3. はじまり 後
アサナシアにはじめて会えたとき。
俺は父狼とはぐれ、野生動物(大きな鳥)に襲われているのに魔法の使い方もわからず、ピンチで死にかけていた。もうアサナシアの居るエリアのはずだと信じた俺は、叫んだ。
「アサナシア、助けてくれ!!!」
「はい」
長く美しい金髪の少女が、俺の前にふいに現れた。そして魔法でいとも簡単に、鳥を退治してしまった。
「お呼びですか? マスター」
齢15、6歳ほどの少女は、美しい紫色の瞳を向ける。
俺は腰を抜かし、慌てて股間を隠した。
本当に出て来られると、金髪の美少女の前で、全裸であることの恥ずかしさが込み上げてきたのだ。
ヒロイン候補と、なんてみじめな初対面だ。
アサナシアは手を口に当てる。
「マスター か、可愛らしい……」
「は、はあ!?」
一瞬、俺の股間を見て可愛いと言ったのかと思った。が、違った。
アサナシアは躊躇なく、俺をぎゅうっと抱きしめる……良い匂いがする。
「こんなに可愛いらしい方が、此度の私のマスターだなんて。幸せです!」
アサナシアは満面の笑みを俺に向けた。
邪気はなさそうだ。
たが、このアサナシアもアサナシアでちょっとやばいアサナシアなのでは? 全裸の5、6歳を躊躇なくハグするなよ……。
かくして、はじめて会ったときの俺のアサナシアの印象は。
(ちょっとやばいアサナシアかもしれない)
だったのだ。
その次に俺の胸に去来した思いは、
(生存率が上がる!!!!!)
という、エゴ以外の何物でもない喜びだった。
マヴロスは本当に簡単に死ぬゲームで、アサナシアに会うまでずっとドキドキしながら生きてきたためだ。
だがアサナシアには、どちらも言えない。
好感度が下がって、殺されても困るし……。
焚き火を一緒に囲んでいるアサナシアは、焼いた鳥肉を食べている。タレはないが、俺が焼き鳥風にしたやつを。
何の鳥だかはよくわからん。アサナシアと罠を仕掛けて獲った小鳥で、ニワトリじゃないことだけは確かだ。
「美味しいか? アサナシア」
「もぐももももっもも」
「おいおい、飲み込んでから喋れって」
(喉に詰まらせたらどうするんだ、死ぬぞ……)
アサナシアは急いで飲み込むと、串がわりの小枝を片手に目を輝かせた。
「ハイ! とっっっても美味しいです!
こんなに食べやすい鳥さんは、はじめて食べました!」
アサナシアは嬉しそうだ。
「マスターは、料理上手なのですね!」
俺はぼやく。
「ひとり暮らしだったからなあ」
「ひとりで暮らしていたのですか?」
「そう」
「私とおんなじですね!」
アサナシアは無邪気に笑う。
その顔を見て、なんかこう地元に残してきた妹のことを思い出して。
ひどく懐かしい気持ちになった。
宇都宮餃子を食べていた俺は、死んだんだろうか? これは、異世界転移なんだろうか、異世界転生なんだろうか?
転移なら、帰れるかもしれない。
転生なら、帰れない。
どちらかはわからない。
だから、とにかく俺は魔王ルートを進めてマヴロスの文明を開拓しよう。生き延びるために。快適に過ごすために。
アサナシアと共に。
焼き鳥をキラキラした目で頬張るアサナシアの横顔を眺めながら。
そう、心に誓った。