画にしろ、彫刻にしろ、すごい美女じゃん、アサナシア様って」
「いや、絵師とか彫刻師の想像だろ?」
「とはいえ説話上も美しかったってことになってるじゃん。600年前だろうと男たちが放っておかないって。
『聖なる力を与えられて、行為をせずに身籠った』とか、そんなん嘘に決まってるよな」
饒舌な若者は、酒をあおる。
「アサナシア教の聖職者はさ〜 女人禁制じゃん。絶対みんなアサナシア様で抜いているよな〜」
「おまえバカ、声が大きいぞ! ここクレムだぞ、聖なる街、クレム」
「ハハハ、抜きやすいように処女って話にしたとか?」
「俺は、処女じゃないほうがいけるんだよなー えっちなお姉さんに手ほどきされるタイプの話が好きなんだよ〜」
「おまえの性癖はきいてない」
「いや聞いてくれよ てかおまえも好きだろ? えっちなお姉さん……だから、アサナシア様が処女じゃないほうが興奮するんだよな〜 あんな聖なる顔して実は……みたいな」
「石像見てその発想に至るおまえ、やばいよ……」
4人のなかに1人、寡黙な青年がいる。彼はニコニコと仲間の話を聞きながら、ときおり給仕係に酒を注文する。
「現にアサナシア様が、エオニアの最初の王様を産んだんだろう? 今だってその末裔が王様やってんだろ?」
「レフコス一世ね」
寡黙な青年が口を開く。
「レフコス一世についてなら面白い話があるよ」
「聞こうか」
「レフコス一世はエオニア国の最初の皇帝だけど、アサナシア教の教皇ではなかった。その後の世代はどちらも兼任しているのに。
だから能力がなかったか、聖女の息子という理由で教皇職を得なかった……でも不自然な気がする。聖女の息子なら教皇をやって皇帝はやらない、のほうが自然だ。
どちらにせよ聖女の息子にも関わらず、アサナシア教会のなかでは冷遇されていたのでは? って説があるんだ。早逝しているしね」
「やっぱり、処女受胎じゃないんじゃね?
どこの馬の骨の子どもかわかんなかったから、冷遇されていたとか」
彼らの横を聖騎士の制服を着た者たちが通りかかり、彼らは水を打ったように静まる。聖騎士たちも談笑しながら歩いており、彼らの話は聞こえなかったようだ。
「そういやアサナシア教の中でも、聖典を厳格に守っている派閥は、避妊禁止だって知ってる?」
「え!? うわー……まじ?」
「まあ一夫一妻の教義だから、避妊するようなことがおこらない ってコトじゃないの?」
「でも避妊禁止はやばいだろ……簡単な魔術や魔道具もある時代にさあ 時代遅れすぎるだろ」
「堕胎禁止は有名だけど、避妊禁止ははじめて知ったな……」
「なんでアサナシア教は、性の話に禁止禁止が多いのかね」
「逆に いいよ! ってのあったっけ?」
「同性愛」
「同性愛おっけーはなんでなん」
「そりゃあ女神様と聖女様のあれそれを想像するためなんじゃないの」
「あー オレの好きなやつだあ」
「うるわしの? 女の人と女の人の?」
「いや、普通に女人禁制が長いからじゃね」
「?」
「聖典を書く時代から女人禁制だったなら、男に手を出す男が多かったからなんじゃ」
「ぞぞぞー!」
「オレは可愛ければ男でもいけまーす!」
「はあ?」
「アサナシア様が男だったからじゃね?」
「レフコス一世 産まれないだろうそれ……」
「これぞ処女受胎! ははは!」
「おいおまえ酔いすぎ」
大いに笑い、飲みながら、4人の話は別の話題に移っていく。
4人は知らない。近くの席に、アサナシア教の中枢の者が、お忍びで来ていたことなんて。
銀髪に紫色の瞳を持つ男は4人の横を通りすぎ、酒場の入り口をくぐる。外は雪が散らつき始めていた。
「イリオス様、お召し物を」
老齢の高位聖職者が、厚手のコートを差し出す。イリオスと呼ばれた男はコートに袖を通すと、高位聖職者に呼びかける。
「キフェフス、」
不機嫌な声で、命じた。
「あの者たち全員、不合格にしろ」
「ええ、ええ……そう致しましょう」




